公民連携で駅前を変えた町の通信簿|紫波町が自ら付けた◎と×

駅前に10.7ヘクタール、庁舎は築半世紀、図書館はなし

地方創生の事例紹介で名前が挙がる回数という点では、岩手県紫波町は上位に入る。盛岡から紫波中央駅まで16.7キロ、電車で21分という位置にある町で、駅前の空き地に図書館と役場と民間の宿泊施設が並び、年間に100万人規模が訪れるようになった、という筋書きで語られることが多い。

ただし町が自分で作った文書を読むと、語られ方とは違う手触りが出てくる。出発点は三つの行政課題だった。国土交通省が公開している公民連携による公有地活用の資料によれば、平成19年の時点で町は紫波中央駅前の未利用町有地10.7ヘクタールを抱えていた。28.5億円で購入した土地である。あわせて昭和38年に建った役場本庁舎が老朽化して庁舎が分散しており、図書館の新設要望もあった。図書館がない町、という状態だった。

そして当時の実質公債費比率は23.3パーセント。資料はこれを解決の糸口を探す背景の一つとして財政問題の欄に挙げている。町が自前で起債を重ねて施設を建てる余裕はなく、民間に任せる方式を選んだのは理念より先に、使える手が限られていたからである。

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計画を作り、会社を作り、設計の作法を決めた

町は平成21年2月に紫波町公民連携基本計画を策定した。その前段として、町民との意見交換会を2年で100回、不動産や建設、金融など40社への市場調査を重ねている。計画の理念は、都市と農村の暮らしを愉しみ、環境や景観に配慮したまちづくりを表現する場にすること、とされた。

同年6月1日には、町が出資するオガール紫波株式会社が創立される。資本金は創立時の3,900千円から、平成22年7月の新株発行を経て10,000千円になった。出資比率は創立時の町100パーセントから、まちづくり会社や農協、金融機関などが加わって町39パーセントへと下がっていく。この下げ方が仕組みの要で、町が全部を持つ形をやめて、リスクを取る相手を増やしている。

もう一つの装置はデザインの統制である。平成22年3月にオガール・デザインガイドラインを定め、外部の専門家からなるデザイン会議を置いた。敷地に価値はなくエリアに価値がある、という考え方で建物の個性と街区の統一感を両立させる方針が示されている。更地を切り売りすれば早いが、それをしなかったことが後の集客につながった。

建った施設と、そこに入った人数

事業の中身は、年ごとに別の主体が別の手法で建てていった積み上げである。

施設 開設 事業費など 手法
岩手県フットボールセンター 平成23年4月 1億7千5百万円(うちJFA助成金7千5百万円)/選手等4.6万人(平成26年度) PPP手法、町は土地を賃貸
オガールプラザ 平成24年6月 延床5,822.34平方メートル、公共部分8億1千万円/情報交流館33.3万人(平成26年4月~27年3月) 区分所有の官民複合施設
オガールタウン 平成25年10月分譲開始 住宅地57戸 産業政策としてエコハウスを普及
エネルギーステーション 平成26年6月完成 庁舎や周辺施設へ熱を供給 民間事業、町は土地を賃貸
オガールベース 平成26年7月 民間事業公募で選定 民間事業、町は土地を賃貸
役場庁舎 平成27年5月開庁 地域材を活用 PFI手法

順番に意味がある。最初に建ったのは町の施設ではなく、県サッカー協会が本部を移したフットボールセンターだった。雨水貯留浸透施設の上に設置し、小学生が現地集合と現地解散ができる立地を選び、クラブハウスは完成後に町へ寄附された。人を継続して呼ぶ用途を先に置き、そのあとで図書館と民間テナントの複合施設、住宅地、庁舎と続く。テナントを先に決めてから建物の規模を決める逆算方式がとられ、プラザは区分所有で官と民が床を分け合う形になった。

施設を建てることが目的化すると何が起きるかはハコモノはなぜ失敗するのか|地方創生の施設整備が抱える構造で扱った。紫波町の手順は、その裏返しを律儀にたどっている。

人口は増えていないが、転入は転出を上回っている

では町の人口は増えたのか。岩手県の住民基本台帳年報(令和7年1月1日現在)では32,684人、13,102世帯。町の第3期総合戦略によれば、総人口は平成17年の国勢調査時点の33,692人をピークにゆるやかな減少が続き、令和5年には31,906人になっている。直近10年の年齢3区分では、年少人口が499人減、生産年齢人口が2,356人減、老年人口が1,610人増。20歳から24歳で転出が多いという、地方の町に共通する形も残っている。

