同じ一年を指していても、一方は手続きの名前で一方は過ごし方の名前
願い出を出して在籍だけを残す。これが休学で、各大学の学則に書かれた手続きである。もう一方のギャップイヤーは、進学や卒業の前後に意図して空ける期間そのものを指す言い方で、日本の法令には出てこない。二つは並んだ選択肢ではなく、層が違う。日本の大学生がギャップイヤーを取ろうとすれば、入口はほぼ休学の手続きになる。逆に、休学すれば自動的にギャップイヤーになるわけでもない。療養のために休むなら、空いた時間は回復に充てるものであって、計画して空けた期間とは性質が別である。言葉を使い分ける実益はここにある。手続きの話をしているのか、一年の中身の話をしているのかを切り分けないまま窓口に行くと、大学は手続きの答えしか返せず、学生は中身の答えを期待してすれ違う。先に「何月から何月まで在籍だけ残すのか」を決め、そのあとで「その期間に何をするのか」を別に決める。この順番を逆にすると、どちらも決まらないまま受付の期限が来る。
年に8万6千人が休んでいる。珍しい選択ではなくなった
制度の話に入る前に、どれくらいの人が実際に休んでいるのかを押さえておきたい。文部科学省の令和6年度 学生の中途退学者・休学者数の調査結果によれば、令和6年4月1日から令和7年3月31日までに休学した学生は86,119人で、学生数に占める割合は2.95%だった。学校種で割ると差がはっきり出る。大学は68,239人で2.70%、短期大学は1,526人で2.23%、高等専門学校は861人で1.53%。これに対して大学院は15,493人で5.86%、うち博士課程だけを取ると11.31%に達する。学部の段階では三十人に一人、博士課程では九人に一人が在籍のまま止まっている計算になる。同じ調査では中途退学者が61,441人、割合は2.10%と報告されており、休学の方が数も割合も上回る。辞めるより止まる方が選ばれているという構図である。
| 学校種 | 休学者数 | 学生数に占める割合 | 前年度の割合 |
|---|---|---|---|
| 大学 | 68,239人 | 2.70% | 2.69% |
| 短期大学 | 1,526人 | 2.23% | 2.17% |
| 大学院(修士・専門職) | 6,954人 | 3.68% | 3.84% |
| 大学院(博士) | 8,539人 | 11.31% | 11.35% |
| 高等専門学校 | 861人 | 1.53% | 1.50% |
| 合計 | 86,119人 | 2.95% | 2.95% |
理由の内訳も同じ資料に載っている。単一選択で最も多いのは「その他」の26.7%だが、具体名が付いた項目では海外留学が13.8%で首位に立ち、精神疾患13.0%、経済的困窮11.7%が続く。転学・進路変更等は8.5%、病気・けが・行方不明は7.4%、就職・起業等は6.6%、学生生活不適応・修学意欲低下は5.8%、学力不振は3.2%だった。前向きに外へ出る層と、いったん立ち止まる層が、ほぼ同じ規模で同じ手続きを使っている。休学のメリットと引き換えになるもので触れたとおり、休学という手続きそのものは中身を保証しない。どちらの側に立って一年を使うのかは、願い出の紙に書く理由欄より前に、自分で決めておく必要がある。
ギャップイヤーを制度に組み込んだ大学は、休学の扱いまで作り替えていた
日本にギャップイヤーの制度が無いわけではない。東京大学は平成25年度の入学者から、教養学部前期課程の新入生を対象に初年次長期自主活動プログラムを置いている。英文名は Freshers’ Leave Year Program で、頭文字を取って FLY Program と呼ばれる。同大学が公表している実施要項を読むと、設計の細かさが分かる。採用された学生は「初年次特別休学」を申請し、期間は当該年度の4月1日から3月31日までの1年間。原則として期間中の復学は認められず、期間の延長も認められない。活動の内容は大学が用意するのではなく、ボランティアや就業体験、国際交流などを学生自身が立案する。審査と事後評価は長期性・継続性、社会性・国際性、公共性・規範性という三つの観点で行われる。採用人数は若干名で、申請は入学手続時の事前申請と入学後の本申請の二段階だ。
注目したいのは、通常の休学と別枠にしてある点である。要項には、初年次特別休学の期間は現行制度の休学期間には算入しないと明記されている。多くの大学の学則は休学できる年数に上限を置いているので、この一文があるかないかで、あとで病気や留学のために休む余地が残るかどうかが変わる。もう一つ、見落とされやすい注意書きもある。採用者は日本学生支援機構奨学金の予約採用が取り消しとなり、申請結果が出るまで進学届を出さないよう指示されている。計画された一年を公式の枠で過ごす代わりに、入学年度に受け取るはずだった奨学金の権利は手放すことになる。制度として整えられている例でさえ、得るものと引き換えになるものがはっきり書き分けられている。
止まるのは授業だけではない。お金の出入りも同時に止まる
