地方に移れば生活費が下がる、という前提はどこまで正しいのか。総務省が全国平均を100として都道府県ごとの物価水準を出している数字を開くと、最も高い県と最も低い県の差は1.08倍しかなかった。一方で費目ごとに分けると1.64倍ひらくものがあり、家賃を計算から外すと順位の上位が入れ替わる。2026年9月18日に公表された2025年の結果から、県を移ったときに何が増えて何が減るのかを追ってみる。
いちばん高いのは東京都の104.2、低いのは群馬県の96.2
順位から確かめよう。総務省の消費者物価地域差指数(2025年結果)によると、総合の指数が最も高いのは東京都の104.2で、次いで神奈川県103.3、北海道102.4、京都府101.1と並ぶ。最も低いのは群馬県の96.2、次が鹿児島県96.4、長野県96.9である。
東京都が首位なのは調査が始まった2013年から13年続いている。ただし差の幅は小さい。最も高い県を最も低い県で割った倍率は1.08倍で、2024年と同じだった。全国平均を100とすると、47都道府県のうち40県が96から102の範囲に収まる。
この8パーセントという幅をどう受け取るかが分かれ目になる。月の支出が25万円の世帯なら、県をまたいで全国最高から最低へ移ったとしても、物価の差だけで減るのは2万円ほどである。家賃が半分になるという話とは桁が違う。生活費が安い県に移るという判断は、物価水準そのものではなく、特定の費目の差と収入の変化で決まると考えたほうが実際に近い。
家賃を外すと1位は北海道の103.2になる
同じ資料には家賃を除いた総合の指数も並んでいる。こちらを見ると首位が入れ替わる。北海道が103.2で最も高く、神奈川県102.7、東京都102.2、沖縄県101.3の順になる。総合では3位だった北海道が家賃を抜くと1位に出て、東京都は3位に下がる。
| 都道府県 | 総合 | 家賃を除く総合 | 住居 | 光熱・水道 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 104.2 | 102.2 | 129.8 | 93.7 |
| 神奈川県 | 103.3 | 102.7 | 110.7 | 99.4 |
| 北海道 | 102.4 | 103.2 | 92.6 | 117.8 |
| 沖縄県 | 100.4 | 101.3 | 95.4 | 104.8 |
| 大阪府 | 99.9 | 99.8 | 98.0 | 90.6 |
| 岡山県 | 97.7 | 98.3 | 79.1 | 103.7 |
| 長野県 | 96.9 | 97.5 | 89.4 | 104.3 |
| 鹿児島県 | 96.4 | 96.9 | 99.0 | 97.1 |
| 群馬県 | 96.2 | 96.7 | 89.5 | 103.0 |
北海道の中身を見ると理由がはっきりする。住居は92.6で全国24位と平均を下回る一方、光熱・水道が117.8で全国一位、被服及び履物も107.3で石川県と並ぶ首位である。暖房と冬物衣料の負担が重く、家賃の安さがそれを打ち消していた。家賃を計算から外すと打ち消す側がなくなり、残った重さが前に出る。
東京都はこの逆である。住居は129.8で断然の1位だが、光熱・水道は93.7で46位と全国でほぼ最も安い。都市ガスが行き渡り、集合住宅が多くて一戸当たりの熱の損失が小さいためだ。持ち家に住んでいて家賃を払わない人にとって、東京都は物価の面で3番目の県にすぎない。暮らしの形によって同じ県の生活費が違う顔を見せる。
費目ごとに差の大きさがまるで違う
総合で1.08倍しか開かないのに、分解すると様子が変わる。10の費目それぞれで最高の県と最低の県の比を取ると、住居が1.64倍で最も大きく、教育が1.60倍、光熱・水道が1.30倍と続く。小さいほうは保健医療の1.05倍、交通・通信の1.06倍、食料の1.12倍である。
教育の1.60倍は意外に見えるかもしれない。大阪府が124.7で最も高く、富山県が78.1で最も低い。私立学校の授業料や学習塾の料金が地域で大きく違い、それが指数に乗る。光熱・水道は北海道117.8と大阪府90.6の間で1.30倍ひらき、寒冷地の暖房費がそのまま差になっている。
