評価額が2割下がった画面を、売らずに閉じられるか
積み立てを始めて半年ほど経ったころ、口座の評価額が買った値より2割低く表示される。この画面を前にして売ってしまうか、そのまま閉じられるかで、その後の結果は大きく変わる。投資のリスクという言葉が指しているのは、この振れ幅そのものであって、損をする確率だけではない。
預金との決定的な違いは、元本が保証されていないことにある。預金は金融機関が破綻しても預金保険で一定額まで守られるが、投資した資金にその仕組みはない。値下がりした分は戻るかもしれないし、戻らないかもしれない。この不確かさを引き受ける代わりに、預金より高い収益の可能性を得る、という交換になっている。
やっかいなのは、リスクという一語に性質の違うものが混ざって入っている点である。値段が動くこと、相手が約束を守らないこと、売りたいときに売れないこと、そして人に騙されること。これらは対処の方法がまったく違うため、まず分けて置く必要がある。
同じ「リスク」でも、原因ごとに手当てが違う
金融商品の説明書に並ぶリスクは、おおむね次のように分けられる。自分が持っている商品にどれが当てはまるかを確かめると、気にすべきことと気にしなくてよいことの境目が見えてくる。
| 種類 | 何が起きるか | 当てはまりやすい商品 | 主な手当て |
|---|---|---|---|
| 価格変動リスク | 市場での値段が上下する | 株式、投資信託 | 保有期間を長くする、積立で買う時期を分ける |
| 為替変動リスク | 円高で外貨建ての資産が円換算で減る | 外国株式、外国債券 | 円建て資産と組み合わせる |
| 信用リスク | 発行した国や企業が利払いや償還をできなくなる | 債券、社債 | 格付と発行体を分ける |
| 流動性リスク | 買い手がつかず希望する値段で売れない | 不動産、取引量の少ない銘柄 | 換金しやすい商品を中心に置く |
| 金利変動リスク | 金利が上がると既発債の価格が下がる | 債券、債券型の投資信託 | 満期までの期間を短くする |
表のとおり、価格変動は時間と買い方で薄められるが、信用リスクは時間では薄まらない。発行体が返せなくなれば、待っても戻ってこないからである。逆に金利変動リスクは、満期まで持ちきる前提なら影響が小さくなる。どの手当てが効くかは原因によって決まるため、「長く持てば大丈夫」という一般論は半分しか当たっていない。
分けて見ると、リスクと収益の関係もはっきりする。振れ幅が大きい資産は期待できる収益も大きく、小さい資産は収益も小さい。この対応はおおむね崩れないため、「値動きがほとんどないのに高い収益が出る」という説明が出てきたら、どこかに書かれていない前提があると考えるのが筋である。判断の出発点はここに置ける。
金額でいちばん大きい損失は、相場ではなく詐欺で出ている
値下がりよりはるかに深い穴になるのが、投資をうたう詐欺である。警察庁が2026年7月31日に公表した暫定値によれば、令和8年上半期の特殊詐欺の認知件数は22,031件、被害額は1,816.2億円で、前年同期から618.8億円増えた。このうちSNS型投資詐欺は5,893件、797.9億円を占め、前年同期より444.9億円増えている(警察庁「令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」)。
半年で約800億円という規模は、相場の下落とは性質が違う。市場で2割下がった資産は持ち続ければ戻る余地があるが、送金してしまった資金は戻らない。手口はSNSやメッセージアプリから入り、著名人の名前や運用実績の画面を見せて信用させる形が多い。元本保証や月利何%といった断定が出てきた時点で、制度上あり得ない話だと判断できる。
確かめ方は決まっている。日本国内で投資を勧める業者は金融商品取引業の登録が必要で、金融庁が業者の一覧を公表している(金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」)。名前が載っていない相手に資金を渡してはいけない。急かされている、連絡先が個人のアカウントしかない、入金先が個人名義という条件がそろえば、それだけで判断がつく。
