学園祭のステージを組む前に|著作権の三要件と拡声機の音量基準

学園祭のステージを組む前に|著作権の三要件と拡声機の音量基準

ステージ企画の相談は、たいてい「誰を呼ぶか」から始まる。だが当日に崩れるのは出演者の質ではなく、転換の時間と音の扱いである。前の組の機材が片づく前に次の組が入れず、そこで5分遅れると最後の組が20分削られる。先に決めるべきものは、順番ではなく時間の幅と、音を出すための条件である。

ステージの正体は、場所ではなく時間の配分

舞台の広さや照明の本数は目に見えるので議題になりやすい。一方で当日の成否を決めるのは、見えないほうの資源である。開場から終演までの持ち時間を、出演と転換と予備にどう割るか。ここを決めずに出演枠を埋めると、転換の時間が出演時間から削られていく。

組み方の順序は単純である。まず全体の持ち時間を置き、次に転換に必要な時間を一組ごとに引き、残りを出演枠として配る。バンドなら機材の搬入と音の確認に十数分を見るのが普通で、ダンスや漫才なら短い。同じ30分枠でも、中身によって実際に舞台で使える時間が倍ほど違う。

予備の時間を最後にまとめて置くのは効かない。遅れは前半で生まれて後半に累積するので、中盤に一度、余白を挟んでおくと吸収できる。進行役が時間を切る権限を持っているかどうかも事前に決めておきたい。誰が止めるかが曖昧なままだと、押していることに全員が気づいていても止まらない。実行委員会のなかで誰が何を決めるのかは学園祭実行委員の役割を整理した記事で扱った。

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音を出す前に通る三つの要件

既存の曲を演奏したり流したりするとき、手続きが要るかどうかは法律の条文で決まっている。著作権法第38条第1項は、公表された著作物について「営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる」と定め、ただし書で「当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない」としている。

つまり条件は三つで、営利を目的としないこと、入場料などを受けないこと、出演者に報酬が支払われないこと。三つすべてを満たせば管理団体への手続きは不要になる。入場無料で学生が自分たちで演奏する形なら、ここに収まることが多い。

外れる形も具体的である。日本音楽著作権協会の案内では、営利法人や営利を目的とする団体が開く無料の催し、非営利団体でも収益事業の一環として開く場合、商品の購入が入場の条件になっている場合、会費制の会員限定の開催、出演者への実費を超える支払いがある場合などが、手続きの必要な例として挙げられている。

注意したいのは「無料だから大丈夫」という単独の判断である。整理券を有料で配る、物販の購入者だけを入れる、ゲストに謝礼を渡す。どれか一つでも入ると三要件は崩れる。ゲストを呼ぶ企画と、学生だけで回す企画では、同じステージでも必要な手続きが変わると考えておくほうが安全である。条文はe-Gov法令検索の著作権法で確認できる。

配信とアーカイブは、別の権利の話になる

三要件を満たしたステージを、そのまま動画で流せるとは限らない。第38条第1項が許しているのは、条文に列挙された四つの行為、すなわち上演、演奏、上映、口述だけである。公衆送信はこの列挙に入っていない。会場で演奏することと、それを配信することは、条文の上で別の行為として扱われている。

この差は実務で効く。校内の体育館で無料のライブを開くところまでは手続きが不要でも、その映像を動画サイトに上げ、あとから見られる状態にするなら、別に許諾が必要になる。生配信も、終演後に残すアーカイブも同じ系統の話である。

そこで段取りが変わる。配信をやるかどうかは当日の思いつきで決められないので、企画の段階で決めておく。配信をしないと決めたなら、客席での撮影と投稿の扱いもあわせて案内しておく。来場者が撮った動画が上がることまでは止められないが、主催として何を許すかを決めていないと、問い合わせが来たときに答えられない。

楽譜を部数分コピーする行為も、演奏とは別の複製に当たる。編曲して演奏する場合も同じで、三要件は複製や編曲までは免除していない。ステージの企画書には、演奏するのか、配信するのか、譜面をどうするのかを分けて書いておくと、確認の漏れが減る。企画書の作り方は学園祭の企画の立て方の記事にまとめた。

