公的保険と民間保険|患者負担11.8%という線から考える

公的保険と民間保険|患者負担11.8%という線から考える

保険の見直しという言葉は、たいてい民間の商品を並べるところから始まる。だが先に確かめたいのは、すでに入っている公的な保険が何をどこまで払っているかだ。そこが見えないと、重ねる先も金額も決められない。公の側の線を引いてから、自前で用意する部分を考える順番になる。

窓口の3割と、医療費全体の11.8%

病院で払う金額は医療費の3割だと覚えている人が多い。制度全体を上から見ると、別の比率が出てくる。厚生労働省が公表した令和5年度の国民医療費は48兆915億円で、前年度から1兆3,948億円、3.0%の増加だった。人口一人当たりでは38万6,700円、国内総生産に対する比率は8.08%である。

この48兆915億円を財源別に割ると、公費が18兆331億円で構成割合37.5%、保険料が24兆1,383億円で50.2%、その他が5兆9,201億円で12.3%となる。公費の内訳は国庫が11兆9,252億円で24.8%、地方が6兆1,079億円で12.7%だ。保険料は事業主が10兆5,613億円で22.0%、被保険者が13兆5,770億円で28.2%である。

そして患者負担は5兆6,865億円で、構成割合は11.8%にとどまる。窓口で3割を出している感覚と、全体の1割強という数字が食い違うのは、年齢によって負担割合が変わることと、払う額に上限が設けられていることの二つが効いているからだ。公的な医療保険の仕組みそのものは健康保険の種類は5つで扱っている。

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上限の表を、一度だけ見ておく

負担を止めているのは高額療養費制度だ。厚生労働省の説明では、家計に対する医療費の自己負担が過重なものとならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額を超えた場合に、その超えた額を支給する仕組みである。上限は年齢と所得に応じて定められている。令和8年8月診療分からは、月単位の上限に加えて年単位の上限が導入された。年単位の区切りは8月から翌年7月までを指す。

所得区分(年収換算) 月単位の上限額 多数回該当 年単位の上限額
約1,160万円~ 270,300円+(医療費-901,000円)×1% 140,100円 1,680,000円
約770万円~約1,160万円 179,100円+(医療費-597,000円)×1% 93,000円 1,110,000円
約370万円~約770万円 85,800円+(医療費-286,000円)×1% 44,400円 530,000円
~約370万円 61,500円 44,400円 530,000円
住民税非課税 36,900円 24,600円 290,000円
厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」の70歳未満・窓口負担3割の区分より作成

同省が挙げている例で確かめると感覚がつかめる。70歳未満で年収約370万円から約510万円の人が医療費100万円の治療を受けた場合、自己負担は約9.3万円までに抑えられる。3割にあたる30万円ではない。多数回該当は、直近12か月のあいだに高額療養費に該当した月が3か月以上ある場合に、4か月目以降の上限をさらに下げる仕組みで、今回の見直しでは金額が据え置かれた。

手続の面も押さえておきたい。限度額適用認定証またはマイナ保険証を提示すれば、窓口で月ごとの上限額を超える分を支払う必要がない。後から申請して還付を受ける形と、最初から上限で止める形のどちらを選ぶかで、必要な手元資金は変わる。なお令和9年8月からは所得区分がより細かくなり、年収200万円未満の課税世帯の多数回該当の金額が25%引き下げられる予定とされている。

治療費だけでなく、止まった収入も対象になる

公的な保険が見ているのは請求書の金額だけではない。働けない期間の収入にも給付がある。全国健康保険協会の案内によれば、傷病手当金が支給されるには四つの条件を満たす必要がある。業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること、仕事に就けないこと、連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと、休業期間中に給与の支払いがないことである。

金額の出し方は段階を踏む。支給開始前12か月の標準報酬月額を平均し、その30分の1を求め、さらに3分の2を掛ける。同協会が示す計算例では、平均が17万円の場合、17万円を30で割って約5,670円、これに3分の2を掛けて1日あたり3,780円となる。待期の3日間は支給されず、有給休暇や土日祝日などの公休日も待期に含まれる。

期間には区切りがある。支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月だ。途中で働けた期間があっても、通算という扱いなので繰り越される。給与が支払われている間は原則として支給されないが、給与が傷病手当金の額より少ない場合はその差額が支給される。つまり収入の側にも公的な受け皿があり、その代わり割合と期間に天井が置かれている。

