地方の会社を副業で手伝うという関わり方は定着してきたが、その先に「継ぐ」という選択肢が置かれることは少ない。検索すると事業承継型副業という言葉が出てくる一方で、国の資料をあたってもその名前の制度は見つからない。ただし、副業で関わる人を後継者候補として扱う仕組みは、別の名前で動いている。総務省が市町村に用意した枠と、中小機構が運営する窓口の実績を並べると、どこまでが制度で、どこからが各地の工夫なのかが分かれて見えてくる。
その名前の制度は国の資料にない
最初に確かめておきたいのは呼び名である。総務省と中小企業庁の公表物を通して見ても、事業承継型副業という名称の事業や補助メニューは存在しない。制度として立っているのは、総務省の「事業承継等人材マッチング支援事業」と、中小企業庁が47都道府県に設置した「事業承継・引継ぎ支援センター」の二本である。
では副業の文字がどこにも出てこないのかというと、そうではない。令和8年度の地方財政措置の見通しは、前者の説明に「事業承継に限らず、女性・若者・シニア・外国人・副業人材等、多様な人材と地域企業とのマッチングを支援する場合の経費も対象」と書き添えている。副業で関わる人を地域企業につなぐ費用は、国の財政措置の対象に明示的に含まれている。制度の名前ではなく、対象経費の但し書きに入っているという形である。
言い換えると、副業から承継へという道筋は、制度の目的として掲げられてはいないが、使える枠としては開いている。自治体がその枠をどう設計するかで中身が決まるため、同じ言葉で語られる取り組みの内容が地域ごとに大きくばらつく。
市町村がハブになるという設計
総務省の支援事業は、地域企業の後継者等を確保するため、市町村がハブとなって地域企業と人材のマッチングを支援する形を取る。市町村は国・都道府県・事業承継引継ぎ支援センターといった公的機関と、商工会議所・商工会・地域金融機関といった民間機関の両方と連携し、相談と支援の窓口に立つ。
財政措置は特別交付税で、1自治体あたりの上限は1,500万円、措置率は0.5である。財政力補正があるため、財政の弱い自治体ほど実質の措置が手厚くなる。条件が2つある。対象は地方単独事業に係る経費のみで、国の補助金を充てた部分は入らない。そして市町村は、この事業に係る事業計画を策定する必要がある。
| 対象経費の区分 | 内容の例 |
|---|---|
| 調査・人材育成 | 人材・事業所等に対する調査、人材の発掘やスキルアップ |
| マッチング | 交流会・商談会の開催、マッチングシステムの構築 |
| マッチングトライアル | 人材が事業所で試用的に業務に従事する際の人件費・交通費 |
| コーディネータ等の配置 | 調整役の配置。ただし自治体職員の人件費は対象外 |
取り組んでいる自治体の数は、同じ資料に令和7年で90団体と記されている。全国1,700余りの市町村のうち、まだ5パーセントを超えない規模である。副業のマッチングがどこで起きているかを公的拠点の側から見た回と合わせると、窓口の数と制度の数がまだ釣り合っていないことが分かる。
試しに働く期間に経費がつく
4つの区分のうち、副業という関わり方にもっとも近いのは3番目のマッチングトライアルである。人材が事業所で試用的に業務に従事する際の人件費と交通費が対象になる、と資料は書いている。継ぐかどうかを決める前に現場で働く期間に、自治体がお金を出せるという設計になっている。
この区分があることの意味は小さくない。事業承継は、譲る側の帳簿と設備、譲り受ける側の技術と覚悟が噛み合ってはじめて成立する。相性を測る時間を無給で求めれば、本業を持つ人は入ってこられない。試用期間の人件費が措置の対象に入っていることで、週末や月数日という関わり方から始める余地が生まれる。
一方、制度の側に明記されていないものもある。試用期間の長さ、報酬の水準、本業の勤務先から承諾を得る手続きは、どこにも基準が示されていない。地域活性化起業人の副業型が月4日以上かつ月20時間以上という数字を持っているのとは対照的である。地域に関わる副業の収入の天井のように枠から逆算できる制度ではないため、条件は募集ごとに読む必要がある。
