「継ぐ」以外に、入口が二つある
農業を仕事にすると決めたとき、最初に決まるのは作物でも地域でもない。どの入口から入るか、である。国の統計はこれを三つに分けて数えている。
農林水産省の令和6年新規就農者調査によれば、2024年2月から2025年1月までの一年間に農業へ入った人は4万3,500人で、前年並みだった。就農形態別では新規自営農業就農者が2万9,580人、新規雇用就農者が1万180人を占める。
自営は実家や親族の経営に加わる形が中心で、世間でいう「継ぐ」に近い。雇用は農業法人や農協系の出資法人に就職し、給与を受け取りながら現場に立つ形を指す。そして土地も設備も持たないところから始める人が、新規参入者として別に数えられる。
二十代や三十代にとって現実味があるのは、二つ目と三つ目だ。とりわけ雇用は、一般企業と同じ手順で応募でき、初期投資を自分で背負わずに済む。農地を借りる、機械をそろえる、売り先を開くといった重い作業を、当面は会社の側が引き受けてくれる。
ただし雇用には、経営者になるまでの距離が一段遠いという性格もある。給与を得ながら技術を覚えて数年後に独立する人もいれば、法人の中で栽培責任者や管理職に進む人もいる。どちらが上ということはなく、選んだ入口によって必要な準備がまるで変わる、と押さえておくほうが実務的だ。
1万5,720人は、減っている数字ではない
合計だけを追っていると、若い人が農業から逃げ出しているように見える。実際、新規就農者は2015年の6万5,030人を頂点に減り続け、2023年には4万3,460人まで落ちた。八年で三分の一が消えた計算になる。
ところが49歳以下に絞ると、線の形が変わる。令和6年の調査では1万5,720人で、前年からの減少は1.1パーセントにとどまった。近年は1万6千人前後で上下しており、大きく削れているのは主に50歳以上の層である。
勤めを終えてから実家の農地に戻る、という入り方が細っていると読むのが素直だろう。かつては会社員を勤め上げた層が毎年まとまって流入し、合計を押し上げていた。その予備軍そのものが、高齢化と兼業農家の減少で尽きつつある。
だから若手1万5,720人は「逃げている若者」ではなく「ほぼ横ばいの若者」と見たほうが正確だ。厄介なのは別のところにある。2025年農林業センサスが示すとおり、基幹的農業従事者は103万6千人まで減り、5年で24.0パーセント縮んだ。年に均せば六万人規模が抜けていく勘定で、1万5千人台の流入では届かない。
人数で埋める議論と、一人が扱える面積を広げる議論は別物である。前者だけで穴をふさごうとすると、必要な若者の数が現実離れしていく。
海と山のほうが、入ってくる人は若い
農業の話をしていると忘れられがちだが、一次産業は三つある。漁業と林業では、若年層の置かれ方が農業とかなり違う。
水産庁が整理した漁業の就業者をめぐる動向によると、2022年の漁業就業者は12万3,100人で、同年度の新規漁業就業者は1,691人だった。規模は小さい。それでも新規就業者の約7割を39歳以下が占める状態が続いており、入ってくるのはほとんど若い人だという構図になっている。
山側にも似た傾向がある。林野庁の林業労働力の動向では、2020年の林業従事者は約4万3千人まで減った一方、35歳未満の割合は17パーセントに達した。全産業の平均を上回る水準で、1990年以降この若年者率は上がり続けている。
| 産業 | 就業者の規模 | 若い世代の位置 | 数字の年 |
|---|---|---|---|
| 農業 | 基幹的農業従事者 103万6千人 | 新規就農者のうち49歳以下が1万5,720人 | 2025年/2024年 |
| 漁業 | 漁業就業者 12万3,100人 | 新規就業者の約7割が39歳以下 | 2022年 |
| 林業 | 林業従事者 約4万3千人 | 従事者の17パーセントが35歳未満 | 2020年 |
母数が小さいために比率が高く出ている面は否定できない。とはいえ、若者に選ばれない産業だという一般論は、少なくとも海と山には当てはまらない。論点はむしろ、入ってきた人が何年続けられるかのほうに移っている。
