下川町はなぜ環境で名前が残るのか|森林9割と60年の輪伐計画

国の環境関連の選定一覧を眺めていると、北海道下川町という名前が何度も出てくる。環境モデル都市、環境未来都市、SDGs未来都市と、制度が変わるたびに選ばれ直してきた町である。人口は2,716人で、全国の市町村の中では小さい方に入る。小さな町が選ばれ続ける理由は、森林の面積と、そこに敷かれた60年の時間割にある。

人口は1960年の2割を下回った

町が公表している住民基本台帳の数字は、令和8年11月1日時点で人口2,716人、世帯数1,559である。男性が1,331人、女性が1,385人で、うち外国人が53人を占める。国勢調査でさかのぼると、最も多かったのは昭和35年の1万5,555人だった。当時の世帯数は3,210で、現在より世帯あたりの人数がはるかに多い。

その後は平成27年に3,547人、令和2年に3,126人と減り続けている。ピークからの減少率は8割を超え、現在の人口はかつての2割を下回る水準だ。鉱山の閉山と林業の機械化が重なった時期に働き口が消えたことが、この急な線を引いた。

人口の規模だけを見れば、環境政策で全国の先頭に立てる条件はそろっていない。職員の数も予算も限られる。それでも名前が残ってきたのは、政策の数を増やす方向ではなく、森林という一つの資源を軸に据えて、同じ設計を長く回してきたからである。

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1953年に国有林を買った判断

出発点は戦後の昭和28年にある。町は国有林の一部1,221ヘクタールを取得した。当時の町の年間予算は約1億2千万円で、この取得に8,800万円以上を投じている。年間予算の7割以上を一度の土地取得に充てたことになり、雇用の確保と町の基本財産づくりという二つの目的がはっきりしていた。

町有林を持つという選択は、木材価格の上下に町が直接さらされることも意味する。それでも自前の森を持っていれば、伐る時期と量を町の都合で決められる。外部の企業が所有する森では、収益の都合で一気に伐られたり、逆に手が入らずに放置されたりする。所有の形が、その後の設計の自由度を決めた。

町域は64,420ヘクタールあり、総務省の調査報告では約9割が森林とされている。東京23区とほぼ同じ広さの土地のほとんどが森という構成で、森林・林業を基盤に発展してきた町という説明はそのままの意味になる。森林率の高い自治体の比較は鳥取県智頭町は何をしてきたかでも扱っている。

毎年50ヘクタールを60年で回す設計

循環型森林経営と呼ばれる仕組みの中身は、言葉よりも単純だ。毎年50ヘクタールずつ植林し、60年かけて育てる。50に60を掛けた3,000ヘクタールの人工林が、常にどこかの段階にある状態を保つ。苗を植えた区画と、伐期を迎えた区画が同時に存在するため、毎年一定量の木材が出て、毎年一定量の植林の仕事が生まれる。

町は国有林を取得してから一巡を終え、いまは2回目の60年に入っている。制度の名前が変わっても設計が揺らがないのは、60年という単位が首長の任期や国の計画期間より長いためで、途中で方針を変える誘因が働きにくい。平成15年8月には北海道で初めてFSCの森林認証を取得し、管理の内容を第三者が確かめる形も加えた。

年 選定・受賞 所管
2008年 環境モデル都市 国(内閣府)
2011年 環境未来都市 国(内閣府)
2017年12月26日 第1回ジャパンSDGsアワード SDGs推進本部長賞 SDGs推進本部
2018年度 SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業 内閣府
下川町「SDGsの取り組み」および内閣府の自治体SDGsモデル事業資料から作成

2018年度のモデル事業の名称は「SDGsパートナーシップによる良質な暮らし創造実践事業」である。林業の川上から川下までを一つの産業としてつなぐこと、健康で省エネの住宅を広めること、除雪体制を立て直すことが並んでおり、環境の話だけで組み立てられていない点が特徴だ。

木質バイオマスが熱に変わるまで

伐り出した木のうち、建材にならない部分が燃料になる。林地残材、間伐した未利用材、製材所の端材を専用ボイラーで燃やし、小学校や役場、公共の温泉へ熱を送る。暖房にかかっていた費用が下がった分を子育て支援に回しているという説明が、町の公表資料に書かれている。熱の調達先を地域内に変えると、支出先が町外から町内へ移る。

総務省の緑の分権改革推進事業で町が実施した調査には、その前提となる数字が残っている。町有林で発生する林地残材は過去3か年から推定して2,350トンあり、経済的に集められる量は930トンと見積もられた。公共施設が使うエネルギーは重油が49パーセント、灯油が26パーセントで、化石燃料が75パーセントを占めていた。木質ボイラー導入によるCO2削減量は355トンと算定されている。

一の橋地区では2013年に、高齢化に対応したエネルギー自給型のモデル地区としての整備が行われた。バイオマスボイラーが暖房と給湯をまかない、その熱がしいたけの菌床栽培にも使われている。熱を捨てずに次の用途へ渡す形は、設備の稼働率を上げながら働く場所を一つ増やす仕掛けでもある。

「環境の町」を外から確かめる手順

視察先や移住先として下川町を調べる場合、町の発信だけを読むと取り組みの一覧で終わってしまう。確かめたいのは、選定が何年のものか、数字が何年度の調査かという点だ。緑の分権改革の調査は平成22年度のもので、公共施設のエネルギー構成はその後の設備更新で変わっている可能性が高い。年次を落とした引用が、古い数字を現在値として流通させる。

もう一つの見方は、森林の設計が雇用にどう結びついているかである。毎年50ヘクタールの植林には人手が必要で、そこに地域おこし協力隊や新規就業者が入る。森林9割の町で協力隊になるでは、下川町での隊員数と任期後の条件を扱った。学生として関わる道を探すなら、FLASPOでも地域側の受け入れの形を確かめられる。

制度の選定は、応募して評価を受けた結果にすぎない。選ばれた町が必ず成功しているわけではないし、選ばれていない町が劣っているわけでもない。下川町の価値は、60年という単位で設計を書き、人口が8割減る過程でもそれを変えなかったところにある。短い期間の成果指標では測りにくい部分だ。

よくある質問

下川町の人口はどこで確認できますか

町の公式サイトが住民基本台帳に基づく人口と世帯数を基準日つきで公表している。令和8年11月1日時点では2,716人である。国勢調査の値とは調査方法が違うため、推移を見るときは同じ系統の数字で揃える必要がある。

環境モデル都市とSDGs未来都市は何が違いますか

環境モデル都市は2008年に始まった低炭素社会づくりの先行例を選ぶ枠組みで、SDGs未来都市は2018年度から内閣府が選定している。後者は経済・社会・環境の三側面の統合を求める点が異なり、下川町は同年度に自治体SDGsモデル事業にも選ばれている。

木質バイオマスで町の全エネルギーを賄えているのですか

賄えているのは公共施設の熱の一部で、電力や運輸まで含めた全量ではない。町の資料は小学校や役場、公共温泉への熱供給という形で説明しており、全町のエネルギー自給率としての数値は公表されていない。自給率を名乗る数字を見かけたら、分母が何かを確かめたい。

60年の輪伐は他の自治体でも真似できますか

町有林のように所有と管理が一体になっていることが前提になる。私有林が分散している地域では、所有者の合意形成から始める必要があり、同じ速度では進まない。森林率が高い自治体でも、所有の形が違えば設計は別物になる。

出典


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