決算で足が出た学園祭を後から調べると、見積りが甘かったというより、誰がいつ金を動かしたのかを追えなくなっている。レシートの束と記憶を突き合わせる作業が、片付けの翌週まで残る。予算表をつくる目的は金額を決めることではなく、金の動かし方を先に決めておくことにある。
金額の前に、誰の手を通るのかを決める
予算が崩れる場面には型がある。支払いの主体がばらばらになっていて、同じ買い物が二重に計上されたり、どちらも払っていなかったりする。学園祭の支払いは、実行委員会の口座から出るもの、学校の事務室を経由するもの、個人が先に払って後から返してもらうものの三通りに分かれる。この三つを混ぜたまま品目を並べると、金額は正しくても現場で止まる。
先に文章で決めておきたいのは四点である。支出がどの財布から出るのか、品目ごとの上限はいくらか、個人の立替をどこまで認めるのか、精算の締切はいつか。とくに立替の上限は、決めていないと高額の買い物が個人の負担で先行し、返金の段で学校の手続きに引っかかる。
担当の置き方も、金額表より先に決まっていると楽になる。発注する人、受け取りを確認する人、支払いを記録する人を同じ一人にまとめないほうがよい。三つを分けると、間違いが一人の記憶の中で完結せず、途中で見つかる。委員会の体制づくりそのものは学園祭の運営方法を整理した記事で扱っている。
費用は性格ごとに分けて並べる
品目を五十音順や担当別に並べた予算表は、削る相談ができない。来場者が想定の半分だったとき、どこが自動的に減ってどこが減らないのかが読み取れないからである。性格で分けると、見積りの精度を上げるべき場所がはっきりする。
| 分け方 | あてはまる費用 | 金額が動く条件 | 見積りの取り方 |
|---|---|---|---|
| 固定費 | 会場設営、音響や照明の借上げ、看板、保険 | 来場者数では動かない。規模を変える決定で動く | 前年の契約書と請求書をそのまま参照する |
| 変動費 | 模擬店の材料、容器、景品、配布物の印刷 | 売る数や来場者数に比例して動く | 単価×想定数で出し、想定数を低めと高めの二通り置く |
| 立替 | 当日の少額の買い足し、交通費 | 件数が読めない。上限を決めて抑える | 総額の上限と一件あたりの上限を先に決める |
| 予備費 | 雨天時の追加資材、破損の補填 | 使わずに終わる年もある | 金額ではなく総額に対する割合で先に押さえる |
表のうち、見積りの作業量が集中するのは変動費である。固定費は前年の請求書が残っていればほぼそのまま使えるし、立替と予備費は上限を決める作業に置き換わる。残った変動費に時間をかけると、全体の精度が上がる。
想定数を一つの数字で置かないのも効く。低めと高めの二通りで並べておけば、当日の朝の天気で発注を切り替える判断がその場でできる。見積りを一本に絞ると、外れたときに判断の根拠が残らない。
家計が出している額から、枠の実寸が見える
学園祭に回せる金額の相場を知りたいとき、手がかりになるのは家庭の支出の統計である。文部科学省の令和5年度子供の学習費調査によれば、公立高等学校(全日制)の学校教育費は一人当たり年間351,523円で、このうち「教科外活動費」が49,499円(14.1パーセント)、「学校納付金等」が35,630円(10.1パーセント)を占める。私立高等学校(全日制)では学校教育費832,650円のうち教科外活動費が63,440円(7.6パーセント)、学校納付金等が127,346円(15.3パーセント)である。
二つの区分は性格が違う。同調査の定義では、教科外活動費はクラブ活動や学芸会・運動会、児童会・生徒会などのために「家庭が直接支出した経費」であり、学校が徴収する「学級・児童会・生徒会費」は学校納付金等の内訳に入る。つまり生徒一人の年額のうち、学校を通って集まる分と、各家庭が自分で払う分は別に積み上がっている。
公立中学校では学校教育費150,761円のうち教科外活動費が27,316円(18.1パーセント)、学校納付金等が14,121円(9.4パーセント)となり、構成比だけを見れば高校より教科外活動費の比重が重い。学園祭の予算を組むときに知っておきたいのは、年額のどれだけを一つの行事に充てるのかという配分の問題だということである。数値は文部科学省の令和5年度子供の学習費調査で公表されている。