それでも社会増減は毎年プラスである。転入が転出を上回る状態が続き、令和2年度から令和6年度の実績は278人、228人、83人、79人、104人。総合戦略が数値目標に置いたのは増加数ではなく、社会増減プラスマイナス0人という水準の維持だった。減らさないことを目標に書いた自治体が、五年続けて上回ったという読み方になる。なお令和2年度から5年度は総務省統計局の住民基本台帳移動報告年報、令和6年度は町の住民基本台帳年報という出どころの違いがある。

将来の見通しは厳しい。国立社会保障・人口問題研究所が令和5年12月に行った推計では、2050年の総人口は23,581人になる。一方で町は、平成27年の実績が推計を179人、令和2年の実績が推計を770人上回ってきたことを根拠に、2060年の総人口を27,000人程度と展望している。推計を上回り続けること自体が目標として置かれている状態である。

町が自分で付けた評価は、◎と×が並ぶ

第3期総合戦略には、前の5年間の実績に町が自分で評価を付けた一覧が載っている。達成率100パーセント以上が◎、80パーセント以上が○、未達成だが基準値より前進したものが△、変化なしか目標から遠ざかったものが×という区分である。

指標 基準値 令和6年度までの実績 目標値 評価
起業数(累計) 86件(平成27~令和元年度) 173件 100件 ◎
社会増減数 9人(平成30年度) 104人(令和6年度) プラスマイナス0人 ◎
デマンド型乗合バスの年間利用者数 23,000人(平成30年度) 28,000人 25,000人 ◎
地域おこし協力隊の新規採用(累計) 8人(平成27~令和元年度) 10人 10人 ◎
転入者数 947人(平成30年度) 968人 1,000人 ○
空家バンク新規登録数(累計) 10件(平成27~令和元年度) 17件 30件 △
古館駅乗降客数 1,171人/日(令和元年度) 1,001人/日 1,200人/日 ×
新たな地域づくり拠点数(累計) 2箇所(平成27~令和元年度) 0箇所 3箇所 ×

項目の束で見ると達成率は高くない。基本目標の一つ目は重要業績評価指標8項目のうち◎が3項目で約38パーセント、二つ目は7項目のうち◎が1項目と○が2項目で約43パーセント、公民連携を掲げる四つ目は10項目のうち◎が6項目で60パーセントである。四つ目の数値目標に置いた新たな地域づくり拠点数は5年間で0箇所、現代版家守の創出人数も0人で、どちらも×が付いている。他方でリノベーション物件数は目標10件に対して11件、協力隊の新規採用は目標10人に対して累計10人で◎になった。

成功事例として紹介される町が、自分の文書では半分近くに×と△を付けている。この落差が示すのは失敗ではなく、評価の粒度の違いである。駅前の開発という一点では筋書きどおりに進み、集落単位の拠点づくりや人材の育成では届かなかった。交付金と指標の関係については補助金頼みの地方創生はなぜ続かないのか|交付金KPIが示す境目で触れている。学生が事例を調べるときは、紹介記事ではなく総合戦略の評価欄まで開くほうが早い。地域の現場に関わる入り口を探している人には、FLASPOのようなプロジェクト型の関わり方もある。

よくある質問

オガールは補助金を使わずに建てられたのか。公共部分には公費が入っている。オガールプラザの公共部分の事業費は8億1千万円で、完成後に町が中央棟を購入する際に国庫補助が4割充てられたと資料に記されている。民間棟の土地は町が賃貸し、地代と固定資産税が町に入る設計になっている。公費ゼロではなく、公費の入れ方を変えた事例である。

人口は増えたのか。増えていない。総人口は平成17年の33,692人をピークに減り続け、令和5年は31,906人である。増えているのは社会増減で、転入が転出を上回る状態が続いている。

なぜ町が出資する会社を作ったのか。町と会社が構想の段階から町民の意向と市場性を把握し、事業計画を共同で立案するためである。資料では、町と会社と民間企業が建設と所有、運営、資金調達をそれぞれ得意な役割で分担する設計だと説明されている。丸投げはしない、契約でガバナンスを保つという言葉が併記されている。

他の町が同じやり方をまねできるのか。前提の違いが大きい。盛岡から21分というベッドタウンの立地、10.7ヘクタールの町有地、東洋大学大学院との協定、実質公債費比率が23.3パーセントという切迫した財政という条件が重なっている。まねる対象になりやすいのは施設の形ではなく、意見交換会を2年で100回、市場調査を40社という手順の厚さである。

協力隊とも関係があるのか。ある。公民連携を掲げた基本目標の重要業績評価指標に地域おこし協力隊の新規採用が入っており、令和2年度から令和6年度の累計で10人、目標の10人を満たして◎が付いている。町の人材確保策の一部として制度が位置づけられている。


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