ベンチャーキャピタルとは|日米の投資額差と出資の流れを押さえる

ベンチャーキャピタルとは|日米の投資額差と出資の流れを押さえる

資金調達の話になると必ず名前が出るのに、実態がつかみにくい相手がベンチャーキャピタルである。銀行のように預金を貸すわけではなく、事業会社のように本業の利益を回すわけでもない。誰のお金をどんな約束で預かり、何年で返す建前になっているのか。この構造を知らないまま面談に行くと、相手の質問が理不尽に見えてしまう。

自分の金ではない資金を運用しているという前提

ベンチャーキャピタル、略してVCは、多くの場合ファンドという器を組んで外部から資金を集め、それを未上場企業の株式に投じる。日本でこの器として使われる代表格が投資事業有限責任組合、いわゆるLPSである。運用を担う無限責任組合員と、資金を出すだけの有限責任組合員に役割が分かれ、年金基金や事業会社、金融機関、近年は個人も後者に名を連ねる。

ここから二つの帰結が生まれる。第一に、ファンドには満期がある。10年前後で清算する約束で組まれるのが一般的で、残り年数が少ない器から新規に出資を受けるのは難しい。第二に、担当者は他人のお金を預かる立場にあるため、目標とする倍率を外した説明では稟議を通せない。事業への思い入れを語っても、投資先全体のうち数社の大きな成功で全体を支える構造を崩す案件は選びにくい。質問が厳しいのは人柄ではなく、構造の反映である。

成長段階ごとに資金の出し手が入れ替わる点も、この満期と目標倍率から説明がつく。段階の呼び名と各段階で見られる指標の整理はITスタートアップの定義と成長段階を扱った記事にまとめてある。

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日本のVC投資はどのくらいの規模なのか

政府が2022年11月にまとめた「スタートアップ育成5か年計画」は、この規模感を具体的な数字で示している。2021年の日本のVC投資額は2,300億円、件数は1,400件だった。同じ年の米国は36.2兆円、17,100件である。しかも2020年との比較では、米国が投資額を2倍にしたのに対し、日本は1.5倍にとどまり、水準だけでなく伸び方でも差が開いた。

項目 日本 米国
2021年のVC投資額 2,300億円 36.2兆円
2021年の投資件数 1,400件 17,100件
2020年からの投資額の伸び 1.5倍 2倍
出典:内閣官房「スタートアップ育成5か年計画」(2022年11月)

VCに限らずスタートアップ全体への投資額でみると、2017年の3,600億円から2021年の8,200億円へと5年間で2.3倍に増えている。計画はこの8,000億円規模を、5年後の2027年度に10倍を超える10兆円規模へ引き上げることを目標に掲げた。さらに将来の姿として、時価総額1,000億円超の未上場企業であるユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出し、アジア最大のスタートアップハブになることを目指すと書かれている。原文は計画本文のPDFで読める。

民間VCの後ろに公的資金が置かれている

10兆円という目標は、民間だけで届く数字として想定されていない。計画には、公的な資金をVCの背後に入れる施策が具体的に並ぶ。投資実績のある中小企業基盤整備機構については、資金力やスタートアップの育成ノウハウを持つ内外のVCへ有限責任投資を行うことも念頭に、200億円の出資機能の強化を図るとされた。2024年度からの中期目標では、若手キャピタリストが経営するVCに限定した出資枠の創設なども検討課題に挙がっている。

産業革新投資機構は、過去4年間で1,200億円規模のファンドを通じて投資してきた実績を踏まえ、出資機能をさらに強化する方向が示された。研究開発型の領域では、新エネルギー・産業技術総合開発機構が、認定VCによる実用化開発費に相当する額の1/3の出資を条件として残りの2/3を補助する仕組みを運用しており、年間60億円の規模を3倍にあたる5年間分1,000億円、年間200億円の基金として新規造成するとされている。