音量と時間帯には、条例の数字がある

近隣からの苦情は、音が大きいからではなく、何時まで続くかが分からないから起きる。屋外で音を出すことについては、都道府県の条例に数字が置かれている。東京都の環境確保条例は、何人も直接に屋外へ騒音を発する状態で拡声機を使用してはならないと定めたうえで、適用除外を並べる形を採っている(第129条・第130条)。

除外のひとつが、祭礼や盆おどりその他の地域慣習となっている行事である。別表に掲げる音量の範囲内で、午前8時から午後11時までの間に使用する場合は規制から外れる。その音量の基準は区域の区分ごとに決まっている。

区域の区分 規制基準の音量 測定する地点
第1種区域 55デシベル 音源直下から10mの地点
第2種区域 60デシベル 同じ
第3種区域 75デシベル 同じ

自分の学校がどの区域に当たるかは用途地域で決まるので、数字だけ覚えても使えない。住宅に囲まれた校地なら低いほうの区分に入る可能性が高く、スピーカーの向きと位置の設計が音量の調整より先に来る。学園祭がこの地域慣習の行事に当たるかどうかの判断も自治体に属するため、開催地の環境担当課に一度確認しておきたい。

なお商業宣伝を目的とする拡声機の使用には、午後7時から翌日午前8時までは使用しないこと、同一の場所なら1回10分以内で15分以上の休止を置くこと、学校の敷地の周囲30m以内では使用しないこと(移動しながら使用する場合を除く)といった制限が別に置かれている。協賛企業の宣伝をステージから読み上げる形は、この線に近づく。規制の全体像は東京都環境局の拡声機に対する規制の説明にある。

人が集まる場所としての安全

ステージの前には人が密集する。消防の側から見れば、ここは出し物の場所ではなく、避難を考えなければならない空間である。火災予防条例は平成26年8月1日に施行された改正で、催しにおける義務を具体化した。2013年8月に京都府福知山市の花火大会で起きた火災が契機になっている。

ステージ周辺でも、対象火気器具等を使うなら消火器の準備が必要になる(火災予防条例第18条から第21条)。発電機を回す、調理の実演をする、演出で火を使うといった形はここに入る。火気使用器具等を使う露店等を開設する場合は、開設の3日前までに消防署長への届出が求められる(同条例第60条)。

規模が大きい催しには別の段がある。1日当たり10万人以上の人出が予想され、かつ主催者が出店を認める露店等の数が100店舗を超えるものは指定催しとされ、防火担当者を定めて火災予防上必要な業務に関する計画を作成し、消防署長へ提出しなければならない。提出しない場合は30万円以下の罰金が定められている。根拠は東京消防庁の案内にある。

条例の話を離れても、やることは決まっている。客席の後ろと横に人が抜けられる幅を残す、機材のケーブルを人の通る線と交差させない、スピーカーの転倒を止める、雨天時に電源を落とす判断を誰がするかを決める。立ち見が出たときの上限人数も、当日ではなく前日に決めておきたい。来場者を増やす設計と、受け入れられる人数の上限は一緒に考えるもので、増やし方は学園祭の集客を設計した記事で扱った。学生団体として外部のイベントに関わるときも同じ順序で準備できる。活動の設計についてはFLASPOも参考にしてほしい。

よくある質問

ステージ企画の相談で繰り返し出てくるのは、次の四つである。

入場無料なら、どんな曲でも演奏していいのか

無料であることは三つの要件のうちの一つにすぎない。営利を目的としないこと、料金を受けないこと、出演者に報酬が支払われないことの三つがそろって初めて手続きが不要になる。無料でも謝礼を渡した時点で条件は欠ける。

市販の音源をBGMとして流すのはどうなるか

録音物を再生して聴かせる行為も、会場で公に演奏することに含まれる扱いになる。したがって三要件を満たす範囲なら手続きは要らない。ただし録音物を自分たちで複製して配るような形は、別の権利に触れる。

ゲストに交通費を払う場合はどうか

実費の範囲に収まるかどうかが分かれ目になる。実費を超える金額を渡せば報酬と見なされ、三要件のただし書に当たる。領収書で精算する形にしておくと、説明がつけやすい。

音量の苦情が来たら、その場でどうするか

終了時刻を伝えられる人を受付に置くのが先である。現場で下げられる量には限りがあるので、何時に終わるかを示したうえで、翌年に向けてスピーカーの向きと位置を記録に残す。行事の性格そのものの移り変わりは学園祭の歴史をたどった記事に書いた。


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