自治体の執務室に、よその会社の名刺が並んでいる
町役場の企画課に出勤してくる人が、通信会社や旅行会社の社員だという地域がある。出張ではなく、半年から三年のあいだ、その自治体の業務に就く。給与の出どころは企業のままという場合もあるし、個人として協定を結んで月に数日だけ通う場合もある。
制度の名前は「地域活性化起業人」で、総務省の地域活性化起業人のページに要件が置かれている。都市部の企業等と地方圏の自治体が協定を結び、社員を一定期間派遣する枠組みで、類型は三つある。企業から送り出す企業派遣型は受入自治体での勤務日数が月の半分以上、給与等の経費は自治体が負担し、国が年間610万円を上限に支援する。個人が本業を続けたまま関わる副業型は月4日以上かつ月20時間以上、滞在は月1日以上で、報償費と旅費あわせて1人あたり200万円が上限。令和7年度からは、定年退職した人を対象とするシニア型が加わった。
規模は増えている。総務省の令和7年度 地域活性化起業人の状況等によれば、令和7年度の人数は企業派遣型904人、副業型299人、シニア型12人で合計1,215人。前年度から344人増え、受け入れた自治体は538団体になった。令和3年度は395人・258団体だったので、4年で3倍を超えた。
半分近くが、同じ二つの分野に吸い寄せられている
人数が増えたからといって、仕事の中身が散らばったわけではない。活動分野の内訳を見ると、上から二つで全体の45パーセントを占める。
同じ資料に載っているカテゴリー別の内訳は次のとおりである。
| 活動分野 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| DX(自治体DX・地域社会DX) | 293人 | 24% |
| 観光振興・観光誘客対策・DMO設立等 | 253人 | 21% |
| 地域経済活性化・雇用対策・人材育成・企業誘致等 | 135人 | 11% |
| その他 | 94人 | 7% |
| 移住促進・都市農村交流・交流人口の拡大等 | 86人 | 7% |
| 地域産品の開発・販路開拓・拡大等 | 85人 | 7% |
| 教育 | 55人 | 5% |
| 広報業務 | 50人 | 4% |
| 総務(政策調整・行政改革等) | 35人 | 3% |
| GX(脱炭素等) | 35人 | 3% |
| 農林水産(農業・畜産業・林業・水産業振興等) | 34人 | 3% |
| 中間支援機能に関する業務 | 22人 | 2% |
| 衛生(保健衛生・環境等) | 15人 | 1% |
| 土木(道路橋りょう・住宅・空き家対策等) | 14人 | 1% |
| 民生(子供子育て・福祉・災害対応等) | 9人 | 1% |
空き家対策に14人、子育てや福祉に9人という並びは、地域の課題の重さとは一致しない。企業の側が送り出せる人材の専門性に引っぱられた結果だと読むのが素直で、DXと観光に厚いのは、そこに売り物を持つ企業が多いということでもある。裏を返せば、残りの分野は外部人材の空白地帯である。
送り出す側の顔ぶれは475社まで広がった
受け入れる自治体が増えるには、送り出す会社がなければ成り立たない。企業派遣型の活用企業数は前年度から85社増えて475社になった。前年度は390社だったので、1年で2割以上の増加である。
同じ資料に挙がっている社名と人数の上位は、株式会社JTBが30人、AKKODiSコンサルティング株式会社が22人、ソフトバンク株式会社が21人と続く。以下は株式会社ABC Cooking Studioと富士通Japan株式会社が各17人、日本航空株式会社とサントリーホールディングス株式会社と株式会社エイチ・アイ・エスと地方創生ラボ株式会社が各14人、合同会社DMM.comが13人である。旅行、IT、通信、料理教室、航空、飲料と業種はばらついているが、いずれも全国に拠点や顧客を持つ会社が並ぶ。
受け入れ先の地理も偏っている。都道府県別の人数は北海道が214人で最も多く、77の市町村に散っている。次が三重県の79人で、こちらは17市町村。長野県52人、福島県51人、山形県47人、福岡県43人と続く。一方で大阪府は3人、愛知県は2人にとどまる。都市部の自治体はこの制度の対象になりにくいという設計が、そのまま数字に出ている。
実際の仕事は、派遣先の困りごとの形をしている
何をしているのかは、総務省が公表する令和7年度活用事例集(企業派遣型)に並んでいる。都道府県、市町村、派遣元企業、活動分野が1件ずつ記録された一覧で、北海道釧路市に株式会社日本旅行と富士通Japan株式会社、北海道訓子府町に株式会社AgriInnovationDesignと石井食品株式会社、島根県海士町には12人という具合に、どこへ誰が入ったかを追える。
取組の中身が書かれているものを四つ挙げる。山形県山形市と富士通Japan株式会社の組み合わせは地域交通の分野で、既存の交通アプリを仙台市の仕組みと接続して共通チケットを売り、市の健康ポイント事業と連携させた。主要なバス停にデジタルサイネージを置き、接近情報と市のイベント情報を流しつつ、企業広告を入れて運用費を抑えている。
