勤め先を離れた人が、最後に行き着く先
会社を辞めた月に届く納入通知書の額を見て、桁を疑う人は珍しくない。市町村国保は、勤め先の健康保険にも後期高齢者医療制度にも属さない人を受け止める制度である。自営業、フリーランス、無職、学生、定年後で75歳未満の人がここに入る。令和6年度の被保険者数は2,204万人で、前年度から105万人減った。被用者保険の適用が広がった分、受け皿の側が縮んでいる。
運営の形は平成30年度の改革で変わった。それまで市町村だけが保険者だったところに都道府県が加わり、いまは都道府県が財政運営の責任主体となって市町村と共同で運営している。保険料率を決めて徴収するのは市町村のままだが、医療費の見込みを立てて納付金の額を割り振るのは都道府県である。小規模な市町村ほど医療費の年ごとの振れに弱かったため、財政の単位を広げたという経緯がある。
加入者の構成は、保険料の重さを理解する前提になる。厚生労働省の資料では、市町村国保の加入者の平均年齢は54.0歳で、65歳から74歳が43.8%を占める。一人当たり医療費は41.7万円、一人当たり平均所得は99万円である。医療費が重く所得が低い層が集まる制度なので、給付費等の50%を公費で埋める設計になっている。
保険料は世帯単位で、4つの区分に分かれる
通知書に並ぶ数字が読みにくいのは、ひとつの保険料が複数の目的別に積み上がっているからである。令和8年度からは子ども・子育て支援金分が加わり、4区分になった。それぞれに賦課限度額があり、合計が1世帯の年額の上限になる。
| 区分 | 何に使われるか | 令和8年度の賦課限度額 |
|---|---|---|
| 医療分(基礎賦課額) | 加入者自身の医療給付 | 67万円(令和7年度は66万円) |
| 後期高齢者支援金分 | 後期高齢者医療制度への支援金 | 26万円(変更なし) |
| 介護分(介護納付金賦課額) | 40〜64歳の介護保険 | 17万円(変更なし) |
| 子ども・子育て支援金分 | 児童手当の拡充など子育て支援 | 3万円(令和8年度に新設) |
| 合計 | 1世帯あたりの年額の上限 | 113万円 |
子ども・子育て支援金は、令和8年度から全世代が拠出することが法律で定められた財源である。こども家庭庁の試算では、国民健康保険の負担は一世帯あたり月額約300円。被用者保険では標準報酬に一律0.23%を掛けた額になり、国保や後期高齢者医療では6月から7月に送られる納入通知書で具体的な額が示される。支援金の総額は令和8年度が0.60兆円で、令和9年度に概ね8,000億円、令和10年度に概ね1兆円へ段階的に増える予定である。
介護分が入るのは40歳から64歳の加入者がいる世帯だけなので、世帯の年齢構成が変わると通知書の区分が増えたり減ったりする。前年と額が大きく違うときは、料率の改定より先にこの区分の出入りを確かめるほうが早い。
応能と応益を足す、だから自治体で違う
同じ所得でも、住む市区町村で年額が変わる。国民健康保険料は、負担能力に応じた応能分と、受益に応じた応益分を加入者ごとに計算して足し合わせる方式を採り、具体的な計算方法と徴収の定めは市町村の条例に委ねられている。国民健康保険組合の場合は組合の規約による。
応能分は所得割で、前年の所得に率を掛ける。応益分は加入者数に応じた均等割と、1世帯あたり定額の平等割である。自治体によっては固定資産税額に応じた資産割も使う。所得割と均等割だけの2方式、平等割を加えた3方式、資産割まで使う4方式があり、どれを採るかで世帯構成による有利不利が変わる。単身世帯は均等割の比重が相対的に軽く、家族が多い世帯では人数分の均等割が積み上がる。
重要なのは、所得割が前年の所得で決まる点である。年の途中で退職して収入が途絶えても、保険料は前の年の所得をもとに計算される。だから辞めた直後の年の負担が最も重くなる。開業初年度の資金計画でここを織り込み損ねる例が多く、独立の段取りを扱ったフリーランスのなり方を法令から確かめた記事でも期限と並ぶ注意点として挙がる。
軽減は三段階、申請が要るものと要らないもの
所得が低い世帯には、応益割を減額する制度がある。法令で定めた所得基準を下回る世帯は、均等割と平等割の7割、5割、または2割が減額される。この判定は申告された所得にもとづいて自動的に行われるので、申請は要らない。ただし所得の申告をしていないと判定ができず、軽減が適用されないまま通知が届く。
| 軽減割合 | 軽減判定所得の基準(令和8年度) |
|---|---|
| 7割 | 43万円+10万円×(給与所得者等の数-1) |
| 5割 | 43万円+31万円×(被保険者数+特定同一世帯所属者数)+10万円×(給与所得者等の数-1) |
| 2割 | 43万円+57万円×(被保険者数+特定同一世帯所属者数)+10万円×(給与所得者等の数-1) |
年齢と事情に応じた仕組みもある。令和4年4月から、未就学児の均等割は5割が公費で軽減されている。費用は国が2分の1、都道府県と市町村が各4分の1を持つ。所得による7割軽減が先に効いている世帯では、その後の額をさらに半分にするため、最大で8.5割の軽減になる。令和6年1月からは、出産する被保険者について産前産後期間に相当する4か月分の均等割と所得割が免除される。
会社の都合で辞めた人への配慮もある。雇用保険の特定受給資格者と特定理由離職者に当たる場合、離職の時点から翌年度末までの間、前年の給与所得を30%として保険料を算定する。高額療養費の所得区分の判定にも同じ30%が使われる。これは申請が必要な扱いなので、離職票を持って窓口で手続きをしなければ適用されない。災害などの特別な事情による減免や徴収猶予も、申し出が前提になる。
