名古屋や静岡の市街地から車で一時間半も走れば、担い手を探している集落に着く。都市と山がこれだけ近い地域は全国でも限られる。山梨・長野・岐阜・静岡・愛知の五県にどれだけ枠があり、どこに寄っているのかを、令和7年度の公表値で確かめていく。
五県で870人、一割を超える受け入れ
令和8年4月24日公表の総務省の集計で山梨、長野、岐阜、静岡、愛知を合計すると、隊員は870人になる。全国8,196人の10.6パーセントで、北海道に次ぐ塊といっていい規模だ。
受け入れ自治体は143団体あり、全国1,187団体の12.0パーセントを占める。隊員の割合より自治体の割合が大きいので、一か所あたりは6.1人と全国平均の6.9人を下回る。多くの市町村が少人数ずつ抱えている形で、枠の数自体は探しやすい。
五県のなかで北陸四県や関東一都六県を上回るのは、長野という一つの県が全体を押し上げているためだ。都市圏を抱える愛知と静岡が入りながら一割を超えるのは、この地域の地形が理由になっている。全国の並びは地域別の受け入れをまとめた記事で確かめられる。
870人のうち477人が長野に集まる
内訳を見ると、偏りの方向がはっきりする。半分以上が一県に入っている。
| 県 | 隊員数(人) | 受入自治体数(団体) | 1自治体あたり(人) | 定住率 |
|---|---|---|---|---|
| 長野県 | 477 | 74 | 6.4 | 78.0% |
| 静岡県 | 185 | 27 | 6.9 | 76.8% |
| 山梨県 | 122 | 20 | 6.1 | 75.0% |
| 岐阜県 | 58 | 16 | 3.6 | 68.8% |
| 愛知県 | 28 | 6 | 4.7 | 64.0% |
| 中部5県 | 870 | 143 | 6.1 | 76.4% |
| 全国 | 8,196 | 1,187 | 6.9 | 70.3% |
長野の477人は五県の54.8パーセントにあたり、都道府県では北海道の1,374人に次ぐ二位である。受け入れ自治体74団体は県内77市町村の大半にあたり、村の数が多い県の構造がそのまま出ている。
市町村別では北杜市24人、伊那市22人、飯綱町21人、東御市21人、飯山市18人、長野市15人と、二桁が二十を超える自治体に散らばる。平谷村11人、売木村13人、丹波山村13人のように、人口が千人に届かない村が十人規模を抱える例もあり、集落の側から見た一人の重みが大きい。
山梨は122人を20団体で受けており、北杜市24人が県内最多で五県全体でも首位に並ぶ。丹波山村13人、韮崎市12人、甲州市10人が続き、県そのものが直接抱える枠も2人ある。富士吉田市2人や山中湖村3人のように観光地側にも配属があり、八ヶ岳の麓から奥多摩に接する山村までが同じ県に収まっている。
静岡は伊豆、愛知は奥三河に寄っている
都市圏を抱える二県では、枠の置かれ方に地理の癖が出る。静岡の185人を並べると、伊豆市23人、藤枝市20人、静岡市17人、浜松市16人が上位にくる。
伊豆半島だけで見ると、伊豆市23人、東伊豆町13人、西伊豆町10人、松崎町10人、下田市8人、河津町7人、南伊豆町6人、伊豆の国市3人、熱海市3人、伊東市3人が並ぶ。観光地としての知名度の裏で、担い手を外から入れている自治体が連なっている。
愛知の28人はさらに極端だ。受け入れは6団体しかなく、うち設楽町8人、東栄町6人、豊根村5人、新城市4人の四市町村で23人を占める。奥三河と呼ばれる県北東部にほぼ集中し、残りは岡崎市3人と西尾市2人である。名古屋圏に住みながら地域の仕事に入る道は、事実上この一帯に限られる。
岐阜は58人・16団体で、一か所あたり3.6人と五県で最も薄い。高山市8人、恵那市7人、八百津町6人が上位で、飛騨から東濃にかけて数人ずつ置く形になっている。仕事の中身の違いは活動内容を整理した記事で読み比べられる。
定住率76.4パーセントは全国を6.1ポイント上回る
