学生起業の失敗例に共通する型|解散122社と予想月商の未達から

学生起業の失敗例に共通する型|解散122社と予想月商の未達から

残っているのは、うまくいった会社の話ばかり

失敗例を調べようとして手が止まることがある。検索して出てくるのは資金調達に成功した会社の記事か、名前の知られた企業が傾いた後日談で、在学中に始めて静かに畳んだ会社の記録はほとんど見当たらない。

理由ははっきりしている。会社を閉じた人には、その経緯を公開する動機がない。登記を終え、取引先に事情を伝え、残務を片づけたあとで、わざわざ振り返りを書き残す人は少ない。語られたものだけが世の中に残り、語られなかったものは数にすら表れにくい。

事例が手に入らないなら、数字で輪郭をつかむしかない。この分野には毎年の定点観測が二つある。経済産業省の大学発ベンチャー実態等調査と、日本政策金融公庫総合研究所の新規開業実態調査である。前者は会社の生き死にを、後者は開業後の経営状態を追いかけている。

以下では、その二つから失敗の形を四つ取り出す。登記が閉じるという結末、見込みが外れる段階、経験の不足、そして売上の不安定さ。並べてみると、学生が踏みやすい段差がどこにあるかが見えてくる。

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登記を閉じた大学発ベンチャーは1年で122社

いちばん分かりやすい失敗の形は、会社が消えることである。令和7年度の大学発ベンチャー実態等調査では、2025年度に解散等として扱われた企業が122社あった。前年度の84社から38社増えている。

年度ごとに並べると、増え方の傾向が読める。2020年度にいったん底を打ったあと、2023年度から3年続けて増加している。

年度 解散等(社) 前年度との差
2019 34 —
2020 23 -11
2021 72 +49
2022 41 -31
2023 76 +35
2024 84 +8
2025 122 +38

母数が増えていることは同時に押さえておきたい。同じ調査で把握された大学発ベンチャーは6,220社で、前年度の5,074社から1,146社増えた。直近1年間に新しく設立されたのは424社である。生まれる数が増えれば、数年遅れで閉じる数も増える。

ここでいう解散等は、法人番号から登記の終了を把握したものと、調査への回答で判明したものを合算した数字で、M&Aも含まれる。つまり事業を他社に引き継いで法人を閉じた例も同じ欄に入る。一方、活動を止めたまま登記だけ残っている会社はこの122社に数えられない。実際に動きを止めた会社は、もう少し多いと見るのが妥当である。

畳んでいなくても、見込みが外れている会社が4割

会社が残っていることと、計画どおりに進んでいることは別である。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査には、開業前に予想していた月商に対して実際の月商がどの水準かを尋ねた項目がある。

回答した2,024社の分布は、予想の50%未満が10.5%、50%から75%未満が16.6%、75%から100%未満が14.2%だった。足すと41.3%が予想に届いていない。達成したのは58.7%、125%以上まで伸びたのは34.2%である。

重いのは、予想の半分にも届かない会社が1割あるという点だろう。開業前の数字は、たいてい自分で立てたものである。それが半分しか当たらないなら、仕入れも人員も家賃も同じ比率で狂う。資金が尽きる時期だけが、予定より早くやってくる。

採算で見ると、黒字基調が67.0%、赤字基調が33.0%である。3社に1社は赤字のまま走っている。これ自体はまだ失敗ではないが、赤字を埋める手当てを持たないまま続けると、そのまま滑走路の端に着く。

在学中の会社は、赤字でも生活が直ちに崩れないことがある。仕送りやアルバイトの収入があり、事務所も人件費も抱えていない。ただしそれは痛みを先送りできるという意味であって、黒字に転じる根拠ではない。見込みと実績の差を毎月測る習慣だけは、規模に関係なく要る。

足りないのは資金よりも先に、仕事をした年数

開業した人の経歴をたどると、学生との距離がはっきり出る。同じ調査で、勤務経験のある人は97.6%、いま営む事業に関連する仕事をした経験、いわゆる斯業経験のある人は81.1%、管理職経験のある人は66.4%だった。

