どの国と比べるかは、すでに誰かが考えている
海外の地域再生の話は、だいたい成功した町の名前から入ってくる。人口が増えた、若者が戻った、空き家が埋まった。読むぶんには面白いが、そのまま日本の町に当てはめようとすると、最初の一歩で止まる。前提が違うからである。
前提をそろえる作業は、すでに国の側でやられている。総務省過疎対策室が平成31年3月に出した「海外の人口減少地域に対する施策に関する調査研究」は、候補に挙げた10か国を人口密度で絞り込んだ経緯を書き残している。日本の人口密度は334人毎平方キロメートルで、北欧諸国や米国はこれを大きく下回るため対象から外された。農村居住を好む逆都市化が現れている英国も外れている。
残ったのはフランス、韓国、スイス、ドイツ、スウェーデンである。フランスは日本の過疎地域に似た地域活性化区域を備えていること、韓国は落後地域という近い概念があることが選定の理由として挙げられている。人口と人口密度がフランスに近いイタリアは、地域バランスを考慮して対象外になった。
この選び方そのものが、海外事例を読むときの手順になる。どの国を引くかは、面積や人口密度という地味な数字で先に決まる。町の名前から入ると、この順番が逆になる。
| 国 | 国土面積 | 人口 | 人口密度 | 調査での扱い |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 37.8万平方キロメートル | 12,632万人 | 334人 | 比較の基準 |
| フランス | 54.4万平方キロメートル | 6,718万人 | 123人 | 対象 |
| 韓国 | 10.0万平方キロメートル | 5,127万人 | 513人 | 対象 |
| イタリア | 30.1万平方キロメートル | 6,060万人 | 201人 | 対象外 |
| スウェーデン | 45.0万平方キロメートル | 1,022万人 | 23人 | 対象 |
人口密度の単位はいずれも1平方キロメートルあたりである。日本は2019年1月時点、フランスとスウェーデンは2018年、韓国は2016年の数値が使われている。
日本の線引きを、言葉にしておく
比べるには自分側の定義が要る。日本の過疎地域は、人口統計的基準と財政力要件の二階建てで指定されている。
人口統計的基準は四通りある。昭和45年から平成27年までの45年間で人口減少率が32パーセント以上、同じ期間で27パーセント以上かつ平成27年の高齢者比率が36パーセント以上、同じ期間で27パーセント以上かつ若年者比率が11パーセント以下、そして平成2年から平成27年までの25年間で21パーセント以上である。財政力要件は、平成25年度から27年度の財政力指数が0.5以下で、公営競技収益が40億円以下とされている。
結果として平成30年4月1日現在、全国1,719市区町村のうち817市町村が過疎地域に指定されていた。全体の約5割である。面積では22.5万平方キロメートルで国土の約6割を占めるのに、人口は1,088万人で総人口の約1割にとどまる。
面積が6割で人口が1割という形は、日本の過疎の輪郭をそのまま表している。この比率を頭に置かずに海外の数字を読むと、同じ言葉で違うものを指してしまう。制度の全体像は過疎化とはや地方創生とはでも確かめられる。
フランスは線を税の優遇で引き、基準を中央値で決める
フランスで日本の過疎対策に近いのは、地方都市開発のための方向付けの法律にもとづく地域活性化区域である。報告書はこれを「厳しい困難に直面し、脆くなっている地域」と定義されたものとして紹介し、指定された区域は租税上の優遇措置を受けられると説明している。
指定の基準は一度作り替えられている。2015年1月時点では三段構えだった。人口統計的基準として属する郡の人口密度が37人以下、カントンや課税型の広域行政組織なら35人以下という条件があり、そこに人口減少や現役世代の減少といった社会経済的基準、広域行政組織に属しているかという組織的基準が重なっていた。現役の農業従事者の割合が全国平均の2倍以上、具体的には現役世代の8.3パーセント以上という条件も並んでいる。
2015年度の修正予算法による改正で、これが二つに簡素化された。2018年1月時点の基準は、人口密度が独自税源を持つ広域行政組織の全国中央値以下であること、消費単位当たりの中位税収入が同じく中央値以下であることの二点である。判定に使うデータは国立統計経済研究所が作成したものに限られる。
