名刺に刷った一語が、相手ごとに違う意味で読まれている
同じ「フリーランス」という肩書きでも、建設現場で一人親方として働く人と、自宅から設計図を描く人と、週末だけ動画を編集する会社員とでは、仕事の立て方も受けられる保護もまるで違う。にもかかわらず、三者は同じ一語で呼ばれている。
内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が連名で出しているフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインは、この語について「法令上の用語ではなく、定義は様々である」と最初に断っている。そのうえで同ガイドラインは、対象を「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と置いた。
この定義には細かい補足が付く。専用の事務所や店舗を設けず自宅の一部で小規模に事業を営む場合は実店舗に区分せず、共有型のコワーキングスペースやネット上の店舗も実店舗としない。一方、耕地や漁船を持って耕作や漁業をする農林漁業従事者は、この枠から外されている。「雇人なし」のほうは、従業員を雇わず自分だけ、または自分と同居の親族だけで個人経営の事業を営んでいる状態を指す。
つまり自宅の一室で働いていても、コワーキングスペースを借りていても、定義上は同じ側に並ぶ。分類の軸は、場所ではなく別のところにある。以下では産業、契約、時間、そして法律という四つの軸で、この一語の中身をほどいていく。
どの産業に何人いるのか、公的統計が初めて数えた
フリーランスの人数は長く推計の域にあったが、総務省の就業構造基本調査が2022年調査で初めてこれを把握した。同省の統計Today No.197によれば、本業がフリーランスの数は209万人で、有業者に占める割合は3.1%である。男女別では男性146万人、女性63万人と、約7割が男性だった。
ここで目を引くのは産業ごとの偏りである。実数が最も多いのは建設業だが、有業者のうちフリーランスが占める比率で見ると順位が入れ替わる。数が多い産業と、その産業のなかでフリーランスという働き方が標準に近い産業は、別物だということになる。
| 産業大分類 | 本業がフリーランスの数(万人) | 有業者に占める割合(%) |
|---|---|---|
| 建設業 | 49.7 | 10.7 |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 36.7 | 13.5 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 18.2 | 4.0 |
| 卸売業、小売業 | 17.5 | 1.8 |
| 不動産業、物品賃貸業 | 16.4 | 10.7 |
| 製造業 | 16.2 | 1.5 |
| 情報通信業 | 15.3 | 5.2 |
| 教育、学習支援業 | 12.5 | 3.7 |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 10.7 | 4.8 |
| 運輸業、郵便業 | 9.4 | 2.7 |
出典は総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」の産業大分類別の集計である。学術研究、専門・技術サービス業は13.5%と、働く人の7人に1人近くがフリーランスにあたる。建設業と不動産業、物品賃貸業も10.7%で並ぶ。逆に宿泊業、飲食サービス業は0.2%、医療、福祉は0.4%にとどまり、同じ「フリーランス」でも業界内での位置づけが大きく違うことがうかがえる。
都道府県別では東京都が4.2%、35万人で最も高く、神奈川県と京都府が3.6%で続く。地域差はあるものの、どの地域にも一定数が存在する働き方になっている。
契約書の表題で分けると、責任の範囲が変わる
案件を受けるときに交わす書面の表題は、たいてい「業務委託契約書」である。ただし民法には業務委託という契約類型そのものはなく、実質は請負契約か、委任・準委任契約のいずれかに整理される。前掲のガイドラインも、フリーランスが結ぶ契約として請負契約と準委任契約を並べて挙げている。
請負は仕事の完成に対して報酬が発生する。成果物が仕様どおりに仕上がっていなければ、直して納めるまで責任が残る。準委任は一定の事務や役務を誠実に処理することに対して報酬が発生し、結果そのものを保証しない。ウェブサイトを一式作って引き渡すのは前者に近く、月ごとに技術的な相談に応じるのは後者に近い。
フリーランス法の側も、保護の入口となる「業務委託」を二つに割っている。ひとつは物品の製造(加工を含む)または情報成果物の作成を委託すること、もうひとつは役務の提供を委託することである。デザインやプログラム、記事といった成果物を作る仕事は前者、講師や保守、運転といった役務を提供する仕事は後者に入る。どちらに該当するかで、明示されるべき取引条件の書きぶりも変わってくる。
