全体の数字と、若い世代の数字が逆を向いている
国の統計では、日本全体の自殺者数は減る方向に動いている。令和7年版自殺対策白書の概要によれば、令和6年の自殺者数は20,320人で、前年より1,517人減り、統計開始以降では2番目に少ない水準になった。年齢階級別の自殺死亡率もほとんどの階級で低下し、70歳代と80歳以上は平成19年以降で最も低い数値を記録している。
ところが同じ白書は、10歳代については平成29年以降が上昇傾向だと書いている。令和6年の小中高生は529人で、統計のある昭和55年以降で最も多い。全体が下がる局面で、ひとつの年齢層だけが上を向いている状態である。
この偏りは国際比較でも確認できる。白書の第2章は、日本の10歳代および20歳代の死因順位第1位が自殺であり、この年代の自殺死亡率はG7各国のなかで最も高いと記している。WHOの報告書では、世界全体では15歳から29歳の死因の第2位とされている。日本は順位がひとつ上がっているということになる。若い世代のメンタルを考えるときの出発点は、気の持ち方の話ではなく、この順位の事実である。
救命救急センターの記録に、亡くならなかった人が残っている
死亡の統計だけを見ていると、手前で起きていることが見えない。白書の第2章には、自傷・自殺未遂レジストリ(JA-RSA)のデータを使ったコラムが入っている。日本臨床救急医学会といのち支える自殺対策推進センターが協働して運用する症例登録システムで、2022年12月の運用開始から2024年12月31日までに全国78の救命救急センターが参加し、登録は4,521件に達した。
このうち39歳以下は2,572件で、全体の56.9%を占める。性別では女性が1,785件(69.4%)と大きく偏り、手段は過量服薬が1,711件(66.5%)で最も多い。死亡者数では男性が多いのに、救急に運ばれた記録では女性が多い。同じ出来事を数えているように見えて、拾っている断面が違う。
| 年齢区分 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 14歳以下 | 87件 | 3.4% |
| 15歳〜19歳 | 500件 | 19.4% |
| 20歳〜24歳 | 681件 | 26.5% |
| 25歳〜29歳 | 558件 | 21.7% |
| 30歳〜34歳 | 426件 | 16.6% |
| 35歳〜39歳 | 320件 | 12.4% |
最も多いのは20歳から24歳で、26.5%にあたる。進学や就職で生活の形が一度組み替わる時期が、件数の山と重なっている。14歳以下は3.4%で、15歳を越えたあたりから急に増える形になっている。
この登録は全国の救命救急センターのうち78か所という参加範囲で集められたもので、国内で起きた未遂のすべてを数えたものではない。コラム自体も、今後さらに多くのセンターに参画を働き掛けていくと書いている。母数が限られていることを前提に、構成比として読むのが安全である。
7割が、すでに精神科にかかっていた
同じレジストリには、受診歴の項目がある。39歳以下の2,572件のうち、精神科受診歴が「あり」だったのは1,777件で69.1%。過去の自傷・自殺未遂歴が「あり」だったのは1,308件で50.9%だった。
この2つの数字は、支援の入り口が機能していないという話ではない。医療につながっていた人が約7割を占めていたという事実である。つながれば止まる、という前提では説明がつかない。白書のコラムは、WHOの示唆として、自殺で亡くなった大人1人に対して自殺未遂をした人が20人以上いる可能性があることを挙げ、未遂者への積極的な支援介入が必要だとしている。
窓口を増やす話と、つながった後に何が続くかという話は別に設計しなければならない。半数が過去にも同じ経験をしているという数字は、1回の対応で区切りがつく出来事ではないことを示している。メンタル不調のサインを早めに拾う話も、その先の受け皿があるかどうかで意味が変わる。
大学生の統計には、高校生とは違う項目が並ぶ
