別れる前に書いた予測と、別れた後の記録を突き合わせる
「あの人と別れたら生きていけない」と感じているとき、その感覚がどれくらい正確なのかを本人は確かめられない。別れてしまえば比較の相手が消えるからである。ポール・イーストウィックらは、別れる前の予測を先に取っておくという手順でこれを測った。論文は「Mispredicting distress following romantic breakup」として2008年の Journal of Experimental Social Psychology 誌44巻800〜807ページに掲載されている。
対象はノースウェスタン大学の1年生69人で、9か月間の縦断研究である。参加の条件は、17歳から19歳で、2か月以上続いている交際の当事者であり、カップルのうち一方だけが参加すること。分析に使われたのは、開始から最初の6か月のあいだに交際が終わった26人(うち女性10人)で、研究に入った時点の交際期間は平均14.0か月、標準偏差10.6か月だった。
測定の順序がこの研究の肝である。別れたという報告が出た時点を0週とし、その2週間前の調査で答えていた予測値を「もし別れたらどれくらい苦しいか」の見積もりとして使う。実際の苦痛は0週、2週、6週、10週の4時点で記録した。必要な208件の回答のうち欠けていたのは1件だけで、追跡の質は高い。
外れていたのは「初めの強さ」だけだった
苦痛は1から7の尺度で測られている。予測値と実測値を同じモデルに入れて比べると、0週の時点で予測は実際より0.79ポイント高かった。統計量は t(24)=4.30、有意水準は0.1%未満である。別れた直後の落ち込みを、人は実際より深いものとして見積もっていた。
| 推定された係数 | 意味 | 値 | 検定結果 |
|---|---|---|---|
| c1 | 0週での予測と実際の差(初期強度バイアス) | +0.79 | t(24)=4.30、p<.001 |
| c2 | 実際の苦痛の1週あたりの変化 | -0.07 | t(6)=3.12、p=.021 |
| c3 | 減り方の速さの予測と実際の差(減衰バイアス) | +0.02 | t(24)=0.55、有意でない |
注目したいのはc3である。この係数は「立ち直るまでにかかる時間を長く見積もりすぎているか」を測っているが、0.02という値は統計的に意味のある差とは言えなかった。つまり参加者は、苦痛が引いていく速さについてはおおむね正しく予想できていた。誤差のすべてが最初の深さに集まっていたことになる。苦痛そのものは1週あたり0.07ポイントの速さで下がり、10週の時点までその傾きは保たれた。
この区別には実用的な意味がある。「時間が解決する」という助言は、速さの見積もりが外れている人に向けたものだが、研究の示す誤差はそこにはない。外れていたのは入口の深さであり、別れの直前に想像していたほどの底までは落ちなかった、という形で誤差が生じている。
外れ方が大きいのは、恋愛感情が強かった人である
平均の誤差が0.79ポイントであっても、全員が同じだけ外していたわけではない。著者らは、別れの直前の調査で「恋に落ちている」と答えた強さを標準化してモデルに加え、誰の予測がとくに外れるかを調べた。結果は明快で、この変数は初期強度バイアスの調整因子として有意だった。係数は0.62、t(35)=3.78、有意水準は0.1%未満である。
恋愛感情が平均より1標準偏差高かった人たちに限ると、0週での予測と実際の差は1.08ポイントに広がる。t(34)=5.55で、やはり0.1%未満の有意水準だった。同じ尺度で1ポイント以上という差は小さくない。一方で、実際の苦痛そのものが恋愛感情の強さで高くなるかという関係は、係数0.40、t(35)=1.90、p=.066で限界的な有意にとどまった。強く愛していた人は、実際に多少つらいというよりも、予測が大きく外れるという形で特徴づけられる。
同じ分析では、ほかにふたつの条件が挙がっている。近いうちに新しい関係が始まる見込みは低いと答えた人、そして別れを切り出す役割をあまり担わなかった人である。どちらも、別れたあとの生活に前向きな要素を見つけにくい立場にあたる。予測の誤差は、感情の強さそのものよりも、別れたあとの見通しの立てにくさに結びついている。恋愛の進め方に悩みを抱える人の割合はコミュ力と恋愛でも数字が出ている。
回復は「自分の輪郭」が戻ることとして測れる
