全国計を上回るのは四都府県だけ
同じ職種でも、働く場所で月給はどれだけ変わるのか。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では、一般労働者の賃金は全国計で月額340.6千円だった。ここでいう賃金は2025年6月分の所定内給与額で、残業代も賞与も含まない。基本の月給に近い数字だと考えればよい。
全国計を上回ったのは東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の四都府県だけだった。最も高い東京都は418.3千円で、全国計の約1.23倍にあたる。裏を返せば、残る43道府県はいずれも全国計を下回っている。
新規学卒者だけを取り出すと、大学卒は262.3千円、高校卒は207.3千円である。入社した年の月給では、地域の差より学歴の差が先に効く。地方に本社を置く企業でも、初任給の水準そのものは全国の分布のなかに収まることが多い。
年収が下がるという言い方は、この構図を指している。ただし下がり幅を月給の差だけで測ると、暮らしの実感とずれていく。東京圏からの人の動きそのものは地方就職の現状で整理しているので、人数の流れを知りたい場合はそちらを見てほしい。
下限を決める最低賃金は、差が縮んでいる
求人票の時給をどう読むかは、その地域の下限を知っているかどうかで変わる。厚生労働省がまとめた令和8年度の地域別最低賃金の答申状況では、改定額の全国加重平均が1,177円となり、前年度の1,121円から56円引き上げられた。目安制度が始まって以降で2番目に大きい引上げ幅である。
最高額は東京都の1,280円、最低額は宮崎県の1,085円だった。最高額に対する最低額の比率は84.8パーセントで、12年連続の改善となっている。引上げ額は47都道府県で54円から65円の幅に収まった。
見落としやすいのが発効日である。答申された額は令和8年10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定で、都道府県ごとに日付が違う。秋口に出ている求人票の時給が改定前の額で書かれていることがあり、入社月と発効日の前後を確かめる価値がある。
賃金、最低賃金、物価の三つを同じ表に並べると、地域差の大きさがそろっていないことが見えてくる。
| 指標 | いちばん高い | いちばん低い | 開き |
|---|---|---|---|
| 一般労働者の賃金(所定内・月額/令和7年) | 東京都 418.3千円 | 全国計 340.6千円(これを上回るのは4都府県) | 1.23倍(東京都÷全国計) |
| 地域別最低賃金(時間額/令和8年度答申) | 東京都 1,280円 | 宮崎県 1,085円 | 1.18倍 |
| 消費者物価地域差指数・総合(2025年) | 東京都 104.2 | 群馬県 96.2 | 1.08倍 |
| 同・住居(2025年) | 東京都 | 岡山県 | 1.64倍 |
| 同・保健医療(2025年) | 東京都・山口県 | 宮崎県 | 1.05倍 |
物価の開きは賃金の開きより小さい
指数で見ると、地域の差は想像より小さい。総務省の小売物価統計調査(構造編)による2025年の消費者物価地域差指数は、総合で東京都が104.2と最も高く、次が神奈川県の103.3だった。東京都が首位なのは13年連続である。
最も低いのは群馬県の96.2で、次いで鹿児島県の96.4。最も高い都道府県を最も低い都道府県で割った倍率は1.08倍にとどまり、2024年と同じだった。指数が100以上の都道府県は10しかない。
内訳を見ると様子が変わる。東京都で全国平均との差にいちばん大きくプラスに働いていた費目は住居で、寄与度は2.16。群馬県でいちばん大きくマイナスに働いていたのは食料のマイナス1.40だった。費目別の都道府県間倍率は住居が1.64倍で最大、保健医療が1.05倍で最小である。
市の単位で見ても傾向は変わらない。同じ調査では東京都区部が105.3、横浜市103.8、川崎市103.7、相模原市102.3と、指数の高い都道府県の都市はそろって高い。一方で前橋市は96.5、鹿児島市は96.6と、指数の低い県の県庁所在市も低いままだった。県内で中心市に住めば物価が跳ね上がるという構図には、少なくとも指数の上ではなっていない。
