2,185人の島が2,376人という目標を置いた
島根県の隠岐諸島にある海士町は、令和7年1月末の住民基本台帳で2,185人の島である。町が2026年3月31日に更新した第3期海士町総合戦略「地域経営人口プラン」には、同じ時期の人口予測が2,149人だったと記されている。推計を36人上回ったという書き方で、計画はそこから先の5年を組み立てている。
立てられた目標は、2030年に2,376人。注目したいのはこの数の定義である。計画は目標の指数を「住民基本台帳の登録人口に、3か月以上滞在している人口を足したもの」と書いている。住んでいる人だけを数えた目標ではない。
達成の道筋も分けて置かれている。自然減の予測が年あたり30人、これに対して出生数の目標が年15人、社会増の目標が年15人、さらに滞在人口を5年で30人増やす。計画はこの最後の内訳に「1年間滞在する者の1割が毎年定住すると推計」という注記を添えている。滞在を定住の前段として扱っているということである。
前の計画との関係も明記されている。第2期の人口ビジョンが2025年に置いた目標値は2,337人で、計画は「現時点では概ね達成できる見通し」とした。一方で参考資料に載る推計値は2030年に2,032人であり、何もしなければ2千人を割る側に向かう。目標と推計のあいだには340人ほどの開きがある。
定住だけで数えるのをやめた理由
なぜ滞在を足すのか。計画は現状認識の箇所で、日本の総人口が半減する予測があるなかで「定住人口だけで人口を維持していくことが困難な時代となっている」と書く。そのうえで、島民はもとより滞在人口や関係人口を地域経営に巻き込み、任せられるところは委ねていく方向を示している。町がこれを「地域経営人口」と呼ぶのは、人口を数える対象と、地域を動かす担い手を同じものとして見ているからである。
実際の目標は三層になっている。登録人口を含む人口目標、3か月から1年の滞在人口、そして継続的に関わる関係人口である。下の表は、滞在人口と関係人口について計画が掲げた2030年の目標値と、角かっこで示された現状値を並べたものである。
| 区分 | 2030年の目標 | 現状 |
|---|---|---|
| 滞在人口(3か月〜1年)合計 | 300人 | 270人 |
| 大人の島留学生(1年) | 150人 | 120人 |
| 大人の島体験生(3か月) | 50人 | 80人 |
| 親子島留学生 | 20人 | 10人 |
| 島食の寺子屋生 | 10人 | 8人 |
| グローカル研修生 | 10人 | 5人 |
| 二拠点居住者(通算3〜6か月) | 30人 | 15人 |
| 関係人口 合計 | 3,000人 | 500人 |
| 後鳥羽会の参加者 | 500人 | 300人 |
| 海士町アンバサダー | 2,500人 | 200人 |
第3期海士町総合戦略「地域経営人口プラン」の数値目標より作成した。現状値は同計画が角かっこで併記したものである。
関係人口の3,000人は、2つの登録の合計として置かれている。出郷者などが参加する後鳥羽会と、町が認定するアンバサダーである。人口2千人台の町が、関わる人を住民の1.4倍まで増やす目標を立てたことになる。
外から関わる側に用意された入口
表を目標ではなく入口の一覧として読み直すと、島に入る道が長さごとに分かれていることが見えてくる。1年なら大人の島留学と島食の寺子屋、3か月なら大人の島体験生とグローカル研修生、通算で3か月から半年なら地域おこし企業人などの二拠点居住である。学業や仕事を離れられる期間に合わせて選べる構えになっている。
受け入れ側の運営目標も具体的である。計画の還流戦略は、事業を通じた年間の滞在人口を210人、滞在期間が終わった後に移住・定住した人数を67人と置いた。角かっこの現状値はそれぞれ30人と7人なので、7倍から10倍の伸びを見込んでいる。連携する教育機関や自治体の数は16、地域へのUIJターン数は31人、アンバサダー登録者数は700人で、こちらの現状値は0人や50人である。
一つ、目標が現状より小さい行がある。3か月の大人の島体験生だけが80人から50人へと減る。短い滞在を増やすより1年の滞在に重心を移す設計と読めるが、計画はその理由を書いていない。地域の受け入れ事業を調べるときは、こうした「下がる目標」に先に目を留めると、町が何を主力に据え直したのかが掴みやすい。学生のうちに地域に入る方法を比べたい人は、FLASPOのような若者向けのプロジェクト情報と、自治体が自分で立てたこうした目標の両方を見ておくとよい。
滞在と移住の関係をもう少し広い範囲で確かめたい場合は、関係人口のうち移住へ向かうのは2割と、関係人口の現状を数字で確かめるも参考になる。
高校の在籍は増えていない
