採用の現場では、16年続けて一番上に置かれていた
コミュ力があると得だとはよく言われるが、得の中身を数字で示した資料は意外と少ない。手がかりになるのは、日本経済団体連合会が2018年11月22日に公表した2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果である。経団連企業会員1,376社を対象に2018年7月20日から9月7日まで実施され、597社が回答した(回答率43.4%)。
この調査の「選考にあたって特に重視した点」で、コミュニケーション能力は82.4%を集めて第1位になった。注目すべきは順位ではなく継続年数で、16年連続の首位である。第2位の主体性も10年連続で、企業が見る場所はこの十数年ほとんど動いていない。
| 順位 | 重視した点 | 割合 | 連続年数 |
|---|---|---|---|
| 1 | コミュニケーション能力 | 82.4% | 16年連続 |
| 2 | 主体性 | 64.3% | 10年連続 |
| 3 | チャレンジ精神 | 48.9% | 3年連続 |
| 4 | 協調性 | 47.0% | - |
| 5 | 誠実性 | 43.4% | - |
調査の対象が経団連の会員企業であることは押さえておきたい。回答した597社のうち従業員1,000人以上が71.4%を占めており、大企業の採用観が強く反映されている。中小企業や公的機関で同じ順位になるとは限らない。
1位と2位の差は18.1ポイントある。4項目が40%台から60%台に収まっているなかで、1位だけが8割を超えて離れている。選考の入口で何が見られているかという問いには、この表がそのまま答えになる。
得をする話より、失わずに済む話のほうが数字が大きい
メリットという言葉からは、良い評価や昇進といった加算の側が想像されやすい。ところが公的統計で大きく出るのは減算を避けた側である。厚生労働省の令和5年雇用動向調査結果の概況から、転職してきた人が前の職場を辞めた理由を見ると、事情が分かる。
男性では、内訳の不明な「その他の個人的理由」17.3%と「その他の理由(出向等を含む)」14.0%を除くと、「定年・契約期間の満了」16.9%が最も多く、次に来るのが「職場の人間関係が好ましくなかった」9.1%である。女性では「その他の個人的理由」25.1%を除くと、この人間関係の項目が13.0%で最多となり、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」11.1%を上回っている。
この統計は転職してきた人に前職の退職理由を尋ねたものなので、辞めなかった人の事情は映らない。それでも、職場を離れる決断の背景として人間関係が上位に残り続けていることは読み取れる。
さらに、前年からの上昇幅が最も大きかった項目は、女性ではこの人間関係で2.6ポイントだった。賃金や勤務時間と並ぶ水準で、人との折り合いが職を変える引き金になっている。コミュ力の効き目は、居続けられる確率として先に現れると見たほうが実態に近い。
何が効いたのかは、能力を分解しないと特定できない
ここで困るのは、82.4%という数字が何に対する評価なのか分からない点である。経済産業省が提唱した社会人基礎力では、職場や地域で多様な人と仕事をするための力として3つの能力と12の能力要素が整理されており、日常語のコミュ力に当たる「チームで働く力」は、発信力・傾聴力・柔軟性・情況把握力・規律性・ストレスコントロール力の6要素に分かれている。
6要素を並べると、メリットの出口が要素ごとに違うことが見えてくる。発信力が高い人は提案が通りやすく、傾聴力が高い人には情報が集まり、情況把握力が高い人は手戻りを踏まない。同じコミュ力という一語でも、効く場面はまったく重ならない。
要素の名前が分かると、周囲からの評価も読み解けるようになる。説明が分かりやすいと言われるなら発信力、相談されやすいなら傾聴力、揉め事に巻き込まれないなら情況把握力が効いている。褒め言葉を要素に置き換える作業が、自分の持ち札の棚卸しになる。
自分のどこが効いているかを知らないまま伸ばそうとすると、すでに強い1つをさらに磨いて終わる。要素ごとの定義と言い換えはコミュ力の種類で一覧にしてあるので、点検の下敷きとして先に見ておくと無駄が減る。
文字のやり取りが増えて、効く場所が移動している
対面では困らないのに、チャットになると話が進まない。この食い違いは文化庁の令和6年度「国語に関する世論調査」の数字と重なる。全国の満16歳以上6,000人を対象に令和7年1月14日から3月4日まで郵送法で実施され、有効回答は3,498人、回収率は58.3%だった。
SNSを利用している人は74.8%、そのうち仲間内や一対一でメッセージの送信等を行っている人は86.3%にのぼる。利点としては「都合のいい時間にやり取りできる」が74.8%、「気軽にやり取りできる」が74.1%、「写真や動画などと合わせてやり取りできる」が65.8%と並ぶ。
利点の並びには共通点がある。時間と場所の制約を外す方向に効いていて、伝わりやすさを上げる方向には働いていない。便利さと伝達の精度は別の軸だと考えたほうがいい。
一方の戸惑いは、「やり取りが面倒に感じることがある」が50.8%、「相手の考えや感情が分かりにくい」が45.0%、「情報が本当かどうか判断しにくい」が43.5%だった。相手の感情が読めない状態で伝える技術は、表情や声の調子に頼れる対面とは別物である。言葉の難度を相手に合わせて調整する作業については、国際交流のコミュニケーションで扱ったやさしい日本語の手順がそのまま応用できる。
数字に寄りかかり過ぎないための線引き
82.4%は「重視した」と答えた企業の割合であって、採否の決定にどれだけの重みを占めたかを示す値ではない。重視するという回答と、実際に内定が出た理由が同じとは限らない。この区別を飛ばすと、面接での印象だけを磨く方向に走りやすい。
同じことは離職の統計にもあてはまる。人間関係を理由に挙げた人が多いという事実は、コミュ力を上げれば辞めずに済むという因果まで保証しない。配属や業務量の問題が人間関係の形で表に出ることもある。選考の場で自分の経験をどう構造化して渡すかは、面接の答えを構造で組み立てるの質問の型ごとの組み立てが実務的に役立つ。
それでもこの力に投資する価値が残るのは、効き目が職場だけに閉じないからである。地域活動でも学内の企画でも、人を巻き込む段取りは同じ技術で回る。FLASPOが扱う地域との関わりのように、自分の持ち場の外へ出る場面ほど差が出やすい。
よくある質問
Q. コミュ力が高いと給与は上がるのか。A. 経団連の調査は選考で重視した点を聞いたもので、賃金との関係は示していない。公的統計から言えるのは、人間関係が離職理由の上位にあるという事実までである。給与に結びつけて語る資料は、出典をよく確かめたほうがいい。
Q. 話すのが苦手でもメリットは得られるか。A. 社会人基礎力の6要素のうち話す技術に対応するのは発信力の1つだけで、残る5つは聞く側や保つ側に配分されている。傾聴力や規律性の側から入っても、評価される経路は残っている。
Q. 16年連続1位というのは今も続いているのか。A. この継続年数は2018年度調査の時点のものである。経団連の同じ調査でそれ以降の年度を確認できていないため、現在まで続いているとは言えない。年度を添えて引用するのが安全である。
Q. 学生のうちにメリットを実感できる場面はあるか。A. アルバイトの引き継ぎ、サークルの日程調整、研究室での相談など、相手の都合を聞いて段取りを組む場面はすべて同じ技術で動いている。社会に出てから急に必要になる力ではない。
Q. 対面とチャットのどちらを先に鍛えるべきか。A. 文化庁の調査では、文字のやり取りで戸惑う点として相手の感情の読みにくさが45.0%挙がっている。自分がどちらで失点しているかを先に見極めるほうが早く、両方を同時に鍛える必要はない。
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