任期のあとに最も多く選ばれている商売が、これである
集落の寄り合いで出した汁物が思いのほか好評で、空いている古民家の話まで出てくる。三年目に入ると、この種の流れがどこかで一度は起きる。実際に店まで行き着いた人は少なくない。
総務省地域力創造グループ地域自立応援課「令和7年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」令和8年4月24日によれば、直近五年に任期を終えて活動地と同じ市町村に定住した隊員5,038人のうち、起業したのは2,296人で45.6パーセントを占める。その起業の内訳で最も人数が多いのが飲食サービス業で、古民家カフェや農家レストランなどを含めて308名である。二番目の美術家やデザイナー等の217名、三番目の宿泊業181名を上回る。
引き継ぐ形もある。同じ資料の事業承継の欄は70名で、内訳として伝統工芸の承継、民宿の承継、飲食業の承継等が挙げられている。閉めるつもりだった店を任期中に手伝い、そのまま受け継ぐという経路がここに入る。新しく建てるより、すでに許可が下りている施設を引き取るほうが現実的な場面は多い。
32ある許可業種の第1号が「飲食店営業」である
店を開く前に通るのは保健所である。何の許可を取るのかは、法律ではなく政令の一覧で決まっている。
食品衛生法施行令第35条は、都道府県が施設についての基準を定めるべき営業を32の号で列挙している。その第1号が飲食店営業で、同令第34条の2第2号はこれを「食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業」と定義している。調理をするか、席を設けて食べさせるか、どちらかに当たれば入る。
施設の基準そのものは国が直接決めていない。食品衛生法第54条は、都道府県が厚生労働省令で定める基準を参酌して、条例で公衆衛生の見地から必要な基準を定めなければならないとしている。同法第55条第1項により、この営業を営もうとする者は都道府県知事の許可を受ける。知事は施設が基準に合うと認めるときは許可をしなければならないが、同条第2項は、この法律に違反して刑に処せられ執行が終わった日から2年を経過しない者などには許可を与えないことができると定める。許可には第4項により5年を下らない有効期間その他の条件を付けることができる。
手続き・義務
根拠
内容
施設の基準
法第54条
都道府県が条例で定める
営業許可
法第55条
都道府県知事の許可。有効期間は5年を下らない
許可が要る業種
令第35条
32業種。飲食店営業は第1号
許可が要らない営業の届出
法第57条
あらかじめ名称と所在地等を届け出る
申請書の記載事項
規則第67条
営業の種類と形態、責任者、施設の図面など
食品衛生責任者
規則別表第17
営業者が定める。講習会の受講等で要件を満たす
衛生管理の義務
法第51条
基準に従い公衆衛生上必要な措置を定めて遵守
申請書に書く欄が、そのまま準備することの一覧になる
保健所に出す紙を先に見ておくと、何を決めておく必要があるかが分かる。空欄のままでは出せない項目が、準備の順番を示している。
食品衛生法施行規則第67条は、許可の申請書に記載する事項として、申請者の氏名と生年月日と住所、施設の所在地と名称や屋号、申請する営業の種類と形態および主として取り扱う食品や添加物に関する情報、食品衛生管理者または食品衛生責任者の氏名と資格の種類と受講した講習会、施設の構造および設備を示す図面などを挙げている。水道以外の水を使う場合は、水質検査の結果を証する書類の写しも添える。
人の要件は別表第17が定める。同表第1号イは、営業者が食品衛生責任者を定めることとし、ロはその資格を列挙している。食品衛生監視員や食品衛生管理者の資格要件を満たす者、調理師、製菓衛生師、栄養士、管理栄養士、船舶料理士などに加えて、都道府県知事等が行う講習会または知事等が適正と認める講習会を受講した者が挙げられている。調理の資格を持っていなくても、講習の受講で要件を満たせる形になっている。井戸水を使うかどうかと、図面に落とせるだけ厨房の配置が固まっているかが、着工前の分かれ目になりやすい。
開けたあとに続く義務のほうが、実は長い
許可は入口でしかない。営業を続けている間、衛生管理の計画を自分で持っていることが求められる。
