回覧板を回し、掃除に出て、祭りの準備をする。地域の集まりがやっていることを並べると、どれも小さな用事に見える。ところが災害が起きた直後や、高齢の住民が倒れたときに機能する仕組みは、この小さな用事の積み重ねの上に乗っている。役割という言葉を抽象的に語る前に、何がどこまで届いているのかを数字で押さえておきたい。
役割は誰が決めているのか
最初に確かめておきたいのは、地域の集まりの仕事を法律が細かく定めているわけではない、という点である。地方自治法が地縁団体について書いているのは、良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行う、という一文にすぎない。中身は各団体の規約に委ねられている。
では実際の仕事はどこから来るのか。多くは行政からの依頼である。広報紙の配布、防災訓練の実施、募金の取りまとめ、要支援者名簿の管理。制度が新しくできるたびに、住民に一番近い組織として依頼が足されてきた。役割が増えるのは信頼されているからだが、同時に負担が積み上がる経路でもある。
以下では、その積み上がった役割を防災、見守り、交流の三つに分け、それぞれ全国でどこまで届いているのかを見ていく。三つとも公的な統計があるので、印象ではなく数字で比べられる。
防災 世帯の85.4パーセントが活動範囲に入っている
最も数字がそろっているのが防災である。消防庁によれば、令和6年4月1日現在、全国1,741市区町村のうち1,697市区町村で167,233の自主防災組織が設置されている。これらが活動範囲としている地域の世帯数は51,285,758で、全世帯60,034,535に対する比率は85.4パーセントになる。これを活動カバー率と呼ぶ。
全国平均だけを見ると高いが、都道府県ごとの差は大きい。
| 順位 | 高いほう | カバー率 | 低いほう | カバー率 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 兵庫 | 98.4% | 沖縄 | 42.4% |
| 2 | 香川 | 97.4% | 青森 | 58.4% |
| 3 | 高知 | 97.3% | 千葉 | 69.3% |
| 4 | 石川 | 97.3% | 神奈川 | 71.9% |
| 5 | 和歌山 | 96.9% | 秋田 | 72.4% |
上位に並ぶのは、大きな震災や津波の想定を抱えてきた県である。兵庫、高知、和歌山はいずれもそうだ。危機の記憶や切迫した予測が、組織率という形で残っている。逆に最下位の沖縄は42.4パーセントで、全国平均との差は43ポイントに達する。同じ国の制度でも、届き方はここまで割れる。防災の担い手としては、消防組織法に基づく消防団も並走しており、令和6年4月1日現在で2,174団、74万6,681人が所属している。
見守り 二つの層で支えている
福祉の分野では、制度に基づく担い手と、住民どうしの活動が二層になっている。制度側の中心が民生委員・児童委員で、民生委員法に基づき厚生労働大臣から委嘱される非常勤の地方公務員である。委嘱数は令和3年度末で231,111人、定数に対する充足率は96.5パーセント。平成13年度以降の20年間は約23万人でほぼ横ばいに推移してきた。
その下に、住民の側の活動が重なる。総務省の調査では、地域運営組織の構成団体として、地域の福祉活動に関わる団体や民生委員・児童委員が入っている割合は57.8パーセントだった。制度の担い手と住民組織が同じ協議の場にいるかどうかで、情報の伝わり方が変わってくる。
それでも、必要な人に届いているとは言いにくい。内閣府の孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)では、日常生活に不安や悩みを感じていると答えた人のうち、行政機関やNPO等からの支援を「受けていない」人が85.1パーセントを占めた。一方で、まわりに不安や悩みを抱えている人がいたら積極的に声掛けや手助けを「しようと思う」と答えた人は48.7パーセントいる。手を出す意思のある人は半数近くいるのに、支援は届いていない。見守りの役割が問われているのは、人手よりも、この経路のつなぎ方のほうである。
交流 最も多い活動は祭りと運動会
