目標は1万人、足元は8,196人
数値目標が置かれた制度は、達成の手前で何が起きているかを見ると性格がわかる。総務省の地域おこし協力隊についての説明資料には、令和8年度に10,000人を目標とすると書かれている。根拠はデジタル田園都市国家構想総合戦略で、令和8年1月の資料では地方創生に関する総合戦略という表記に変わっている。
実績はどうか。令和7年度 地域おこし協力隊の隊員数等について(令和8年4月24日公表)によれば、令和7年度の隊員数は8,196人。前年度からの増加は286人である。目標年度は令和8年度なので、残りは1,804人になる。
問題は増え方だ。令和5年度は7,200人、令和6年度は7,910人で、このときの増加は710人だった。それが翌年は286人に落ちている。同じペースが続くなら、令和8年度に届くのは8,500人前後で、目標とは1,500人ほど離れる。1年で1,804人を足すには、直近の増加の6倍を上積みする必要がある。
制度の成り立ちから見れば、平成21年度の89人がここまで伸びたこと自体が例外的である。それでも目標との距離は距離として残る。隊員がどこにいるかという分布は地域おこし協力隊の地域別ガイドで都道府県別に整理している。
受け入れられる自治体が、もう残り少ない
伸びが鈍った理由を、隊員のなり手が足りないからだと決めるのは早い。受け入れ側の枠を見ると別の事情が出てくる。令和7年度に取り組んでいる自治体は1,187団体で、前年度から11団体の増加。この1,187は、受入可能自治体1,461団体の約81%にあたる。
| 年度 | 隊員数 | 前年度からの増加 | 取組自治体数 | 1団体あたり |
|---|---|---|---|---|
| 令和5年度 | 7,200人 | — | 1,164団体 | 6.19人 |
| 令和6年度 | 7,910人 | 710人 | 1,176団体 | 6.73人 |
| 令和7年度 | 8,196人 | 286人 | 1,187団体 | 6.90人 |
| 目標 | 10,000人 | — | — | — |
新しく手を挙げる自治体は、年に11団体から12団体という水準で推移している。残っている274団体がすべて参加しても、1団体あたりの平均6.9人を掛けて1,890人。計算上は目標に届くが、まだ始めていない自治体には始めていない理由があるので、この積み上げを前提に置くのは無理がある。
現実的な増え方は、すでに取り組んでいる1,187団体が1人ずつ増やす形になる。1団体あたりの平均は6.19人から6.90人へ、2年で0.71人ぶん上がっている。つまり増加の主な源は新規参入ではなく、既存の受け入れ先の厚みである。1団体で20人を超える市町村が全国にあることも、この傾向と符合する。
入口の人数は3年で4倍を超えた
隊員の数は鈍っているが、その前段にある体験の枠は急に太っている。令和7年度のおためし地域おこし協力隊の参加者は1,450人で、令和6年度の1,149人から増えた。インターンは令和3年度が106人、令和4年度が315人、令和5年度が393人、令和6年度が1,047人、令和7年度が1,414人である。
4年で13倍という伸び方で、隊員数の推移とは明らかに傾きが違う。注目したいのは、令和6年度のインターン参加者1,047人のうち、隊員に任用された者が150人という内訳のほうだ。翌年度の任用見込みを含めた数で、割合にすると14%ほどになる。
この比率を当てはめると、令和7年度の1,414人からは200人前後が隊員になる計算になる。増加286人という実数と見比べれば、インターン経由がすでに増加分の相当な部分を占めている可能性がある。ただし任用の内訳は年度ごとに公表されていないため、断定はできない。
入口の設計そのものは、若い世代に向けて組まれている。令和7年度の隊員の年齢構成は20歳から29歳が33.6%で最も多く、女性は40.3%。学生のうちに短期で関わる道筋はZ世代が協力隊を選ぶ前に見る数字で整理した。地域と若者をつなぐ企画はFLASPOでも扱っている。
出口の数字は、入口より先に良くなっている
制度の評価を隊員数だけで見ると、重要な変化を落とす。任期を終えた人がその地域に残るかどうかは、令和7年5月1日時点の調査で測られている。対象は令和2年4月1日から令和7年3月31日までに任期を終えた8,762人。
このうち同じ地域に定住したのは6,163人で、70.3%。1年前の調査では8,034人のうち5,539人で68.9%だったので、1.4ポイント上がっている。母数が728人増えたうえでの改善なので、見かけの変動ではない。累計で任期を終えた隊員は令和7年3月31日までに15,045人、前回比で2,363人の増である。
定住の内訳は、活動地と同一の市町村が5,038人(57.5%)、近隣の市町村が1,125人(12.8%)、他の地域へ転出が2,013人(23.0%)。同一市町村に残った5,038人のなりわいは、起業が2,296人(45.6%)、就業が1,753人(34.8%)、就農・就林が583人(11.6%)、事業承継が70人(1.4%)という構成だ。
定住した人の半分近くが自分で事業を始めている制度は、他に見当たらない。隊員数の目標が達成されるかどうかとは別に、ここが制度の中身として効いている部分だと言える。
令和8年度に足された仕掛け
目標年度にあたる令和8年度の地方財政措置では、拡充が2本入っている。令和8年度の地方財政措置の見通し等を踏まえた留意事項に内容が示されている。
1つは任期の延長特例である。地域協力活動として地場産業等に従事し、任期後に一定の要件のもとでその地場産業に関わる起業や事業承継を行う場合、活動期間を最大5年に延ばせる。伝統産業の承継や農業技術の習得が例として挙げられている。原則は概ね1年以上3年以下なので、2年ぶんの余地が加わる形だ。
もう1つは起業・事業承継に要する経費の措置の拡充で、対象期間が任期2年目から任期後1年以内だったものが任期後3年以内に延び、新たな雇用の創出等の要件を満たす場合は上限が1人100万円から200万円に上がる。詳しい条件は協力隊の起業補助金は任期後3年までで確認できる。
予算の側は、令和8年度の当初予算案が252百万円、令和7年度の当初が248百万円、令和7年度の補正が118百万円。当初の伸びは4百万円で、1万人へ向けて予算を一気に積む形にはなっていない。同時に関係人口の側では、ふるさと住民登録制度のシステム構築に令和7年度補正で32.1億円(デジタル庁一括計上)が付いた。隊員の人数を増やすより、関わりの入口を広く取る方向に重心が移りつつあるように見える。
よくある質問
「1万人の目標は達成されそうですか」。直近の増加286人が続く前提では届かない。残り1,804人を1年で埋める必要があり、過去に最も増えた年度でも710人である。ただし目標は撤回されておらず、令和8年度の資料でも掲げられている。
「隊員数が増えないと制度は縮小しますか」。令和8年度の当初予算案は前年度を上回っており、措置の内容も拡充されている。人数より定住の質に軸足を移す動きとして読むほうが、資料の書き方には合っている。
「新しく始める自治体はまだありますか」。受入可能とされる1,461団体のうち、取り組んでいるのは1,187団体。残りは274団体で、ここ数年の新規参入は年に10団体台である。
「インターンから隊員になる人はどのくらいいますか」。令和6年度は参加者1,047人のうち150人が任用されている。翌年度の任用見込みを含めた数字で、比率は14%ほどになる。
「任期を終えたあと、どこへ行く人が多いですか」。直近5年では、同じ市町村に残る人が57.5%、近隣へ移る人が12.8%、他の地域へ出る人が23.0%。残った人のうち45.6%が起業を選んでいる。
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