「今後は立てる」39.5%と「立てている」35.1%の差
金融経済教育推進機構の「家計の金融行動に関する世論調査」には、生活設計を立てているかどうかを聞く項目がある。2025年の二人以上世帯の回答は、「立てている」が35.1%、「立てていないが今後は立てるつもりである」が39.5%、「立てていないし今後も立てるつもりはない」が25.4%だった。
多数派は、立てていない人ではなく「今後は立てるつもり」の層である。そして2016年の「立てている」は34.8%で、10年かけて0.3ポイントしか動いていない。毎年4割近くが来年には立てるつもりだと答え続けているのに、実際に立てている割合は増えていない。
この差は情報が足りないせいではない。手順を書いた資料は無料で手に入り、計算してくれる道具もある。それでも動かないのは、人の判断に共通する癖が働いているからである。行動経済学が扱ってきた領域で、知識を足すより先に、決め方そのものを変える必要がある。
いまの1万円と、20年後の1万円を同じに扱えない
人は目先の損得を将来の損得より重く見積もる。来月から毎月2万円を積むという決定は、今日時点では痛みがなく、始める日が来ると痛みが発生する。だから決定は維持されるのに、開始が先送りされる。先送りは失敗ではなく、決定と実行を同じ日に置かなかった結果である。
この癖は投資判断にも出る。金融経済教育推進機構の金融リテラシー調査(2025年)は、18歳から79歳までの3万人に「10万円を投資すると、半々の確率で2万円の値上がり益か1万円の値下がり損のいずれかが発生する」場合にどうするかを聞いている。期待値は1年あたり5%のプラスだが、7割以上が「投資しない」と答えた。
損失を避けたい気持ちが、期待値の計算より強く働いている。回を追って「投資する」の回答は増えているが、傾向そのものは変わっていない。計画の場面でこれが効くと、減る可能性のある選択を全部外して、確実だが足りない計画ができあがる。
| 働きやすい癖 | 計画での現れ方 | 置き換える仕組み |
|---|---|---|
| 目先を重く見る | 「来月から始める」が毎月更新される | 開始日を書類の提出日に固定する |
| 損を避けたい | 減る可能性のある選択を全部外す | 失っても生活が続く上限額を先に決める |
| 自分の知識を高く見る | 調べずに判断し、比較を省く | 2社以上の条件を並べてから決める |
| いまの状態を変えたくない | 保険や通信費が10年そのまま | 年に1回、解約の見積りだけ取る |
| まわりに合わせる | 同年代の平均貯蓄額を目標にする | 目標を自分の不足額から決める |
知識の自己評価と、実際の正答率がずれる
同じ金融リテラシー調査は、正誤問題25問の正答率を測っている。2025年の全体の正答率は53.8%で、前回調査と比べて幾分低下した。年齢層が高いほど、また金融経済情報を見る頻度が高いほど正答率が上がるという関係は、前回と同じだった。
この調査は2016年から3年おきに行われており、2025年で4回目になる。設問は「金融リテラシー・マップ」の8分野に基づく54問で構成され、8分野のうちの1つが生活設計である。知識を測る正誤問題と、行動の特性や考え方を聞く設問が同じ調査に入っているのは、知っているかどうかと実際にやるかどうかが別だという前提に立っているからである。
興味深いのは、客観的な正答率から主観的な自己評価を引いた差を「金融リテラシーギャップ」として測っている点である。自己評価が実際を上回るほどマイナス幅が大きくなる。日本の場合、米国との比較では別の形でずれが出る。比較可能な6問の正答率は日本46%に対して米国49%で差は小さいのに、「金融知識に自信がある」と答えた人は日本13%、米国64%と大きく離れている。
自信の低さは慎重さにつながるが、同時に判断の回避にもつながる。金融経済教育を受けたことがあると認識している人は日本で9%、米国で19%である。教わっていないという自覚が、調べる前にあきらめる理由として使われやすい。
不安が大きいほど、作業が止まりやすくなる
老後の生活について聞いた項目では、2025年に「非常に心配である」が21.8%、「多少心配である」が40.3%で、合わせて62.1%が心配を抱えていた。心配している世帯の理由では「十分な金融資産がないから」が61.9%で最も多い。
この理由の形に注意したい。いくら必要かを決めていない状態で「十分でない」と判定しているので、どこまでやれば足りるのかが定まらない。終わりが見えない作業は、着手の順番が後ろに回る。不安が強い人ほど計画に手を付けないという逆転が起きるのは、意志の問題ではなく、課題の切り方の問題である。
対処は、必要額を出すことを後回しにしないことに尽きる。毎月の不足が4万円だとわかれば、作業は「4万円を埋める方法を3つ挙げる」に変わる。終わりが見える形に書き換えるだけで、着手の確率は上がる。大学生の節約とライフプランのように、早い段階で返還額と初任給を突き合わせておくと、この切り替えが身につきやすい。
意志に頼らず、決める時点をずらして仕組みにする
癖を直そうとするより、癖が働く余地を減らすほうが早い。先送りに対しては、開始日を自分の気分から切り離す。給与振込の翌日に自動で積立に回す設定にしておけば、毎月の判断が1回も発生しない。
損失を避けたい気持ちに対しては、失ってもよい上限額を先に決める。上限の内側では金額が増えても減っても判断を変えないと決めておくと、下がった局面で全部やめるという動きを抑えられる。自己評価のずれに対しては、2社以上の条件を並べてから決めるという手順を固定する。
先の調査で、生活設計を立てている世帯のうち資金計画まで立てているのは69.5%だった。金額まで落ちている計画は、仕組みに変換しやすい。住まいや働き方をどう置くかという段階から考えるなら、FLASPOのような暮らし方の情報も材料になる。自動で積む部分の作り方は貯金の習慣化に、全体の手順はライフプランの作り方にまとめている。
よくある質問
意志が弱いから計画が続かないのでしょうか。続かない原因の多くは、判断の回数が多すぎることにある。毎月考えて実行する設計は、月に12回の判断を要求する。自動化すれば判断は年に1回で足り、同じ人が同じ意志でも結果が変わる。
先送りを自覚しているのに動けないときは、どうしますか。作業の単位を小さくする。計画を作るのではなく、ねんきん定期便を探すところまでを今日の作業にする。1回の作業が15分を超えると着手されにくくなるので、分割の細かさのほうを調整する。
損失を避けたい気持ちは直すべきものですか。直す必要はない。期待値で損をしていると気づくのは意味があるが、不安で眠れない配分は長く続かない。許容できる上限を金額で書き、その内側だけで選ぶ形にすれば、癖と共存できる。
まわりの平均と比べるのは避けたほうがよいですか。目標としては使わず、位置の確認にだけ使うとよい。同年代の平均は家族構成も収入も違う人の集計で、自分の不足額とは関係がない。比べる相手は1年前の自分の数字に置き換えるほうが機能する。
家族と決め方が合わないときは、どうしますか。許容できる上限額を互いに金額で出してから、低いほうに合わせる。感覚の強さを言葉で比べると結論が出ないが、金額なら比較できる。上限を下げた分は期間を延ばして埋める形にすると、どちらかが我慢する構図になりにくい。
出典は金融経済教育推進機構「金融リテラシー調査(2025年)のポイント」(18歳から79歳の3万人を対象としたインターネット調査)および「家計の金融行動に関する世論調査2025年(二人以上世帯調査)」。
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