年150万円という助走の設計
収入が立たない期間をどう越えるか。独立を前提にすると、ここが最初にして最大の関門になる。
国は新規就農者育成総合対策の柱として、就農準備資金・経営開始資金という二本立ての仕組みを置いている。研修期間に使うのが前者、経営を始めた直後に使うのが後者で、いずれも月12万5千円、年額にして150万円が交付される。準備資金は最長2年、経営開始資金は最長3年が上限だ。
交付の対象は、独立して自営就農する時点で49歳以下であること。前年の世帯所得が600万円を超えると交付は止まり、交付を受けた期間と同じ長さだけ同程度の営農を続けなかった場合には、返還を求められる。受け取って終わりの給付ではなく、続けることが条件として組み込まれている。
金額の肌感覚を持っておくと判断を誤りにくい。150万円は生活費をどうにか賄う水準であって、ハウスや大型機械の購入まで含む額ではない。設備は融資や別の補助事業と組み合わせる前提で、資金計画は二段構えにしておく必要がある。
裏を返せば、雇用就農を選べばこの助走区間そのものが要らなくなる。最初の月から給与が出るからだ。制度の手厚さは、あえて独立を選んだ人の最初の三年を支えるために設計されている、と理解しておくと制度の形が腑に落ちる。
就農の手前に、関わり方の層がある
全員が明日から農家や漁師になる必要はない。産地と若い世代の接点は、就農という一点に絞られているわけではないからだ。
いちばん軽いのは、数時間から数日の体験だ。収穫や出荷を手伝ってみると、作業の重さと単価の関係が体感として入る。農業体験を何度か重ねてから進路を決める人は珍しくないし、合わないと分かるのも立派な成果である。
次の層が、住まないまま関係を続ける形だ。繁忙期だけ通う、加工品の販売を手伝う、情報発信を担うといった関わりは関係人口として整理されてきた。地域の側から見ても、いきなり定住を迫るより、何度も来てくれる人を増やすほうが現実的な場合が多い。
その先に、住む場所を移す選択が来る。移住の支援制度と就農の支援制度は別々に走っているため、住まいの補助と営農の補助を並行して申請する形になる。窓口が分かれている点は、早めに知っておいたほうがよい。
体験から関係づくり、関係づくりから仕事へと段階を踏む設計は、産地の側にとっても失敗が小さい。若者と地域の接点づくりを続けているFLASPOのような団体に、最初の一歩の置き方を相談するという手もある。
よくある質問
若い世代から寄せられることの多い疑問を、四つ並べておく。
Q. 農家の家に生まれていなくても農業を始められますか。
A. 始められる。統計上も、雇用されて働く人と、自分で農地と資金を用意する新規参入者は別枠で数えられている。前者は令和6年に1万180人いた。実家の有無より、どの入口を選ぶかで準備する中身が決まる。
Q. 未経験で農業法人に応募しても採用されますか。
A. 法人によるが、通年雇用で人を抱える経営体ほど育成の手順を持っている。センサスでも法人経営体は増え続けており、採用の窓口そのものは広がっている。応募前に、作業の季節配分と休日の取り方を確認しておくと後悔が少ない。
Q. 資金の交付を受けながら、別の仕事を掛け持ちできますか。
A. 制度は営農への専念を前提にしており、世帯の所得が基準を超えると交付は止まる。兼業を考えるなら、交付を受けない形で計画を組み直すほうが安全だ。判断に迷う場合は、申請先の自治体や農業委員会に事前に相談してほしい。
Q. 漁業や林業に入るときも同じような支援がありますか。
A. 枠組みは似ているが、所管も名称も別になる。漁業では就業準備の講習と現場研修を組み合わせる仕組みが、林業では現場技能者を段階的に育てる事業が用意されている。農業の制度をそのまま当てはめず、産業ごとに窓口を確かめるところから始めるとよい。
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