人は集まる。決まっていないのは、その後のこと
立ち上げの相談でいちばん多いのは、人が集まるかという心配である。この心配はたいてい外れる。日本学生支援機構の令和6年度学生生活調査で大学昼間部の学生を見ると、部活動やサークル活動に使う週あたりの時間を0時間と答えた者が53.7%、1〜5時間が25.2%、6〜10時間が9.6%だった。無回答を除けば45.9%が何らかの活動に時間を割いている。半分は空いているという意味でもあるので、新しい受け皿が入る隙はある。
詰まるのはその先である。十人が集まり、名前が決まり、交流サイトのアカウントを作ったところで、会費をいくらにするか、集めた金は誰のものか、備品が壊れたら誰が払うのか、来年の代表はどう選ぶのかが宿題として残る。ここを曖昧にしたまま一年を回すと、二年目の春にほぼ確実に揉める。
法律はこの手の集まりを放置していない。規約を一行も書かなくても、民法の規定が自動で当てはまる。だから立ち上げの順番は三段になる。自動で当てはまる規定を知り、変えたいところだけを規約に書き、最後に大学へ届け出るかを決める。団体の器そのものを法人にするかどうかという選択は学生団体の作り方|任意団体のまま進むか法人格を取るかで決めるで扱った。
名前を決めた時点で、契約はもう成立している
サークルの出発点は届出でも登録でもない。民法第667条第1項は、組合契約は各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずると定める。同条第2項は、出資は労務をその目的とすることができるとしている。金を出さずに手を動かすだけでも、法律の上では出資になる。
この二項を学生の集まりに当てて読むと、週に一度集まって何かをやろうと約束し、各自が時間と労力を出した時点で要件はそろう。書面は要らない。設立総会も要らない。居酒屋で決めた約束でも、条文の側は同じ扱いをする。
効力が生じると何が変わるか。第668条は、各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属すると置く。会費として集めた現金、買った楽器、刷った冊子は、代表の持ち物ではなく全員の共有物になる。第670条第1項は、組合の業務は、組合員の過半数をもって決定し、各組合員がこれを執行すると定める。規約がなければ、何を決めるにも頭数の過半数が要るという意味である。
つまり何も決めていない状態は、法律の目には民法の初期設定で動いている状態として映る。作り方の実質は、この初期設定をどこまで書き換えるかという作業になる。
書かなかった項目には、民法の初期設定が入る
規約に何を書くべきかという問いは、裏返すと、書かなかったらどう扱われるのかという問いである。条文の側から並べ直すと、学生の団体で実際に効いてくるのは六つに絞られる。
| 決めておく項目 | 規約に書かなかったときの扱い | 根拠の条文 |
|---|---|---|
| 日々の意思決定 | 組合員の過半数で決定し、各組合員が執行する | 民法第670条第1項 |
| 代表に任せる範囲 | 委任の定めがなければ単独で決められない。ただし常務は各人が単独でできる | 民法第670条第2項・第5項 |
| 会費と備品の帰属 | 総組合員の共有に属する | 民法第668条 |
| 借入や未払いの負担 | 債権者は各組合員に損失分担の割合または等しい割合で請求できる | 民法第675条第2項 |
| 抜ける人との精算 | 脱退時の財産状況に従って計算し、金銭で払い戻せる | 民法第681条 |
| 解散後に残った財産 | 各組合員の出資の価額に応じて分割する | 民法第688条第3項 |
学生が驚くのは四行目である。第675条第2項は、組合の債権者は、その選択に従い、各組合員に対して損失分担の割合又は等しい割合でその権利を行使することができるとしている。会場費の未払いが出たとき、相手は代表ひとりを追いかけなくてもよい。名簿に載っている全員へ、頭割りで請求できる。
逆向きの守りもある。第677条は、組合員の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができないと定め、第676条第3項は、組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができないとする。部費の口座は構成員個人の借金から切り離され、辞める人が備品の持ち分を現物で持ち去ることもできない。条文を知らないまま規約を書くと、この二つの守りを自分から手放す条文を入れてしまう。
大学に届け出ると、施設と保険の側が動きだす
