温泉施設の券売機が止まり、隣の物産館だけが開いている。観光を地域の収入源にする計画は全国で動いていて、その運営は自治体が出資した法人に委ねられることが多い。うまく回った施設は紹介される機会に恵まれているが、外れた計画がどこで外れたのかは外に出にくい。総務省が二年ごとに全国の第三セクターを調べているので、その数字から観光という事業の立ち位置を確かめてみたい。
自治体が出資する観光の法人は833。債務超過の割合は全分野で最も高い
総務省の第三セクター等の状況に関する調査は、地方公共団体が出資する社団法人・財団法人や会社法法人に、地方住宅供給公社・地方道路公社・土地開発公社を加えたものを「第三セクター等」としてまとめて数える。令和7年3月31日時点の法人数は6,947で、前回の令和5年3月31日時点から80法人減った。
このうち経営状況まで調べる対象は5,760法人で、業務分野で「観光・レジャー」に分類されるのは833法人ある。農林水産(968法人)、教育・文化(916法人)、地域・都市開発(908法人)に次ぐ規模で、観光は第三セクターの主要な事業分野のひとつといえる。問題はその中身で、純資産の状況を見ると様子が変わる。債務超過に陥っている法人は全体で235法人、割合にして4.1パーセントだが、分野別に見ると観光・レジャーが12.2パーセントで最も高く、次が運輸・道路の7.8パーセントだった。全体平均の3倍である。
単年度の赤字と債務超過は別の話で、計画が止まるのは後者である
同じ調査で経常黒字の法人は3,503法人、全体の60.8パーセントで、前回より1.9ポイント増えた。裏を返せば四割は単年度で赤字という状態だが、これは分野を問わず珍しいことではない。しかも赤字法人の割合が最も高い分野は社会福祉・保健医療の56.9パーセントで、観光ではない。
それでも観光の法人で債務超過が目立つのは、赤字が何年続いたかの差が出ているからだと読める。債務超過は、積み上がった損失が出資金などの資本を食い切り、負債が資産を上回った状態を指す。単年度の赤字は補助金や内部留保で埋められるが、資本を超えた損失は追加の出資か債務の整理でしか解消できない。観光の施設整備は初期投資が大きく、売上は天候や景気、感染症の流行で振れる。好調な年の利益を薄く積むより、不調な年の損失を厚く積むほうが早い構造になっていて、その結果が十年単位で貸借対照表に残る。経常赤字の多寡ではなく、資本が残っているかどうかが事業の寿命を決めている。
観光の法人は、借りている相手が自治体ではなかった
では資本が尽きかけたとき、誰が支えるのか。調査は財政的支援の状況も分野別に出している。観光・レジャーの833法人のうち、自治体から補助金を受けているのは306法人で36.7パーセント、交付額は163億円。自治体からの借入残高がある法人は54法人で6.5パーセント、残高は88億円にとどまる。一方、自治体以外からの借入残高がある法人は277法人で33.3パーセント、残高は436億円。自治体による損失補償・債務保証がある法人は20法人、2.4パーセントで、金額は29億円だった。
| 業務分野 | 法人数 | 補助金を受ける割合 | 自治体からの借入残高 | 自治体以外からの借入残高 | 損失補償・債務保証がある割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 観光・レジャー | 833 | 36.7% | 88億円 | 436億円 | 2.4% |
| 地域・都市開発 | 908 | 24.2% | 2,640億円 | 4,952億円 | 26.9% |
| 運輸・道路 | 359 | 48.2% | 6,448億円 | 2兆9,894億円 | 6.4% |
| 農林水産 | 968 | 52.6% | 6,037億円 | 3,254億円 | 6.7% |
| 教育・文化 | 916 | 65.3% | 861億円 | 266億円 | 0.4% |
| 全体 | 5,760 | 46.2% | 2兆5,680億円 | 4兆7,723億円 | 6.8% |
鉄道やバスを抱える運輸・道路は、自治体からの借入が6,448億円、損失補償・債務保証が1兆1,063億円と桁が違う。公共交通として残す判断が、制度の形で先に用意されているからである。地域・都市開発も法人の26.9パーセントに損失補償がついている。観光・レジャーはそのどちらとも違い、補助金は受けているが、借入の相手は民間で、自治体の保証はほとんど付いていない。資金の支えが薄い分だけ、売上が落ちた年に打てる手が少ない。債務超過率の高さは、経営努力の差というより、この支えられ方の違いに沿った結果と見るのが筋が通る。
交付金で始めた観光の事業でも、目標に届いたのは3分の1だった
運営に入る前の段階、つまり計画そのものの成否も記録が残っている。内閣府が令和7年3月に出した交付金事業の効果検証に関する調査報告書では、令和5年度に994事業が施設整備系の交付金を使っている。事業は分野で分けられ、観光に当たるのは報告書の「A-3 観光」である。
