来月の予定が先に埋まっている人たち
シフトの希望を出す前に、来月の配信日とイベントの日程を確かめる。休みの取り方がそこから決まる。こういう順番で予定を組んでいる人は、職場にも教室にも一定数いる。本人はそれを「推し活」と呼ぶかもしれないし、特に名前を付けていないかもしれない。
推し活という言い方は、応援する相手を自分で決めて、その相手に関わる行動を生活に組み込むことを指して使われる。相手は歌い手でも俳優でも、漫画の登場人物でも、球団でも、ある町でもよい。共通しているのは、応援する側が能動的に時間と関心を割り当てているという点である。
この行為に何の得があるのかを聞かれたとき、多くの人は「楽しいから」と答えて会話が終わる。ただ、生活に実際に残るものは、もう少し分けて見ることができる。感性の側に残るもの、人との関係に残るもの、そして作り手に届く金額として外に出ていくもの。この三つは性質がまったく違う。
数字の手がかりは公的な調査にもある。文化庁の文化に関する世論調査(令和6年3月)は、18歳以上の2万4,996人に文化芸術との関わりを尋ねた調査で、この1年間に外出を伴う形で文化芸術イベントを鑑賞した人の割合を45.3%としている。18歳から19歳では56.9%で、全体より10ポイント以上高い。好きなものに出かける行動は、若い層でとりわけ普通のことになっている。
作品の側から見た楽しみ方の分類はアニメの楽しみ方に整理してある。ここでは応援する人の側に何が残るのかを見ていく。
残るものを三つに分けて数える
推し活の効用を一つにまとめようとすると、どこかで話が合わなくなる。感性の話をしているのか、人付き合いの話をしているのか、お金の話をしているのかで、評価の軸が別だからだ。先に三つに割っておくと、自分にとって何が効いているのかが見える。
| 残るもの | 生活のどこに出るか | 裏づけになる数字 | 崩れやすいところ |
|---|---|---|---|
| 感性と創造 | ものの見方が細かくなる。自分でも作りたくなる | 鑑賞以外の文化芸術活動を実践した人は13.3% | 受け取るだけで止まると実感が薄い |
| 人との関係 | 共通の話題で話せる相手が増える | 18〜19歳の直接鑑賞率は56.9%で全体より高い | 相手との関係が応援の濃さで測られ始める |
| 応援の循環 | 払った金額が作り手の次の活動に回る | 文化芸術への寄付をした人は10.9%、したい人を含めると34.4% | 支出の総額を把握しないまま増える |
| 生活の張り | 予定に目印ができて日々が区切られる | 直接鑑賞の頻度は「年に1回程度」が49.2%で最多 | 予定が中止になると落差が大きい |
表の右端を見ておきたい。三つとも、崩れ方がそれぞれ違う。感性の側は受け身のまま続けると鈍るし、関係の側は「どれだけ払ったか」で序列ができ始めると息苦しくなる。循環の側は、金額が見えなくなった時点で効用が逆転する。得があるという話と、気をつける点がある話は、同じ一つの構造から出てくる。
数字の出典はいずれも先の文化庁調査で、18歳以上を対象にした全国の値である。推し活だけを切り出して測った公的統計はまだないため、文化芸術との関わり方という広い器で見ている点には注意がいる。
細かく見る目と、作りたくなる気持ち
同じ公演を見た人同士で感想が食い違うことがある。衣装の色の変化に気づいた人、曲の間のつなぎ方に気づいた人、客席の照明の使い方に気づいた人。どれも最初から見えていたわけではなく、何度も見るうちに見えるようになった部分である。関心を一点に集めて繰り返し接すると、解像度が上がる。これは推し活の副産物のうち最も地味で、最も残るものだ。
先の文化庁調査では、文化芸術の体験に期待する効果も尋ねている。最も多かったのは「日本の文化を知り、国や地域に対する愛着を持つようになる」の31.1%で、次が「創造性や工夫をする力が高まる」の30.5%、「美しさなどへの感性が育まれる」が28.8%と続く。見ることが、作る力や感じる力につながるという期待は、全体の3割前後に共有されている。
実際に作る側へ回る人もいる。同じ調査で、この1年間に鑑賞以外の文化芸術活動を実践または支援した人は13.3%だった。内訳は「音楽の演奏や、演劇・舞踊・映画への出演など」が3.0%、「文学、音楽、美術、演劇、舞踊などの作品の創作」が2.9%、「地域の伝統的な芸能や祭りへの参加」が2.7%である。割合としては小さいが、受け取る側から作る側へ越える道筋は確かにある。
越え方は大がかりでなくてよい。感想を文章にしてみる、楽器を一つ触ってみる、好きな色の組み合わせを自分の持ち物に写してみる。推しを入口にして自分の手を動かし始めた人は、推しが変わった後も手を動かし続けることが多い。
払った金額が、次の作品の予算になる
