有機農業の町は外の人材をどう使うか|山都町の協力隊8人と定住率70.2%

有機JAS認証を受けた事業者の数が日本一の町に、地域おこし協力隊は8人いる。熊本県山都町である。新規就農を目指して移り住む人が多い土地で、それでもなお外から人を募っているのはどういう事情なのか。総務省の隊員数調査と、環境省に出された町の活動計画を並べて読むと、足りないものが人手そのものではないことが見えてくる。

九州のへそにある、有機JAS日本一の町

山都町は熊本県の東部、九州のほぼ中央に位置する。国土交通省の資料では面積544.67平方キロメートル、人口は約1.3万人、指定地域は過疎と振興山村などとなっている。宮崎県との県境には国見岳や市房山といった標高1,700メートル級の山々が連なり、中山間地の気候と環境がそのまま産業の条件になっている土地だ。

その条件を活かしたのが有機農業である。町の活動計画には、有機JAS認証事業者数は日本一で57事業者、と書かれている。令和4年度には農林水産省のオーガニックビレッジ宣言を行い、有機農業を核としたまちづくりを掲げて内閣府のSDGs未来都市にも選定されている。令和5年度には江戸時代の石橋「通潤橋」が国宝に指定され、九州中央道の山都通潤橋インターチェンジが開通し、道の駅と総合体育館も新しくなった。

こうして並べると、資源に困っている町には見えない。認証の数では全国の先頭に立ち、観光の目印には国宝があり、高速道路の出入口もできた。それでも町が自分の計画書に書いている現状は、決して明るい話ではない。

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協力隊8人は、全国8,196人のどこに位置するか

総務省が令和8年4月に公表した調査では、令和7年度の地域おこし協力隊の隊員数は前年度から286名増の8,196人となった。取り組んでいる自治体の数は11団体増の1,187団体で、受入可能自治体1,461団体の約81パーセントにあたる。制度を使っていない自治体はもう2割を切った。

同じ資料の受入団体別の一覧に、山都町は8人と記載されている。全国の隊員数を取組自治体数で単純に割ると1団体あたり約6.9人なので、8人は平均をやや上回る規模である。熊本県内には御船町の17人や芦北町の13人、津奈木町の10人のように二桁を受け入れている自治体もあるため、8人という規模が県内で突出しているわけではない。極端に多くはないが、継続して受け入れている自治体という位置づけになる。

人数だけを見れば、同じ県内にもっと積極的な町がある。ただ協力隊という制度は頭数を競うものではなく、何を任せるかで性質が変わる。山都町の場合、その任せ方の説明が町の側の資料に残っている。

足りないのは働き手ではなく、つなぎ役だった

町が環境省の地域循環共生圏づくりの事業に出した計画には、地域の現状がこう書かれている。有機JAS農家数が全国1位であるため新規就農を目指す移住者が多い傾向にある、と。入ってくる人はいるのだ。そのうえで、少子高齢化率は県内で最も高く人材不足が顕著だと続く。熊本県内で高齢化が最も進んだ町が、同時に新規就農者を集めている構図になる。

問題として名指しされているのは、その両者が噛み合っていない点である。移住者による外からの新しい風と、町のSDGs関連事業者との有機的な連携やマッチングに至っていない、と計画は書く。結果として空き家や農地、事業承継といった課題が山積している。人は来ているが、来た人と地域の仕事が接続されていないという診断だ。

この種のずれは数字に出にくい。移住者数は増え、認証事業者は日本一で、観光の材料も揃っている。それでも空き家は使われず農地の引き受け手は決まらない。必要なのは作業をこなす人員ではなく、持ち主と希望者を突き合わせて話を進める役回りである。協力隊に期待されているのは、どちらかといえば後者だ。