観光分野で、設定したKPIのうち少なくとも一つの目標を達成した事業は55パーセント(180事業)。全体の59パーセントをやや下回る。さらに、達成した指標の数で見ると、目標値に達したKPIは観光分野で35パーセント(510指標)にとどまった。全体の39パーセントより低い。KPIは一事業に最大4つまで設定できるから、観光の事業では立てた目標の3分の1強しか届いていない計算になる。それでも交付金を使った事業のうち92パーセントは、地方公共団体の側が「地方創生に効果があった」と答えている。現場の実感と指標の達成率がこれだけ離れている状態では、どの事業を続けてどれを畳むかの判断材料が、指標の側から出てこない。
泊まる人は確かに増えた。増えた場所が偏っている
需要そのものが細っているわけではない。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2024年の外国人延べ宿泊者数は1億6,446万人泊で、2019年比42.2パーセントの増加だった。ただ、増え方の内訳に落差がある。東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪・京都・兵庫の8都府県を三大都市圏とすると、こちらは2019年比で56.5パーセント増。それ以外の地方部は18.0パーセント増である。構成比で見ると地方部は30.9パーセントで、2019年の37.3パーセントから下がった。
都道府県別の落差も大きい。東京都は5,680万3,870人泊、大阪府は2,539万3,930人泊に達する一方、島根県は8万3,710人泊、福井県は9万2,190人泊、秋田県は11万9,610人泊である。もっとも、伸び率で見れば石川県が前年比114.1パーセント、愛媛県が122.8パーセント、香川県が103.7パーセントと倍増した県もあり、動く余地がないわけではない。観光で稼ぐ計画が外れるとき、原因が需要の不在にあるのか、需要が届く経路の不在にあるのかは、県単位の数字を見るだけでも仕分けできる。本誌の観光振興の事例を宿泊者数で読む記事や都道府県別の観光地の記事も、この落差を別の角度から扱っている。
若い世代が関わるときに、先に見ておきたい数字
法人が畳まれるときの記録も公開されている。令和5年4月から令和7年3月までの間に、廃止が144件、統合が14件、出資引揚が36件あり、195法人が減った。このうち法的整理の申し立てを経て清算が結了したのは14法人で、内訳は破産が10、特別清算が3、特定調停が1。いずれも会社法法人である。施設は残り、運営費は毎年かかり、法人だけが先に消える形になる。
学生や若手が地域の観光に関わる場面では、企画の面白さより先に確かめられる数字がある。運営主体の決算が公開されているか、純資産が残っているか、収入のうち補助金に頼る割合はどれくらいか、入館者数や稼働率が目標に届いているか。この四つは聞けば出てくるもので、答えられない事業は内部でも把握できていないことが多い。FLASPOでは学生が地域の事業者と組んで企画を立てる場面が多いが、現場に入る前にこの種の数字を一度見ておくと、提案の射程が変わる。ハコモノが失敗する構造の記事も合わせて読んでおきたい。
よくある質問
第三セクターの観光法人の数はどの調査で分かりますか
総務省が隔年で実施する「第三セクター等の状況に関する調査」である。令和7年3月31日時点の結果では第三セクター等が6,947法人で、経営状況まで調べる対象5,760法人のうち観光・レジャー分野が833法人だった。業務分野別の黒字と赤字、債務超過、補助金や借入の状況まで分野ごとに収録されている。
債務超過が多いのは観光の法人だけなのですか
最も高いのが観光・レジャーの12.2パーセントで、運輸・道路の7.8パーセントが続く。全体では4.1パーセントで、前回調査より0.4ポイント下がった。ただし経常赤字の割合に目を向けると最も高い分野は社会福祉・保健医療の56.9パーセントであり、赤字が多い分野と資本を失う分野は一致しない。
観光の交付金事業はどのくらい目標に届いていますか
内閣府の令和7年3月の報告書では、観光分野で一つ以上のKPI目標を達成した事業が55パーセント、目標値に達したKPIの割合は35パーセントだった。全体ではそれぞれ59パーセントと39パーセントである。KPIは一事業に最大4つ設定できるため、事業単位の達成率と指標単位の達成率は一致しない点に注意したい。
外国人の宿泊が増えれば地方の観光も上向きますか
2024年の外国人延べ宿泊者数は1億6,446万人泊で2019年比42.2パーセント増だが、三大都市圏が56.5パーセント増、地方部が18.0パーセント増と伸びに差がある。地方部の構成比は2019年の37.3パーセントから30.9パーセントへ下がった。全国の増加がそのまま各地域に及ぶ前提で計画を組むと、見込みと実績がずれる。
自分の地域の施設が危ないかどうかは外から分かりますか
運営主体が第三セクターであれば、決算は自治体の公表資料や法人の財務諸表で追える。純資産が残っているか、収入に占める補助金の比率、入館者数や稼働率の推移という三点を並べると、単年度の赤字で済んでいるのか資本が削られているのかが分かる。調査期間の2年間で廃止は144件あり、静かに畳まれる例も少なくない。
出典
総務省「第三セクター等の状況に関する調査結果の概要(令和7年3月31日時点)」/内閣府地方創生推進事務局「デジタル田園都市国家構想交付金(旧地方創生拠点整備交付金)事業の効果検証に関する調査報告書」(令和7年3月)/観光庁「宿泊旅行統計調査」2024年1月〜12月(確定値)
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