年数も長い。勤務経験の平均は21.1年、斯業経験の平均は15.3年である。開業時の平均年齢が43.9歳と調査開始以来もっとも高くなったことと重ねると、日本の開業は長く働いた人がその延長で独立する形が主流だと分かる。

学生の起業は、この主流の外で行われる。15年分の勘所、取引先の名簿、値段の相場観、断られ方の型。どれも持たずに始めるので、先人が済ませた失敗を自分で一から踏み直すことになる。費用のかからない失敗ばかりならよいが、契約と支払いが絡むと取り返しがつきにくい。

埋め方はある。インターンで業界の内側を見ておく、すでに事業をしている人に月1回でも相談相手になってもらう、最初の顧客を知っている人に紹介を頼む。いずれも在学中のほうが頼みやすい。学業との両立や費用の問題は学生起業のデメリットを整理した記事でも扱っている。

逆にいえば、経験の不足を自覚しないまま走り出すことが、入口でいちばん多いつまずきである。知らないことを知らないままにしておくと、判断を誤ったことにすら気づけない。

最も多い悩みは、売上が安定しないこと

始めたあとで何に困るのか。公庫の2025年度起業と起業意識に関する調査では、事業を行ううえで問題だと感じていることとして、起業家の42.5%が売り上げを安定的に確保しづらいことを挙げた。次に多いのは業務に対する対価が低いことで31.3%である。

事業に充てる時間が週35時間未満のパートタイム起業家では、順位が入れ替わる。対価の低さが27.4%で首位、売上の不安定さが27.3%と僅差で続く。働く時間が短いぶん、単価の問題が先に表面化する。

学生が始める事業の多くは、このパートタイム起業家に近い形から出発する。授業と試験を抱えて週35時間を事業に回すのは難しい。すると受けられるのは短納期で単価の低い仕事になり、件数を増やして埋めようとして、学業が削られる。悪循環の入口はここにある。

抜け道は、値段を上げられる理由を一つ作ることに尽きる。特定の業種に詳しい、納品物の質が安定している、連絡が早い。何でもよいが、他の受注先と比べて選ばれる理由が言葉にできないうちは、単価は相場のいちばん下に張りつく。

学生の挑戦を地域の仕事につなぐ取り組みはFLASPOでも進めている。成功の側から見た指標の立て方は上場とM&Aの件数を扱った記事に整理した。

よくある質問

学生起業の失敗率を示す統計はありますか

学生に限って生存率を集計した公的な統計は見つからない。近いのは大学発ベンチャーの解散等の件数で、2025年度は122社だった。ただしこれは学生ベンチャー以外も含む数字で、母集団も毎年変わる。割合として語られている数値を見かけたら、分母が何かを必ず確かめたほうがよい。

会社を畳むと借金は残りますか

法人の債務は原則として法人のものだが、代表者が個人保証を付けて借り入れた場合は、法人を清算しても保証した分の返済義務が残る。在学中に始めるなら、保証を伴う借り入れをどこまで使うかを最初に決めておきたい。自己資金と小さな売上で回す設計なら、この種の重さは避けられる。

赤字が続いたらいつ畳むべきですか

判断の線は、残っている現金で何か月もつかで引くのが扱いやすい。売上の見込みが予想の半分で止まり、それを戻す打ち手が三つ挙げられないなら、続ける理由を言葉にできない状態になっている。畳む判断は早いほど次の選択肢が多く残る。

失敗した経験は就職のときに不利になりますか

不利か有利かを示す調査は確認できなかった。はっきりしているのは、開業者の8割が斯業経験を持つという分布のなかで、在学中に事業を動かした経験が珍しい部類に入ることである。何をやったかより、どこで判断を誤り何を変えたかを説明できるかどうかが、受け取られ方を左右する。

小さく試して失敗を減らす方法はありますか

法人を作る前に、個人として受注してみる手がある。開業費用をかけずに起業した人は起業家で32.2%にのぼり、必ずしも初期投資が要るわけではない。数か月だけ動かしてみて、見込んだ需要が本当にあるかを確かめてから登記しても遅くはない。


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