申込みで選ぶのは月額、卒業時に届くのは総額
申込みの画面で学生が決めるのは、毎月いくら受け取るかという一つの数字だけである。返す側に回って初めて、その数字を48回積み上げた金額が姿を現す。日本学生支援機構の奨学金事業に関するデータ集によれば、令和7年3月に貸与を終了した大学学部生の平均貸与総額は323万円、平均返還年数は15年だった。第一種奨学金だけを借りた場合は208万円で14年、第二種奨学金だけなら336万円で17年である。
返還年数を自分で決められないところも見落としやすい。月賦返還額と返還年数は、20年という期間の枠内で貸与総額に応じて機械的に決まる。月額を1万円上げる判断は、返す期間を数年延ばす判断とほぼ同じ意味を持つ。しかも返還が始まるのは、貸与が終わった翌月から数えて7か月目で、毎月27日に口座から引き落とされていく。就職して半年あまりで、十数年続く固定費が家計に加わる形になる。
第二種には利息、機関保証には保証料がつく
第二種奨学金は貸与終了の翌月1日から利子が発生する。利率は貸与が終わった時点で確定し、令和7年3月に貸与を終了した場合は利率固定方式が1.641%、利率見直し方式が1.100%だった。機構の返還例では、固定方式で月8万円を4年間借りると元金384万円に対して利息が69万7,973円つき、返還総額は453万7,973円になる。月々の返還額は1万8,907円、返還年数は20年である。
保証制度の選び方も手元に入る額を動かす。機関保証を選ぶと、機構が毎月の貸与額から保証料を差し引き、残りを口座に振り込む。連帯保証人を立てずに済むかわりに、受け取る月額は選んだ金額より少なくなる。令和6年度の採用者のうち56.09%がこの制度を選んでいる。人的保証なら保証料はかからないが、連帯保証人は本人と同等の責任を負い、保証人も未返済額の2分の1を負担する立場に置かれる。どちらを選んでも負担が消えるわけではなく、負担の置き場所が変わるだけである。
| 項目 | 第一種(無利子)の例 | 第二種(有利子)の例 |
|---|---|---|
| 貸与月額 | 54,000円(私立大学・自宅通学) | 80,000円 |
| 貸与期間 | 4年間(48か月) | 4年間(48か月) |
| 元金 | 2,592,000円 | 3,840,000円 |
| 利息 | なし | 697,973円(利率固定方式1.641%) |
| 返還総額 | 2,592,000円 | 4,537,973円 |
| 毎月の返還額 | 14,400円 | 18,907円 |
| 返還年数 | 15年 | 20年 |
同じ4年間でも、月額と利息の有無で返還総額は2倍近く開く。借りる前に見ておくべき数字は月額ではなく、この表の下から三行だといえる。
延滞は延滞金と信用情報の記録を連れてくる
返還期日を過ぎると、延滞した割賦金に対して延滞金が賦課される。平成17年4月以降に採用された第一種と、第二種では、返還期日の翌日から365日あたり年3%の割合で日数に応じて加算される。この割合は平成26年に10%から5%へ、令和2年にさらに3%へ引き下げられてきた経緯がある。下がったとはいえ、返せない月が続けば元の借金とは別の負担が積み上がる。
規模も公表されている。令和6年度末の延滞額は723億円で、1日以上の延滞者は31万8千人、返還者全体の6.4%にあたる。3か月以上の延滞者は12万7千人で2.6%である。振替口座の残高不足によるうっかり延滞も含まれており、その多くは3か月以内に解消している。ただし3か月を越えると個人信用情報機関への登録が行われ、記録は返還完了から5年後まで残る。督促は文書と電話から始まり、債権回収会社への委託、裁判所への支払督促申立へと段階を踏む。令和6年度に訴訟へ移行した債権は3,727件だった。
救済制度は用意されているが、申請しないと動かない
返せなくなったときの逃げ道は制度側にある。減額返還制度は毎月の返還額を3分の2、2分の1、3分の1、4分の1のいずれかに下げる仕組みで、1回の願出で12か月、通算では最長15年(180か月)まで使える。令和6年度から3分の2と4分の1が加わり、収入の基準も緩められた。注意すべきは、返還期間が延びても第二種の利息の支払総額は変わらない点、そして口座振替に未加入の人と延滞している人は利用できない点である。