ここが日本との分かれ目になる。日本は32パーセントや0.5という絶対値で線を引くが、フランスは中央値という相対値で引く。相対値なら、全体が悪化しても指定の数はおおむね一定に保たれる。2018年時点で指定は約13,900コミューンにのぼり、全国の約3分の1を占めていた。基礎自治体の数が万の単位である国の話なので、1,719市区町村の日本とは単位から違うこともわかる。
韓国は指標に重みを付け、いまは基金で配っている
韓国の制度は、政権が変わるたびに名前が変わってきた。報告書によれば、国家均衡発展特別法にもとづく新活力地域は、人口変化率、人口密度、住民税の所得割額、財政力指数の四つで選ばれ、全国234市郡のうち約3割の70市郡が選定された。
特徴は重みの付け方である。人口密度と人口変化率を1、住民税の所得割額と財政力指数を2として合成していた。人口の動きより、税収と財政の弱さを重く見ていたことになる。2008年の法改正で落後地域という言い方はなくなり、成長促進地域、特殊状況地域、一般農山漁村地域、都市活力増進地域の四つに整理された。成長促進地域は五つめの指標として地域のアクセシビリティを加え、やはり70市郡が選ばれている。
その後の動きは別の資料で追える。日本国際問題研究所の研究報告は、韓国政府が2021年に全自治体のほぼ4割にあたる89地域を「人口減少地域」に指定したと記している。年平均人口増減率、若年層の純移動率、高齢化比率、出生率など8つの指標を総合した人口減少指数が判定に使われた。
配り方も日本と違う。同じ報告は、2021年に地方消滅対応基金が創設され、各自治体が立てた戦略プランの内容に応じて交付金が配分されたこと、2022年には指定自治体に7,500億ウォン、約840億円が配られたことを伝えている。人口減少地域には10年にわたり年間1兆ウォンを投資するとされる一方、深刻度に比べて予算が少ないという批判もあると付け加えられている。首都圏が国土面積の11.8パーセントしかないという記述も、集中の度合いを示す数字として押さえておきたい。
レポートや面接で使う前に確かめる三つ
一つめは、線の引き方が絶対値か相対値かである。絶対値で引く制度は、全体が悪くなると指定が増え続ける。相対値で引く制度は、下位の集団を一定の割合で切り出す。同じ「支援対象地域が三分の一」という文でも、意味がまるで違う。
二つめは、支援が税の優遇なのか交付金なのかである。フランスの地域活性化区域は租税上の優遇措置で、企業や住民が動いたときに効く。韓国の基金は計画の中身に応じて配る形で、自治体の企画力が効く。日本の過疎法は地方債や国の負担割合の特例を柱にしている。どれを借りてくるかで、提案の宛先が変わる。
三つめは、期間である。10年にわたり年間1兆ウォンという数字は、単年度の予算規模としては小さく見えても、積み上げれば別の話になる。海外の事例を引いて「効果が出ている」と言うときは、何年目の数字なのかを必ず添える。
この三つを押さえておけば、事例の数を増やさなくても議論は成り立つ。国内の事例と並べたいときは地方創生の成功事例10選が比較の土台になる。地域に関わる活動を自分で始める側に回るなら、FLASPOのような学生向けの入口から現場の話を聞いておくと、借りてきた制度の話が机の上で止まらない。
よくある質問
なぜイタリアは調査の対象から外れたのか。報告書は、人口と人口密度がフランスと似ていることと、地域バランスを考慮したことを理由に挙げている。制度として参考にならないという判断ではなく、似た条件の国を重ねない方針だったと読める。
人口密度が日本より高い韓国を参考にできるのか。できる。報告書が韓国を選んだ理由は、日本の過疎地域に似た落後地域の概念があることだった。密度が高くても首都圏への集中が強ければ、地方側で起きることは近くなる。密度の近さと課題の近さは別の軸である。
古い資料を引いて大丈夫か。制度の設計を論じるなら、改正の前後をそろえて書けば問題にならない。平成31年の調査研究は2015年と2018年の指定基準を並べて載せているので、変わった点そのものが材料になる。最新の数字が必要なときだけ、各国の統計機関の公表値を足す。
海外の事例を一つだけ選ぶなら何を見るか。自分が扱いたい町の人口密度に近い国から探す。そのうえで、支援の手段が税か交付金か債務かを確かめる。手段がそろっていない国の事例は、話として面白くても提案には使いにくい。
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