民泊と農泊は何が違うのか|届出4万2,587件と673地域を分けるもの

片方は法律の名前、もう片方は政策の名前

宿を探していて「民泊」と「農泊」が並んで出てくると、どちらも同じ種類の選択肢のように見える。ところが2つの言葉は、そもそも同じ層の話をしていない。民泊は宿を開くための手続きの話で、農泊は旅の中身を指す政策の言葉である。

観光庁の民泊制度ポータルサイトは、民泊を行う方法は3つあると整理している。旅館業法の簡易宿所営業(許可/厚生労働省)、国家戦略特別区域法の特区民泊(認定/内閣府)、そして住宅宿泊事業法いわゆる民泊新法(届出/国土交通省・厚生労働省・観光庁)である。一般に民泊と呼ばれているのは3番目で、届出で始められる点が特徴になる。

いっぽう農泊は、農林水産省が「農山漁村に宿泊し、滞在中に地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ農山漁村滞在型旅行」と定義する取り組みの名前である。つまり農泊の宿も、営業の根拠はやはり旅館業法か住宅宿泊事業法のどちらかに置かれる。両者は対立する選択肢ではなく、片方が器、もう片方が中身という関係にある。

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3つの方法を手続きと日数で並べる

器の側を比べるとき、効いてくるのは手続きの重さと営業できる日数である。届出で済むかわりに日数に上限がある、許可が要るかわりに上限がない、というのが大きな分かれ目になる。

項目 旅館業法(簡易宿所) 特区民泊 住宅宿泊事業法
手続き 許可 認定 届出
所管 厚生労働省 内閣府(厚生労働省) 国土交通省・厚生労働省・観光庁
住居専用地域での営業 不可 可能(自治体が制限する場合あり) 可能(条例で制限される場合あり)
営業日数 制限なし 2泊3日以上の滞在が条件(年間上限なし) 年間提供日数は180日以内
最低床面積 延床33平方メートル(宿泊者10人未満は1人3.3平方メートル) 原則1室25平方メートル以上 1人3.3平方メートル
不在時の管理業者への委託 規定なし 規定なし 規定あり
出典:観光庁「民泊制度ポータルサイト 民泊制度とは」

宿泊者名簿の作成と保存は3つとも義務で、玄関帳場の設置義務はいずれにもない。近隣住民とのトラブル防止も共通して求められ、住宅宿泊事業法では宿泊者への説明と苦情対応が事業者の義務になる。年間180日という上限は、住宅を住宅のまま使うという建前から来ているので、通年で宿として回したいなら旅館業法の側へ移ることになる。

民泊の規模は届出4万2,587件、泊数の6割は外国人

住宅宿泊事業者は届出住宅の宿泊日数等を2か月ごとに都道府県知事等へ報告する義務があり、観光庁がそれを集計して公表している。令和8年9月30日に出た住宅宿泊事業の宿泊実績について(令和8年6月−令和8年7月)が、いまのところ最も新しい実測値である。

届出住宅数は7月31日時点で42,587件、報告件数は36,197件で報告率85.0パーセント。2か月間の宿泊日数の合計は557,439日、前年同期比で129.3パーセントにあたる。届出住宅1件あたりに割り戻すと15.4日で、180日の上限に対してかなり余裕がある水準にとどまっている。宿泊者数は582,162人、延べ宿泊者数は1,627,034人泊で、1件あたり45.0人泊だった。

宿泊者の内訳を見ると、日本国籍を有する人が247,473人で42.5パーセント、外国人が334,689人で57.5パーセント。外国人の国籍別は米国48,809人、韓国48,624人、台湾46,981人、中国31,568人、香港21,545人の順で、上位5か国・地域で外国人宿泊者の59.0パーセントを占める。地域別では東アジアが44.4パーセント、北米16.7パーセント、欧州11.3パーセントだった。都道府県別の宿泊日数は東京都286,731日、北海道84,684日、福岡県23,492日の順。ただし届出住宅あたりの宿泊者数では和歌山県が45.7人で首位に立ち、福井県が35.7人で続く。件数の多さと1軒あたりの回り方は別の話である。

農泊の規模は673地域、1泊あたりの単価が課題

中身の側はどうか。農林水産省の農泊の現状は、農泊地域における令和6年度実績調査(令和7年10月実施)をもとに推移を示している。地域数は平成29年度の206地域から令和6年度の673地域へ増え、延べ宿泊者数は同じ期間に190.3万人泊から867.6万人泊になった。令和6年度の867.6万人泊のうち、日本人が792.7万人泊、外国人が74.8万人泊である。

