県別の就職サイトは何のためにあるか|移住支援金とつながる求人の仕組み

県の就職サイトには、求人以外のものが並んでいる

地元に戻る選択肢を考えはじめると、だいたい最初に行き着くのが県の名前が付いた就職サイトである。求人が並び、移住の相談窓口が載り、先輩のインタビューが置かれている。民間の就職サイトを小さくしたもの、という印象で閉じてしまう人は多い。

ところが、この手のサイトには民間にはない役割が一つ乗っている。移住支援金という制度の、対象求人を決める場所になっているのである。どの求人に就いたかで、最大100万円が出るか出ないかが変わる。求人票の中身が同じでも、掲載されている場所が違えば結果が変わるという、就職活動では珍しい構造になっている。

都道府県がこうしたサイトを持っている理由も、採用支援だけではない。人口の流出に対して打てる手のうち、国の交付金が付くものが移住と就業の接続であり、その受け皿として求人の掲載の場が要る。移住相談の窓口と就職の情報が同じサイトに同居しているのは、運営上の都合ではなく制度の形がそうなっているからである。

この仕組みを知らずに内定を決めてしまうと、あとから要件を満たせないことがわかる。先に線の引かれ方を見ておいたほうがよい。

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支援金が出る求人と、出ない求人を分けている線

地方創生移住支援事業は、東京23区に在住または通勤していた人が地方へ移って就業や起業をする場合に、市町村から支援金を支給する仕組みである。世帯での移住に最大100万円、単身で最大60万円、18歳未満の子を帯同する場合は1人につき最大100万円が加算される(内閣府地方創生推進事務局「移住支援金」)。

移住元の要件は細かい。移住前の10年間で通算5年以上、かつ直近1年以上、東京23区に住んでいたか、東京圏のうち条件不利地域を除く区域から23区へ通勤していたこと。雇用者としての通勤は雇用保険の被保険者であることが条件になる。移住先は東京圏の外、または東京圏のうち条件不利地域の市町村で、しかもその市町村が事業を実施していることが前提になる。

そのうえで就業の側の要件が来る。地域の中小企業等への就業であれば、都道府県のマッチングサイトに掲載された求人への就業であること。これが県の就職サイトの正体である。ほかにテレワークで移住前の業務を続ける場合、市町村が関係人口として地域の担い手に当たると認めた場合、起業支援金の交付決定を1年以内に受けている場合が並ぶ。

注意したいのは、関係人口として認められる道が市町村ごとの独自要件として置かれている点である。すでに地域の活動に関わっていて、担い手に当たると市町村が判断すれば、求人の掲載とは別の経路で対象になりうる。学生のうちから特定の地域に通っていた人には、この枠のほうが近いことがある。

申請は転入後1年以内で、5年以上継続して住む意思があることも求められる。短期の腰掛けを想定した制度ではない。

7年間で1万4,378件という使われ方

制度がどれだけ動いているかは、交付実績で見える。内閣府が公表している地方創生移住支援事業の交付実績は、令和8年3月末時点で次のようになっている。

年度 移住支援件数 移住人数
令和元年度 71件 123人
令和2年度 290件 563人
令和3年度 1,184件 2,381人
令和4年度 2,495件 5,108人
令和5年度 3,542件 7,782人
令和6年度 3,626件 7,829人
令和7年度 3,170件 6,771人
累計 14,378件 30,557人

内閣府の公表資料から作成した。件数には令和6年度に新設された地方就職学生支援事業の分も含まれる。

令和5年度から令和6年度で頭打ちになり、令和7年度は件数で456件、人数で1,058人の減少に転じている。一方で東京都と神奈川県は実績が空欄のまま推移している。東京圏が条件不利地域を除いて対象外になっているためで、制度の設計がそのまま表に出ている。

7年で累計3万557人という規模をどう見るかは分かれるところだが、求人サイトの利用者数と比べれば小さい。支援金を軸に就職先を決めている人は、全体から見れば少数派だということである。