チケット代やグッズ代を「消費」と呼ぶと、使って消えたものに聞こえる。だが同じ金額は、受け取った側では次の制作費や公演費になる。応援する人が払う金額は、作り手の活動の原資そのものだ。この循環を意識している人の割合も、調査から読み取れる。
文化庁調査では、チケット代金以外で文化芸術振興に関わる寄付をしたことがある人が10.9%だった。さらに「したことはないが、今後はしてみたい」と答えた人が23.5%おり、合わせると34.4%になる。およそ3人に1人が、入場料とは別の形で支えることに前向きだという読み方ができる。報告書は、どの分野についても年齢別では若年層ほど寄付をする人の割合が高くなっていると記している。
寄付の経路は素朴なものが多い。方法としては「設置されている募金箱、街頭募金」が38.2%で最も高く、「銀行・コンビニ等での振込み・口座引落とし」が35.1%、「クレジットカード等の利用」が26.2%と並ぶ。会場で箱に入れる、という昔からの形がいまも一番使われている。
支え方は金額だけではない。同じ調査で、文化芸術活動の中で著作権を意識していると答えた人は39.8%にのぼる。その内容を見ると、「違法コンテンツについては、鑑賞しないように心がけている」が20.1%、「好きなクリエーターを応援するために、著作権を大切にするようにしている」が12.9%だった。正規の経路で見ることそのものが応援になるという理解は、すでに一定の広がりを持っている。音楽の市場がどの経路で成り立っているかは音楽の楽しみ方で金額の内訳をたどれる。
効用が逆を向く地点を知っておく
ここまで挙げた三つは、どれも条件付きである。条件は単純で、支出と時間の総額が自分に見えているかどうかだ。見えているうちは張りになり、見えなくなると負担に変わる。そしてその切り替わりは、本人にとって分かりにくい形で起きる。
分かりやすい危険は、入場券の買い方に出る。国民生活センターは2022年8月に「“推し”に会えない!?転売チケットの購入トラブルが急増中!」を公表し、相談の増え方を月別に示している。2021年4月は35件、同年12月は99件、2022年3月に123件、4月に180件、5月に204件と、1年で6倍近くに増えた。
寄せられた相談は三つの型に分かれる。転売仲介サイトだと気づかないまま高額で買ってしまった例、買った券が入場できないものだった例、SNSで知り合った個人に代金を振り込んで連絡が取れなくなった例である。同センターは、検索結果の上部に出る広告を公式の販売サイトと思い込みやすいこと、残り枚数や制限時間の表示で購入を急かされることを問題点として挙げている。
助言はいずれも手順の話だ。券は公式の販売サイトで買う、仲介サイトを使うなら転売が禁止されていないかを確かめる、不正な転売はしない、困ったら早めに相談する。相談先は消費者ホットラインの188番で、最寄りの消費生活センターにつながる。費用の管理そのものを仕組みにしたい場合は、大学生のお金管理と節約に支出を先に決める方法がまとめてある。
地域や社会との関わりという軸で推し活を見直したい人は、FLASPOが扱っている若者の活動の事例が参考になる。好きな対象を応援する行動は、相手が町や催しであれば、そのまま地域との関わりになる。
よくある質問
推しは一人に絞らないといけないのか。絞る必要はない。むしろ複数ある方が、一つの活動が止まったときの落差が小さい。先の調査でも、外出を伴う鑑賞のジャンルは映画19.0%、歴史的な建物や遺跡15.1%、美術13.9%と分散しており、一つに集中しない形が普通である。
お金をかけないと推し活と言えないのか。言える。文化庁調査で、書籍やテレビ、インターネット配信などによる鑑賞をした人は57.5%と、外出を伴う鑑賞の45.3%より高い。しかも配信などによる鑑賞は「週に複数回」が18.6%、「週に1回」が11.5%で、頻度では現地を大きく上回る。日常の接し方としては、こちらが主流だと言ってよい。
周りに話せる相手がいない場合はどうするか。まず記録を残す形から始めるとよい。感想を短く書き留めておくと、後から話せる相手が現れたときに話が具体的になる。地域の施設を使う手もある。自宅から1時間30分以内に行くことのできる文化施設があると答えた人は76.5%で、映画館は67.1%、ホール・劇場は53.6%、美術館は47.1%だった。
家族に説明するときは何を言えばよいか。三つに分けた話がそのまま使える。見る目が細かくなること、話せる相手ができること、払った金額が作り手の活動に回ること。そのうえで、年間でいくらまでにするかを自分から先に示すと、話が噛み合いやすい。
推しが活動を終えたらどうなるのか。そこで残るのは三つのうち感性の側である。見方の細かさや、作ってみた経験は本人に残る。応援していた期間に覚えた言葉や視点は、次に好きになる対象にそのまま使える。
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