営業の本を開く前に、同業2,119人の答えを見ておく
案件が切れそうになると、まず検索するのは営業の手法である。ポートフォリオを作り直す、単価表を整える、交流会に出る。どれも無駄ではないが、順番としては先に確かめるべきことがある。実際にこの働き方をしている人たちは、どこから仕事を知ったのか、という点だ。
内閣官房新しい資本主義実現会議事務局と公正取引委員会、厚生労働省、中小企業庁は2022年8月に、本業または副業で従業員を雇わず事業を営む2,119人を対象に調査を行った。令和4年度フリーランス実態調査結果には、仕事を知って申込みに至った経路が複数回答で集計されている。
| 仕事を知った経路 | 回答数 | 割合 |
|---|---|---|
| 依頼者から直接、または知り合いや紹介者を介して紹介があった | 1,248 | 58.9% |
| 仲介事業者から紹介があった | 406 | 19.2% |
| 依頼者自身がネットやSNS、紙面で不特定多数に募集していた | 340 | 16.0% |
| 仲介事業者がネットやSNS、紙面で不特定多数に募集していた | 137 | 6.5% |
| その他 | 166 | 7.8% |
数字の並びは、営業の教科書が置く重心とずれている。不特定多数に向けた公募から入ったという回答は、依頼者自身の募集で16.0%、仲介事業者の募集で6.5%にとどまる。一方で依頼者から直接の紹介が58.9%と、他を大きく引き離した。複数回答なので合計は100%を超えるが、それでも中心がどこにあるかは読み取れる。
紹介が最大の経路だということは、何を意味するか
58.9%という数字は、人脈が広い人が有利だという話に落ち着きがちだが、設問の文言を読むとやや違う。この選択肢は、依頼者からあなたに直接、または知り合いや紹介者を介して仕事の紹介があった場合をまとめている。つまり初対面の人脈が開く経路と、一度仕事をした相手が次を持ってくる経路が、同じ枠に入っている。
後者は、営業活動というより納品の質の関数である。期限を守り、修正の往復を減らし、次に何が必要かを先に伝える。そうした積み重ねが、次の案件の入口を作る。新規開拓の時間を増やす前に、現在の取引先からもう一件引き出せていないかを点検するほうが、投じた労力に対する戻りは大きい。
もう一つ読み取れるのは、公募に頼る設計の危うさである。公募は応募者が多く、価格競争に流れやすい。最初の数件を得る手段としては有効でも、そこに居続けると単価が上がらない。公募で入った案件を紹介につなげる、という移行を意識しておきたい。
仲介サービスを使っているのは5人に1人
クラウドソーシングやエージェントの存在感は、体感よりも統計では小さい。同じ調査で仲介事業者や仲介サービスの利用状況を尋ねた設問では、主に利用しているが9.3%、利用することもあるが11.9%、利用していないが78.7%だった。合わせて2割強が何らかの形で使っている計算になる。
ここでいう仲介には、人材仲介会社やクラウドソーシング会社だけでなく、営業代行会社、プロダクション、シェアリングエコノミー会社、インターネット掲示板、ECモールまでが含まれる。それでも8割近くが専ら依頼者から直接受けていると答えている。
この数字は仲介を否定するものではない。実績がまだ薄い段階では、仲介が与信の代わりになる。手数料を払う対価として、支払いの確実さと案件の供給が得られる。問題は、そこで止まると取引の関係が自分の資産にならないことだ。仲介経由で接点を持った相手と、規約の範囲内で継続的な関係を築けるかどうかが分かれ目になる。
条件は交渉できるのか、という現実的な問い
仕事を取る話は、取ったあとの条件と切り離せない。安く取ってしまえば、次の案件を取る時間が削られる。調査では、依頼者と接触した後に取引条件の交渉を行ったかどうかも集計されている。
交渉の余地があり実際に交渉を行ったが50.9%、余地はあったが実際には交渉しなかったが19.8%、余地がなかったが28.4%である。複数回答のため人単位の内訳ではないが、交渉の余地があったのに使わなかったという層が2割近く存在する点は見逃せない。余地がなかったという回答より、こちらのほうが自分で動かせる。
条件がそもそも示されていたかを問う設問では、十分示されたが79.8%、十分示されなかったが23.0%だった。そして十分示されなかったと答えた487人のうち、57.9%は、示すよう交渉しても示されなかったり交渉する余地もないまま契約したと答えている。条件の不透明さは、交渉の技術だけでは埋まらない領域が残るということでもある。
受ける前に形に残す、という最も効く一手
