お金は誰と誰のあいだで動いているのか
募集ページを開くと、画面の上から下まで運営会社のデザインで統一されている。決済もそこで済み、入金もそこから届く。そのせいで、取引の相手が運営会社だと思い込んだまま支援を終える人が出る。
実際に売買や役務提供の契約を結んでいるのは、支援者とプロジェクトの実行者である。運営会社が提供しているのは、両者が出会って申込みを送れる「場」だ。リターンが届かなかったときに責任を負うのは実行者であり、運営会社ではない、という説明がどの事業者の規約にも書かれているのは、この構造を反映している。
ただし「場を貸しているだけ」で全部が終わるわけでもない。場の提供者には、場の提供者だからこそ果たすべき役割が法律で用意されている。何が義務で、何が努力にとどまり、どこから国が介入するのか。線を引いておくと、実行者としても支援者としても判断が速くなる。
法律が名前をつけている「場」の範囲
根拠になる法律は二本ある。名前が似ているので、対象の違いから押さえたい。
一本は取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(令和三年法律第三十二号、2021年5月10日公布)。もう一本は特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(令和二年法律第三十八号)である。後者は第2条第6項が示すとおり、第4条第1項の規定により指定された提供者の当該デジタルプラットフォームを「特定デジタルプラットフォーム」と呼ぶ構造で、規模の大きい事業者を名指しで指定して透明性を求める仕組みだ。
前者はもう少し広い。第2条第1項は、透明化法第2条第1項にいうデジタルプラットフォームのうち、提供される場が次のいずれかの機能を持つものを「取引デジタルプラットフォーム」と定義する。第1号は、利用する消費者が画面に表示される手続に従って送信することにより、販売業者等に対し通信販売に係る売買契約または役務提供契約の申込みの意思表示を行える機能。第2号は、競りその他政令で定める方法により契約の相手方となるべき消費者を決定する手続に参加できる機能である。
第2項は、事業として取引デジタルプラットフォームを単独でまたは共同して提供する者を「取引デジタルプラットフォーム提供者」とする。第4項の「販売業者等」からは、自らが提供する場を使って自分で販売や役務提供を行う場合が除かれている。場を出す立場と、その場で売る立場を分けて書いているわけだ。
購入型のクラウドファンディングは、支援と引き換えに品物や権利、役務を渡す形をとるため、通信販売として整理される場面がある。その場合、募集ページを載せている運営会社は第2条第1項第1号の機能を持つ場の提供者に当たりうる。寄付だけを集める型や、出資・貸付を扱う型は、この法律とは別の規律が前に出る。
義務ではなく努力、ただし開示までがセット
提供者に課されているものの中心は、第3条第1項の三つの措置である。条文の語尾は「講ずるよう努めなければならない」で、努力義務の形をとる。
第1号は、場で行われる通信販売に係る取引について、消費者が販売業者等と円滑に連絡することができるようにするための措置。第2号は、販売条件または役務の提供条件の表示について消費者から苦情の申出を受けた場合に、事情の調査その他その表示の適正を確保するために必要と認める措置。第3号は、販売業者等に対し、必要に応じて、その所在に関する情報その他の特定に資する情報の提供を求めることである。
努力義務だから形だけでよい、とはならない仕掛けが第2項に入っている。提供者は内閣府令で定めるところにより、第1項に基づいて講じた措置の概要および実施の状況その他の事項を、場を利用する消費者に対して開示するものとする、とされている。やったことを外に出す以上、やっていなければ空欄が残る。第3項では、措置の適切かつ有効な実施に資するための指針を内閣総理大臣が定めるとも書かれている。
実行者の側から読むと、第3号は他人事ではない。プラットフォームが本人確認や所在確認を求めてくるのは、この条文に沿った動きである。学生団体のように構成員が入れ替わる組織では、誰の名義で掲載し、誰が連絡先になるかを先に決めておかないとここで止まる。
国が止めに入る場面と、支援者が名前を聞ける場面
努力義務の先に、二つの強い仕組みが置かれている。どちらも発動の条件が条文に書き込まれていて、運用の裁量は広くない。
一つは第4条第1項の要請である。場における販売条件や役務の提供条件の表示が、第1号と第2号の要件にいずれも該当し、消費者の利益が害されるおそれがあると認めるときに、内閣総理大臣は提供者に対し、その販売や役務提供に係る場の利用の停止その他必要な措置をとることを要請できる。第1号は、商品の安全性の判断に資する事項など内閣府令で定める重要事項について、著しく事実に相違する表示、または実際のものより著しく優良もしくは有利と人を誤認させる表示であること。第2号は、その表示をした販売業者等が特定できない、所在が明らかでないなどの事由により、是正を期待できないことだ。第3項は、要請を受けて措置をとった提供者が、それによって販売業者等に生じた損害の賠償責任を負わないと明記している。