遺された側にも、年金が先に立っている

死亡に備える話になると、生命保険の金額から入りがちだ。その前に、公的年金の側にどれだけ立っているかを見ておきたい。日本年金機構の案内では、遺族基礎年金の令和8年4月分からの額は、子のある配偶者が受け取るとき、昭和31年4月2日以後生まれの方で847,300円に子の加算額を加えた額となる。昭和31年4月1日以前生まれの方は844,900円だ。

子の加算額は、1人目および2人目が各243,800円、3人目以降が各81,300円である。子が1人いる配偶者なら年額1,091,100円、2人なら1,334,900円という形になる。ここでいう子とは、18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある方を指す。

条件の書き方に注意が要る。受給の対象は子のある配偶者と子であり、子がいない配偶者はこの給付の対象に入らない。子が18歳の年度末に達すれば、そこで終わる給付でもある。年金の受け取り方そのものの考え方は年金はいくら受け取れるかで扱っている。遺族の生活費を考えるときは、この額を先に置いてから、足りない分を数えるほうが順序として無理がない。

民間で用意するのは、公的な線の外側だけ

ここまでの数字を並べると、公的な給付の切れ目が三か所に見えてくる。一つ目は期間の天井で、傷病手当金は支給開始日から通算して1年6か月である。二つ目は割合の天井で、支給額は標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2にとどまる。三つ目は要件そのもので、遺族基礎年金は子のある配偶者または子が対象だ。

この三つの外側が、自前で用意する範囲になる。療養が1年6か月を超えたときの生活費、収入の3分の1にあたる目減り、子のいない世帯での死亡後の生活費である。民間の保険を検討するなら、商品の比較から始めるのではなく、この三つの穴の大きさを自分の条件で計算するほうが先だ。金額が出てから、それを保険で用意するか貯蓄で用意するかを決める順番になる。

医療費の側も同じ考え方で絞れる。高額療養費には月単位の上限と年単位の上限があり、年収約370万円から約770万円の区分なら年単位の上限は530,000円だ。この額を自分の貯蓄で受け止められるなら、医療費そのものに備える必要は小さくなる。加入している制度によって手続や窓口が違うので、自分がどこに属しているかは国民健康保険とはのような整理で先に確かめておきたい。地域に移って働き方を組み替える場合は、加入先ごと変わることがあるため、FLASPOのような場で選択肢を探す段階から保険証の種類を一緒に確認しておくと手戻りがない。

よくある質問

医療保険に入る必要はあるのかという質問が多い。判断の材料になるのは高額療養費の上限額だ。月単位と年単位の両方に上限があるため、その額を手元の貯蓄で受け止められるかどうかで答えは変わる。収入が止まる期間の生活費は別に数える必要がある。

貯蓄があれば保険は不要かという問いもある。不足額を計算した結果が貯蓄の範囲に収まるなら、その部分は保険でなくてもよい。収まらないのは、療養が長期化したときと、子のいない世帯で収入の担い手を失ったときに出やすい。

自営業やフリーランスはどう考えるのかという相談もある。傷病手当金は全国健康保険協会の案内にある条件を満たす被保険者への給付であり、加入している制度によって受けられる給付の範囲が変わる。まず自分の加入先で何が給付されるかを確かめるところから始まる。

窓口で3割払うのに全体の患者負担が11.8%なのはなぜかという疑問もある。年齢によって負担割合が変わり、高額療養費が払う額に上限を設けているためだ。70歳から74歳は原則2割、75歳以上は原則1割という区分が制度の表にも示されている。

年単位の上限はいつから始まったのかという質問には、令和8年8月診療分からと答えられる。年間の区切りは8月から翌年7月までで、年間上限に達した後の医療費は保険者から還付を受けられる。月単位の上限に届かない人にも効く仕組みとして導入された。

遺族厚生年金はどうなるのかという問いもある。日本年金機構の案内では、遺族厚生年金を受給できる遺族は遺族基礎年金とあわせて受け取れるとされている。受けられる額は加入状況によって変わるため、ねんきんネットや年金事務所で自分の記録に基づいて確かめることになる。

保険料の負担は誰がどれだけ出しているのかという疑問もある。令和5年度の国民医療費の財源では、保険料24兆1,383億円のうち事業主が10兆5,613億円、被保険者が13兆5,770億円だった。給与から引かれている額の裏側に、同じ規模の事業主負担が並んでいる構図である。

出典:厚生労働省「令和5(2023)年度国民医療費の概況」、同「高額療養費制度を利用される皆さまへ」、同「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」、全国健康保険協会「傷病手当金」、日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」


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