現金を扱わない方向に、学校全体が動いている
封筒で集めて金庫に入れる方式を前提に予算を書くと、近年は学校側で止まることがある。平成31年1月の中央教育審議会答申が示した「学校・教師が担う業務に係る3分類」で、学校徴収金の徴収・管理は「学校以外が担うべき業務」に位置づけられたためである。教員が現金に触る仕組みを増やす提案は、この流れと逆を向く。
移行はすでに数字に出ている。文部科学省の取組状況調査では、学校徴収金の徴収・管理を教職員が関与しない方法で行うか、地方公共団体や教育委員会で行っている割合は、都道府県で令和元年の23.4パーセントから令和3年に40.4パーセント、令和4年に51.1パーセントへ上がった。政令市は10.0パーセントから30.0パーセント、40.0パーセントと推移し、市区町村は6.5パーセントから32.9パーセント、36.0パーセントとなっている。
教員側の意識も同じ向きである。令和4年度教員勤務実態調査の速報値では、学校徴収金の徴収・管理について「削減すべきで削減可能」と答えた割合が小学校66.4パーセント、中学校66.2パーセント、高等学校60.9パーセントだった。実務上は、口座振替や事務室での一括処理に乗せられる形で予算を設計したほうが通りやすい。令和2年7月の通知では、事務職員の標準的な職務の「財務」の区分に「学校徴収金に関する事務」が例示されている。分類と調査の数値は文部科学省が公表した3分類の資料にまとまっている。
壊れるのは見積りではなく精算である
当日が無事に終わっても、金の話はそこから二週間続く。領収書が足りない、宛名が個人名になっている、但し書きが「品代」だけで何を買ったか分からない。こうした欠けは買った瞬間なら五秒で直せるが、後からは買った本人の記憶に頼るしかなくなる。
運用としては、買い物の前に紙を一枚渡す形が噛み合う。宛名の指定、但し書きに品目を書いてもらうこと、日付の確認、受け取ったらその場で番号を振ること。番号を振ってあれば、予算表の行と領収書が一対一で対応し、突き合わせが機械的な作業になる。
締切は二段階に分けておきたい。立替の精算申請を当日から三日以内、残金の確定と報告を一週間以内といった具合である。期限を一つにすると、申請の遅れがそのまま報告の遅れになり、引き継ぎの時期と重なる。残金をどう扱うかも先に決めておく。来年に繰り越すのか、生徒会に戻すのか、学校の会計に返すのかで、必要な書類が変わる。企画の段階から金額の根拠を書き出す進め方は学園祭の企画の立て方を扱った記事と、項目の立て方を整理した企画書の予算の書き方の記事が参考になる。学生の活動を地域の事業につなぐ場としてはFLASPOのような取り組みもある。
よくある疑問
予備費はいくら置けばよいのか。全国で通用する目安はない。金額で決めるより、総額に対する割合を先に合意しておき、使わなかった場合の戻し先まで書いておくほうが運用できる。
前年の予算表をそのまま使ってよいか。固定費はおおむね使えるが、契約の更新で単価が変わっていることがある。請求書の実額と照らし、変わった行だけ差し替えるのが早い。
立替を禁止したほうがよいか。全面的に禁じると当日の買い足しが回らなくなる。一件あたりと総額の上限を決め、申請の様式を一つに統一する運用のほうが現実的である。
現金を扱わずに模擬店を回せるのか。釣銭の準備と売上の保管が要るため、現金をゼロにはできない。ただし集金と入金の回数を減らし、保管の場所と担当を限る設計にはできる。
赤字が出たら誰が負担するのか。ここを決めていないことが最大の事故になる。立替をした個人が背負う形は避け、不足が出たときの処理を事前に学校側と確認しておく。
生徒会費から出してよい費用の範囲はどこまでか。各校の規程で決まるため一般化できない。学校が徴収した経費である以上、使途の説明が全校に対して立つかどうかが判断の軸になる。
見積りは何社から取るべきか。金額の大きい借上げや印刷は複数から取ると差が見える。少額のものまで同じ手間をかけると作業が終わらないため、金額の線を引いておく。
報告書には何を書けばよいか。予算と実績の差額だけでなく、差が出た理由を一行で添える。翌年の担当が読むのは金額ではなく、外れた理由のほうである。
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