「フォロワーが増えません」の前に確かめること
町の観光協会からInstagramの運用を手伝ってほしいと言われ、週に3本ずつ写真を上げて半年。フォロワーは300人で止まり、担当の職員からは数字が伸びていないと言われる。学生がこの状態に入ると、投稿の頻度や写真の質を上げる方向に走りがちだ。
ただ、行政や公的な団体のアカウントは、企業のアカウントとは違う決まりの上に乗っている。何を出してよくて何を出さないか、返信をするのかしないのか、書き込みを消す基準をどこに置くのか。こうした条件が先に決まっていて、そこを外した運用は数字が動いても続かない。
ここでは国の省庁が公開している運用方針と、住民側の利用実態を示す統計を手がかりに、自治体のSNSに学生が関わるときの前提を組み立てていく。
省庁のアカウントは「返信しない」と書いてある
行政のSNSがどう設計されているかは、総務省公式SNS等の運用方針を読むのが早い。この方針はX・Facebook・YouTube・Instagram・noteの5つを対象に、アカウントの目的と運用の仕方を定めている。基本方針には、業務・取組・行事の更新情報等を発信することを通じて省の理解を深めてもらうことが目的だと書かれている。
注目したいのは、その次の一文だ。公式アカウントは専ら情報発信を行うものとし、原則として返信等は行わず、意見・問い合わせは別に設けた受付窓口で受けるとされている。つまり対話をしない前提で立てられている。運用の担当も大臣官房政策評価広報課広報室と明記されており、誰が出すかが特定されている点も企業のアカウントと違う。
発信する情報の範囲も限定されている。省のホームページの掲載内容である報道資料等、アカウント自体に関する情報、そのほか国民のニーズが高い情報や周知の必要がある情報、という三つの枠だ。緊急時については、東日本大震災のように平時と異なる対応が必要とされる場合、政府機関や地方公共団体、外国の政府機関等が発信する関連情報についても必要に応じてフォローやリポストを行うと定めている。
| 項目 | 方針が定めている内容 |
|---|---|
| 目的 | 業務・取組・行事の更新情報等の発信を通じた理解促進と利便性の向上 |
| 返信 | 専ら情報発信を行い、原則として返信等は行わない |
| 意見・問い合わせ | 公式アカウントではなく、別に設けた受付窓口で受ける |
| 発信する情報 | 報道資料等の掲載内容/アカウントに関する情報/ニーズの高い情報と周知が必要な情報 |
| 緊急時 | 平時と異なる対応が必要な場合、政府機関・地方公共団体・外国政府機関等の情報もフォローやリポスト |
| 投稿の扱い | 予告のない運用中止、ポストやコメントの削除、アカウント自体の削除を行う場合がある |
自治体にも同じ形の運用方針や運用ポリシーがあることが多く、多くは公式サイトに置かれている。手伝う前にこれを一度通して読んでおくと、後から「それは出せない」と戻される回数が減る。
誰に届くのかを、利用率の実数から決める
媒体を選ぶ場面で感覚に頼ると、たいてい自分の周りの使い方に寄ってしまう。総務省の令和7年版情報通信白書は、コミュニケーション手段としてのSNSの広がりを年代別に示している。LINEの利用率は全体で2014年の55.1パーセントから2024年には94.9パーセントへ上がり、60代でも2014年の11.3パーセントから2024年には91.1パーセントまで伸びた。
XとInstagramの位置づけは違う。白書は、全般的に若年層の利用率が高い傾向にあると述べつつ、2024年にはXとInstagramを全体の半数程度が利用し、50代でも4割以上が使うようになったと整理している。いずれも総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を基にした数字だ。
この並びを前提にすると、媒体の役割分担が決まる。住民全体に確実に届けたい連絡はLINEに寄せ、まだ関係のない人に地域を見つけてもらう入口にはInstagramやXを使う、という切り分けだ。どの媒体でも同じ文面を流すと、前者では情報が流れすぎ、後者では硬すぎて止まる。学生が最初に提案して通りやすいのは、投稿本数を増やす案ではなく、この切り分けの案である。
発信を担っている人の数を知っておく