食品衛生法第51条第1項は、施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置について、厚生労働省令で基準を定めるものとしている。基準の対象は二つで、一つは施設の内外の清潔保持、ねずみおよび昆虫の駆除その他一般的な衛生管理であり、もう一つは食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組である。同条第2項により、営業者はこの基準に従って措置を定め、遵守しなければならない。
小さな店には緩やかな道が用意されている。第51条第1項第2号の括弧書きは、小規模な営業者その他の政令で定める営業者については「その取り扱う食品の特性に応じた取組」でよいとしており、食品衛生法施行令第34条の2第2号が飲食店営業を行う者をこれに含めている。工程ごとの厳密な管理計画ではなく、扱う料理に合わせた記録で足りるという整理である。なお同条第3項は、都道府県知事等が基準に反しない限り条例で必要な規定を定めることができるとしているため、地域によって上乗せがある。
任期の側から出るお金と、延びた期限
開業資金をどう組むかという段になると、制度の側にも動きがあったことが分かる。令和8年度から措置の幅が広がっている。
総務省「地域おこし協力隊について」によれば、隊員等の起業・事業承継に要する経費の特別交付税措置は、任期2年目から任期終了後3年以内の起業・事業承継を対象とし、上限は1人あたり100万円である。令和7年度までは任期終了後1年以内が対象だったものが3年以内に広がった。さらに、起業の場合に1人以上の新規雇用、事業承継の場合に承継する事業に係る雇用数の維持を行った場合は、上限が200万円に引き上げられた。人を雇う前提の店なら、この差は小さくない。
任期そのものを延ばす特例も新設された。地域協力活動として地場産業等に従事する隊員が、任期終了後にその地場産業等に係る起業・事業承継を行うため3年を超えて活動の継続を希望し、自治体が延長が必要と認めた場合には、活動に要する経費の措置対象期間を2年を上限として延長でき、最長5年になる。要件は三つで、その地場産業等が地域における存続・継承が必要なものとして受入自治体が認めるものであること、起業では1人以上の新規雇用または事業承継では雇用数の維持を行うこと、活動地と同一市町村内に定住しかつ同一市町村内で起業・事業承継を行うことである。隊員の活動に要する経費の上限は1人あたり550万円で、報償費等350万円とその他活動経費200万円に分かれている。
開く先の市場は小さくない。厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課「飲食店概要」によれば、令和6年3月末現在の営業許可施設数は142万7,208施設で、前年度より11,225施設増えている。数が増え続けている業種に入っていく形になるため、何を出すかよりも、どこで誰に向けて出すかの設計が先に来る。学生のうちから地域の生業に関わっておくと、この設計の精度が上がる(FLASPO)。
よくある質問
閉める店を引き継ぐ場合、許可を取り直すのか。食品衛生法第56条第1項は、許可営業者が営業を譲渡したとき、相続や合併や分割があったときに、譲り受けた者や相続人などが許可営業者の地位を承継すると定めている。同条第2項により、その事実を証する書面を添えて遅滞なく都道府県知事に届け出る。設備も許可もそのまま使える経路があるため、承継は検討に値する。
移動販売やイベントの出店はどう扱われるのか。自動車において調理をする営業については、規則第67条第2号が施設の所在地の代わりに自動車登録番号を記載するとしており、許可の枠組みの中にある。出店の形ごとに保健所の判断が分かれるため、計画の段階で相談しておくほうが早い。
許可が要らない営業もあるのか。食品衛生法第57条第1項は、第54条に規定する営業と公衆衛生に与える影響が少ない営業で政令で定めるもの、食鳥処理の事業を除いた営業について、あらかじめ営業所の名称と所在地その他の事項を都道府県知事に届け出なければならないと定めている。包装された食品だけを売るような形は届出で済む場合がある。ただし調理をして食べさせるなら許可の側に入る。
農家レストランは別の制度になるのか。前掲の総務省資料は飲食サービス業の例として古民家カフェと農家レストランを並べており、起業の分類としては同じ欄に入っている。扱う食品や加工の範囲によって必要な許可が変わるため、提供する品目を決めてから業種を確かめる順番になる。
他の業種と比べて考えたい場合は、宿を開く場合の三つの法律を見た記事と、業種別の分布を数えた記事、行政側に回る人を見た記事が参考になる。
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