返還期限猶予は一定期間、返還そのものを先送りする制度で、一般的な事由による適用期間は通算10年(120か月)が上限となる。傷病、災害、生活保護受給中、産前産後休業と育児休業などに該当する場合は年数の制限がない。猶予中は第二種の新たな利子も付かない。どちらも返還者側からの願出が出発点であり、黙って引き落としを止めれば延滞として扱われる。制度の存在を知っていても、延滞してから動くと減額返還の選択肢そのものが消える。
返し終わるまでの十数年に何が重なるか
平均返還年数の15年という数字を生活の側に置き直すと、22歳で返し始めた人が37歳前後まで払い続ける計算になる。その間には就職と転職、引っ越し、結婚、出産といった出費の山が並ぶ。毎月1万4千円から1万9千円という水準は単体では小さく見えても、収入が落ちた月や予定外の支出が重なった月に最初に遅れるのはこの引き落としである。大学生の節約とライフプランを在学中から考えておく意味は、ここにある。
一方で、負担を軽くする動きも広がってきた。繰上返還で返還期間が短くなった場合には、機関保証の保証料の一部が戻ることがある。勤め先が従業員の返還を代わりに送金する代理返還制度は、令和6年度末で3,266社が利用している。在学中の成績が奨学金の継続に関わる場面もあり、大学のGPAの使われ方を知っておくと打ち切りを避けやすい。地域での暮らしや働き方を考える入口としてはFLASPOのような場も使える。借りる判断の前に、返し終わる年齢まで線を引いてみることが最も効く対策である。
よくある質問
奨学金を借りると住宅ローンが組めなくなりますか。機構が個人信用情報機関に登録するのは、延滞が3か月以上になった場合に限られます。約束どおり返還している間の情報が登録されるわけではなく、延滞を解消すれば「約束どおり返している」という情報に更新されます。登録は多重債務を防ぐためのもので、採用時の与信判断に信用情報が使われることもありません。
繰上返還をすると保証料は戻りますか。全額繰上返還で返還期間が短縮された場合、一部繰上返還で返還期間が短くなって返還が完了した場合、返還免除の適用を受けて完了した場合には、支払った保証料の一部が返されることがあります。返戻先は奨学金の振込口座か振替用の口座です。
毎月の返還額を下げれば利息も減りますか。減額返還では月々の負担が下がるかわりに返還期間が延び、第二種の利息の支払総額は変わりません。返還期限猶予の場合は、猶予されている期間に新たな利子が付かない扱いになります。負担を減らす目的なら、繰上返還と減額返還は逆向きの手段だと理解しておくとよいです。
第二種の利率はいつ決まりますか。貸与が終了した時点の利率が適用されます。令和7年3月に貸与を終了した人の場合、利率固定方式が1.641%、利率見直し方式が1.100%でした。見直し方式は概ね5年ごとに利率が見直されるため、返還が終わるまで同じ数字が続くわけではありません。
人的保証と機関保証はどちらが有利ですか。金額だけを見れば、保証料のかからない人的保証のほうが受け取る月額は大きくなります。ただし人的保証では連帯保証人が本人と同じ責任を負い、延滞が長引けば督促はその人にも向かいます。機関保証では延滞時に保証機関が機構へ代位弁済しますが、返還者の債務が消えるわけではなく、相手が保証機関に替わるだけです。親族に負担を広げたくないかどうかが判断の分かれ目になります。
延滞しそうなときは誰に相談すればよいですか。引き落としができなかった月には、機構から文書と電話で返還期限猶予などの案内が届きます。督促の段階を越える前に機構へ相談すれば、法的手続や代位弁済請求に進む前に減額返還や猶予の申請へ切り替えられます。連絡を取らないまま住所不明になることが、最も不利な選択です。
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