老後の収入源の前提は、この10年で大きく動いた
「老後の生活費は何で賄うのか」という同じ問いに、10年前と今とでは違う答えが返ってくる。金融経済教育推進機構の「家計の金融行動に関する世論調査」は、二人以上世帯に老後の生活費の収入源を3つまで選んでもらっている。2016年に公的年金を挙げた世帯は79.2%だったが、2025年には59.1%まで下がった。制度が20ポイント分縮んだという話ではない。年金だけでは足りないという見方が広がって、票がほかの選択肢に分かれたということである。
内訳を見ると動き方に偏りがある。利子配当所得を挙げた世帯は2.6%から12.9%へと5倍近くになった。一方で金融資産の取り崩しは26.8%から26.9%、就業による収入は43.2%から42.5%で、どちらもほぼ横ばいである。増えたのは運用の部分だけで、働く年数と貯蓄を崩す量は据え置いたまま、年金への期待だけが下がった。
| 老後の生活費の収入源(3つまでの複数回答) | 2016年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 公的年金 | 79.2% | 59.1% |
| 就業による収入 | 43.2% | 42.5% |
| 企業年金、個人年金、保険金 | 39.3% | 32.0% |
| 金融資産の取り崩し | 26.8% | 26.9% |
| 利子配当所得 | 2.6% | 12.9% |
| こどもなどからの援助 | 4.3% | 1.6% |
ライフプランを立てる目的の一つは、この世間の平均値を自分の家計に当てはめて検算することにある。自分の年金見込額は、ねんきん定期便と制度の満額から積み上げれば出る。年金はいくら受け取れるかを先に押さえておくと、残りをどこで埋めるかという話に進める。
心配している62.1%は、その中身を金額にしていない
同じ調査で老後の生活について聞くと、2025年は「非常に心配である」が21.8%、「多少心配である」が40.3%だった。合わせて62.1%の世帯が心配を抱えており、「それほど心配していない」は37.9%にとどまる。6割を超える世帯が不安を持っている状態が、10年単位で続いている。
心配している世帯に理由を複数回答で挙げてもらうと、「十分な金融資産がないから」が61.9%で最も多い。次に「年金や保険が十分ではないから」が42.4%、「生活の見通しが立たないほど物価が上昇することがあり得ると考えられるから」が33.5%と並ぶ。「現在の生活にゆとりがなく、老後に備えて準備していないから」は18.5%、「退職一時金が十分ではないから」は16.0%である。
上位に来た理由には共通点がある。どれも金額を含まない言い方になっている点だ。「十分でない」という判定は、いくら必要でいくら足りないかを決めない限り下せない。ここが最初の目的になる。手元にある漠然とした不安を、毎月いくらという差額に書き換えることである。差額が3万円なのか8万円なのかで、打てる手はまったく変わる。
生活設計と資金計画は、別の作業として数えられている
先の調査には、生活設計を立てているかどうかを聞く項目もある。2025年の二人以上世帯で「生活設計を立てている」は35.1%、「立てていないが今後は立てるつもり」が39.5%、「立てていないし今後も立てるつもりはない」が25.4%だった。2016年の35.1%に対して2025年も35.1%と書きたくなるが、2016年は34.8%で、10年かけてほとんど動いていない。
注目したいのはその先である。生活設計を立てている世帯だけに資金計画の有無を聞くと、資金計画を立てているのは69.5%、今後は立てるつもりが20.8%、つもりはないが9.6%となっている。計画を持っている世帯でも3割は、やりたいことの順番は決めたが、そこに金額を貼っていない。
この2つを分けて数えているところに、調査の設計意図が出ている。いつ何をするかという年表と、そのとき手元にいくらあるかという見積りは、別の作業だということである。年表だけでは判断が下せず、金額だけでは優先順位が決まらない。両方そろって初めて、来月の家計をどう動かすかが決まる。
目的が決まると、選ぶ順番のほうが先に決まる
住宅の場面で考えるとわかりやすい。住宅金融支援機構の2024年度フラット35利用者調査では、借換えを除く27,523件の平均年齢が44.5歳だった。2017年度以降は上昇が続いており、前年度から0.2歳上がっている。融資区分別では注文住宅が48.9歳と最も高い。平均世帯年収は669万円で、前年度から8万円増えている。
44.5歳で35年の返済を組めば、完済は80歳近くになる。ここで「何歳で返し終えるか」を目的として先に置けば、動かす場所は自然に絞られる。借入額を下げるか、頭金を積むか、返済期間を短くするか、繰上返済の原資を毎年用意するか。この4つのどれを選ぶかという話になる。
逆に目的を決めないまま検討を始めると、金利の0.1%差を見比べるところで時間が終わってしまう。金利の比較が無駄なのではない。順番が逆だと、比較の結果をどう使えばいいのかがわからないという意味である。住宅とライフプランの関係は、返済期間と返済負担率から逆算すると整理しやすい。
見直す場所を決めるために、目的を1行にしておく
計画は作った時点から古くなっていく。物価も賃金も制度も動くからで、これは避けられない。だから目的の書き方を工夫しておく。「老後が不安だから備える」では、何が変わったときに何を直せばいいのかが決まらない。
「65歳以降、毎月の不足を3万円以内に収める」と1行で書いてあれば、点検すべき数字は年金見込額と生活費と取り崩し額の3つに限られる。そのうちどれかが動いたときだけ計算をやり直せばよく、残りは触らなくて済む。目的は、やることを増やすためではなく、見なくていいものを決めるために書く。
衣食住のうち住まいと働き方は、暮らしの形そのものを決める部分である。地域を移ることや働く場所を変えることまで含めて考えるなら、FLASPOのような暮らし方の情報にも目を通しておくと、選択肢の幅を取り違えずに済む。具体的な手順はライフプランの作り方にまとめている。
よくある質問
目的は1つに絞るべきでしょうか。2つまでにしておくと扱いやすい。老後の不足額と教育費のように時期がずれるものなら両立できるが、3つ以上になると互いに資金を取り合って、どれを優先するかの判断が結局後回しになる。
目的をうまく数字にできないときはどうすればよいですか。期限だけを先に決める方法がある。金額が置けなくても「50歳までに判断する」と決めておけば、それまでに何を調べるかという作業に落ちる。期限のない目的は点検のきっかけを持たないので、形だけ残って使われなくなる。
家族と共有したほうがよいでしょうか。共有の有無で結果が変わるのは、支出の優先順位がぶつかる部分である。老後の収入源を見ると、こどもなどからの援助を挙げた世帯は2025年で1.6%しかない。世代間で期待をすり合わせておく価値は小さくない。
立てた目的に届きそうにないときは、どう扱いますか。目的を下げるのではなく、期限を延ばすか、途中で確認する時点を増やす。先の調査で心配の理由として最も多かった「十分な金融資産がないから」は、必要額を置かない限り解けない。届かないとわかったことは、計画が働いた証拠として扱える。
出典は金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査2025年(二人以上世帯調査)」(2025年6月20日から7月2日に全国5,000世帯を対象に実施)および住宅金融支援機構「2024年度フラット35利用者調査」。
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