ガクチカの意味|なぜ企業は学生時代の行動だけを聞けるのか | FLASPO MAGAZINE

ガクチカの意味|なぜ企業は学生時代の行動だけを聞けるのか

エントリーシートの入力欄に「学生時代に力を入れたこと」と書かれていて、手が止まる。何を書けば正解なのか分からないのは、設問そのものが何を測ろうとしているのか示されていないからだ。ガクチカという略語が就職活動で定着した背景には、企業が学生に聞けることと聞けないことの線引きがある。その線を知ると、設問の輪郭がはっきりする。

略語が指しているのは、設問の文面そのもの

ガクチカは「学生時代に力を入れたこと」を縮めた言い方である。就職情報サイトや大学のキャリアセンターで広まった俗称で、法令や公的な基準に出てくる用語ではない。企業側の設問文は「学生時代に最も力を注いだ経験」「学生生活で主体的に取り組んだこと」など社によって違い、同じ趣旨の問いが別の言い方で並んでいる。

言葉が略されたことで、ひとつ失われたものがある。もとの文面には主語と時期と動作がそろっていた。誰が、いつ、何にどう取り組んだのか。略語にすると「学生時代のエピソード」という漠然とした枠だけが残り、課題や自分の役割が抜け落ちやすい。書き始める前に、応募先の設問文を一字ずつ読み直す価値があるのはこのためだ。

設問の表現が違えば、求められる内容も少しずつずれる。力を注いだという表現なら投じた時間と熱量が中心になり、主体的に取り組んだという表現なら誰に言われたわけでもなく始めた点が焦点になる。同じ経験を使い回すとしても、どこを前に出すかは応募先ごとに組み替えるほうが伝わる。

企業が聞けることには、はっきりした線が引かれている

採用選考の進め方について、厚生労働省は公正な採用選考の基本という考え方を示している。土台は二つで、応募者の基本的人権を尊重すること、そして応募者の適性と能力に基づいた基準で選考を行うことだ。あわせて、職業安定法第5条の5および平成11年告示第141号により、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報の収集は原則として認められないとされている。

同じ資料には、応募用紙に書かせたり面接で尋ねたりすることを避けるべき事項が、三つのまとまりで整理されている。

区分 把握を避けるべき事項の例
本人に責任のない事項 本籍や出生地、家族の職業や収入や学歴、住宅の種類や間取り、生活環境や家庭環境
本来自由であるべき事項 宗教、支持政党、人生観や生活信条、尊敬する人物、思想、労働組合や学生運動などの社会運動、購読新聞や愛読書
選考の方法そのもの 身元調査の実施、適性と能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用、必要性が認められない健康診断

尊敬する人物や愛読書が並んでいることに驚く人は多い。かつて面接の定番とされた質問が、思想や信条をうかがうおそれがあるものとして挙げられている。さらに同じ資料は、事業主が独自に応募用紙やエントリーシートの項目を設定する場合も、適性と能力に関係のない事項を含めないよう留意するよう求めている。入力欄の設計そのものが、この線引きの対象になっている。

線を引いたあとに残るのが、本人の意思と行動

三つの区分を外していくと、企業が共通して尋ねられる領域はかなり狭まる。生まれや家庭は本人に責任がない。信条や思想は本来自由であるべきものだ。学業成績や資格は書類で分かるが、それだけでは職務の遂行能力を推し測るには足りない。残るのは、本人が自分で選び、自分の判断で動いた結果である。

大学生活の数年は、どの授業を取るか、何の活動に関わるか、どこまで続けるかを本人が決める期間だ。そこでの行動は、属性ではなく選択の積み重ねとして説明できる。だから適性と能力に基づく選考という原則と、学生時代の経験を尋ねる設問は、きれいにつながる。ガクチカが面接の中心に居続けている理由は、学生の個性を知りたいという情緒的な動機ではなく、聞いてよい範囲の中で最も情報量が多い問いだからである。

この見方をすると、評価の対象も見当がつく。知りたいのは経験の派手さではなく、状況をどう捉え、何を選び、どう動いたかという過程だ。面接官があらかじめ質問項目と評価基準を決めておくよう促されていることを踏まえれば、深掘りの質問は意地悪ではなく、基準に沿って過程を確かめる作業だと分かる。