防災や福祉に比べて軽く扱われがちなのが交流だが、実施率で見ると首位に立つ。令和6年度の総務省調査によれば、地域運営組織の活動内容で最も多いのは祭り・運動会・音楽会などの運営で70.6パーセント。次いで交流事業が69.6パーセント、健康づくり・介護予防が62.5パーセント、防災活動が61.9パーセントと続く。
順位が示しているのは、行事が余興ではなく基盤だということである。誰がどこに住んでいて、どんな体調で、何を手伝えるのか。その把握は日常の顔合わせからしか生まれない。災害時に安否確認が機能する地域は、平時に名前と顔が一致している地域だ。行事をやめると、防災と福祉の土台も同時に薄くなる。
場所の確保も交流を支える条件になる。同じ調査では、活動拠点を有する団体が97.1パーセントで、そのうち64.2パーセントが公共施設を使っている。集会所や公民館の統廃合が、地域活動の縮小に直結しやすいのはこのためだ。過疎化が進む地域ほど施設の維持費が重くなり、まず削られるのが拠点になる。
役割が増えるほど、担う人が減っていく
三つの役割を並べたところで、共通の壁が見えてくる。総務省の同じ調査で最も多く挙げられた課題は「活動の担い手となる人材の不足」で79.2パーセント。「団体の役員・スタッフの高齢化」が62.1パーセント、「次のリーダーとなる人材の不足」が61.8パーセントと続き、上位三つがすべて人に関するものだった。
財政面も自立しているとは言えない。収入源を第1位から第5位まで複数回答で聞いた結果、市区町村からの助成金・交付金等を挙げた団体が85.2パーセントで最も多い。生活支援などの自主事業による収入確保に取り組んでいる団体は45.9パーセントにとどまる。役割は住民が担い、財源は行政が出すという構造が、そのまま残っている。
この状況で役割を足し続けると、残った人に集中して崩れる。順番としては、引き受け手を探す前に、引き受けたときの仕事量を減らすほうが先になる。依頼事項の棚卸し、窓口の一元化、行事の絞り込み。そのうえで、区域の外から関わる人をどう迎えるかという設計に移る。関係人口や地域おこし協力隊が注目されるのは、担い手の母数を区域内だけで数えなくてよくなるからだ。若い世代と企画で接点をつくってきたFLASPOの事例でも、最初の関わりが軽いほど次につながりやすい。
よくある質問
自主防災組織と消防団はどう違うのですか。消防団は消防組織法に基づく市町村の機関で、団員には身分と報酬がある。自主防災組織は住民が任意に結成するもので、平時の訓練と発災直後の初期対応が中心になる。両方に所属している人も珍しくないが、制度上の位置づけは別である。
カバー率が高ければ安心してよいのですか。カバー率は組織の活動範囲に含まれる世帯の割合であって、訓練の頻度や実際に動けるかどうかまでは示さない。名簿はあるが数年動いていない組織も同じように数えられる。数字は出発点であって、到達点として読むと足をすくわれる。
交流行事を減らしたいという声にはどう答えればよいですか。負担の話と機能の話を分けて扱うとよい。行事の回数を減らすことと、顔を合わせる機会をなくすことは別である。準備の重い行事を一つ削り、軽い集まりを二つ残すという組み替えなら、防災や見守りの土台を保ったまま負担を下げられる。
行政からの依頼を断ってもよいのですか。地縁団体は行政の下部組織ではないので、引き受ける義務はない。総務省の研究会も、行政からの依頼事項の整理を役員の負担軽減策として挙げている。断りにくい場合は、個別に断るより、年間の依頼を一覧にして担当課と話し合うほうが進みやすい。
住民ではない立場で関わることはできますか。地縁団体の構成員になるには区域に住所が必要だが、行事の運営や専門的な支援に外部が加わることは妨げられない。地域運営組織のように複数の団体が集まる場であれば、区域外の団体が構成員になっている例もある。関わり方の入口は、加入だけではない。
出典
消防庁「令和6年版消防白書 自主防災組織」/消防庁「令和6年版消防白書 資料4-1 自主防災組織の都道府県別結成状況」/総務省地域力創造グループ地域振興室「地域運営組織について」/内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)」/内閣府地方分権改革推進室「民生委員・児童委員の委嘱数と充足率の推移」
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