昔は隣近所で助け合っていた、という話は語りやすい。では何が、どれだけ薄くなったのか。内閣府は昭和50年から近所づきあいを聞き続けており、半世紀分の数字が公開されている。ところが、その系列をそのまま一本の線として読むと、実際より急な落ち方が見えてしまう。設問の文言と調査の方式が途中で変わっているからだ。どこで線が切れ、どこなら比べられるのかを先に整理しておく。
半世紀前の52.8パーセントと今の8.5パーセントは別物
昭和50年12月、全国の20歳以上1万人を対象に調査員が面接して聞いた結果では、近所づきあいを「親しくつき合っている」と答えた人が52.8パーセントだった。「つき合いはしているがあまり親しくはない」が32.8パーセント、「あまりつき合っていない」が11.8パーセント、「つき合いはしていない」が1.8パーセント。有効回収は7,905人である。
直近の令和7年10月調査では、「よく付き合っている」が8.5パーセントだった。52.8から8.5へ、と並べれば劇的だが、この二つを引き算してはいけない。前者は親しさの度合いで四つに分けた選択肢の一番上であり、後者は付き合いの量で四つに分けた一番上である。聞いている軸が違う。
現行の設問で同じことを言うなら、「よく付き合っている」8.5パーセントと「ある程度付き合っている」44.2パーセントを足した52.7パーセントが、付き合いがあると答えた人の割合になる。数字の形が偶然似ているのがかえって厄介で、半世紀前の52.8パーセントと並べて「変わっていない」と結論するのも同じ間違いである。
線は二か所で切れている
切れ目の一つ目は設問の文言だ。平成6年12月調査までは「親しく付き合っている」という聞き方が使われており、そのときの値は45.9パーセント。昭和50年から19年で6.9ポイント下がったという比較は、この二時点なら成り立つ。その後、選択肢は「よく」「ある程度」「あまり」「全く」の四段階に組み替えられた。
二つ目は調査方式である。長らく調査員が対象者を訪ねて聞き取る面接法だったが、令和3年12月調査から郵送法に切り替わった。標本の設計も同時に変わり、1万人への面接から3,000人への郵送になったため、回答者の数は5,392人から1,790人へ減っている。面接では目の前の相手に答えるため、付き合いがあるほうへ寄りやすい傾向が知られている。
| 調査時期 | 方式 | 設問の軸 | 一番上の選択肢 |
|---|---|---|---|
| 昭和50年12月 | 面接 | 親しいかどうか | 親しくつき合っている 52.8パーセント |
| 平成6年12月 | 面接 | 親しいかどうか | 親しく付き合っている 45.9パーセント |
| 平成28年2月 | 面接 | 付き合いの量 | よく付き合っている 16.9パーセント |
| 令和2年1月 | 面接 | 付き合いの量 | よく付き合っている 16.4パーセント |
| 令和3年12月 | 郵送 | 付き合いの量 | よく付き合っている 8.9パーセント |
| 令和7年10月 | 郵送 | 付き合いの量 | よく付き合っている 8.5パーセント |
段差の大きさは数えられる。最後の面接調査だった令和2年1月では、付き合っていると答えた人が65.4パーセント(よく16.4、ある程度49.0)だった。次の令和3年12月、郵送に変わった最初の回では56.6パーセントである。1年11か月の間隔で8.8ポイント。設問はまったく同じで、方式だけが変わった区間である。
この段差を住民の変化として読むと、実際より事態を大きく見積もることになる。逆に、面接時代の高い水準を現在の値と並べて「昔はよかった」と語るのも、方式の違いを人の変化に取り違えている。
郵送に揃えた5年間はほとんど動いていない
方式を揃えて比べられるのは、令和3年以降の5回である。付き合いがあると答えた人の割合は、令和3年が56.6パーセント、令和4年が55.1パーセント、令和5年が52.9パーセント、令和6年が54.2パーセント、令和7年が52.7パーセントだった。ゆるやかに下がってはいるが、上下に振れながらの動きで、4年間の幅は4ポイントに収まる。
つまり、いま起きているのは急落ではない。少なくとも近所づきあいを自己申告で聞いた数字に関しては、この数年で崩れたという実感は裏づけられない。地域のつながりが急に切れたように感じるとき、その感覚は別の何かを拾っている可能性が高い。
答え方の癖が入らない指標で見ると
では、聞き方に左右されない指標ではどうなっているか。自治会・町内会の加入率は、住民の気持ちではなく加入世帯を数えた値なので、面接か郵送かという違いが入り込まない。ある研究者が平成20年に市区町村へ実施した調査と、全国市議会議長会が令和2年度に行った調査の両方に回答した450市区を突き合わせた分析では、12年間で加入率が平均8パーセント前後下がっていた。低下した市区が全体の約88パーセント、変化なしか増加した市区が約12パーセントである。