海士町の取り組みでよく名前が出るのが、町内にある県立隠岐島前高校である。島根県の学校紹介資料によると、設置学科は普通科1学級と地域共創科1学級で、各40人定員。1年次は共通のカリキュラムで学び、2年次に学科を選ぶ仕組みになっている。
同じ資料の各年度版で全校生徒数を並べると、令和4年5月1日が167名、令和5年が164名、令和6年が150名、令和7年が146名である。4年間で21名減っている。島外から来る生徒で学校が維持されているという説明をよく見かけるが、在籍そのものは右肩上がりではない。
| 時点 | 全校生徒数 |
|---|---|
| 令和4年5月1日 | 167名 |
| 令和5年5月1日 | 164名 |
| 令和6年5月1日 | 150名 |
| 令和7年5月1日 | 146名 |
学校の側の設計は独特である。経営スローガンは「失敗を共に称え合う学校」で、話し合う、実践する、巻き込む、失敗する、振り返る、気づく、考えるという循環を学びの基本に据えている。1年次の地域共創実践活動、2年次の海外研修旅行、国際協力機構との協働プログラムである「グローバル探究」、授業としての「夢探究」「地域地球学」「地域未来共創」が並ぶ。町の計画も基本目標に「島内生にも島留学生にも魅力ある高校」を掲げ、卒業生を関係人口としてつなぎ続ける仕組みづくりをKPIに置いた。
増えている層と、減り続けている層
町が強気の目標を置ける根拠は、年齢階級別の動きにある。計画の参考資料によると、2020年からの傾向として生産年齢人口は毎年社会増で、増えた幅は年4人から56人。働く世代は外から入ってきている。一方で65歳以上は毎年13人から17人の社会減が続き、計画は島外の福祉施設への入居などを理由に挙げている。
自然動態の方は厳しい。出生数は2015年の21人がピークで、増減しながらも減少傾向にあり、2023年は7人になった。計画は「出生数は死亡者数を大きく下回っており、人口の維持・増加には社会増が不可欠である」と書いている。2025年の推計では年少人口も生産年齢人口も老齢人口も減る見込みで、ただしこの予測に親子島留学などの教育移住施策と島留学生の滞在人口施策は反映されていないと注記されている。
県全体と比べると、島の数字の性格がはっきりする。第2期島根創生計画は2040年の目標値を54.9万人とし、2020年からの減少率を18パーセント減と見込む。社会増減は現状で1,110人の減で、10年後にこれを均衡させることを目標に掲げている。県が均衡を目指している段階で、町は社会増を前提に目標を組んでいる。
この町を調べるときに一度は立ち止まってほしいのが、数字の時点と定義である。2,185人は令和7年1月末の住民基本台帳、2,149人は同じ年の推計値、2,376人は3か月以上の滞在者を含む2030年の目標値で、どれも同じ尺ではない。資料をまたいで引くと、増えたのか減ったのかが逆に見えることがある。似た構図を他の地域でも確かめたい人は、過疎化対策の事例で海士町と神山町の扱われ方を見比べておくと役に立つ。
よくある質問
滞在人口を人口目標に足すのは珍しいことなのか。自治体の人口ビジョンは、国勢調査や住民基本台帳の定住人口で目標を置くのが一般的な形である。海士町の計画は、指数の定義そのものに3か月以上の滞在者を書き込んだ。目標の達成を住民登録の増減だけで判定しない点が、この計画の特徴になっている。
大人の島留学は学生でも関われるのか。計画は、1年間滞在する大人の島留学生を滞在人口の中心に置き、専門職人材の育成を重点施策に挙げている。ただし応募の資格や年齢の条件、募集の時期は事業を運営する側が定めるものなので、参加を考えるなら最新の募集要項で確かめてほしい。計画から読み取れるのは、町が150人という受け入れ規模を目標にしているという事実までである。
関係人口3,000人はどうやって数えるのか。後鳥羽会の参加者500人と、海士町アンバサダーの登録者2,500人という2つの登録の合計である。つまり自己申告ではなく、名簿に載った人数で管理する設計になっている。アンバサダーについては、紹介を通じて実際に来島した人の数を520人とするKPIも別に置かれている。
同じやり方は他の町でも使えるのか。目標の立て方そのものは移せる。ただし3か月から1年滞在する300人を受け入れるには、住む場所と仕事と受け入れ役が先に必要になる。海士町の計画が医療や交通、住宅環境をそれぞれ別の戦略として立てているのは、滞在人口を増やす前提として生活の基盤を数えているからである。真似るなら目標の数字より、そこに付いている基盤側のKPIを先に見るほうが実際的である。
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