東京圏への流入は30年続いている
地方で働くという選択を考えるとき、まず人がどちらへ動いているかを押さえておきたい。総務省が2026年2月3日に公表した2025年の住民基本台帳人口移動報告によると、国内の市区町村間移動者数は519万548人で、前年より0.3%減った。
日本人の移動で見ると、東京圏は112,738人の転入超過で、30年連続の転入超過となった。前年からは6,599人縮小している。大阪圏は7,503人の転入超過で3年連続、名古屋圏は9,561人の転出超過で13年連続である。三大都市圏を合わせると110,680人の転入超過になる。
読み取れるのは、流れが細くなっても向きは変わっていないということである。東京圏へ向かう量は前年より減ったが、依然として11万人規模で人が集まっている。地方で働く道を選ぶ人は、全体の流れに逆らう側に立つ。だからこそ、勢いではなく手順で考える必要がある。
もう一点、この統計は住民票の移動を数えたものである。住民票を動かさない滞在や、二つの地域を行き来する暮らしはここに現れない。数字に出ない関わり方があることを前提に置くと、地方との距離の取り方は転入か転出かの二択より広い。
言葉の出どころを押さえておく
「リージョナルキャリア」という言い方は、求人サイトや転職の記事で一般名詞のように使われている。ただし、法令や統計に定義が置かれた用語ではない。地方での転職支援を手がける民間企業がサービス名として使ってきた言葉が、意味だけ切り離されて広がったという経緯がある。
同社が2026年の4月から6月の期間について公表した実績では、支援した転職者269人のうち118人がUターンまたはIターンで、比率は43.9%だった。入社から6か月以上の定着率は95.7%、平均提示年収は554万975円とされている。
注意したいのは、これが特定のサービスを使った人の集計だという点である。地方転職をした人全体の平均ではなく、年収の水準から見ても専門職や管理職に寄った集団と考えられる。語を借りて自分の計画を立てるなら、誰が何を集計した数字なのかを毎回確かめたい。
言葉の輪郭を自分で引いておくと混乱が減る。地域を移すことが主題なのか、専門性を続けることが主題なのか。前者なら住む場所の条件から、後者なら職種の求人から調べる順番になる。Uターン専門エージェントの見極め方で触れた求人の偏りも、この見分けと同じところにつながる。
地方の求人は少ないのではなく偏っている
「地方には仕事がない」という言い方は、統計と合わない。厚生労働省が2026年10月2日に公表した一般職業紹介状況の令和8年8月分では、全国の有効求人倍率は1.18倍(季節調整値)だった。都道府県別の就業地別で最も高いのは福井県の1.72倍、最も低いのは大阪府の0.95倍である。
つまり倍率だけを見れば、大都市圏より高い県がいくつもある。同じ月の新規求人倍率は2.06倍、正社員に限った有効求人倍率は1.00倍だった。正社員の枠で見ると、全国平均では求職者と求人がほぼ同数というところに落ち着く。
都道府県別の数字を読むときは、集計の取り方を確かめる必要がある。ハローワークが求人を受け付けた場所で数える受理地別と、実際に働く場所で数える就業地別では、同じ月でも値が変わる。本社が東京にあり勤務地が地方という求人は、どちらで数えるかによって別の県に乗る。
倍率が高い県は人手が足りない県であり、自分の職種の求人が多い県とは限らない。介護や建設で枠が開いていても、企画や研究の職が同じ比率で開いているわけではない。県単位の倍率は背景として押さえ、職種ごとの件数で見直すのが実務的である。都道府県別の就職の見方も、この二段構えを前提にしている。
地方で働く入り口は転職だけではない
専門性を地方で活かす形は、中途採用の一本道ではない。公的な制度や短期の受け入れを含めると、入り口はいくつかに分かれる。それぞれ対象も期間も違うため、直近の数字と出どころを並べて比べておきたい。
| 入り口 | 形と期間 | 直近の数字 | 出どころ |
|---|---|---|---|
| 新卒で地元に就く | 在学中に決める | 地元就職の希望58.7%(2027年卒予定者) | 民間調査 |
| 中途で地方へ移る | 転職支援や直接応募 | 利用者のUIターン比率43.9% | 支援会社の公表 |
