70年で1万人減った町が、いま数えている人数
熊本県阿蘇郡小国町の人口は、1955年に16,476人だった。これがピークである。平成に入って減少が顕著になり、1989年に1万人を下回った。内閣府に提出された第2期小国町まち・ひと・しごと創生推進計画によれば、住民基本台帳で2024年5月には6,381人になっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2040年に4,474人、2050年に3,579人まで下がると見込まれている。
内訳を見ると減り方の形が分かる。年少人口(0から14歳)は1980年の2,386人から2020年の699人へ、生産年齢人口は1980年の6,935人から2020年の3,114人へ減った。一方で65歳以上は1,492人から2,777人に増えている。自然動態では、出生数が2008年の64人から2022年には23人まで落ち、同年の死亡数は128人で、自然増減は105人の減となった。社会動態は1985年に75人の社会減となって以降、毎年続いており、2023年は378人の減だった。計画は、その主な原因を根幹産業である林業の衰退と経営の老年化、施設の老朽化による雇用機会の減少としている。高齢化率はすでに40パーセントを超え、町独自の推計では2040年に50パーセントの水準になると見込まれている。
2060年に5,000人。目標の置き方が具体的である
注目したいのは、町が掲げた数値目標の立て方である。2025年度から2029年度までの第3期総合戦略に合わせ、計画は達成すべき指標を数字で並べている。人口の目標は「2060年の人口を5,000人に維持」で、その途中の到達点として2029年度の人口を置いている。
| 指標 | 基準値(計画開始時点) | 目標値(2029年度) |
|---|---|---|
| 人口(2060年に5,000人を維持する途中値) | 6,590人 | 6,113人 |
| 1人当たり町民年間所得 | 2,204千円 | 2,500千円 |
| 社会増減 | ▲378人 | ±0人 |
| 年間の観光入込客数 | 55万人 | 80万人 |
| 年間の観光消費額 | 17億円 | 25億円 |
| 合計特殊出生率 | 0.99 | 2.07 |
| 年間出生児数 | 20人 | 50人以上 |
| 子育てしやすいまちと感じる人の割合 | 57.4% | 70%以上 |
人口を増やすと書いていないところが実際的である。6,590人から6,113人への減少を織り込みつつ、社会増減だけは±0に戻すという置き方になっている。転出を止めれば、残りは自然減のぶんに収まるという設計である。合計特殊出生率0.99から2.07という目標はかなり遠いが、年間出生児数20人から50人以上という数字と並べると、町の規模では30人の差が指標を大きく動かすことも見えてくる。
地熱は、掘る前に話し合う枠組みから始まった
小国町は火山帯にあり、涌蓋山の地下を熱源とする地熱資源は全国有数の賦存量が推定されている。ただし資源があることと、それを事業にできることは別である。開発が相次げば温泉の枯渇が心配になる。SDGs未来都市の取組成果によれば、町はその懸念を払拭するため、令和2年度に「小国町地熱資源活用協議会」を設立した。さらに町内で地熱開発を行う5社と、不測の事態に備える協定を締結し、共通のモニタリング事業を実施している。無秩序な開発を抑えるための仕組みを先に作り、そのうえで令和6年3月に町内2つ目となる地熱発電所の稼働が始まった。
事業の受け皿として、町が出資する地域新電力会社のネイチャーエナジー小国株式会社が置かれている。計画は、発電を軸にしたエネルギー活用と熱供給事業を進め、経済の内部循環を目指すとしている。企業との協定も一覧になっており、金融1行、地熱事業5社、森林事業11社、拠点整備1社と結んでいる。森林事業の社数が最も多いのは、もうひとつの資源がそちらにあるからである。
総面積の8割が森林で、産地の名前は小国杉
町の総面積の約80パーセントは森林である。古くから優れた木材の産地として発展し、その名前が小国杉として残っている。いま進めているのは、量を出す林業から単価を上げる林業への切り替えで、計画はスマート林業による労働力の負担軽減、林業従事者の確保、木材の高付加価値化を挙げている。森林資源そのものについては、計画的な管理による二酸化炭素の吸収量の増加を国土の強靭化と並べて位置づけ、Jクレジットの新規創出に向けた手続きを進めている。森林を切って売るだけでなく、吸収量を売れる形にして収入源をもうひとつ作るという発想である。
農業の側も同じ組み立てになっている。高冷地の気候を活かした野菜とジャージー牛による酪農を軸に、有害鳥獣対策と農地保全、スマート農林業による作業の効率化、新規加工品の開発と販路拡大を並べ、「小国ブランド」の拡大で農家と林家の所得を上げることを目標にしている。町民1人当たりの年間所得を2,204千円から2,500千円へという指標は、この積み上げに対応している。
学生を受け入れる側の体制が、すでに出来上がっている
小国町は2018年度に国からSDGs未来都市に選定されている。取組成果には教育の欄があり、小国小学校の5年生へのSDGs授業、小国中学校の7年生への林業に関する授業と課外授業が実施されたと記されている。外から来る人への受け皿も整っている。2024年にオープンしたSDGs推進施設のNISHIZATO TERASが拠点になり、大学や企業によるSDGs関連の視察を受け入れ、体験型のイベントも開いている。今後の展開策としては、SDGs体験コンテンツの造成と教育・視察旅行の受入が明記され、次世代の育成を目的とした教育の取組を深め、学生を中心とした地域内への広がりを作るとされている。
観光と移住の窓口も分かれている。2019年に設立されたASOおぐに観光協会が観光事業の中心にあり、2024年に発行された新しい千円札に北里柴三郎博士の肖像が採用されたことで注目度も上がった。移住希望者にはワンストップ相談窓口の「小国暮らしの窓口」があり、空き家バンクの紹介や就業のサポートを行っている。学生が関わるなら、視察や体験の受入を担っている拠点に当たるのが最短である。同じ規模で先に動いた町と比べて読むなら海士町と神山町の事例、人口の数え方を組み替えた例としては海士町の人口目標2,376人が参考になる。若者の転出入という観点では過疎化と若者のUターンが対応している。地域と学生の接点づくりはFLASPOでも扱っている。
よくある質問
2060年に5,000人という目標は現実的ですか。町が掲げた目標値であり、達成の見通しは公表資料からは判断できません。参考になるのは社人研の推計で、2050年に3,579人です。目標はこの推計を上回る水準を狙うもので、差を埋める手段として社会増減を±0に戻すことが指標に置かれています。
地熱発電でどれくらいの電力が作られていますか。発電量は今回参照した資料には記載がありません。確認できるのは、町内で地熱開発を行う事業者が5社あること、令和6年3月に町内2つ目の発電所が稼働したこと、町出資の地域新電力会社が事業の軸として置かれていることまでです。
学生が小国町に関わる入口はどこですか。SDGs推進施設のNISHIZATO TERASが視察と体験の受け皿になっています。今後の展開策にSDGs体験コンテンツの造成と教育・視察旅行の受入が挙がっているため、ゼミや研究室の単位で問い合わせる形が合います。移住を含む相談は「小国暮らしの窓口」が担当しています。
SDGs未来都市に選ばれると何が変わるのですか。小国町は2018年度の選定で、2030年に向けて「地域資源を活かし、循環型の社会と産業を創出し、将来にわたって持続可能な町」を目指すと整理されています。実務の面では、住民による会議体を含む協議の場が置かれ、北九州市と壱岐市とともにALL九州SDGsネットワークを設けて九州内の自治体と事例を交換する枠組みができています。
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