もう一つは第5条第1項の開示請求である。消費者は、販売業者等との売買契約または役務提供契約に係る自己の債権(金銭の支払を目的とし、その額が内閣府令で定める額を超えるものに限る)を行使するために、相手の氏名または名称、住所その他の情報の確認を必要とする場合に限り、提供者に開示を請求できる。同法施行規則第4条は、この額を1万円と定める。
| 仕組み | 動く主体 | 発動の条件 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 三つの措置と開示 | 取引DPF提供者 | 常時(努力義務) | 第3条第1項・第2項 |
| 利用の停止等の要請 | 内閣総理大臣 | 著しい不実・誤認表示かつ販売業者等の是正が期待できない | 第4条第1項 |
| 販売業者等情報の開示請求 | 消費者 | 1万円を超える債権の行使に必要で、不正の目的でない | 第5条第1項、施行規則第4条 |
請求する側にも手順がある。第5条第2項は、確認を必要とする理由、請求の対象となる情報の項目、開示を受けた情報を不正の目的に利用しない旨の誓約を記載または記録した書面もしくは電磁的記録の提出を求める。第3項では、提供者は請求が要件に該当し不正の目的によるものでないと思料するときは、連絡することができない場合を除いて、販売業者等の意見を聴かなければならないとされている。即日で名前が出てくる制度ではない。
実行者としてプラットフォームを選ぶときに見る欄
ここまでの条文は、裏を返せばプラットフォーム比較の観点そのものになる。手数料率の大小だけで選ぶと、公開後に効いてくる差を見落とす。
まず第3条第2項の開示である。講じた措置の概要と実施状況が実際に公開されているか、どこまで具体的かを見ると、その場の運営姿勢がある程度わかる。次に審査の中身。表示の適正を確保する措置(第3条第1項第2号)を本気で回している事業者ほど、公開前のチェックは細かくなる。審査が緩いことは、実行者にとって一時的な利点に見えて、同じ場にいる他の案件の質が下がるという形で跳ね返る。
掲載名義も先に決めておきたい。学生イベントとは何かで整理されている主催形態と責任の所在の考え方は、そのまま掲載者の決め方に使える。アカウントを個人名義にするか団体名義にするかという論点は、学生団体のSNS運用でも帰属の問題として扱われている。物販の形に寄せるなら、BASEのようなネットショップ型の場と比べて、手数料と到達の両面で割に合うかを計算しておくとよい。
どの場を選んでも、支援者から見える情報の正確さを担保するのは実行者である。応募先や発表の場を探す段階から、FLASPOのような募集の集まる場で条件の書き方を見比べておくと、自分の募集ページの精度も上がる。
よくある質問
Q. リターンが届かないとき、運営会社に返金を求められますか。
A. 契約の相手は実行者なので、原則として請求先も実行者になる。運営会社が独自の補償制度を設けている場合はその規約に従う。制度がない場合でも、第3条第1項第1号の連絡手段の確保と、第5条第1項の情報開示請求という二つの道筋が残っている。
Q. 1万円以下の支援でも、実行者の住所を教えてもらえますか。
A. 第5条第1項の請求としては要件を満たさない。施行規則第4条が1万円という下限を置いているためである。ただし、通信販売の広告としての表示義務は実行者側に別途かかるので、募集ページの表記そのものから確認できる場合がある。
Q. 「国が審査したプロジェクト」という表現を見ました。
A. そのような制度はない。第4条第1項の要請は、問題のある表示が見つかった後に止める方向で働くもので、事前に内容を認める仕組みではない。
Q. 海外の運営会社の場に掲載しても同じルールですか。
A. 適用関係が単純ではないうえ、支援者からの開示請求や苦情の処理が国内の枠組みに乗るとは限らない。日本国内の支援者を主な対象にするなら、国内で事業を行う提供者の場を選んだほうが、トラブル時の経路が短くなる。
Q. プラットフォームを通さず、自分のサイトで募集してもよいですか。
A. 自分で販売や役務提供を行う場合は第2条第4項の販売業者等から除かれ、この法律の枠組みの外になる。そのぶん決済の構築、表示義務の履行、返金対応をすべて自前で負うことになる。小規模な企画ほど、手数料を払って既存の場を使うほうが総コストは低い。
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