建物が建った後のことは、誰が確かめているのか
地方創生の失敗談は、たいてい建物の写真とともに語られる。人が来ないガラス張りの交流施設、年に数回しか開かない加工場。ただ、個別の例をいくら並べても、それが例外なのか普通なのかは分からない。全体を母数で見た資料が必要になる。
その母数がある調査が一つある。財務省の予算執行調査だ。四国財務局が取りまとめたこの調査は、内閣府の地方創生拠点整備交付金を対象にした。平成28年度補正予算(第2号)に計上された交付金は869億8,000万円で、そのうち採択額5,000万円超の410件を調べている。事業取り消しなどで交付金が渡らなかった12件を除いた398事業が、実際の分析対象になった。
この交付金は、施設を建てるためのお金である。対象は「しごと創生」「地方への人の流れ」「働き方改革」「まちづくり」の4分野で、交付の条件として成果目標の設定と達成状況を確認する仕組みを備えることが求められていた。つまり制度の設計上は、建った後を確かめる前提になっていた。調査はその前提が守られたかを見に行ったことになる。交付金そのものの仕組みは地方創生交付金の仕組みの記事で整理されている。
設定された目標の半分は、届いていない
まず結果の方から見ていく。調査が集めた成果目標の達成状況は次のとおりだった。
| 年度 | 設定された目標数 | 目標値以上 | 目標値を下回る | 未把握・不明 | 達成率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 平成29年度 | 725 | 347 | 353 | 25 | 49.6% |
| 平成30年度 | 1,030 | 512 | 498 | 20 | 50.7% |
| 令和元年度 | 1,062 | 449 | 521 | 92 | 46.3% |
3年続けて、だいたい半分である。達成率は未把握・不明を母数から外して計算されているので、把握できた目標だけを見ても半分が未達だったという意味になる。しかもこの達成率は上がっていない。平成29年度から令和元年度にかけて、目標の数は725から1,062へ増えたが、達成率は49.6パーセントから46.3パーセントへわずかに下がっている。
注意したいのは、この数字をそのまま「半分が失敗」と読むべきではないことだ。目標の立て方は自治体ごとに違い、高く置いた方が未達になりやすい。調査が問題視したのはむしろ別の点で、毎年度の検証をしていない事業が398のうち16件、約4パーセントあった。そのうち10件、約63パーセントは、理由を「毎年度の効果検証は努力義務であるため」と答えている。制度要綱の文言が「原則、毎年度検証するよう努めるものとする」だったことが、そのまま反映された答えだ。
下回った後に打ち手を変えた事業は5分の1
目標に届かないこと自体は、先進的な事業であればむしろ普通だろう。問題は、届かなかったと分かった後に何をしたかである。調査はそこを数えている。
実績値が目標値を下回った年度のある事業は335件あった。このうち施設の利活用方策の見直しを行った年度がある事業は、65件にとどまる。割合にして約19パーセント。残りの8割は、数字が足りないと分かっていながら、やり方を変えた記録を持っていない。
同じ施設に追加でお金を入れた例もある。平成29年度以降の交付金を使って、同一の施設に追加の施設整備を行った事業が28件、約7パーセントあった。そのうち17件、約61パーセントは、追加分についても元の事業と全部または一部が同じ目標を設定していた。さらにそのうち11件、約65パーセントは、目標の数値まで同じだった。お金を足したのに、達成すべき水準を上げていないことになる。調査はここで、追加で国費を投入することによる相乗効果を踏まえた目標にすべきだと指摘している。
自立性は文章で書かれ、数字では書かれていなかった
この交付金は「先導的な事業」を支えるものとされ、その第一の要素として自立性が挙げられていた。制度上の定義は、事業推進主体が自立していくことにより、将来的にこの交付金に頼らずに事業として継続していくことが可能となる事業であること。言葉としては明確だ。