地域の発信は、広報担当の職員だけが抱えているわけではない。総務省の資料によれば、地域おこし協力隊の隊員数は令和7年度で8196人にのぼり、地域未来戦略では隊員数を1万人とする目標が掲げられている。隊員の多くは移住して地域協力活動にあたる立場であり、発信はその仕事の一部に組み込まれることが多い。
ここに学生が入る余地がある。協力隊が3年の任期で地域に住みながら動くのに対し、学生は在学中の数か月から数年を使う。撮影や編集、学内での告知のように短い期間で区切れる工程は、学生が受けやすい。協力隊という制度自体の条件を知りたい場合は、地域おこし協力隊とは?給料・任期・なるための3ステップ解説に給料と任期の整理があり、募集の探し方は地域おこし協力隊の募集の探し方・応募方法を大学生・20代向けに徹底解説にまとまっている。
自治体側の窓口から入る道もある。企画課や地方創生推進室のような部署が学生の受け入れ枠を持っていることがあり、そこから広報の仕事に合流する形になる。窓口の探し方は地方創生に関わる学生団体の入り口|自治体の推進組織と短期の枠で短期の枠まで触れている。地域と学生をつなぐ取組はFLASPOでも扱っており、最初の連絡先を押さえるだけで動き出しが変わる。
受けてよい工程と、受けてはいけない工程
学生が関わるときにいちばん危ないのは、権限の切れ目が曖昧なまま作業が進むことだ。運用方針が予告のない削除や運用中止まで想定しているのは、アカウントが組織の名前で発言する装置だからである。その重さは、投稿する人が学生か職員かでは変わらない。
受けやすいのは、素材を作る工程と整える工程だ。写真や動画の撮影、文字起こし、原稿の下書き、掲載候補の整理、反応の集計。いずれも成果物が形で残り、確認を経てから世に出る。逆に、投稿ボタンを押す権限や、住民からの問い合わせに答える役は、学生が単独で持つべきではない。総務省の方針が意見と問い合わせを別の窓口に分けているのは、答える責任を発信の担当から切り離すためだ。
引き受ける範囲を決めるとき、肖像と著作権の扱いも先に確認しておきたい。総務省の方針は、利用者が投稿したコメント等の著作権は投稿者本人に帰属するとしつつ、投稿されたことをもって無償で非独占的に使用する権利を許諾したものとみなすと書いている。行政の側がここまで明文化していることを知っていれば、地域の人を撮った写真をいつまで誰が使えるのか、という話を自分から出せる。
よくある質問
問:自治体に運用方針が見つからない。どうすればよいか。答:公式サイトの広報関連のページか、アカウントのプロフィール欄のリンクを探す。見つからない場合は、担当職員に「運用ポリシーはありますか」と聞くのが確実だ。無い場合もあるので、そのときは総務省の方針を叩き台にして項目を並べ、確認を取る形にできる。
問:フォロワー数以外に、何を成果として報告すればよいか。答:届いた相手の内訳と、行動につながった数を分けて出す。白書が示すように年代ごとの利用率は媒体でまったく違うので、狙った年代に届いたかどうかは媒体別に見ないと判断できない。イベントの申込や窓口への問い合わせの件数と並べると、投稿の役割が説明しやすくなる。
問:炎上が心配だと言われて始められない。答:返信をしない設計にしておくことが最初の備えになる。省庁の方針が原則として返信を行わないと定めているのは、やりとりを避けるためではなく、答える場所を一か所に集めるためだ。問い合わせの受け皿を先に決めておけば、アカウント側で判断する場面が減る。
問:LINEとInstagramのどちらから始めるべきか。答:目的で決まる。既に住んでいる人への連絡ならLINEが強く、60代でも9割を超える利用率がある点が効く。まだ地域を知らない人に見つけてもらう段階ならInstagramやXに寄せる。両方を同時に始めて続かなくなるより、片方を半年続けたほうが判断材料が残る。
問:学生が関わった実績は、どう記録しておけばよいか。答:担当した工程と期間、扱った媒体、確認を受けた相手を書き残す。投稿そのものは消えることがあるので、原稿と撮影データは自分の手元にも置いておく。協力隊や自治体の事業と並走していた場合は、その事業名も添えておくと後から位置が示せる。
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