総合で1割に届かない差が、費目をほどくと住居だけ1.6倍を超える。物価が安いという言い方は、おおむね住居費の話をしていると読み替えたほうが正確だ。
月給の差より先に固定費を引く
手取りの話をするなら、固定費を先に分けたほうが早い。賃金の開きは東京都と全国計で1.23倍、最低賃金の上下で1.18倍ある。これに対して物価の総合指数の開きは1.08倍である。名目の賃金差が物価差より大きいという関係は、数字の上では崩れない。
それでも住居の倍率が1.64倍だという事実は重い。家賃の比重が高い20代の家計では、月給の下がり方より住居費の下がり方が大きくなることがある。一方で、車がないと通えない地域なら維持費と燃料費が新しく乗る。差し引きがどちらに傾くかは、職場と住まいの距離で決まる。
比べるときは、額面ではなく額面から住居費と通勤にかかる費用を引いた残りで並べたい。求人票の月給だけで判断すると、良いほうにも悪いほうにも読み違える。求人の数そのものや通勤の負担については地方就職のデメリットでも扱っている。
賞与と残業代が賃金構造基本統計調査の賃金に入っていない点も忘れないでおきたい。年収に直すには、賞与の実績を別に確かめる手順が必要になる。中途で動く場合の考え方はUターン転職の記事が参考になる。
制度で埋まる差と、埋まらない差
差を縮める側の仕組みも用意されている。内閣府の地方創生の枠組みでは、東京23区に通算5年以上在住または通勤していた人が対象地域へ移り、道府県のマッチングサイトに掲載された求人に就くなどの要件を満たすと移住支援金が交付される。額は世帯で100万円以内、単身で60万円以内の範囲で都道府県が設定し、18歳未満の子を連れて移る場合は1人につき最大100万円が加算される。
学生には地方就職支援金という枠がある。就職活動に要した交通費の最大2分の1と、実際に移り住むときの移転費が対象で、実施期間と支給額は地方公共団体ごとに違う。
ただし一度きりの給付で月々の差が消えるわけではない。初期費用を軽くする仕組みと、毎月の収支を決める賃金や物価の構造は、別の話として並べておくほうが判断を誤りにくい。都道府県単位の求人の厚みを見たい場合は都道府県別の就職も合わせて読める。
働く場所を決める前に地域と接点を持ちたいなら、FLASPOのように地域の企画やアイデアコンテストに参加できる場を入口にする道もある。賃金表の数字だけでは見えない働き方の中身は、現地の人と話すほうが早く掴める。
よくある質問
地方に就職すると年収はどのくらい下がるのか。月給で見れば、全国計340.6千円に対して東京都が418.3千円という関係が出発点になる。ただし全国計を上回るのは四都府県だけで、それ以外の地域どうしの差は小さい。東京圏から動くのか、地方から別の地方へ動くのかで話は変わる。
最低賃金の差は年収にどう響くのか。令和8年度の答申では最高額1,280円と最低額1,085円の比率が84.8パーセントで、時間額の差は195円ある。フルタイムで月160時間働くと月3万円強の差になるが、これは下限の話であって、実際の求人の提示額とは別物だ。
物価が安いというのは本当なのか。総合指数で見れば最大でも1.08倍の開きで、安さを強調しすぎるのは正確ではない。差が大きいのは住居で1.64倍、小さいのは保健医療で1.05倍だった。家賃の比重が高い人ほど、物価の差を実感しやすいことになる。
賞与まで含めた年収の地域差は分かるのか。賃金構造基本統計調査の賃金は所定内給与額なので、賞与は別の集計を見る必要がある。求人の段階では、賞与の月数と前年の支給実績を面接で確かめるのが確実だ。賞与の比重は企業規模と業種でも動くため、地域だけで括れない。
初任給は地域で変わるのか。令和7年の新規学卒者の賃金は大学卒262.3千円、高校卒207.3千円で、入社時点では学歴差のほうが大きく出る。地域による初任給の違いが気になる場合は、応募先の企業規模と業種をそろえて比べるとぶれが小さくなる。
どの数字を手元に置いておけばよいのか。応募を考えている地域の最低賃金と発効日、消費者物価地域差指数の総合と住居、そして全国計の賃金の三点があれば、提示された月給が高いのか低いのかを自分で判断できる。いずれも官公庁の公表資料で確認でき、年に一度は更新される。
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