寮でもアパートでもない三番目の滞在先
留学の滞在先を探しはじめると、たいてい三つの候補が並ぶ。学校が持つ寮、自分で契約するアパート、そして誰かの家庭に住まわせてもらうホームステイである。前の二つは契約相手が組織だが、ホームステイだけは相手が生活者で、同じ台所と同じ風呂を使うことになる。
この違いは契約の形にも出る。寮なら入居の規則が文書で配られ、アパートなら賃貸借契約書に条件が書き込まれる。家庭に入る場合、文書で決まるのは期間と支払いまでで、食事の時間や入浴の順番、洗濯の扱いといった部分は暮らしながら決まっていく。ここを曖昧なまま始めると、あとで摩擦になる。
交換の内容も単純ではない。受け入れる家庭は部屋と食事を出し、滞在する側は費用を払う。それだけなら宿泊の取引だが、実際には家庭の側も言葉や習慣を持ち込まれる側になる。片方がもてなす関係ではなく、双方が生活を調整し合う関係だと捉えたほうが近い。
呼び方の幅にも注意したい。短期の語学研修で一週間だけ泊まる形も、交換留学で一年を過ごす形も、どちらもホームステイと呼ばれる。期間が一桁変われば必要な覚悟も変わるため、募集要項で何週間の話をしているのかを最初に確かめる価値がある。
日本に住む留学生のうち、家庭に住む人は94人だった
規模から押さえると見通しがよくなる。日本学生支援機構の令和5年度私費外国人留学生生活実態調査は、私費外国人留学生7,867人から回答を得ている。その宿舎の形態を集計すると、ホームステイは94人で全体の1.2パーセントだった。令和3年度は1.1パーセント、令和元年度も1.1パーセントで、比率はほとんど動いていない。
内訳を並べると、どこに人が集まっているかがはっきりする。
| 宿舎の形態 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 民間アパート・マンション等 | 5,512人 | 70.1% |
| 大学・学校の留学生用宿舎 | 868人 | 11.0% |
| 大学・学校の一般学生寮 | 638人 | 8.1% |
| 公営住宅等の一般公的宿舎 | 273人 | 3.5% |
| 県・市・財団法人の留学生宿舎 | 137人 | 1.7% |
| 企業の社員寮 | 98人 | 1.2% |
| ホームステイ | 94人 | 1.2% |
| その他 | 247人 | 3.1% |
七割が民間の賃貸に住んでいるという結果は、学校側の宿舎供給が需要に追いついていないことの裏返しでもある。同じ機構の2024年度外国人留学生在籍状況調査でも、2024年5月1日現在の留学生336,708人のうち公的宿舎に入っているのは74,022人で、残る262,686人は民間の宿舎やアパートに住んでいる。
つまり日本国内で長く学ぶ留学生にとって、家庭に住む形は主流の選択肢になっていない。言葉を覚える速さや生活の支えという利点がある一方で、受け入れ側の家庭を安定して確保しにくいという事情が、この1.2パーセントという数字に表れている。
日本から出る側では、一か月未満に大きく偏る
逆の方向、つまり日本から海外へ出る場合はどうか。機構の2023年度日本人学生留学状況調査によると、2023年度に留学を開始した日本人学生は89,179人で、前年度より31,017人、53.3パーセント増えた。注目したいのは期間の分布である。
一か月未満が57,044人で、全体の64.0パーセントを占める。続いて六か月以上一年未満が10,420人、三か月以上六か月未満が10,376人、一か月以上三か月未満が8,747人、一年以上は2,122人にとどまる。学部の四年間のうち一度だけ、夏休みや春休みに数週間出かける形が最も多いということだ。
高校段階でも同じ傾向が出る。文部科学省が隔年で実施している高等学校等における国際交流等の状況についての令和5年度調査では、三か月未満の研修旅行で海外へ出た高校生が31,711人、三か月以上の留学は3,174人だった。短期が長期の十倍という構図になっている。
この偏りが、ホームステイの使われ方を決めている。数週間の滞在で部屋を借りる契約を結ぶのは現実的でないため、短期のプログラムは家庭への滞在と組み合わせるのが自然になる。ホームステイは長期滞在の代替ではなく、短期プログラムの構成部品として機能している、と見たほうが実態に合う。
費用は「家賃」として聞くと見誤る
