「楽しいイベントにしたい」は、まだ何も決めていない
企画書のコンセプト欄に「学生が楽しめる場をつくる」と書いて、そこで筆が止まる。止まる原因は言葉選びの下手さではなく、その一文がどの判断にも効かないことにある。会場の広さも、価格も、告知の文面も、ここからは引けない。
文化庁の「文化に関する世論調査」(令和7年3月報告書)は、全国18歳以上の25,000人に、直前の1年間にコンサートや美術展、映画、歴史的な文化財などの文化芸術イベントを外出を伴う形で鑑賞したかを尋ねている。鑑賞したと答えた人は43.1パーセントで、令和4年度の52.2パーセント以降は下がり続けている。裏を返せば、半数を超える14,235人が「鑑賞したものはない」と答えたことになる。
コンセプトが相手にするのは、この半数のほうである。すでに外へ出て何かを見ている人を奪い合うのではなく、出ていない人がなぜ出ていないのかを一つ崩す。そう置き換えると、書くべき一文の形が変わる。
半数という比率は、学生団体にとっては悪い知らせではない。外出を伴う鑑賞をしていない人が多いということは、取りに行ける余地がそれだけ残っているという意味でもある。問題は、その人たちが何に引っかかって止まっているのかを推測で決めてしまうことだ。推測で決めると、たいてい「告知が足りなかった」という結論に落ち着き、次回も同じ人数になる。
来なかった理由は、すでに並んでいる
同じ調査は「鑑賞したものはない」と答えた14,235人に、鑑賞しなかった理由を複数回答で尋ねている。「特にない・分からない」を除いた順に並べると、次のようになる。
| 鑑賞しなかった理由 | 回答割合 |
|---|---|
| 関心がない | 23.2% |
| 入場料・交通費など費用がかかり過ぎる | 13.6% |
| 生活圏で公演や展覧会などが行われていない | 11.2% |
| 時間がなかなか取れない | 9.8% |
| 一緒に行く仲間がいない | 6.5% |
| テレビ、ラジオ、CD・DVD、インターネットなどにより鑑賞できる | 5.6% |
| 健康上の理由から | 5.3% |
| 魅力ある公演や展覧会などが少ない | 4.9% |
令和4年度に29.0パーセントで最多だった「新型コロナウイルス感染症の影響により、公演や展覧会などが中止になった、又は外出を控えたから」は3.8パーセントまで下がっている。数字の出どころは文化庁の「文化に関する世論調査」報告書にある。
18歳から19歳の306人だけを取り出すと、1位は全体と同じく「関心がない」だが、2位に「入場料・交通費など費用がかかり過ぎる」、3位に「時間がなかなか取れない」が来る。報告書は50代以下で時間の制約を挙げる割合が高いとも書いており、学生の年代はこの傾向の内側にいる。
動かせる理由と、動かせない理由を分ける
表の最上段を見ると、最も大きい壁が「関心がない」であることが分かる。23.2パーセントという数字は大きいが、企画の側から動かすのが最も難しい項目でもある。もともと興味のない人の興味を一回の催しで作るのは、学生団体が持てる時間と予算では現実的でない。
ところが2位から5位は性質が違う。費用なら入場無料にするか学生価格を置く。距離なら大学の構内か駅から徒歩5分以内を選ぶ。時間なら90分で終わる構成にするか出入り自由にする。仲間なら一人で来た人が話す相手を受付で用意する。どれも「やりたいこと」とは別の軸で、会場と時間と価格の決め方に直接つながっている。
具体的に書くとこうなる。費用の壁を選んだなら、入場無料を先に決めてから予算を組む。順番を逆にすると、支出を積み上げた結果として500円という価格が出てきて、何のための500円なのか説明できなくなる。距離の壁を選んだなら、会場の候補を大学から徒歩15分の円の中だけで探す。遠くの良い会場が見つかっても使わない。壁を選ぶとは、選ばなかった選択肢を捨てられる状態を作ることでもある。
コンセプトとは、この中からどの一つを外すと決めることだ。二つ以上を同時に外そうとすると、無料で駅前で90分で一人でも来られる催しという条件の列だけが残り、何をする場なのかが消える。外すのは一つでよい。残りの壁は次の企画に回す。
何を見せるかは、すでに見られているものから選ぶ