| 地域おこし協力隊 | 最長3年の委託や雇用 | 隊員8,196人・1,187団体 | 総務省(令和7年度) |
| お試しとインターン | 2泊3日から3か月 | おためし1,450人・インターン1,414人 | 総務省(令和7年度) |
| 二地域居住 | 住まいを二つ持つ | 市町村の特定居住促進計画が各地で策定 | 国土交通省 |
このうち地域おこし協力隊の隊員数等の資料は、総務省が令和8年4月24日に出したものである。令和7年度の隊員数は前年度から286名増えて8,196人、取組自治体数は11団体増の1,187団体で、受入可能な1,461団体の約81%にあたる。年齢では20歳代が33.6%と最も多い。
同じ資料には任期を終えた後の動きも載っている。直近5年間に任期を終えた隊員のうち、およそ70.3%にあたる6,163人が同じ地域に定住した。活動地と同一の市町村内に住み続けた隊員は5,038人である。報償費が止まった後に何で稼ぐかは別の論点だが、地域に残る道筋自体は数字として存在する。
学生のうちに確かめておく三つのこと
在学中に地方での就職を考える人は少なくない。マイナビが2026年5月15日に公表した2027年卒の学生を対象にした調査では、有効回答2,800名のうち地元での就職を希望する割合が58.7%で、前年より2.3ポイント増えた。4年ぶりの増加である。地元の外へ進学した学生に絞ると、現時点で地元就職を希望する層が49.3%、希望しない層が44.3%とされ、ほぼ二分されている。
地元を離れて進学した学生の中で意向が割れているなら、迷っている側に要るのは気持ちの整理ではなく材料である。まず確かめたいのは職種別の求人である。県単位の倍率ではなく、自分が就きたい職の募集が何件あり、どの時期に出るかを見る。地方の中小企業は通年で動くことも多く、募集の波が都市部と揃わない。
二つ目は、賃金と生活費を同じ年の資料で並べることである。家賃が安いことと手取りが残ることは別で、車の維持費が加わると差は縮む。三つ目は、現地に行く回数を先に決めておくことである。就職活動の山と重ならない時期に短期の滞在を入れておけば、求人票では見えない通勤や買い物の条件が分かる。地域と関わる入り口の事例はFLASPOでも紹介している。
この三つはいずれも在学中に手を動かせる作業である。逆に、卒業後に動き始めると、情報を集めながら選考を受けることになり判断が粗くなる。地方就職の現状で確かめた東京圏への集中も、20代前半に偏っている。動く時期が限られているという前提で段取りを組みたい。
よくある質問
地方の求人倍率が高い県を選べば就職しやすいか。倍率は求人数と求職者数の比であり、職種の内訳までは示さない。福井県の1.72倍という値は人手の不足を表すが、その不足が自分の専門と重なるかは別に確かめる必要がある。県の倍率は入り口の広さ、職種別の件数は自分が通れる幅と考えると整理しやすい。
新卒で地方に行くか、都市で数年働いてから移るかで迷っている。どちらが有利と言える材料は公表されていない。判断の材料になるのは、移るときに持っていける技能の形である。資格や設備に依存しない仕事は移りやすく、特定の取引先や社内の事情に結びついた仕事は移しにくい。自分の業務がどちらに近いかで考える。
地域おこし協力隊は専門職の経験に数えられるか。活動内容によって大きく変わる。広報や商品開発のように成果物が残る活動なら職務経歴として説明できるが、集落支援の比重が大きい活動は実績の形が見えにくい。募集要項に書かれた業務と、任期中に残せる記録の形を応募前に確認しておきたい。
住民票を移さずに地方の仕事に関わることはできるか。副業や業務委託、二地域居住という形がある。国土交通省は二地域居住の推進にあたって市町村が特定居住促進計画をつくる仕組みを設けており、住まいを二つ持つ人を支える制度が整いつつある。収入の柱を都市に残したまま関わりを始める選び方は、現実的な一手である。
年収が下がることは避けられないか。支援会社が公表した平均提示年収554万975円はサービス利用者の値で、全体の相場ではない。地方の企業でも専門職の採用では都市部に近い水準が出ることがあり、業種と役割で幅が大きい。求人票の金額だけでなく、通勤時間と住居費を引いた後に残る額で比べるほうが実態に近い。
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