自己申告の付き合いはほぼ横ばいなのに、組織への加入は確実に減っている。この差は、人と人のつながりが消えたのではなく、つながりを束ねていた器が細っていることを示している。挨拶や立ち話はしているが、名簿には載っていない。そういう状態が増えている。
回覧板が届く単位が変わった
器が細る背景には、世帯の形の変化がある。令和2年国勢調査では、一般世帯に占める単独世帯の割合が38.1パーセントで、世帯人員が1人の世帯が2,115万1千に達した。平成17年は29.5パーセント、平成22年が32.4パーセント、平成27年が34.6パーセントだったので、15年で8.6ポイント上がっている。
同じ期間に「夫婦と子供から成る世帯」は29.8パーセントから25.1パーセントへ下がり、三世代同居などを含む「その他の世帯」は12.8パーセントから7.7パーセントへ半減に近い動きを見せた。回覧板が回る単位が小さくなり、昼間に家にいる人のいない世帯が増えた。役を分け合える人数も一軒あたりで減っている。
地方の人口減少が進む地域では、世帯数の減少と単身化が同時に来る。都市部では逆に世帯数は増えるのに単身化だけが進む。同じ「希薄化」という言葉で語られていても、必要な打ち手は別物になる。
自治体は希薄化を三番目の課題として挙げている
行政の側が何を問題視しているかも見ておきたい。内閣府が市区町村に尋ねた調査では、回答した1,157団体のうち59.2パーセントが「近所付き合いの希薄化」を自治会の課題に挙げ、これが三位だった。上位二つは「役員・運営の担い手不足」86.1パーセントと「役員の高齢化」82.8パーセントである。
順位の付き方に意味がある。希薄化は原因としても結果としても語られるが、現場で先に困っているのは役を担う人の不足のほうだ。付き合いが薄いから役員が出ないという説明は成り立つが、逆に、役員の仕事が重いから関わりを避けるという順番もありうる。どちらに手を入れるかで施策が変わるため、両方を同じ「つながりの問題」に丸めてしまうと動けなくなる。
関わり方の入口を増やす取り組みが各地で試されているのは、この行き詰まりを外からほどくためである。地域おこし協力隊のように区域外から人が入る仕組みや、FLASPOが手がけるような企画単位での接点づくりは、加入という一段階しかなかった入口の手前に段を足す試みだと言える。
よくある質問
結局、地域のつながりは弱くなったのですか。指標によって答えが変わる。自己申告の近所づきあいはこの5年ほぼ横ばい、自治会加入率は12年で平均8パーセント前後の低下、単独世帯の割合は15年で8.6ポイント上昇。気持ちより先に、器と世帯の形が変わったと読むのが数字に忠実な整理である。
面接と郵送で結果が変わるのは、どちらが正しいのですか。どちらかが誤りというより、測っているものがずれる。面接は回答者が調査員に向けて答えるため社会的に望ましい答えに寄りやすく、郵送は一人で記入するため率直になりやすい。比較するなら方式を揃えた区間の中で行うのが原則になる。
都市と地方で差はありますか。令和7年の調査では、付き合っていると答えた人の割合は東京都区部で38.3パーセント、大都市全体で43.1パーセント、町村で69.0パーセントだった。全国平均の52.7パーセントを挟んで、上下に30ポイント前後の開きがある。全国の平均値だけを見て地域の実感と合わないと感じるのは当然である。
希薄化を止めるには行事を増やせばよいのですか。参加の機会を増やすことと、負担を増やすことは紙一重である。準備の重い行事を一つ減らして軽い集まりを二つ残すという組み替えのほうが、関わる人の数は増えやすい。実際に望まれている距離感も一様ではなく、挨拶程度でよいと答える人が2割を超えている。
単身世帯が増えると、自治会は何を変えるべきですか。前提を一つ外すところから始まる。昼間に誰かが家にいる、役は世帯単位で回せる、回覧板は翌日には次に渡る。この三つはいずれも成り立たなくなっている。回覧の電子化や、役を世帯ではなく個人に割り当てる方式への変更が、まず検討される順になる。
出典
内閣府政府広報室「社会意識に関する世論調査(昭和50年12月調査)」/内閣府政府広報室「社会意識に関する世論調査(平成6年12月調査)」/内閣府政府広報室「社会意識に関する世論調査(平成28年2月調査)」/内閣府政府広報室「社会意識に関する世論調査(令和7年10月調査)」/総務省統計局「令和2年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要」/総務省「地域コミュニティに関する研究会 報告書(令和4年4月)」/内閣府男女共同参画局「持続可能な自治会活動に向けた男女共同参画の推進について(平成29年3月)」
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