途中には落ち込みもある。令和元年度に589.2万人泊まで伸びたあと、令和2年度は390.6万人泊、令和3年度は448.3万人泊と下がり、令和4年度に610.8万人泊、令和5年度に794.2万人泊へ戻した。外国人の泊数はもっと激しく振れていて、令和2年度は1.9万人泊、令和3年度は0.9万人泊まで落ちている。国の目標は令和11年度の1,200万人泊で、資料はインバウンドと再訪者の取り込みを前提に置いている。

泊数とは別に、単価が課題として挙げられている。農泊地域の1泊あたり平均宿泊費は13,196円で、観光庁の旅行・観光消費動向調査(2024年)による観光全体の平均宿泊費18,940円を下回る。分布を見ると平均宿泊費が低い層に山があり、資料は農泊の高付加価値化を課題と書いている。都道府県ごとの偏りについては農泊はどの県に多いのかで、受け入れ側の事情については農泊のメリットは何かで詳しく扱っている。

農家民宿だけが積み上げてきた緩和の束

農泊の宿が民泊と最も違うのは、農家民宿という形に対して20年以上かけて規制が緩められてきた点である。農林水産省が整理した農家民宿関係の規制緩和は、その積み上げを一覧にしている。

核になるのは平成15年の面積要件の撤廃である。簡易宿所の民宿を開くには33平方メートル以上の客室面積(宿泊定員×3.3平方メートル)が必要だったところ、農林漁家が営む場合はこれに満たない面積でも簡易宿所営業の許可を得られるようになった。対象の書き方は平成28年に「農林漁業者又は農林漁業者以外の者がその居宅で営む」へ、平成30年に「農林漁業体験民宿業に係る施設」へと改められている。併せて、農山漁村余暇法に基づく農林漁業体験民宿業者の登録は、平成17年に農林漁業者やその団体以外が運営するものへ対象が広がり、平成30年には住宅宿泊事業法の届出によっても登録を受けられるようになった。器の側で民泊新法を選んでも、中身の側で余暇法の登録に乗れるという意味になる。

緩和は宿の構造だけではない。宿泊サービスの一環として行う送迎輸送や周遊案内は原則として道路運送法の許可対象外だと明確化され、農家民宿が自ら提供する運送・宿泊サービスに農業体験を付けて売ることは旅行業法に抵触しないと示された。消防法の設備基準は地元の消防長等の判断で誘導灯等を省ける扱いになり、建築基準法では小規模で避難上支障がなければ新たな内装制限を適用しないことが明確になっている。食品衛生法では、既存の家屋で営む場合に食事数や講習会の受講により施設基準を緩められるよう都道府県へ要請が出され、農林漁業体験時の食事が全て自炊か農林漁業者等との共同調理であれば営業許可が不要だと平成22年に明確化された。自ら育てた米でどぶろくを造れる特区も平成15年から続いている。学生が受け入れ先を探すとき、この束の存在を知っていると、宿の規模が小さい理由も体験と食事が組み合わさっている理由も見当がつく。入口の探し方は農業体験をガクチカにするにはで扱っており、地域体験の窓口としてはFLASPOのような場も使える。

よくある質問

農泊の宿に泊まるとき、民泊とは別の法律で営業しているのですか。いいえ。農泊は旅の形を指す政策の言葉で、宿そのものは旅館業法の許可か住宅宿泊事業法の届出に基づいて営業しています。農林漁業体験民宿業者の登録は農山漁村余暇法によるもので、営業の根拠そのものを置き換えるわけではありません。

180日の上限は農家民宿にも当てはまりますか。住宅宿泊事業法の届出で営んでいる場合は、年間提供日数180日以内という上限がかかります。旅館業法の簡易宿所営業の許可を受けているなら日数の制限はありません。どちらの手続きで営業しているかによって答えが変わります。

農泊の宿が小さいのはなぜですか。平成15年に農林漁家の民宿について33平方メートルの面積要件が撤廃され、それに満たない客室面積でも簡易宿所営業の許可を得られるようになりました。住宅の一部をそのまま使える前提で制度が組まれているため、客室数の少ない宿が成り立ちます。

体験の食事は誰が作るのですか。食品衛生法の扱いが明確化されており、農林漁業体験時の食事が全て自炊の場合、または農林漁業者等との共同調理の場合は、営業許可が不要とされています。飲食物を提供する形をとる場合は飲食店営業の許可が必要で、既存の家屋では食事数や講習会の受講によって施設基準が緩められることがあります。

数字を比べるとき、何に注意すればよいですか。民泊の数字は届出住宅という「軒」を単位に2か月ごとに集計され、農泊の数字は「地域」を単位に年度ごとに調べられています。単位も期間も違うので、42,587件と673地域を直接並べて優劣を論じることはできません。比べるなら、1軒あたりの宿泊日数や1泊あたりの単価のように、割り戻した指標を使うほうが実像に近づきます。


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