壁の側を決めたら、中身を決める段に進む。ここで自分たちの好みから入ると、相手の生活から離れていく。先の調査はジャンル別の鑑賞割合も出しているので、そちらから逆に選ぶほうが外れにくい。
| ジャンル | 鑑賞した人の割合 | 年代の傾向 |
|---|---|---|
| 映画(アニメーション映画を除く) | 17.2% | 70代以上を除く全年代で1位 |
| 歴史的な建物や遺跡 | 13.2% | 40代以上で鑑賞割合が高い |
| 美術 | 12.2% | 上位三つの三番目 |
アニメーションは割合の順位では上位三つに入らないが、30代以下で鑑賞割合が高いと報告書は書いている。相手が20代なら、映画とアニメーションの二つが候補の中では生活に近い。
ただしこの数字は全国の母集団に対する割合で、自分たちが集めたい相手の割合ではない。どの層を母数に置くかを決める手順はイベントのターゲット設定|母数・関心・到達手段の三段で絞るにまとめた。人数と単価のどちらを動かすのかという目的の立て方はイベントの目的設定|人数と単価に分け、実数か推定かも決めるが近い。
一文にして、続けるつもりなら制度の線も見る
ここまでを一文に落とす。「誰の」「どの壁を」「何で外して」「何を見せるか」の四つが入っていれば足りる。たとえば「一人で来た一年生が、無料で、大学から徒歩圏で、90分だけ映画を見て誰かと話して帰れる場をつくる」という形になる。
一文ができると、その後の判断がほとんど自動で決まる。会場は徒歩圏から探す。上映は90分に収める。価格は0円なので協賛か助成を当たる。受付には一人で来た人が座れる席を作る。迷ったときに戻る場所があるという状態が、コンセプトを置いた見返りである。
単発ならここで終わってよい。毎月続ける、入場料を取る、同じ会場を押さえて回していく、という形に育てる場合は別の線が視界に入る。興行場法第1条第1項は「興行場」を、映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸または観せ物を公衆に見せ、または聞かせる施設と定義している。同条第2項は「興行場営業」を、都道府県知事の許可を受けて業として興行場を経営することと定め、第2条第1項は業として興行場を経営しようとする者に許可を求めている。単発の催しが直ちにこれに当たるわけではないが、「業として」に近づくかどうかは、コンセプトを決める段で意識しておくと後が楽になる。
学生の企画が地域や企業の課題と結びついた例はFLASPOに集まっている。
よくある質問
コンセプトとキャッチコピーは同じものですか。別物です。コンセプトは自分たちが判断に使う基準なので、外に出す必要はありません。キャッチコピーは告知に出す言葉です。順番としてはコンセプトが先で、そこから言葉を作ります。企画書の欄をどう埋めるかは企画書のコンセプトとは?独自性のある中心軸の作り方を解説が参考になります。
「関心がない」層を相手にしてはいけないのですか。禁じ手ではありません。ただ23.2パーセントという最大の壁を一回の企画で崩すのは難しいので、初回は動かせる壁から選んだほうが結果が出やすい、という順番の話です。関心を作る側に賭けるなら、一回で終わらせず続ける前提で組んでください。
壁を一つに絞ると、来る人が減りませんか。絞るのは設計の軸で、来てよい人を制限するわけではありません。入場を無料にしたことで、費用を気にしていなかった人も来ます。軸があると告知の文面が具体になるので、かえって届きやすくなります。
この調査の数字は学生に当てはまりますか。18歳以上の全国調査なので、学生だけを取り出した数字ではありません。調査は令和7年1月31日から2月5日にウェブで行われ、18歳から19歳の回答は306人でした。参考値として扱い、自分たちの会場で実際に聞いた声と並べて使ってください。
コンセプトは途中で変えてもよいですか。変えてかまいませんが、変えたら会場と価格と告知を全部見直す必要があります。直前の変更が効かないのは、他の条件が前のコンセプトに合わせて固まっているからです。変えるなら会場を押さえる前にしてください。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