苦痛の点数が下がることと、立ち直ることは同じではない。グレース・ラーソンとデビッド・サバラは、別れたあとに起きる自己像の崩れに注目した。2015年の Social Psychological and Personality Science 誌6巻4号399〜406ページの「Participating in research on romantic breakups promotes emotional recovery via changes in self-concept clarity」である。
最近別れを経験した若年成人210人を、9週間のうちに4回の多面的な測定を受ける群120人と、最初と最後の調査だけを受ける群90人に割り当てた。両群が過ごした期間は同じで、違うのは研究のために自分の状態を語る回数だけである。結果は、測定の回数が多い群で自己概念の混乱の下がり幅が大きかった。条件による差が出たのはこの指標だけだった。
さらに、自己概念の明確さが改善したことが、別れに関する感情の不意の侵入、孤独感、そして一人称複数の語の使用が減ることを説明していた。「私たち」という言い方が「私」に戻っていく過程と、つらさが引いていく過程が同じ指標で結ばれる。別れの痛みの一部は、相手を失ったことではなく、相手と組み合わさって成り立っていた自分の説明が使えなくなったことから来ている、という読み方ができる。
これらの研究が測れていないもの
数字の出どころを押さえておくと、どこまで一般化できるかの線も引ける。予測の誤差を示した研究の分析対象は26人で、全員が北米の私立大学の1年生、交際は2か月以上という条件つきだった。自己概念の研究は210人と規模が大きいが、対象は別れた直後の若年成人に限られる。日本の標本で同じ手続きを踏んだ研究は見当たらず、失恋そのものを継続して追う公的統計も存在しない。
理論の側の出発点も古い。成人の恋愛関係を幼少期の愛着と同じ枠組みで捉える見方は、シンディ・ヘイザンとフィリップ・シェイヴァーの1987年の論文「Romantic love conceptualized as an attachment process」(Journal of Personality and Social Psychology 52巻511〜524ページ)に始まる。別れの研究が愛着のスタイルを説明変数として入れるのは、この系譜に乗っているからである。実際、28日間の感情日記を分析した研究でも、愛着のスタイルは感情の初期値と変化の速さの両方を予測していた。
測定の対象が「言葉で答えられる苦痛」に限られることも、押さえておきたい前提である。眠れない、食欲がない、仕事に行けないといった生活の崩れは、1から7の尺度には直接は乗らない。孤独感を尺度で測るときに起きるずれは人間関係と心理学で扱っており、同じ問題が別れの研究にもついてまわる。人との距離の取り方そのものを組み替える選択を含めて、暮らし方の幅はFLASPOでも紹介している。
よくある質問
なぜ人は失恋のつらさを予測し間違えるのか。研究が見つけた誤差は、落ち込みの深さの側に集まっていた。減り方の速さを測る係数は0.02で有意ではなく、立ち直るまでの時間については予想が当たっていた。別れたあとに生じる良い変化を数え落とす、あるいは入口の苦しさだけを強く思い描く、という説明が残されているが、著者らはどちらかに決めてはいない。
相手を強く愛していたほうが苦しいのか。実際の苦痛の高さとの関係はp=.066で、はっきりした差とは言えない水準だった。明確に出たのは予測の外れ方で、恋愛感情が平均より1標準偏差高い人の誤差は1.08ポイントに達した。強い感情は、つらさの量よりも見積もりの精度に影響していたことになる。
誰かに話すと楽になるという説は確かめられているのか。9週間で4回の測定を受けた群は、最初と最後だけの群より自己概念の混乱が大きく下がった。ただしこれは研究のために構造化された形で自分を語る経験であり、友人に愚痴を言うことと同じと見なすことはできない。自己概念の明確さという特定の指標を介した効果だった点も、押さえておきたい。
こうした結果は日本でも当てはまるのか。紹介した研究はいずれも北米の標本で、26人や210人という規模である。文化や年齢層による違いを検証した追試は見当たらない。数値をそのまま自分の日数や点数に当てはめるのではなく、誤差がどこに生じやすいかという形で読むほうが無理がない。
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