分散と期間は、振れ幅を小さくするために使う
価格変動そのものを消すことはできないが、全体の揺れを小さくする設計は可能である。公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人は、2026年度第1四半期末で317兆7,596億円を運用し、資産構成を国内債券25.59%、外国債券24.60%、国内株式24.48%、外国株式25.33%としている(年金積立金管理運用独立行政法人「最新の運用状況」)。
4つの資産をほぼ均等に持つ形には理由がある。株式が下がる局面で債券が買われたり、円高で外国資産が目減りする代わりに国内資産が支えたりと、動く方向がそろわない組み合わせを混ぜているためである。年金という性質上、短期間で大きく減らせない資金を扱う設計がここに表れている。
買う時期を分ける方法も同じ発想である。毎月一定額を買い続ければ、値段が高い月には少なく、安い月には多く買うことになり、取得単価が平均に寄る。一度にまとめて買って翌月に下落した場合の後悔を避けやすい。ただし、これは下落そのものを防ぐ仕組みではない。長期の右肩下がりが続けば平均に寄せても損失は残る。
耐えられる幅を、下がる前に決めておく
リスクへの備えで最初に効くのは、商品選びより現金の確保である。生活費の3か月から6か月分を預金に残しておけば、収入が止まったときに値下がり中の資産を売らずに済む。投資で失敗する典型は、相場が悪いときに生活資金が足りなくなって売らされる形で起きる。家計の全体像から逆算する手順は節約とライフプランを扱った記事が参考になる。
次に決めるのは、どこまでの下落なら持ち続けるかという線である。評価額が3割下がっても生活に影響しない金額であれば、画面を閉じて待てる。逆に、半年後に使う予定のある資金を入れていれば、1割の下落でも判断が揺れる。使う時期が決まっている資金と、当面使わない資金を分けておくことが、精神論に頼らない備えになる。
借入で投資額を膨らませる形は、ここまでの手当てがすべて効かなくなるため避けたい。損失が元本を超えて広がり、自分で決めた線を守れなくなる。支出を仕組みで抑える考え方はお金の管理方法をまとめた記事と共通している。働く場所や暮らし方を組み替えながら資産を育てたい人は、FLASPOの情報も手がかりになるだろう。
よくある質問
投資信託なら分散されているから安全なのか。1本の中で複数の銘柄に分かれてはいるが、対象が同じ国の株式だけなら、その市場全体が下がれば一緒に下がる。何に分散しているかを投資信託説明書で確かめる必要がある。資産の種類と地域の両方が分かれているかどうかが見るべき点である。
NISAを使えばリスクはなくなるのか。非課税になるのは利益が出たときの税金だけで、値下がりを防ぐ機能はない。さらに、課税口座なら損失を他の利益と相殺したり翌年以降に繰り越したりできる扱いがあるが、NISAの口座で出た損失にはその扱いがない。損が出たときの救済がないという点では、課税口座より不利に働く場面がある。
リスクが低い商品だけを選べばよいのではないか。振れ幅の小さい商品は期待できる収益も小さく、物価の上昇に追いつかない可能性が出てくる。預金に置けば名目の金額は減らないが、買えるものが減る形で実質の価値は落ちる。どちらの損も損であり、片方だけを避ける選び方は成り立たない。
手数料は気にしなくてよいのか。購入時にかかる手数料と、持っている間に毎年引かれる運用管理費用は、相場が上がっても下がっても確実に出ていく。年0.1%と年1.5%の商品を同じ期間持てば、その差は複利で効いて最後の金額を分ける。相場の読みより先に確かめられる、数少ない確実な要素である。
どのくらいの期間を見ておけばよいのか。使う予定のない資金で、10年以上の単位で考えられるなら価格変動は受け止めやすくなる。就職や進学で数年先に大きな支出がある場合は、その分を預金に残し、残りだけを市場に置く形が無理がない。生活費の内訳から余力を測る方法は支出を削る順番を整理した記事にまとめられている。
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