面積では1位、生産量では2位という逆転
お茶といえば静岡、という結びつきは今も強い。ところが生産量の順位はすでに入れ替わっている。農林水産省が令和8年7月にまとめた茶をめぐる情勢によれば、令和6年産と令和7年産の荒茶生産量で鹿児島県が統計開始以来初めて日本一になった。静岡県は2位である。
それでも栽培面積の順位は静岡県が1位のままだ。令和7年度の数字で、静岡県は11,600ヘクタールに対して荒茶生産量24,100トン。鹿児島県は8,040ヘクタールで30,000トンを生産している。面積では静岡が3,560ヘクタール広く、生産量では鹿児島が5,900トン多い。同じ作物で、これだけ順位がねじれる。
単位面積あたりに直すと差は明確になる。静岡県は1ヘクタールあたりおよそ2.1トン、鹿児島県はおよそ3.7トンで、1.8倍近い開きがある。品種構成や摘採の回数の違いもあるが、効いているのは地形だ。同じ資料は、機械化が困難な傾斜地では面積あたりの労働時間が平坦地より長くなり、特に摘採時期の負荷が大きいと指摘している。静岡の茶園には山の斜面に開かれたものが多い。
20年で農家が4分の1になった
担い手の減り方は、面積や生産量の変化よりはるかに急だ。農林業センサスをもとにした主産県の推移を見ると、販売を目的に茶を栽培する静岡県の経営体数は平成12年の24,019戸から令和2年には5,712に減っている。20年で76パーセントの減少、つまり4分の1以下だ。
| 県 | 平成12年 | 平成22年 | 令和2年 | 20年間の減少率 |
|---|---|---|---|---|
| 静岡 | 24,019 | 13,933 | 5,712 | 76.2% |
| 鹿児島 | 4,309 | 2,216 | 1,081 | 74.9% |
| 三重 | 4,598 | 1,455 | 569 | 87.6% |
| 京都 | 1,330 | 825 | 473 | 64.4% |
| 福岡 | 2,217 | 1,385 | 631 | 71.5% |
| 全国 | 53,687 | 28,116 | 12,325 | 77.0% |
減少は静岡に限った現象ではなく、全国で同じ勾配を描いている。平成12年の統計で平成17年までに1万6千戸、そこから令和2年までにさらに2万5千戸が消えた。茶の基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合は、平成17年の53パーセントから令和2年には62パーセントへ上がった。辞めた人の抜けた面積を、残った経営体が引き受けながら高齢化している構図だ。
静岡県の減少率が全国平均とほぼ同じである点は、見落とされやすい。首位陥落は静岡だけが特別に衰えた結果ではなく、全国の縮小のなかで鹿児島が平坦な大規模茶園を維持できたという差として現れている。
縮む国内消費と、急に伸びた輸出
産業の規模そのものは小さい。荒茶の段階での産出額は令和6年で763億円にとどまる。一つの県の基幹産業と呼ぶには心もとない額だが、ここに近年大きな変化が起きている。
緑茶の輸出額は令和7年に721億円となり、過去最高を更新した。令和6年が364億円だったので、1年でほぼ倍になった計算だ。国内の荒茶産出額763億円に輸出額が肩を並べつつある。政府が令和2年12月の輸出拡大実行戦略で置いた令和7年312億円という目標は、2倍以上の差をつけて達成された。新たな目標は令和12年に810億円だが、すでに9割近くまで来ている。
牽引しているのは抹茶を含む粉末茶だ。同じ資料は、粉末状の緑茶が輸出量の約7割、輸出額では約8割を占めると整理している。令和8年1月から5月までの輸出額も402億円と、前年の同じ時期を上回るペースで進んでいる。価格にも波及していて、令和8年産の一番茶は前年に比べ鹿児島県で約2倍、静岡県で約7割高い水準で取引された。長く下がり続けた茶価が、輸出需要に引かれて動いている。
追い風が吹いても人は足りない
価格が上向いたのだから担い手も戻るはずだ、と考えたくなる。しかし経営体数が4分の1になるまでに20年かかったように、人の流れは価格ほど速く反転しない。茶園は植えてから収穫できるまでに年数がかかり、放棄された斜面の茶園を元に戻すには、茶樹の更新と道の整備が要る。価格が上がった年に始めても、応えられる供給が出てくるのは何年も先になる。