取引条件の明示は、2024年11月1日からは相手方の義務になった。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律第3条は、業務委託をした場合は直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面または電磁的方法で明示しなければならないと定めている。第4条は支払期日を、給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつできる限り短い期間内に定めるよう求めた。第12条は募集情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を禁じ、正確かつ最新の内容に保つことを義務づけている。
この第12条が効く理由は、調査の別の設問に表れている。接触前に得ていた条件が、交渉に進んだ後に最初に示された条件と一致しなかった経験として、虚偽の表示が含まれていたが8.1%、誇大広告や誤解を与える表現が含まれていたが5.3%、古い内容が含まれていたが6.8%挙がっていた。募集の時点で話が違うという事態は、少数とはいえ確かに起きている。
なお、最も収入の多い契約について業務開始前に条件が形に残る方法で十分示されているかを尋ねた設問では、十分示されているが61.7%、示されているが不十分であるが17.6%、示されていないが20.7%だった。4割近くが不十分な状態に置かれていたことになる。受ける前にメール1本で条件を確認して返す習慣は、それだけで上位6割の側に入る行為である。
一本足で立たないための、取引先の数
仕事の取り方をどう設計するかは、結局のところ取引先をいくつ持つかに帰着する。調査では、最も収入の多い契約の期間中に他の仕事を掛け持ちしていない人が66.1%を占めた。他に1つが14.1%、2つが8.8%、5つ以上が5.3%である。
掛け持ちしていない1,401人に理由を尋ねると、他の仕事を掛け持つ余裕がないためが48.2%、必要性がないためが39.1%、契約上の専属義務が課されているためが7.4%だった。余裕がないという回答が最も多い点に、この問題の難しさが詰まっている。手が空いていないから新しい取引先を開けず、取引先が一つだから単価も上げにくい。
抜け道は、稼働を増やすことではなく単価を上げることにある。統計Today No.197によれば、本業がフリーランスの人がこの働き方に就いている主な理由で最も多いのは専門的な技能等を生かせるからで32.5%だった。技能が値段になる構造を前提にするなら、同じ時間でより高く売れる領域に寄せていくのが筋である。職種別の相場感は動画編集の収入の相場やプログラミングで独立する場合の収入の実態に幅がまとめてある。
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よくある質問
クラウドソーシングから始めるのは遠回りでしょうか
最初の実績を作る手段としては合理的です。調査でも仲介を主に利用しているか利用することもある人が合わせて21.2%います。ただし仲介経由が中心のままだと手数料と価格競争が固定されるので、受けた案件の成果を自分の名前で見せられる形に残し、紹介につなげる設計をあわせて持っておくほうがよいでしょう。
紹介をもらうために、具体的に何をすればよいですか
納品のあとに一行の報告を添えるだけでも違います。何を直したか、次に起きそうな問題は何か、を書き添えると、相手は社内で説明しやすくなります。紹介は相手の社内政治を助ける行為なので、説明しやすい相手が選ばれます。交流会に出るより先に、過去の取引先への連絡を再開するほうが近道です。
報酬が安すぎると感じたとき、法律は助けになりますか
フリーランス法第5条第1項は、同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めることを禁じています。ただし適用は政令で定める期間以上続く業務委託に限られ、著しく低いという評価も相場との比較が前提です。交渉の材料にはなりますが、単発の値付けをそのまま覆す規定ではありません。
条件が書面で示されないまま進みそうなときは、どうすべきですか
自分から要点を書いて送り、相違がないかの確認を求めるのが実務的です。委託内容、提供期限、報酬額、支払期日の4点を書けば、法の明示事項をほぼ覆えます。相手が明示義務を負っている制度になったので、確認の依頼は無理な要求ではありません。
取引先は何社あれば安心といえますか
統計に正解はありませんが、掛け持ちしていない人が66.1%という現状からすると、二社目を持つだけで相対的な耐性は上がります。一社の割合が全体の収入の半分を超えないところを目安にすると、更新されなかった場合の衝撃が小さくなります。
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