成長は立ち直りとは別の物差しで測られてきた
つらい経験が人を強くする、という言い方には身構えたくなる。渦中にいる人にとっては慰めにもならず、立ち直りを急かす圧にもなりやすい。ただ研究の世界では、失恋からの回復と、失恋を経た成長は別の指標として扱われてきた。前者は苦痛が減ったかどうかを見る。後者は、その人の物の見方や自己評価が変わったかどうかを見る。
岡山大学の木村明日美と安藤美華代が2024年に発表した恋愛関係喪失体験からの回復に関する文献レビューは、国内外30件の研究が回復を何で測ったかを並べている。国外では抑うつ症状や別れの苦痛を測った文献が多い一方、心的外傷後成長を組み込んだ文献も複数あった。国内で成長を測っていた文献は12件中1件にとどまる。
数が少ないということは、成長が起きないという意味ではない。苦痛の減り方に比べて、成長のほうが測りにくいという事情が先にある。何をもって成長と呼ぶかが人によって違う以上、尺度の作りから議論になるからである。
184名の調査に出た、成長感が高かった条件
その数少ない国内研究が、中山真、橋本剛、吉田俊和が2017年にパーソナリティ研究へ発表した恋愛関係の崩壊によるストレス関連成長である。大学生と短大生184名、内訳は男性86名と女性98名で、過去5年以内の恋愛関係の崩壊を思い出してもらい、成長感と愛着スタイルの尺度に答えてもらった。
結果は三つの条件に整理できる。崩壊の形態では、片思いの終わりより交際していた関係の破局のほうが成長が高かった。誰が別れを決めたかという点では、拒絶した側があいまいな場合より、相手にはっきり拒絶された場合のほうが成長が高い。愛着スタイルでは、関係性不安が低い人ほど成長が高かった。
| 比べた条件 | 成長感が高かったのは |
|---|---|
| 崩壊の形態 | 片思いの終わりより、交際していた関係の破局 |
| 拒絶した側 | あいまいな場合より、相手にはっきり拒絶された場合 |
| 愛着スタイル | 関係性不安が低い人 |
二つめの条件は直感に反する。はっきり振られたほうが成長するという結果は、別れの輪郭がはっきりしていることが関係している。あいまいなまま宙づりになれば、起きたことを自分の物語に組み込む作業が始まらない。痛みの大きさではなく、出来事として閉じたかどうかが効いていると読める。
312名の比較に出た、たった一つの差
では失恋を経験した人は、していない人と何が違うのか。上野山莉加と岡本祐子による愛着型の相違が青年の失恋経験における意味づけに及ぼす影響は、大学生312名、内訳は男性158名、女性153名、不明1名、平均年齢20.2歳を分析対象に、過去3年以内の失恋経験の有無で群を分けて比べている。
比べたのは、出来事への意味の付与と自己成長感である。意味の付与はポジティブな側面への焦点づけ、出来事の持つメッセージ性のキャッチ、出来事を経験した自己に対する評価という三因子に分かれた。自己成長感のほうは自己に対する評価、物事に対する寛容的受けとめ、世界的評価の三因子に分かれている。愛着スタイルは見捨てられ不安と親密性の回避の二因子で測られた。
差が出たのは一つだけだった。ポジティブな側面への焦点づけで失恋経験のある群のほうが有意に高く、統計量はt=3.66、自由度310、有意水準は1%%未満である。自己成長感の三因子にはいずれも差が出ていない。愛着型による違いも見られなかった。
読み取れることは限られている。失恋を経ると、起きたことの明るい面へ目を向ける構えは強まる。ただしそれが自分の成長の実感に結びついているとまでは、この比較からは言えない。著者らは、対象が比較的健康な青年であり愛着型が平均値付近に集まっていたことを、差が出なかった理由として挙げている。
苦痛を飛ばして成長だけ取り出せない