費用の見積もりは、学費と奨学金を別々に数えると合わなくなる。まず学費。国立大学の場合、授業料は国立大学等の授業料その他の費用に関する省令が年額535,800円、入学料282,000円を標準額として示し、各法人がこれを基に定める。同じ省令の第六条は、その年度の在学期間が12か月に満たない者の授業料を年額の12分の1に在学月数を掛けて計算すると定めており、休学で在籍していない月は原則として授業料の対象から外れる。ただし大学が在籍料や休学料を別に定めている場合があり、その額は学則や規則の側にあって法令からは読めない。私立の場合は文部科学省の令和7年度調査が授業料968,069円、入学料240,365円、施設設備費172,550円という平均額を示しているが、休学中に何をいくら納めるかは大学ごとに大きく違う。先に窓口で確かめる項目は、授業料の月割りの有無、在籍料の額、納付の期限の三つになる。
奨学金は手続きを踏まないと止まらない。日本学生支援機構の案内では、休学するときは学校の窓口に申し出て「休止」の手続きを取り、復学時に「復活」の手続きで再開するという流れが示されている。休学せずに1か月以上欠席した場合も交付は止まる。手続きをしないまま振り込まれた分は、学校の指示に従って返金しなければならない。期間の上限には差がある。貸与奨学金は休止が連続して2年を超えると貸与奨学生の資格を失い、大学院奨学金で機構が特に認めた場合に限り3年まで延びる。給付奨学金には休止期間の上限が無く、そのかわり休学中も在籍報告を期限内に提出する必要がある。返す前提のお金ほど期限が厳しいという順序になっていて、奨学金の返済が始まる日と金額にも休止の月数がそのまま響く。
戻る日を先に置くと、決める順番が一つに決まる
ここまでの数字と規定を並べると、段取りは自然に決まる。最初に置くのは復学の月であって、活動の内容ではない。復学の月が決まれば在籍しない月数が決まり、月数が決まれば授業料の扱いと在籍料の総額が決まる。次に奨学金の休止と復活の届出期限を、その月に合わせて押さえる。三番目にようやく活動の計画で、留学なら受入先の学期の開始月、就業なら受け入れ期間が、先に決めた復学の月に収まるかどうかを見る。収まらなければ復学の月をずらすのか、活動を短くするのかを選ぶ。順番を逆にして活動から決めると、復学の月が受入先の都合で動き、履修登録の時期と噛み合わなくなる。
履修の側からの制約も忘れない方がいい。復学した学期にどの科目が開いているかは年度によって違い、必修が隔年開講の学部では一年の空白が二年の遅れに化けることがある。大学の履修登録でよくある失敗例で扱った卒業要件の積み残しは、休学を挟むと見えにくくなる。願い出を出す前に、復学後の二年分の時間割を仮に組んでおくと、空白の代償が何単位分なのかを数字で確かめられる。地域に出て働く形で一年を使う選択肢を探すなら、若者と地域をつなぐ事例を集めたFLASPOのような入口から当たってみるのも手である。
よくある質問
休学とギャップイヤーは履歴書でどう書き分けるのか。学歴欄に書くのは在籍の事実なので、載るのは休学と復学の年月である。ギャップイヤーは制度の名前ではないため、欄に書き込むより、何をしていた期間なのかを自己紹介の側で説明するほうが通りやすい。名前の付いた学内制度を使った場合は、その名称をそのまま書ける。
日本の大学にギャップイヤーの制度はどれくらい用意されているのか。東京大学のFLY Programのように、入学直後の一年を正式な枠として置いている例はあるが、採用人数は若干名で、対象も特定の課程の新入生に限られる。大多数の学生にとって、計画的に一年を空ける手段は通常の休学の手続きになる。
入学前に一年空けるのと、在学中に一年休むのはどちらが軽いのか。負担の出どころが違う。入学前や入学直後なら履修の積み残しが無いため、戻ったときの時間割は新入生と同じ条件で組める。在学中の休学は、必修の開講年度や研究室の配属時期とぶつかる可能性がある分、復学後の調整が増える。
奨学金の予約採用を受けている場合、入学直後に一年空けられるのか。東京大学の要項では、FLY Programの採用者は日本学生支援機構奨学金の予約採用が取り消しとなり、申請結果が出るまで進学届を提出しないよう求めている。入学年度に受け取る予定だった分は当てにできないため、一年分の生活費を別に用意できるかが前提になる。
復学の時期は自由に選べるのか。多くの大学は学期の区切りでしか復学を認めないため、月単位で戻れるわけではない。復学願にも提出期限がある。活動の終わり方を決める前に、復学できる月と願い出の締切を学務の窓口で押さえておくほうが安全である。
出典:文部科学省令和6年度 学生の中途退学者・休学者数の調査結果について、東京大学FLY Program(初年次長期自主活動プログラム)について、日本学生支援機構奨学金の休止・復活(休学・復学)、文部科学省私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果について
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