支払う金額の話に入ると、比較の土台がずれやすい。前出の生活実態調査は宿舎の形態別に住居費を聞いており、ホームステイと答えた90人の分布は一万円未満が23.3パーセント、三万円以上四万円未満が20.0パーセント、二万円以上三万円未満と五万円以上六万円未満がそれぞれ14.4パーセントだった。
幅が広いのは、含まれるものが一定でないからだ。食事が二食付くのか、光熱費と通信費が別なのか、通学の交通費を誰が持つのかで、同じ月額でも中身が変わる。親族の家に近い条件で負担が小さい例と、食事込みで宿泊施設に近い水準になる例が、同じ欄に並んでいると考えられる。
相場の目安としては全体の数字も効く。同じ調査では住居費の全国平均月額が41,000円で、関東地方が51,000円、東京のみでは57,000円、東北地方と中国地方は26,000円だった。地域差が二倍以上あるため、都市部の家庭の提示額を地方の相場と並べても意味がない。
金額以外の条件も確かめておきたい。宿舎に入る際に保証人を求められた人は3,829人で48.7パーセントに達する。家庭に住む場合は保証人の代わりに受け入れ団体が間に入ることが多いが、間に入る組織の有無で、途中で住めなくなったときの逃げ道が変わる。
向く人と向かない人は、生活のリズムで分かれる
語学の上達だけを基準に選ぶと判断を外す。家庭での会話は毎日発生するので、話す量は確実に増える。ただし増えるのは食卓と居間の言葉で、授業や仕事で使う言い回しは別に学ぶ必要がある。語学試験の点を上げたい人にとって、家庭滞在は近道ではない。
向いているのは、生活の時間を他人と合わせられる人だ。夕食の時刻に帰る、週末の予定を共有する、深夜に出入りしないといった調整が苦にならないなら、得るものは大きい。逆に、勉強や課外活動で帰宅が不規則になる予定が決まっているなら、鍵のかかる自分の部屋を借りたほうが互いに楽になる。
準備として効くのは、聞く順番を決めておくことだ。食事の提供回数、台所と洗濯機を使ってよい時間、客を呼べるかどうか、通学の経路と所要時間、そして滞在をやめたいときの連絡先。この五つを滞在前に文字で確認しておけば、起きやすい行き違いはおおむね防げる。
学生の立場で選択肢を広く見るなら、学生が国際交流を始める7つの方法で費用と難易度を並べたうえで、短期のプログラムから試すのが無理がない。国内にいながら関わる形を探す場合は国際交流イベントの種類と選び方が入口になる。地域と若者の関わりを事業として扱うFLASPOのような取り組みも、海外に出ない接点のひとつである。
よくある質問
ホームステイと民泊やゲストハウスはどう違いますか
民泊やゲストハウスは宿泊の提供が目的で、滞在者は客である。ホームステイは生活の場に加わる形で、家事の分担や食事の時間といった家庭の運用に組み込まれる。料金に食事が含まれるかどうかも、宿泊施設なら明示されるが、家庭の場合は個別の取り決めになる。
日本国内の大学に留学してもホームステイはできますか
制度としては存在するが、数は限られる。生活実態調査でホームステイと答えたのは7,867人中94人で、1.2パーセントにとどまる。入学後に自力で探すのは難しいため、受け入れ家庭を斡旋している大学や自治体の国際交流協会に、出願の段階で問い合わせておくのが現実的だ。
短期のホームステイでも語学力は伸びますか
伸びる部分と伸びない部分がある。あいさつ、買い物、依頼といった生活場面の会話は数週間でも手応えが出る。一方で読み書きや専門語彙は家庭の中では扱われないため、授業や自習と組み合わせないと総合的な力にはつながらない。
費用を抑えたい場合はどう考えればよいですか
月額だけを比べず、含まれる範囲で割り戻すとよい。食事が付く場合は食費が住居費に移っているだけなので、寮やアパートの家賃と直接は比較できない。地域差も大きく、全国平均41,000円に対して東京は57,000円、東北地方と中国地方は26,000円という開きがある。
受け入れ家庭と合わなかったときはどうなりますか
間に入っている団体があるかどうかで対応が変わる。斡旋団体を通した滞在なら、交代や期間の短縮を相談できる窓口がある。個人の紹介で始めた場合は当事者だけで解決することになるため、滞在前に相談先を確かめておくことが実質的な保険になる。
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