白書の第2章第1節は、職業別の分析として大学生等を取り出している。29歳までの大学生等の自殺者数は、男性がおおむね横ばいで、大学生は約240人から約300人の間、専修学校生等は60人前後で推移してきた。女性は男性より少ないものの近年は増加傾向にあり、令和6年には大学生が約150人、専修学校生等が約50人となった。
原因・動機の詳細項目を見ると、男性では学業不振と進路に関する悩み(入試以外)という学校問題が多く、女性では病気の悩み・影響(うつ病)とその他の精神疾患という健康問題が多い。ここまでは高校生と似ている。違うのはその先で、高校生で頻出する親子関係の不和などの家庭問題が大学生等では10位以内に入らず、代わりに男女とも孤独感が、男性ではさらに就職失敗が入ってくる。
家庭から離れた分だけ、家庭の問題は上位から消える。そして空いた場所に、ひとりでいることと進路が入る。進学や上京で環境が変わる時期の支援を考えるなら、見るべき項目はここで入れ替わると考えたほうがよい。人間関係と若者の統計で相談相手の分布を見ておくと、この入れ替わりの意味がつかみやすい。
15歳から29歳を、ひとまとめにしないという作法
白書は、若者を主に15歳から29歳として、可能な範囲で5歳階級に分けて集計している。年齢を5歳刻みで割るのは手間だが、割らないと傾向が消えるからである。前に見たレジストリの年齢区分でも、20歳代前半と30歳代後半では件数が2倍以上違っていた。
読み方の注意も明記されている。利用しているのは警察庁の自殺統計原票で、記載内容は警察の捜査や調査の過程で知り得た範囲にとどまる。特定された原因・動機が、その人の背景そのものとは限らないとも書かれている。原因・動機は1人につき4つまで計上できるため、割合の合計は100%にならない。さらに原票は令和4年1月に改正され、職業や原因・動機の一部は改正前との連続性がなくなっている。集計は、亡くなった年ではなく遺体が発見された年に基づく。
年齢を分けることの効き方は、白書の構成にも表れている。この年の特集は15歳から29歳までを主な対象としながら、職業を学生・生徒等、有職者、無職者に分けた章立てになっている。同じ20歳代でも、在学中なのか働いているのか、どちらでもないのかで、自殺死亡率も原因・動機の並びも変わる。年齢だけで層を作ると、この差が平均に吸われて消えてしまう。
こうした断り書きを飛ばして「若者の自殺は〇〇が原因」と単純化すると、実際の施策とずれる。地域で若い世代と関わる活動を設計するときも、数字は傾向をつかむ道具として使い、個々の背景は別に聞くという二段構えが要る。地域の居場所づくりに取り組むFLASPOのような場でも、この分け方は実務的に効いてくる。
よくある質問
小中高生の529人という数字は、どの範囲を指しているのか。小学生・中学生・高校生の合計で、令和6年の数値である。白書は、統計のある昭和55年以降で最多だとしている。全体の自殺者数が2番目に少ない年に記録された数字であることが、この年の特徴である。
未遂の件数が女性に偏るのはなぜか。白書のコラムは理由を断定していない。読み取れるのは、データが救命救急センターを受診した症例の登録であること、手段では過量服薬が66.5%を占めていることである。搬送に至る経路の違いが数字に影響している可能性はあるが、推測の域を出ないため、ここでは件数の偏りという事実にとどめておく。
相談先はどこにあるのか。厚生労働省はまもろうよこころというサイトで、電話とSNSの相談窓口をまとめている。白書の第2章第2節は、SNSを活用した相談事業の実績を年度ごとに整理しており、テキストで相談できる窓口が若い世代に届きやすいことを前提に体制が組まれてきた経緯がわかる。
周囲にいる大人は何を見ればよいか。レジストリの数字が示すのは、過去に同じ経験をした人が半数を占め、医療につながっていた人が約7割だったという状態である。つまり「病院に行ったかどうか」は確認の終点にならない。生活のリズム、ひとりで過ごす時間の増え方、進路の見通しという具体的な項目を、継続して聞き続けるほうが実際的である。
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