群馬県富岡市と株式会社ABC Cooking Studioは地域特産品と観光の分野である。温泉施設で売る新しい名物を考え、富岡製糸場とフランスとの縁からオリジナル紅茶を民間事業者と共同開発して物産館や市内の飲食店で販売した。あわせてペットと旅行する人に向けた体験型のコンテンツと、立ち寄り先を探せるアプリの導入を進めている。
山口県阿武町と株式会社FoundingBaseは教育の分野に入った。小中学校の授業見学と教育委員会や教員、住民への聞き取りから学習の実態をつかみ、「適切な学習方法の定着」が必要だという仮説を立てて、1か月だけ町営塾を試験的に動かした。学力の向上を確かめたうえで保護者や住民への説明会を重ね、令和8年4月に町営塾が常設された。
愛媛県伊予市とソフトバンク株式会社は地域DXである。園児の登降園管理や個人記録を扱う保育業務支援システムをタブレットで動かし、令和8年2月に実装を始めた。体育の専門教員がいない学校では、跳び箱などの指導を補うAIスマートコーチの導入を進めている。
若い世代が入る余地は、副業型とシニア型の側にある
年齢の分布を見ると、この制度は中堅が担っている。20代が14.6パーセント、30代が24.6パーセント、40代が26.5パーセント、50代が23.4パーセント、60歳以上が10.9パーセントで、山は40代にある。企業が送り出す以上、ある程度の経験を積んだ人が選ばれるのは自然である。それでも令和7年度活用事例集(副業型・シニア型)を読むと、学生の近くで起きている仕事が見つかる。
北海道中富良野町の副業型は教育の分野だった。町にゆかりはなかった人が、学園の教育実践に触れて関わりはじめ、小学校の総合的な学習の時間で、子どもたちが地域の魅力を色で表して万年筆のインクを作る企画を実施した。インクは商品化され、ふるさと納税の返礼品や販売イベントに並んだ。親子向けのワークショップや起業家精神を育てる教育も、一般社団法人と組んで進めている。
長野県白馬村の副業型は交流人口の拡大が担当である。ふるさと納税の講演で村を訪れるうちに私的にも通うようになった人が、地域課題の解決に参加する人を可視化するファンコミュニティを立ち上げた。令和7年度は立ち上げのサポーターを募集し、棚田での稲刈りなど試験的な交流イベントを開いている。募集に応じる側に回れば、学生でも入口は開いている。
熊本県多良木町の副業型は広報で、町公式のInstagramを令和7年11月に開設するところから、ガイドラインづくりと投稿内容の作成に関わった。任期が終わっても町の職員が運用を続けられるように手順を明確にした、という書き方になっている点が面白い。香川県高松市のシニア型は、県出身の人が定年退職後も関わり続けたいと自ら動いて実現した例で、関係人口と住民が混ざるワークショップから地元木材を使ったビールの開発が進んだ。
外から来た人が入った場所に、地元の学生が重なる場面は少なくない。公設塾、小学校の授業、ファンコミュニティのサポーター募集は、いずれも募集の形を取れば学生が参加できる余地がある。地域と若者の接点をつくる取り組みを各地で進めているFLASPOの現場でも、外部人材が入った自治体は若い世代の受け入れにも前向きなことが多い。
制度そのものを先に押さえたい場合は地域おこし企業人は今どこにいるか、お金と条件の決まり方は地域活性化起業人の派遣はどう決まるか、似た名前の制度との違いは協力隊と地域活性化起業人を分けるものが対応している。
よくある質問
事例集はどこで読めますか。総務省の地域活性化起業人のページに、令和4年度から令和7年度までの活用事例集が年度ごとに置かれています。令和7年度は企業派遣型と副業型・シニア型の2冊に分かれており、冒頭に都道府県・市町村・派遣元企業・活動分野の一覧があるので、志望する地域で絞って読むのが早いです。
どの分野が狙い目ですか。人数で見ればDXと観光に厚く、空き家対策や子育て・福祉は一桁から十数人にとどまります。ただし少ないことは需要がないことと同じではありません。送り出せる企業が少ない分野ほど空白が残っている、という読み方ができます。
学生がこの制度を直接使えますか。使えません。企業派遣型は企業と自治体の協定、副業型は企業に所属する個人と自治体の協定が前提なので、在学中は当事者になれません。関わるとすれば、派遣された人が立ち上げた塾やコミュニティ、イベントの参加者や運営サポーターとしてです。
受け入れている自治体はどうやって探しますか。状況等の資料に都道府県別と市町村別の人数が載っており、総務省のページには受け入れ可能団体の一覧も置かれています。島根県海士町の12人、北海道音威子府村の11人のように、小さな自治体に複数人が入っている例もあるので、人数の多い市町村から当たると実態がつかみやすいです。
企業の側にはどんな利点があるのでしょうか。総務省の説明では、新しい形の社会貢献、多彩な経験による人材育成とキャリアアップ、経験豊富なシニア人材の新たな場の発見が挙げられています。自治体の側は専門知識や人脈の活用と、外部の視点や経営感覚を得られる点が利点とされています。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