職種ごとの実際の立ち上げ方は、プログラミングでフリーランスになる方法やデザインとフリーランスの関係で個別に扱っている。契約の型が同じでも、納品の形が違えば交渉すべき点が違う。
本業か副業かで、使っている時間の形がまるで違う
フリーランスを本業と副業に分けると、働き方の輪郭がはっきりする。就業構造基本調査では、フリーランス総数257万4000人のうち、本業のみが202万9400人、副業のみが48万300人、本業と副業の両方で行っている人が6万4300人だった。
本業がフリーランスの人のうち、年間就業日数が200日以上の人は58.0%を占める。その内訳では週間就業時間が40〜49時間の層が22.5%で最も厚く、会社員の標準的な勤務時間と重なる。一方で年間200日未満の人も42.0%おり、女性ではこの割合が57.2%に達する。
副業としてフリーランスをしている人は、時間の形が逆である。副業がフリーランスの54万4600人のうち、78.2%が「不規則的就業」、つまり仕事があるときや忙しいときだけ働く形をとっている。週の就業時間が5時間未満という層も5.3%を占める。
学び直しの傾向にも差が出た。職業訓練や自己啓発を「しなかった」人の割合は、本業のみのフリーランスで67.1%に達するが、副業としている人では45.0%にとどまる。本業で手一杯になると、技能を更新する時間が削られやすい、という見方もできる数字である。
法律の保護が切り替わる、三つの境目
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法は、保護される側を「特定受託事業者」と定義した。該当するのは、個人であって従業員を使用しないもの、または法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの、のいずれかである。法人を作っていても、役員が自分だけで従業員がいなければ対象に入る。
そのうえで、発注側に課される義務は契約期間によって段階的に増える。期間の長短に関係なく、業務委託をしたら直ちに取引条件を書面または電磁的方法で明示しなければならない。明示すべき項目は、業務委託をした日、給付または役務の内容、受領の期日と場所、検査を完了する期日、報酬の額、支払期日などを含む9項目である。
報酬は、給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、それまでに支払う必要がある。期間が1か月以上になると、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しという7つの行為が禁じられる。さらに6か月以上になると、妊娠・出産・育児・介護への配慮義務が加わり、契約を解除したり更新しない場合には少なくとも30日前までの予告が義務になる。
もう一つの境目は、労働者とみなされるかどうかである。同ガイドラインは、契約の形式ではなく就労の実態で判断するとして、「指揮監督下の労働」であることと「報酬の労務対償性」があることの二つを合わせて「使用従属性」と呼ぶ。仕事の依頼を断る自由があるか、業務遂行に具体的な指揮監督を受けているか、時間と場所の拘束があるか、他人に代わってもらえるかが見られる。これが認められれば、呼び名がフリーランスであっても労働関係法令が適用される。
よくある質問
法人化していたらフリーランスではなくなるのですか
ガイドラインの定義は「自営業主や一人社長」であり、一人社長を含んでいます。フリーランス法の特定受託事業者も、法人のうち代表者以外に役員がなく従業員を使用しないものを含みます。したがって、一人で回している法人なら、呼び方も保護の対象も変わりません。役員を増やしたり従業員を雇った時点で、法の対象からは外れます。
副業で月に数件だけ受けている場合も含まれますか
就業構造基本調査は副業のみフリーランスの人を48万300人と数えており、統計上は含まれます。フリーランス法の保護も、本業か副業かでは区別されません。ただし禁止行為や解除予告のように契約期間で適用が切り替わる義務があるため、短期の単発案件では発注側の義務が明示と支払期日に限られる場合があります。
一人親方はフリーランスに数えられますか
建設業で本業がフリーランスの人は49.7万人と、産業別で最多です。従業員を雇わず実店舗を持たない形で働いているなら定義に合致します。一方、耕地や漁船を持って耕作や漁業をする農林漁業従事者は、ガイドラインの定義から明確に除かれています。
自分がどの種類に当てはまるかを、どう確かめればよいですか
契約書の表題ではなく中身を見るのが早道です。成果物の完成に報酬が紐づいているか、役務の提供に紐づいているか。契約期間が1か月以上か、6か月以上か。仕事の依頼を断る自由があるか。この三点を押さえれば、受けられる保護の範囲がおおよそ定まります。学生や若手の独立についてはFLASPOでも相談を受け付けています。
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