やることを並べる前に、決める順番を決める
準備という言葉でつまずく人は多い。やるべきことを書き出すと三十項目くらいになり、どれから手を付けるか分からないまま数週間が過ぎる。順番を誤ると、後から全部やり直しになる項目があるためだ。
先に決めるべきは三つしかない。誰に何を売るのか、法人にするのか個人で始めるのか、初期費用をいくらに収めるのか。この三つが決まれば、残りの手続きは機械的に片づく事務作業になる。
逆に、屋号やロゴ、名刺の紙質、ホームページの配色から入ると、売るものが固まる前に時間と費用が流れていく。見た目の仕事は進んでいる実感が得られるぶん、たちが悪い。
以下では、決める順番に沿って並べ直す。設立にかかる実額、実際に人がいくらで始めているか、準備が止まる典型的な理由、そして相談先の作り方。数字はすべて公的な資料から取っている。
設立にかかる実額は、形態によって十数万円ちがう
法人をつくるときに国へ納める金額は、法律で決まっている。国税庁の登録免許税の税額表によれば、株式会社の設立登記は資本金の額の1000分の7で、15万円に満たないときは15万円となる。合同会社は同じ計算で、6万円に満たないときは6万円である。
定款の扱いも形態で変わる。株式会社は公証人の認証が必要で、日本公証人連合会の案内では資本金100万円未満が3万円、100万円以上300万円未満が4万円、それ以外が5万円とされている。さらに令和6年12月1日からは、発起人が3人以下の自然人であることなど三つの条件を満たす資本金100万円未満の会社について、1万5000円に下がった。合同会社に認証の手続きはない。
紙で定款を作ると、ここに印紙税が乗る。定款は印紙税法の第6号文書で、税額は4万円である。電子定款にすれば課税文書にあたらないため、この4万円はかからない。
| 形態 | 登録免許税 | 定款認証 | 紙の定款の印紙 | 最少の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 株式会社 | 15万円から | 1万5000円から5万円 | 4万円(電子なら0円) | 16万5000円 |
| 合同会社 | 6万円から | 不要 | 4万円(電子なら0円) | 6万円 |
| 個人事業 | なし | 不要 | なし | 0円 |
在学中に始めるなら、この差は小さくない。株式会社と合同会社で十万円前後、個人事業との比較なら全額が浮く。出資を受ける予定があるなら株式会社を選ぶ理由があるが、受注して納品するだけの事業なら、形態を急いで決める必要はない。
実際には、ほとんどの人が少額で始めている
手続きの費用が分かっても、全体でいくら要るのかは別の問いである。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度起業と起業意識に関する調査は、融資を受けずに始めた人まで含めて起業費用を尋ねている。
結果は想像よりずっと小さい。週35時間以上を事業に充てる起業家では、費用はかからなかったという回答が32.2%で最も多く、50万円未満が29.4%で続く。合わせて6割が50万円未満で始めている。週35時間未満のパートタイム起業家では、費用なしが53.2%、50万円未満が36.8%にのぼる。
資金の出どころも偏っている。起業費用を自己資金だけで賄った人は起業家で69.3%、パートタイム起業家で75.4%。金融機関からの借り入れがなかった人は、それぞれ83.5%と91.6%だった。借りずに始めるのが多数派である。
ここから準備の設計が見えてくる。大きな資金を集めてから始めるのではなく、手元の範囲で始められる形に事業を削るほうが、実態に近い。設備が要る業種を選んだ時点で、学生にとっての難易度は跳ね上がる。
調達額への満足度も参考になる。希望どおり調達できたと答えた人は起業家で75.0%、パートタイム起業家で78.0%だった。必要額を小さく設計した人ほど、資金で詰まらずに済んでいる。
準備が止まる理由の筆頭は、自己資金の不足
起業に関心はあるのに動き出せていない人は、同じ調査で起業関心層と呼ばれる。彼らがまだ起業していない理由を尋ねた設問の答えは示唆に富む。