受け皿として用意された協同組合

そこで町が立ち上げに動いたのが、特定地域づくり事業協同組合である。計画書はこれを、人材不足を補う受け皿と説明している。所属人数は3名から5名でスタートし、さらに5名から7名への拡大を目標として掲げている。季節ごとに忙しさが移る農村で、一つの事業者が通年雇用を抱えきれない場合に、組合が雇って複数の現場へ送り出す仕組みだ。

協力隊の役割も具体的に書かれている。活動が停滞していた空き家活用のために、20代の若手の地域おこし協力隊やIターン者を巻き込んで活動が活発化した、という記述がある。止まっていた案件を動かす起点として若い外部人材が置かれている。組んでいる相手の幅も広く、地域の事業者だけでなく自治体、高校と大学、地域金融機関が参加する産官学金のプラットフォームとして体制が描かれている。

学生に関わる記述もある。海外との交流を通じた環境インターンシップによる人財育成が、取り組む内容として挙げられているのだ。竹粉を使った土づくりから「かぐや米」のブランド化、米焼酎の海外展開までが一本の線でつながっており、どの工程にも外の目が必要になる。大学で農や環境を学んでいる学生にとっては、入り口が複数あるということになる。

任期が終わったあと、何人が残っているか

受け入れる側の本音は、任期後の数字に出る。総務省の調査によると、任期を終えた隊員のうちおよそ70.3パーセント、6,163人が同じ地域に定住している。熊本県に限ると、直近5年間に任期を終えた325人のうち228人が定住し、定住率は70.2パーセントで全国とほぼ同じ水準である。隣県と比べる材料としては、鳥取県が121人のうち84人で69.4パーセントだった。

区分 人数 割合
起業 2,296人 約46%
就業 1,753人 約35%
就農・就林 583人 約12%
合計(同一市町村内に定住) 5,038人 -

表は、直近5年間に任期を終えて活動地と同じ市町村内に定住した5,038人のなりわいの内訳である。起業が約46パーセントと最も多く、就農と就林は約12パーセントにとどまる。有機農業の町という看板から想像すると意外に小さい枠だが、裏を返せば、残った人の多くは農業そのものではなく自分の事業を立てている。山都町が組合やプラットフォームの整備を急いでいるのは、この起業の芽を受け止める先がないと人が流れてしまうからでもある。

規模の違う町の受け入れ方と比べると、設計の違いがわかりやすい。3人だけを受け入れている例は神山町の協力隊は3人だけ|徳島県81人の内訳と任期後の進路、4人の例は小布施町に協力隊が4人いる意味|長野県477人・74自治体の分布からにまとめてある。制度全体を若者の視点から眺めるなら過疎化と若者のUターン|885市町村と協力隊8196人の実際が入口になる。学生が地域の現場と関わる方法についてはFLASPOの事例も合わせて見てほしい。

よくある質問

山都町の協力隊は何人いますか。
総務省の令和7年度の調査では8人である。全国の隊員数8,196人を取組自治体数1,187団体で割った単純平均の約6.9人を少し上回る規模になる。

有機農業が盛んな町なのに人材不足なのはなぜですか。
町の計画では、新規就農を目指す移住者は多い一方で、少子高齢化率が県内で最も高いことが挙げられている。加えて移住者と地域の事業者のマッチングが進んでおらず、空き家や農地、事業承継の課題が残っていると説明されている。

特定地域づくり事業協同組合とは何をする組織ですか。
山都町の計画では、人材不足を補う受け皿として位置づけられている。所属人数を3名から5名、さらに7名へ広げる目標が示されており、季節で変動する仕事を組合が束ねて担う形が想定されている。

任期が終わったあと、熊本県ではどのくらい残っていますか。
直近5年間に任期を終えた325人のうち228人が定住し、定住率は70.2パーセントだった。全国の70.3パーセントとほぼ同じ水準である。

元の資料はどこで読めますか。
隊員数と定住状況は総務省「令和7年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」、町の現状と計画は環境省に提出された「山都町の地域循環共生圏づくり活動計画」、面積と人口は国土交通省の地域資源の資料で確認できる。


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