老後に足りない額は、すでに統計が答えを出している
「老後に3,000万円」という見出しを見かけたとき、その内訳を自分で検算した人は少ないはずだ。けれど計算そのものは込み入っていない。総務省統計局の家計調査(2024年平均)によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は可処分所得が月22万2,462円、消費支出が月25万6,521円。平均消費性向は115.3%で、毎月3万4,059円を貯蓄の取り崩しなどで埋めている姿になる。
65歳以上の単身無職世帯はもう少し小さい。可処分所得12万1,469円に対して消費支出14万9,286円で、月2万7,817円が足りない。逆に世帯主が65〜69歳の無職世帯(二人以上)へ絞ると、可処分所得26万6,336円・消費支出31万1,281円となり、不足は月4万4,945円まで広がる。退職の直後がいちばん重く、年齢が上がるほど支出が落ちていく順序が、この3つの数字に出ている。
ライフプランの骨格は、この「毎月いくら足りないか」と「それが何年続くか」の掛け算に尽きる。順番を取り違えて必要額の総量から入ると、根拠のない大きな数字だけが残る。基本は、月額と年数を別々に置いてから掛けることだ。
年数は平均寿命ではなく平均余命で置く
年数の置き方で多くの人がつまずく。厚生労働省の令和6年簡易生命表では平均寿命は男81.09年、女87.13年だが、これは0歳の平均余命であって、いま65歳の人の見通しではない。同じ表の65歳の平均余命は男19.47年・女24.38年で、65歳の時点では男は84歳半、女は89歳台までを視野に入れることになる。
| 年齢 | 男の平均余命 | 女の平均余命 | 到達するおよその年齢(男/女) |
|---|---|---|---|
| 20歳 | 61.44年 | 67.48年 | 81.4歳/87.5歳 |
| 30歳 | 51.71年 | 57.67年 | 81.7歳/87.7歳 |
| 40歳 | 42.03年 | 47.88年 | 82.0歳/87.9歳 |
| 50歳 | 32.57年 | 38.24年 | 82.6歳/88.2歳 |
| 65歳 | 19.47年 | 24.38年 | 84.5歳/89.4歳 |
表を縦に眺めると、年齢が上がるほど到達年齢の見込みが後ろへ動いていく。若いうちに「平均寿命まで」で引いた線は、生き延びるほど短すぎる線になる。さきほどの不足4万4,945円を20年続ければ1,078万6,800円、単身の2万7,817円を24年なら801万円ほど。世に出回る必要額の幅は、どの世帯で、何歳から、何年分を数えたかの違いでほぼ説明がつく。
入ってくるお金は公的年金から数え始める
不足額は引き算の結果なので、収入側を低く見積もると勝手に膨らむ。土台になるのは公的年金だ。日本年金機構の令和8年4月分からの年金額では、老齢基礎年金の満額は月7万608円(昭和31年4月2日以後生まれ)。20歳から60歳までの40年を納めきって届く金額で、夫婦がともに満額なら14万1,216円になる。
家計調査の夫婦高齢者無職世帯の実収入は25万2,818円だった。基礎年金2人分との差は11万1,602円で、この部分が厚生年金の報酬比例や就労収入、その他の収入で埋まっている。会社員として働いた期間の長さがそのまま効く場所であり、同時に、未納や免除の期間がそのまま削れる場所でもある。受け取る側の計算は年金はいくら受け取れるかの記事で積み上げているので、自分の見込み額はそちらで置いてほしい。
順序としては、公的年金で埋まる部分を先に確定させ、残った穴に貯蓄と私的年金を割り当てる。先に「いくら貯めるか」を決めてしまうと、穴の大きさを測らないまま金額が動かなくなる。
出ていくお金は世帯の形で大きく変わる
支出側は人数で割り勘にならない。家計調査の2024年平均では、二人以上の世帯(平均世帯人員2.88人、世帯主の平均年齢60.4歳)の消費支出が月30万243円、単身世帯(平均年齢58.7歳)が月16万9,547円だった。二人以上の世帯を人数で割ると1人あたり10万4,251円で、単身の16万9,547円を下回る。家賃や光熱・水道、通信のような固定費は人数に比例して増えないため、世帯が小さいほど1人あたりが重くなる。
この性質は将来の見積もりに直接響く。独立、結婚、子の独立、死別と、世帯の人数は人生の中で何度も変わり、そのたびに1人あたりの固定費が跳ねたり沈んだりする。年単位の総額ではなく、世帯の形が変わる時点で区切って置き直すほうが実態に合う。
年齢とともに収支が縮む動きも、同じ調査で追える。世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上)の実収入は、65〜69歳で30万7,741円、70〜74歳で27万5,420円、75歳以上で25万2,506円。可処分所得も26万6,336円、24万0,596円、22万1,948円と段階的に下がり、消費支出は65〜69歳の31万1,281円を頂点に小さくなっていく。退職後の収支は一本の水平線ではなく、前半が重く後半が軽い下り坂だと見ておくほうが実際に近い。
住居費は固定費の中でも最も大きく、しかも契約の時点で数十年分が決まってしまう。返済期間や返済負担率から逆に見ていく手順は住宅とライフプランの記事にまとめた。賃貸か購入かを決める前に、どちらでも月額が将来どう動くかを並べておくと判断がぶれない。
足りない分を、残っている月数で割る
月額と年数がそろえば、最後は割り算だけだ。不足1,078万6,800円を、25歳から65歳までの480か月で割ると月2万2,473円。30歳からの420か月なら2万5,683円、40歳からの300か月では3万5,956円になる。同じ目標額でも、始める年齢が15年遅れると毎月の負担は1.6倍に近づく。
この割り算には運用利回りを入れていない。入れれば必要額は下がるが、利回りは前提次第で大きく動くので、まず利回りゼロの線を引いてから上積みを考えるほうが安全だ。下限が分かっていれば、相場が思い通りにならなかった年にも計画を全部作り直す必要がなくなる。
毎月の額が決まったら、意志ではなく仕組みに乗せる。先に引かれて残りで暮らす形にする考え方は貯金の習慣化の記事で扱っている。あわせて、不足を埋める手段として保険を足す前に、公的保険でどこまで足りるかを確かめておきたい。地域で働くことや暮らす場所の選択までふくめて設計を考えるなら、FLASPOのような地域とのつながり方も材料のひとつになる。
よくある質問
ライフプランは何歳から作ればいいですか
始める年齢が早いほど毎月の負担が軽くなるので、収入が入り始めた時点が目安になる。先の割り算のとおり、25歳からなら月2万2,473円、40歳からなら月3万5,956円と、同じ目標でも必要額が変わる。ただし20代のうちは収入そのものが動くため、精密な表を作るよりも、公的年金の加入歴に空白を作らないことと、固定費の水準を上げすぎないことを先に押さえるほうが効く。
必要額は結局いくらと考えればいいですか
一つの正解はない。世帯の人数、年金の加入歴、何歳まで働くかで答えが動くからだ。本文の数字をそのまま使えば、夫婦のみの無職世帯で月3万4,059円、高齢単身無職世帯で月2万7,817円が不足の目安になる。これに自分が見込む年数を掛け、その総額を65歳までの月数で割る。この3段階だけなら電卓でも検算できる。
物価が上がったら計画は作り直しですか
全部を作り直す必要はない。家計調査の消費支出は2024年に名目で2.1%増えた一方、物価変動の影響を除いた実質では1.1%の減少だった。名目額が動いても中身の量が同じなら、生活の水準はそれほど変わっていない。見直すのは不足の月額と残り月数の2か所だけで、年に一度その2つを更新すれば計画は追いつく。
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