公的な入口を通る人は年106人
では実際に、外から来た人が会社を引き継いだ件数はどれくらいあるのか。中小機構が公表した令和6年度の実績が、公的窓口の通過量を示している。全国48か所の事業承継・引継ぎ支援センターの相談者数は23,000者を超え、開設以来の累計は15万者を上回った。
内訳を見ると、第三者承継に関する相談者は16,045者で累計は約12万者、成約件数は2,132件で過去最高を更新している。このうち、創業希望者と後継者不在の事業者を引き合わせる後継者人材バンクの成約は106件だった。こちらも過去最高である。新規に登録した創業希望者は1,551者で、累計の登録者数は1万者を超えた。
数字の並びを素直に読むと、登録している人が1万人を超えているのに、1年に成約するのは106件という比率になる。相談から成約までの歩留まりは、この入口ではまだ細い。副業から始めて引き継ぐという道が制度として整っていないのも、同じ細さの別の現れだと考えられる。地域の企業とつながる実務から始める方法については、FLASPOのような仕組みを通した関わり方も選択肢になる。
協力隊の側から承継へ入る枠もある
副業ではなく移住して関わる側には、別の枠が用意されている。地域おこし協力隊には起業・事業承継に要する経費の特別交付税措置があり、1人100万円が上限である。対象は任期2年目から任期終了後3年以内の起業・事業承継で、令和8年度に、従来の任期終了後1年以内から2年ぶん延長された。
同じ年度には上限の引き上げも入った。新たな雇用の創出等の要件を満たす場合に限り、100万円から200万円になる。さらに、地域協力活動として地場産業等に従事し、任期終了後にその地場産業に係る起業・事業承継を行うこととする場合には、活動期間を最大5年まで延長できる特例が導入された。伝統産業の承継や農業技術の習得が資料の例として挙げられており、3年では間に合わないという現場の時間感覚が反映されている。
成果の規模も公表されている。総務省の調査では、直近5年に任期を終えて同じ市町村内に定住した5,038人のうち、事業承継を選んだのは70名だった。起業が2,296人という規模と比べると、既にある事業を引き継ぐ道を選ぶ人はまだ少ない。地域と関わる副業の募集がどこに出るかと合わせて見ると、承継は募集の形に落とし込みにくい領域だと分かる。
よくある質問
事業承継型副業という制度に応募することはできるのか。その名前の公的な制度はないため、応募先としては存在しない。探すなら、市町村が事業承継等人材マッチング支援事業として出している募集、または事業承継・引継ぎ支援センターの後継者人材バンクが入口になる。
副業のまま会社を引き継ぐことは想定されているのか。制度の文面は副業人材を対象経費に含めているが、引き継いだ後も副業を続ける形を前提にはしていない。試用的に関わる段階を副業で行い、承継の段で働き方を変えるという順序が、資料の記述からは自然に読める。
上限1,500万円は自分に支払われる額なのか。違う。1,500万円は市町村が特別交付税の措置を受けられる上限で、しかも措置率0.5が掛かる。人材に渡るのはそのうち人件費や交通費として計上された部分に限られる。
学生のうちから関われる余地はあるか。対象経費の但し書きには若者が挙げられており、年齢で閉じてはいない。ただし後継者人材バンクは創業希望者を対象とするため、実務の経験や資金計画を求められる。在学中は調査や交流会といった前段の区分で関わる方が現実的である。
自分の住む自治体が取り組んでいるか調べる方法はあるか。令和7年の取組団体は90にとどまるため、まず市町村の商工担当課に支援事業の計画があるかを尋ねるのが早い。計画の策定が制度の条件になっているので、担当課が把握していないならその自治体はまだ取り組んでいない可能性が高い。
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