任期を終えた後に残る割合では、この五県は全国より強い。令和2年4月から令和7年3月までの五年間に任期を終えた隊員は1,058人で、そのうち808人が同じ地域に定住した。率にすると76.4パーセントになる。
全国の70.3パーセントを6.1ポイント上回る水準で、長野78.0パーセント、静岡76.8パーセント、山梨75.0パーセントが引っ張っている。岐阜68.8パーセント、愛知64.0パーセントは全国を下回るが、分母がそれぞれ80人と25人と小さく、率の振れ幅も大きい点は差し引いて読みたい。
残りやすさの背景には、都市までの距離が効いている可能性がある。全国では活動地と同じ市町村に定住した5,038人のうち2,296人が起業しており、内訳は飲食サービス業308人、美術家やデザイナーなど217人、宿泊業181人、小売業174人と続く。客や取引先が来られる距離にあるかどうかは、小さく始めた商いが続くかに直結する。任期後の進路は卒業後の進路を並べた記事にまとめた。
五県すべてに県のネットワークがあり、山梨は今年そろった
隊員同士をつなぐ県単位の組織も、五県すべてにある。古いのは岐阜で、一般社団法人岐阜県地域おこし協力隊ネットワークが令和2年11月に立ち上がった。
長野は令和4年2月の一般社団法人ローカルイノベーションイニシアチブ、静岡は令和7年4月の「しずおか地域おこし協力隊ネットワーク しずく」、山梨は令和8年3月に「やまなし地域おこし協力隊ネットワーク」ができて、五県で最後にそろった。愛知は三県の組織と並ぶ形を取っていないため、県の窓口と市町村の担当課が相談先になる。
長野のように74団体が受け入れている県では、同じ県内に先に卒業した人が数百人いる計算になる。任期の二年目に進路を考え始めるとき、近くに事例があるかどうかで動き方は変わってくる。
本番の任期に入る前に試す枠も増えた。令和7年度は「おためし地域おこし協力隊」の参加者が全国で1,450人、インターンが1,414人にのぼる。前年度はおためし1,149人、インターン1,047人だったので、一年で三割前後の伸びだ。地域との接点を先に作る方法としては、FLASPOのような仕組みも使える。
よくある質問
中部地方の区分に新潟や富山は入らないのか。広い意味の中部地方には北陸三県と新潟も含める。ここでは北陸を別に扱ったため、山梨から愛知までの五県で集計した。三重を含める区分もあるが、本稿では近畿の側で数えている。
名古屋から通える範囲に枠はあるか。愛知の受け入れは6団体にとどまり、奥三河の四市町村に大半が集まる。居住要件として活動地への住民票の移動が求められるため、通うのではなく移り住むことが前提になる。県境を越えれば岐阜の東濃や長野の南信州が近い。
長野は枠が多いが競争も激しいのか。応募倍率の公表はないため比較はできない。言えるのは74団体が受け入れているので募集の出る回数自体が多いことと、村の単位まで含めて探せば選択肢が広いことだ。人気の高い町村と、募集を出しても集まりにくい村が同じ県内に併存している。
定住率が高い県を選べば残りやすいのか。率は過去に任期を終えた人の結果であって、これから入る人への保証ではない。七割を超えている県でも四人に一人は地域を離れている。自分が残るかどうかは、受け入れ先が任期中に仕事の種をどこまで一緒に作れるかで決まる部分が大きい。
伊豆に枠が多いのは観光の仕事が中心ということか。資料には活動分野の県別内訳がない。全国で任期後に就業した人の職種を見ると行政関係480人、観光業176人、農林漁業138人の順で、観光業が多い地域でも行政まわりの仕事に就く人のほうが厚い。募集要項の業務欄を一件ずつ読むほかに確かめる手立てはない。
村の規模が小さい配属先はきついのか。人口の小さな村で十人規模を抱える例は長野に複数ある。住民との距離が近く役割も見えやすい一方、生活の買い物や通院に車が要る。募集要項で住居の有無と車の必要性を確かめ、可能なら現地を一度歩いてから応募したい。
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