最も多いのは自己資金が不足しているで48.4%。次いで失敗したときのリスクが大きいが29.1%、ビジネスのアイデアが思いつかないが29.0%と続く。資金、恐れ、アイデアの三つで上位が占められている。
リスクの中身も分解されている。失敗したときに何を失うかという問いでは、事業に投下した資金を失うことが74.8%、安定した収入を失うことが66.0%、借金や個人保証を抱えることが58.7%だった。いずれもお金の話である。
この三つは、学生であれば構造的に軽い。失う安定収入がまだなく、投下できる資金も小さく、借り入れを使わなければ保証も発生しない。関心層が足踏みする理由のうち二つは、在学中という条件そのものが外してくれる。
残るのはアイデアだが、これは座って考えて出るものではない。すでに起きている不便を数えることから始めるのが早い。自分の学部で誰もが手作業でやっている集計、サークルで毎年もめる会計、地元の店が埋められていない時間帯。身近な観察に勝る材料は少ない。
相談先を先に決めておくと、手戻りが減る
同じ調査で、起業するときにあったらよいと思う支援策を尋ねると、税務や法律に関する相談制度の充実が53.6%で首位に立つ。技術やスキルを向上させる機会の充実が37.3%で続いた。お金そのものより、判断を助ける情報が求められている。
学生の立場は、この点で恵まれている。大学の多くが起業支援の窓口を持ち、産学連携部門や認定ベンチャー制度を備えているためだ。経済産業省の調査で把握された大学発ベンチャーは6,220社に達し、東京大学の595社、京都大学の503社、慶應義塾大学の473社と大学別の集積が進んでいる。身近な窓口がどこまで対応できるかは、入学した大学によってかなり違う。
窓口を使う順番にも要領がある。登記の方法を調べる前に、売ろうとしている事業に許認可が要るかを確かめる。飲食、古物、人材紹介、医療に関わるものは、手続きの重さが段違いになる。ここを後回しにすると、会社を作ってから事業ができないと分かる。
並行して、記帳の仕組みだけは最初に決めておきたい。売上と経費を後からまとめて整理する作業は、件数が増えるほど現実的でなくなる。月に一度、締める日を決めるだけで、確定申告の季節に消える時間が大きく変わる。
大学やまちの側から学生の挑戦を支える動きはFLASPOでも扱っている。どの大学にどれだけ集まっているかは事例の分布を調べた記事に、全体の規模感は現状を数字で読んだ記事にまとめた。
よくある質問
資本金はいくらにすればよいですか
会社法では1円から設立できる。ただし登録免許税は資本金の1000分の7で計算されるため、株式会社なら2143万円を超えたあたりから15万円を上回っていく。学生が選ぶ水準であれば、下限の15万円または6万円に収まることがほとんどである。当面の運転資金として使う額を入れておくのが実務的な決め方になる。
個人事業から始めて後で法人にできますか
できる。個人で開業届を出して事業を動かし、売上や取引先の要請に応じて法人を設立する流れは珍しくない。法人化のときに登録免許税は改めてかかるが、需要があるか分からない段階で十数万円を先に払わずに済む。取引先が法人としか契約しない業種かどうかだけは、先に確かめておきたい。
電子定款にするには何が必要ですか
電子署名を付した定款を作る必要があり、マイナンバーカードと対応ソフト、あるいは司法書士などの専門家への依頼が前提になる。自力でそろえる手間と、紙にしたときの印紙税4万円を比べて決めるのが分かりやすい。依頼費用が4万円を下回るなら、外に出したほうが早い場面も多い。
準備にはどのくらいの期間を見ておくべきですか
期間を示した公的な統計は確認できなかった。目安として、登記そのものは書類が整えば1週間前後で終わる。時間がかかるのは許認可の確認と、最初の顧客を見つけるところである。手続きの日数ではなく、売上が立つまでの日数で計画を組むほうが実情に合う。
休学して専念したほうがよいですか
判断材料になる統計はない。はっきりしているのは、起業費用をかけずに始めた人が3割を超え、借り入れなしで始めた人が8割を超えるという分布である。小さく始められる形であれば、在学のまま試して、手応えを見てから時間の配分を変えるほうが戻りやすい。
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