件数と人数の比をとると、1件あたり2.1人になる。世帯での移住が一定の割合を占めているということで、単身で動く人だけの制度ではない。ここに子どもの加算が乗ると支給額は大きく変わるため、家族の人数によって制度の重みは違ってくる。

東京の大学に通う学生だけに開いている別枠

在学中から使える枠が、同じ事業のなかに置かれている。地方就職学生支援事業という名前で、令和6年度に新設された。対象は、東京都内に本部がある大学や大学院の、東京圏内のキャンパスに原則4年以上在学している学生で、卒業や修了から1年以内であることが条件になる(内閣府地方創生推進事務局「地方創生移住支援事業」)。

出るのは二種類ある。地方の企業の就職活動等に参加するための交通費の2分の1と、実際に地方へ移る際にかかった移転費である。交通費のほうは卒業や修了の年度に入っていれば在学中でも申請できる。移転費は就職してから1年以内に申請する形で、令和7年度に拡充された。両方を申請することも、片方だけを使うこともできる。就職先は企業に限らず、農林水産業や家業に就く場合も対象に入る。

ただし、移住先の自治体が奨学金の返還支援を実施していることが条件になっている。移住支援金と奨学金返還支援の両方を実施している市町村は、令和7年4月時点で1,318にのぼる。奨学金返還支援そのものは令和6年6月時点で全都道府県が実施している。

交通費の支援は、遠方の企業を一社だけ見に行って終わりにしない、という効き方をする。往復の負担が半分になれば、候補を二つ三つに増やせる。Uターン就職とはに進め方の全体像を置いてある。

サイトを開く前に確かめる順番

順番を間違えると手戻りになる。先に見るのは求人ではなく、自分が要件の内側にいるかどうかである。

最初に、移住元の要件を満たしているかを確認する。東京23区に通算5年以上という条件は、大学から東京に出てきた人なら4年間では届かない。大学院に進んだか、働いてからUターンするかで結果が変わってくる。次に、移住先として考えている市町村が事業を実施しているかを一覧で確かめる。全市町村が参加しているわけではない。三つめに、志望する企業の求人がその県のマッチングサイトに載っているかを見る。載っていなければ、企業側に掲載を相談する余地はある。

この三つを通したうえで、ようやく求人の中身を比べる段になる。給与や職種の比較は民間のサイトのほうが情報量は多いので、県のサイトは対象かどうかの確認に使い、条件の比較は別で行うという分担も現実的である。地域ごとの求人の厚みは都道府県別の就職で見比べられる。起業の側から入る場合の落とし穴はUターン起業に移住支援金が届かない理由にまとめた。

地域で働く選択肢の広げ方はFLASPOでも扱っている。制度は毎年細かく変わるので、最後は移住先の市町村の窓口で確かめるのが確実である。

よくある質問

県の就職サイトに載っている求人は、民間のサイトと重複するのか。重複することは多い。ただし掲載の基準が違い、支援金の対象になる求人かどうかで絞られている点が異なる。同じ企業でも、職種によって扱いが分かれることがある。

地方の大学から別の地方へ就職する場合は使えないのか。移住支援金の移住元の要件は東京23区への在住または通勤なので、対象にならない。ただし市町村が独自に設けている就職や定住の支援は別にあるため、自治体ごとに確認する価値はある。

内定が出たあとに申請できるのか。申請は転入後に行うが、要件は就業の時点で確定している。掲載された求人への就業という条件は後から整えられないので、応募の前に確かめておく必要がある。

求人が載っていない企業に行きたい場合はどうするのか。掲載は企業側が県へ申し込む形が一般的なので、選考の過程で掲載の予定があるかを尋ねる手はある。間に合わなければ支援金は諦めることになるが、就職先の優先順位を支援金で逆転させるかどうかは別の判断になる。

奨学金の返還支援と移住支援金は併用できるのか。別々の制度なので、両方を実施している市町村であれば、それぞれの要件を満たす限り使える。学生向けの交通費と移転費の支援は、移住先が返還支援を実施していることが前提になっている。


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