収納率93.99%、それでも公費が半分を担う
制度の財政を数字で見ると、保険料だけでは回っていないことがはっきりする。令和6年度の市町村国保の保険料収入は2兆4,053億円で、前年度比1.5%の増加だった。これに対して保険給付費は8兆2,413億円である。差を埋めているのが、国庫支出金3兆2,262億円と前期高齢者交付金3兆4,653億円である。
| 科目 | 令和6年度 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 保険料(税)収入 | 2兆4,053億円 | 1.5%増 |
| 国庫支出金 | 3兆2,262億円 | 0.4%減 |
| 前期高齢者交付金 | 3兆4,653億円 | 3.7%減 |
| 保険給付費 | 8兆2,413億円 | 3.4%減 |
| 後期高齢者支援金 | 1兆6,214億円 | 0.5%減 |
| 介護納付金 | 5,519億円 | 3.6%減 |
収納率は93.99%で、前年度から0.21ポイント下がった。単年度の収入22兆9,001億円から支出22兆8,095億円を引くと906億円の黒字だが、決算の穴埋めを目的とした一般会計繰入金923億円を除くと235億円の赤字になる。それでも前年度からは1,568億円ぶん赤字が縮んでおり、法定外の繰入金は1,636億円まで17.2%減った。基金積立金等は1兆3,951億円で4.3%増えている。市町村が一般会計から穴埋めする構図は、改革以降少しずつ薄まってきた。
保険料として納めた額の一部は、自分の世代の医療費以外にも回る。後期高齢者支援金1兆6,214億円と介護納付金5,519億円は、名目のとおり高齢者医療と介護の財源である。通知書の区分が目的別に分かれているのは、この流れを見えるようにするためでもある。
入るときと出るとき、14日という期限
加入と脱退には届出が必要で、期限は14日以内と定められている。国民健康保険法施行規則では、転入や社会保険の資格喪失によって資格を取得した場合、世帯主が14日以内に住所地の市町村へ届書を出すことになっている。会社を辞めた日の翌日に資格は切り替わるので、手続きが遅れても保険料はその日から発生する。遅れて得になることはない。
退職時の選択肢は3つある。前の勤め先の健康保険を任意継続するか、国民健康保険に入るか、家族の被扶養者になるかである。任意継続は資格喪失日の前日までに被保険者期間が継続して2か月以上あることが条件で、資格喪失日から20日以内に申出書を出す必要がある。加入できるのは最長2年。保険料は在職中に事業主が持っていた半分も自分で負担するため、単純には約2倍になる。
どちらが安いかは一概に言えない。任意継続は退職時の標準報酬月額で決まり、国保は前年所得と世帯の人数で決まる。扶養する家族が多い人は、被扶養者の保険料がかからない任意継続のほうが有利になりやすい。前年の所得が低かった人や単身の人は国保が安く出ることもある。20日という期限の短さを考えると、退職日が決まった時点で両方の額を試算しておくのが現実的である。地方移住や独立のときに確かめる項目を扱うFLASPOでも、この比較は後回しにされやすい作業として挙がる。
よくある質問
退職した年の保険料が高いのは計算間違いではないのですか。 所得割は前年の所得で計算されるため、収入が途絶えた年でも在職中の所得をもとにした額になる。会社都合の離職であれば、給与所得を30%として算定する軽減を申請できる。自己都合の場合はこの扱いがないので、分割納付や徴収猶予の相談が現実的な対応になる。
世帯の誰かが75歳になると、保険料はどう変わりますか。 その人は後期高齢者医療制度に移り、国保からは抜ける。残った世帯の均等割は人数が減るぶん下がるが、移った本人は個人単位で後期高齢者医療の保険料を負担する。世帯の合計で見ると増える場合もあるため、軽減判定では移った人を特定同一世帯所属者として数え続ける仕組みが置かれている。
所得がゼロなら保険料はかかりませんか。 所得割はかからないが、均等割と平等割は残る。所得が基準を下回れば7割軽減が適用され、残りの3割を負担する形になる。申告をしていないと軽減の判定ができないので、所得がない年でも住民税の申告は済ませておく必要がある。
国民健康保険には傷病手当金がありますか。 法律上は任意給付で、実施している市区町村はほとんどない。病気やけがで働けない期間の所得補償がない点が、被用者保険との最も大きな違いである。所得の中断に備える手立てを自分で用意しておく必要があり、確定申告での社会保険料控除の扱いは確定申告が必要な人の線を整理した記事に沿って確かめられる。
保険料が払えないときは、放置するとどうなりますか。 滞納が続くと有効期間の短い資格情報に切り替えられ、さらに進むと給付の一部が差し止められる。延滞金も付く。窓口に申し出れば分割納付や減免、徴収猶予の相談ができるので、通知書を開かないまま置いておくのが最も不利な選択になる。
出典:厚生労働省「令和6年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について」、同「国民健康保険の保険料・保険税について」、同「国民健康保険の加入・脱退について」、同「医療保険に関する基礎資料(令和5年度の医療費等の状況)」、こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」、全国健康保険協会「任意継続の加入条件について」、山口市「国民健康保険料の賦課限度額・軽減判定基準額の変更」
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