業種がまるで違う会社のエントリーシートに、似た設問が並んでいるのも同じ事情からだ。扱う商品や事業の形は各社で異なるのに、選考の土台となる原則は共通している。だから設問の立て方も収束していく。志望先を広げたときに同じ問いに何度も出会うのは、各社が互いを真似ているというより、聞ける範囲が同じだからである。

力を入れたという言葉は、成果の大きさを指していない

全国大会や起業の経験がないと書けない、という思い込みはここで解ける。設問が尋ねているのは投じた力の向きであって、到達した地点の高さではない。アルバイトのシフト調整でも、ゼミの輪読の進め方でも、自分が困りごとを見つけて手を動かした筋道があるなら材料になる。

判断に迷うときは、その経験について五分間続けて話せるかどうかを目安にするとよい。話せるなら、自分の選択と判断がそこに含まれている。逆に肩書きや結果だけを並べて終わるなら、過程を思い出せていない可能性が高く、面接で掘られたときに答えが細くなる。

成果の数字を書くのが無駄なわけではない。数字は過程の説明を支える補助線として効く。来客数を増やしたという結果だけでは何も伝わらないが、どこに原因があると考えて何を変えたのかという話の末尾に数字が置かれると、判断の妥当さが裏づけられる。順序を逆にしないことが肝心だ。

字数の制限も、この順序を守る理由になる。二百字の欄に過程と結果の両方を詰めるなら、削る対象は結果の装飾のほうだ。限られた枠で何を残すかという判断そのものが、設問の意図を理解しているかどうかの表れになる。

意味を取り違えると、準備の方向がずれる

設問の趣旨を取り違えたまま準備を進めると、立派に見える経験を探す作業に時間が消えていく。探しても見つからず、焦って話を大きくすれば、面接の深掘りで整合が崩れる。順番としては、まず自分が実際に動いた場面を書き出し、そのあとで応募先の設問文に合わせて組み替える。

言葉の定義と企業の意図をもう一段おさえたいなら、ガクチカが問われる理由をたどると設問の背景が整理できる。自己PRとの線引きが曖昧なまま両方を書くと内容が重なるので、ガクチカと自己PRの違いも先に確かめておきたい。題材そのものに詰まったときは、ガクチカのネタ一覧から自分の数年を棚卸しする手がかりが拾える。

書く材料が本当に薄いと感じるなら、これから作るという道もある。学生のうちに企業や自治体の課題に関わる機会は増えており、FLASPOのように学生が実際の事業やまちづくりに参加する場では、課題を見つけて動いた過程がそのまま残る。経験を盛る必要がなくなるのは、動いた記録が手元にあるときだ。

よくある質問

ガクチカという言葉を面接で使ってもよいのでしょうか。学生のあいだで通じる略語なので、面接の場では「学生時代に力を入れたこととしては」と元の言い方に戻すほうが無難である。設問の文面に合わせた言葉を選ぶと、それだけで設問を読んでいることが伝わる。

尊敬する人物を聞かれたら答えなければいけませんか。公的な指針では把握を避けるべき事項に挙げられている。実際に問われた場合は、答えを拒むより、仕事に関係する範囲で言い換えて返すのが現実的な対応になる。どうしても気になるときは、大学のキャリアセンターや新卒応援ハローワークに相談する窓口がある。

サークルやアルバイトの経験しかなくても評価されますか。評価の軸は題材の種類ではなく、そこでの選択と行動の中身にある。日常の活動のほうが、置かれた状況と自分の判断を具体的に語りやすい場合も多い。珍しい経験を持っているかどうかで差がつく設問ではない。

同じ内容を複数の企業に出しても問題ありませんか。差し支えないが、設問文の表現と字数は会社ごとに違う。主体性を問う文面と、熱量を問う文面では前に出す部分が変わるので、本体を共通にしつつ冒頭と結びを応募先ごとに調整するやり方が、負担と精度の釣り合いがよい。


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