茶種による価格差も、この産業の読みにくさを増している。てん茶はせん茶のおよそ4.9倍の価格で取引されており、抹茶の原料であるてん茶に需要が集中している。静岡県は深蒸しせん茶を主体にした産地で、てん茶とかぶせ茶の生産は全国3位にとどまる。てん茶の生産で全国1位は鹿児島県だ。輸出の追い風が最も強く当たる品目で、静岡は先行していない。
こうした構造は、担い手不足が価格だけでは解けないことを示している。労働時間が長くなる傾斜地をどう扱うか、需要が伸びている品目へ切り替えるかどうか、切り替えるなら設備と技術をどう手当てするか。判断の材料は増えたが、判断する人の数は減り続けている。
学生が入り込める隙間はどこか
若い世代がこの産業に関わるとき、就農だけが選択肢ではない。輸出額が1年で倍になった局面で足りていないのは、茶を摘む人だけでなく、海外の取引先に説明できる人や、産地の情報を整理して伝える人でもある。茶の輸出は国によって求められる形が異なり、有機の認証や地理的表示の扱いも絡む。語学や事務の技能が、そのまま産地の課題に接続する場面がある。
関わり方の段階を知っておくと、現実的な一歩を選びやすい。短期の農作業体験から始める方法もあれば、繁忙期だけ継続して通う形もある。農業で移住する人の移住先選び|就農資金と定着率95.6%を読むは移住まで踏み込む場合の支援制度を、一次産業の担い手不足|20年後に30万人という試算の意味は産業全体の見通しを扱っている。地域のプロジェクトを学生のうちから探すならFLASPOのような窓口を使うと、受け入れ側がある取り組みに絞って当たれる。
数字を自分で確かめたい場合、農林水産省の茶をめぐる情勢は年に数回更新され、栽培面積から輸出実績までが一冊にまとまっている。産地の議論に入る前にこれを一読しておくと、報道で見かける断片的な数字がどの統計のどの年次なのかを見分けられるようになる。
よくある質問
「静岡県はいつ生産量1位から落ちたのか」。農林水産省の資料は、令和6年産と令和7年産の荒茶生産量において鹿児島県が統計開始以来初の日本一になったと記している。ただし栽培面積では静岡県が引き続き1位で、令和7年度は11,600ヘクタールと鹿児島県の8,040ヘクタールを上回る。順位は指標によって変わるため、どの数字の話かを確かめてから比べたい。
「面積が広いのに生産量で負けるのはなぜか」。1ヘクタールあたりの収量に開きがあるためだ。静岡県はおよそ2.1トン、鹿児島県はおよそ3.7トンになる。要因の一つとして、同じ資料は機械化が困難な傾斜地では面積あたりの労働時間が平坦地より長く、摘採時期の負荷が大きいことを挙げている。品種構成の違いも重なる。
「茶農家はどのくらい減ったのか」。販売目的で茶を栽培する経営体は、静岡県で平成12年の24,019戸から令和2年の5,712へ、全国では53,687戸から12,325へ減った。いずれも20年で4分の1前後の水準だ。あわせて茶の基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合が、平成17年の53パーセントから令和2年の62パーセントへ上がっている。
「輸出が伸びれば産地は回復するのか」。緑茶の輸出額は令和6年の364億円から令和7年の721億円へ伸び、荒茶の国内産出額763億円に迫っている。ただし伸びているのは抹茶を含む粉末茶が中心で、輸出額の約8割を占める。静岡県は深蒸しせん茶を主体とする産地であり、てん茶の生産量で全国1位は鹿児島県だ。追い風の当たり方は産地によって違う。
「学生が茶の産地に関わる方法はあるか」。就農のほかに、短期の農作業体験や繁忙期の継続的な手伝い、輸出や情報発信を支える実務がある。輸出が1年で倍増した局面では、海外の取引先に産地を説明できる人材や、認証と表示の手続きを整理できる人材が不足しやすい。畑に立つこと以外の入口があると知っておくと、関わり方を選びやすくなる。
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