ところが調査が実態を見ると、言葉のまま終わっていた。施設の利用料などの事業収入がある事業は398のうち336件、約84パーセント。収入が全くない事業も62件、約16パーセントあった。今後の自立化の見込みを聞くと、自治体の一般財源の負担で自立化を見込んでいる事業が97件で約24パーセント、自立化を見込んでいないと答えた事業も39件で約10パーセントあった。自治体が払い続けることを前提にした「自立」が、相当数含まれていたわけだ。
数字の裏づけはさらに薄い。令和2年度の収入見込額について、そもそも収入計画を作っていない事業が176件、約44パーセント。計画を作っている事業でも、事業収入比率が50パーセント以下のものが130件、約59パーセントを占めた。そして交付金の申請時に数値を用いた収支計画を作っていなかった事業は、収入のある336件のうち247件、約74パーセントに達する。理由を聞くと、「施設整備計画の様式では文章で自立性を記載することとなっているため」が141件で約57パーセント、「内閣府へ提示しなければならない資料ではないため」が73件で約30パーセントだった。
| 調べた項目 | 該当数 | 割合 |
|---|---|---|
| 事業収入が無い | 62事業 | 約16% |
| 自治体の一般財源負担で自立化を見込む | 97事業 | 約24% |
| 自立化を見込んでいない | 39事業 | 約10% |
| 収入計画を作成していない | 176事業 | 約44% |
| 申請時に数値の収支計画を作っていない | 247事業 | 約74% |
| 民間資金を得て施設整備を行った | 30事業 | 約8% |
| 民間資金を得て施設の利活用を行った | 64事業 | 約16% |
続く事業と続かない事業は、どこで分かれるか
この調査から読み取れる分かれ目は、立地やアイデアの良さではない。申請の時点で数字を書いたかどうかだ。様式が文章での記載を求めていたから文章で書いた、という回答が最多だったことは、裏返せば様式が数字を求めれば数字を書いたという意味でもある。継続性は現場の熱意より、審査で何を求めるかによって決まっていた部分が大きい。
官民協働の数字も同じ方向を指す。民間からの融資や出資を得て施設整備を行った事業は30件で約8パーセント、利活用で民間資金を得た事業は64件で約16パーセントにすぎなかった。民間のお金が入る場合、貸す側や出す側が必ず収支を見る。そこが働かなければ、数字で確かめる力は外からかからない。
地域の取り組みを調べる立場からすると、ここは使える物差しになる。気になる施設を見つけたら、設定された目標が何か、何年度に達成したか、収入のうち自前で稼いだ分がどれだけかを探してみる。公表されていないなら、それ自体が一つの情報だ。交付金と達成状況の関係は補助金頼みの地方創生はなぜ続かないのか、地域別の広がりは都道府県別の地方創生の記事が扱っている。FLASPOでも地域の課題に関わる入口を紹介している。
よくある質問
この調査は会計検査院の検査報告なのか。違う。財務省の財務局が行う予算執行調査で、取りまとめは四国財務局である。会計検査院の検査報告とは別の制度なので、引用するときは主体を書き分ける必要がある。
達成率が5割なら、半分の税金が無駄になったのか。そうは言えない。達成率は事業単位ではなく設定された目標単位で数えた値で、一つの事業が複数の目標を持つ。また目標を高く置いた事業ほど未達になりやすい。無駄かどうかを判断するには、個別の事業の内容に立ち入る必要がある。
調査対象は全部の事業なのか。平成28年度補正予算(第2号)の交付金で採択された事業のうち、採択額5,000万円超のものに限られる。金額の小さい事業は入っていないため、この結果をすべての地方創生事業に広げることはできない。
その後、制度は変わったのか。地方創生拠点整備交付金はその後デジタル田園都市国家構想交付金へ再編され、内閣府は毎年度の効果検証報告書を出している。年度ごとに集計の仕方が変わっているため、年をまたいで達成率を並べるときは定義の確認が必要になる。
学生が調べるなら、どこから手をつけるとよいか。自分の出身地や通う大学のある自治体が、どの交付金でどんな施設を作ったかを総合戦略から探すのが入りやすい。そこから目標と実績の公表状況を見ると、この調査が指摘した構造が自分の地域でどうなっているか確かめられる。
出典
財務省「予算執行調査票 地方創生拠点整備交付金」(令和2年度、調査主体:財務局共同、取りまとめ:四国財務局)
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