公的な支援を受けた事実そのものが、民間投資を呼び込む認証効果を持つという指摘も計画に書かれている。地域金融機関が同じ文脈で動いている例については地方銀行とスタートアップ支援を扱った記事で触れた。

出資を受けると会社の何が変わるのか

株式を渡して資金を得るため、返済の義務は生じない。その代わり持ち分が薄まる。創業者の議決権が過半を割れば、重要な決定を単独では通せなくなる。投資契約には、一定の行為について事前に承諾を得る条項や、月次の業績報告を求める条項が入ることが多い。経営の自由度と資金量を交換する取引だと捉えるのが素直である。

役員構成にも影響が及ぶ。出資者が取締役やオブザーバーを送り込む形は珍しくなく、取締役会の運営や議事録の整備といった実務が一気に重くなる。従業員に対する報酬設計も変わり、ストックオプションの発行枠をどこに置くかが交渉の論点になる。税制上の扱いの差はストックオプションの仕組みと税制を比べた記事で整理した。

それでも投資を受ける価値がある、と計画は述べている。VCの投資を受けた企業はそうでない企業と比べて雇用の拡大やイノベーションに積極的であり、VCにはスタートアップを有意に評価する能力と育てる能力があることが確認される、という記述である。資金そのものより、評価と育成の機能に意味があるという読み方になる。

VC・エンジェル・融資はどこで住み分けるのか

三つの経路は、取れるリスクと求める見返りが違う。銀行融資は返済が前提で、担保や信用が問われる代わりに持ち分は減らない。個人投資家からの出資は意思決定が速く、金額は小さめで、創業直後の空白を埋める役に向く。VCは金額が大きい代わりに、器の満期から逆算した成長速度を求める。

順番としては、設立直後にエンジェル投資家や公的な創業融資で足場を作り、事業の形が見えてからVCに向かう流れが一般的である。個人からの出資には税制上の後押しがあり、経済産業省のエンジェル税制では設立5年未満や10年未満といった年数の区分ごとに措置が用意されている。会社の年次が進むほど使える措置は減るため、どの順でどこから受けるかは早い段階で設計しておく価値がある。

そもそも出資を受けないという選択もある。計画が掲げる10万社という数字のうち、全社がVCの資金を必要とするわけではない。手元の受注で回る事業なら、持ち分を手放さずに進めるほうが自由度は高い。学生や若手がチームで試行する段階なら、FLASPOのようなコンテスト型の場で評価を得てから資本の話に進む筋道も現実的である。

よくある質問(FAQ)

VCとCVCは何が違うのでしょうか。CVCは事業会社が自社の資金で運営する投資部門やファンドを指す。財務的な見返りに加えて、本業との事業連携を目的に置く点が独立系のVCと異なる。計画でも両者は別の資金調達手段として並べられている。

赤字でも出資を受けられますか。受けられる。むしろ先行投資の局面で赤字になることは前提として織り込まれている。見られているのは利益の有無より、市場の大きさと成長の速さ、そしてその速さを支える人と技術である。

何%までなら株式を渡しても大丈夫でしょうか。一律の正解はないが、将来の調達で持ち分がさらに薄まることを見込んで逆算する必要がある。初回で大きく手放すと、次の段階で創業者の裁量が残らなくなる。議決権の比率と、契約に入る承諾事項の範囲を合わせて確認したい。

地方にいるとVCから遠いのではないですか。距離の不利はある。一方で公的資金が民間VCの背後に入る施策や、地域金融機関を軸にした支援の枠組みが整えられてきている。認定VCを条件に補助を出す研究開発型の制度のように、所在地より事業の性質で入口が決まる仕組みも増えた。

2,300億円と36.2兆円という差は縮まる見込みがありますか。計画は2027年度に10兆円規模という目標を掲げているが、これは目標であって予測ではない。公表されている数字をそのまま当てはめれば、達成には投資額を10倍超に増やす必要があり、現在の伸び方との隔たりは大きい。


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