民法の話が済んだら、大学との関係を決める。ここは法律ではなく各大学の学生規則の領域だが、根っこには省令がある。大学設置基準第7条第3項は、大学は、学生に対し、課外活動、修学、進路選択及び心身の健康に関する指導及び援助等の厚生補導を組織的に行うため、専属の教員又は事務職員等を置く組織を編制するものとすると定める。どの大学にも学生課や学生支援センターという窓口が必ずあるのは、この項が根拠になっている。
設備の側は第35条である。大学は、学生に対する教育又は厚生補導を行う上で必要に応じ、運動場、体育館その他のスポーツ施設、講堂及び寄宿舎、課外活動施設その他の厚生補導施設を設けるものとするとある。部室、練習場、掲示板、印刷機といったものが課外活動施設の名で置かれているので、使う資格を得る手続きが大学ごとに用意されている。
もうひとつ、届出の有無で変わるのが補償である。学生教育研究災害傷害保険の普通保険約款は、保険金を支払う範囲のひとつとして、学校施設外で大学に届け出た課外活動を行っている間を挙げている。学外で合宿や公演をやるなら、届出は紙の手続きではなく補償の前提条件になる。公認という線がどこで効くかは学生団体とサークルの違い|大学の公認という線はどこで効くかにも整理がある。
届け出る側の負担は、たいてい三つに収まる。設立届、構成員の名簿、年間の活動計画である。顧問教員の署名を求める大学も多い。締切は新年度の四月に集まるので、立ち上げの時期をそこへ合わせると一年分の手続きが一度で済む。
抜ける人とたたむ日のことを、動く前に書く
設立の文書で最後まで書かれないのが、辞め方と終わり方である。順番としては逆で、ここを決めていない団体のほうが途中で壊れる。
民法第678条第1項は、組合契約で組合の存続期間を定めなかったときは、各組合員は、いつでも脱退することができるとし、ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができないと続ける。公演の二日前に主役が降りるのは、条文の上でも押し止める余地があるという意味になる。第680条は除名について、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によってすることができると定め、除名した相手への通知も求めている。
終わらせる側は第682条である。目的である事業の成功又はその成功の不能、組合契約で定めた存続期間の満了、定めた解散の事由の発生、総組合員の同意という四つを解散事由として並べる。第683条は、やむを得ない事由があるときは、各組合員は、組合の解散を請求することができるとした。解散のあとは第688条の清算で、現務の結了、債権の取立て及び債務の弁済、残余財産の引渡しが清算人の職務になる。
学生の団体は代が四年で入れ替わる。存続期間を定めないままにしておけば、いつでも抜けられるという初期設定が効き続ける。一年ごとの任期を規約に書くか書かずに通すかは選べるが、選んでいること自体は知っておいたほうがよい。条文の形で書き起こす手順は学生団体の会則|定款の必要的記載事項14項目から条文を起こすにまとめてある。
よくある質問
Q. 何人からサークルとして認められますか。
A. 民法の組合は二人以上で成立します。大学の公認基準は別物で、構成員の下限を十人から二十人のあいだに置く大学が多く、所属学部の分散や顧問教員の有無も条件に入ります。設立届の様式に人数欄があるので、書き始める前に学生課で確かめてください。
Q. 会費の口座は代表の個人名義でよいのでしょうか。
A. 実務上そうなっている団体は多いのですが、第668条の共有という性質と名義がずれます。代表が交代するたびに移し替える手間も出ます。団体名と代表者名を併記した口座を作れる金融機関があるので、設立届の控えを持って窓口で相談するのが早い。
Q. 大学に届け出ないまま活動を続けることはできますか。
A. できます。届出は活動の許可ではありません。ただし学内の設備が使えず、学外活動中の傷害が補償の対象から外れ、助成の申請先もなくなります。活動が学内に閉じていて支出も小さいうちは選べる道ですが、合宿や対外公演を考えているなら届け出たほうが安く済みます。
Q. 規約はどれくらいの長さが必要ですか。
A. 長さよりも項目です。名称、目的、会員の資格と脱退、会費、意思決定の方法、代表の権限、会計年度、解散と残余財産の八つがあれば一年は回ります。先に挙げた表の六行は、この八項目のなかに収まります。
Q. 立ち上げの経験は就職活動で材料になりますか。
A. 役職名ではなく、決めた内容と変わった結果が材料になります。規約のどの条文を自分が書き、その結果として何が起きなくなったのかまで言えると強い。学生時代の活動を仕事の側からどう見るかという話はFLASPOでも扱っています。
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