成長を期待する人ほど知っておきたいのが、苦痛との関係である。マーシャル、ベジャニャン、フェレンツィが2013年にPLOS ONEへ発表した二つの調査は、愛着スタイルと別れの苦痛、反すう、個人的成長の関係を構造方程式モデリングで調べた。研究1は411名、研究2は465名が対象で、平均年齢はそれぞれ23.47歳と21.36歳である。
研究1では、愛着の不安が強い人ほど別れの苦痛が大きく、その苦痛を経由して個人的成長と結びついていた。逆に愛着の回避が強い人は、苦痛を抑える方向に働き、成長の低さと結びついていた。研究2では、別れの苦痛が思い悩みと内省を経由して成長と関連することが示されている。
この順序が示すのは、苦痛が成長の副産物ではなく経路の途中にあるということである。痛みを感じないように立ち回れば、そこから何かを引き出す作業も起こらない。ただし著者ら自身が、横断的で回想に基づくデータであり因果を確定できないと限界に挙げている点は押さえておきたい。
意味づけが固まるまでには順番がある
成長の実感は、別れた直後にやってくるものではない。日塔が2011年に7名へ行ったインタビュー調査は、回復の過程を三つのフェイズに分けている。最初は対象を失ったことが心的ストレスとなって急性の情緒的危機が起きる段階である。
次に来るのが意味づけの段階で、情動の発散が落ち着いたあと、自責と他責のあいだで別れの原因の帰属先を探り、周囲とのやり取りを通じて出来事に意味を持たせていく。三つめの段階では、つらい経験の意味が組み替えられて自分の物語に組み込まれ、物語の一貫性が取り戻される。別れた相手が大切な存在として位置づけられたままでも、この段階には至り得ると示唆されている。
成長を急ぐと、この順番が飛ばされる。失恋への対処を分類した調査では、失恋が自分の成長に役立つと思うことは肯定的解釈として回復を促す側に置かれていた。ただしそれは情動が一度通り過ぎたあとの構えであって、泣く前に唱える呪文ではない。回復の過程そのものは失恋と心理学で整理している。
よくある質問
失恋すれば誰でも成長するのか。そうとは限らない。成長感が高かったのは、別れの形がはっきりしていた人や関係性不安が低かった人であり、条件によって差が出ている。成長を前提に置くより、起きたことの輪郭を整理するほうが先になる。
前向きに考えようとすることに意味はあるのか。失恋を経験した群で高かったのは、まさにポジティブな側面への焦点づけだった。ただし自己成長感の得点に差がなかったことも同じ調査の結果である。前向きに見ようとする構えと、実際に変わった実感は分けて考えたい。
早く立ち直った人のほうが成長しているのか。逆の可能性がある。苦痛を抑える方向に働く愛着の回避は、成長の低さと結びついていた。立ち直りの速さと成長の大きさは別の指標であり、どちらか一方で相手を測る必要はない。
成長したと感じられないまま時間が過ぎてよいのか。問題はない。国内の研究が回復の目安に置いてきたのは、相手から心が離れて日常が回ることである。成長の実感はその上に後から乗ることもあれば、乗らないこともある。人とのつながりを作り直す場を探すなら、地域の活動を入口にする手もあり、FLASPOのような窓口も使える。頼れる先の広げ方は人間関係の悩み解消法で扱った。
周囲から成長したねと言われるのがつらい。その違和感には根拠がある。成長を測る尺度は、本人が自分の変化をどう評価したかを尋ねるもので、外から判定する道具ではない。言われて納得できないなら、それはまだ本人の物語に組み込まれていないということであり、時期の問題として扱える。
同じ別れを何度も思い返してしまう。反すうには二つの顔がある。前掲の海外調査では、思い悩みと内省のどちらも別れの苦痛から個人的成長へつながる経路に乗っていた。一方で、考えまいとする努力や相手への敵意は、国内の調査では回復を妨げる側に置かれている。思い返すこと自体より、その先が自分の生活へ向くかどうかが分かれ目になる。
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