そろっている費目には共通点がある。保健医療は診療報酬が全国一律で決まり、交通・通信には全国同一料金の通信料が含まれる。制度や全国展開の料金体系で価格が決まる分野は県が変わっても動かない。食料も流通網が全国につながっているため、沖縄県106.6と長野県95.0の間に収まる。離島への輸送費が乗る沖縄県が首位で、生産地が近い長野県が最も安いという並びは、物流の距離がそのまま価格に出た結果である。移住後の家計を具体的に組む手順は地方移住とは?20代向けメリット・費用・失敗しない方法を解説に整理されている。
東京都の高さは住居が、群馬県の低さは食料が作っている
では各県の指数は何で押し上げられ、何で押し下げられているのか。総務省は全国平均との差を費目別の寄与度に分けている。東京都では住居が2.16と最も大きくプラスに効き、マイナスに効いているのは光熱・水道の0.51だけだった。4.2ポイントの高さのうち半分が家賃で説明できる。
神奈川県は構造が違う。最大のプラス要因は食料の0.88で、住居ではない。マイナスは家具・家事用品の0.09と光熱・水道の0.05にとどまる。東京都のように一つの費目が突出するのではなく、多くの費目が少しずつ平均を上回って積み上がる形である。
低い側も見ておきたい。群馬県では食料が1.40と最も大きくマイナスに効き、プラスに効いているのは光熱・水道の0.24だけである。鹿児島県は教養娯楽の0.83が最大のマイナスで、プラスに効いた費目は一つもなかった。全費目が平均以下という県は珍しく、物価の低さが特定の品目ではなく全体に及んでいることを示す。岡山県は住居が1.50のマイナスで突出し、食料は0.33のプラスだった。家賃だけが安い県と、全体が安い県は分けて考える必要がある。
県庁所在市で見ても傾向は変わらない
県の平均は県内の都市と農村を混ぜた数字である。暮らす場所は結局どこかの市町村なので、都市別の数字も確かめたい。同じ資料は都道府県庁所在市と政令指定都市についても指数を出している。
物価の高い都県では都市も高い。東京都区部が105.3、横浜市103.8、川崎市103.7、相模原市102.3と、どれも全国平均を上回る。低い県でも同じで、前橋市が96.5、鹿児島市が96.6である。県の順位と都市の順位はほぼ重なっており、県の平均が県内の中心市の実感から大きく外れているわけではない。
ここから言えるのは、県を選ぶ段階では総合の指数で足りるということだ。差が小さいとはいえ方向は安定している。そのうえで自分の支出の形に合わせて費目を見る。車を使うなら交通・通信、子どもがいるなら教育、寒冷地なら光熱・水道が効く。FLASPOのように地域と関わる入口を使って実際に滞在してみると、指数には出ない買い物の不便さや移動時間も見えてくる。支援制度を含めた資金の組み立ては移住支援金とは?最大100万円の条件・申請方法・活用事例を解説が参考になる。
よくある質問
消費者物価地域差指数はどのくらいの頻度で出るのか。総務省が小売物価統計調査の構造編として毎年作成し、前年分の結果を夏から秋にかけて公表する。2025年の結果は2026年9月18日に出た。全国、地方10区分、都道府県、都道府県庁所在市、政令指定都市の単位でそろっており、調査が始まった2013年から比較できる。
指数が去年より上がった県は物価が上がったということか。違う。この指数はその年の全国平均を100として各地域の相対的な位置を示すもので、時系列の変化を測るものではない。ある県の指数が上がったのは、全国平均よりも上がり方が大きかったことを意味するだけである。実際の値上がりを追うなら消費者物価指数の時系列を使う。
家賃を除く総合はどんなときに使うのか。持ち家に住む予定の人や、社宅や実家で住居費がかからない人が比べるときに向いている。総合の指数は家賃を払う前提で組まれているため、住居費が固定されている人には当てはまらない。北海道と東京都の順位が入れ替わるように、この選び方で結論が変わることがある。
物価が安い県なら貯金が増えるのか。収入側を見ないと答えが出ない。物価水準の県差は最大でも1.08倍にとどまるのに対し、賃金の県差はそれより大きく開く。物価が8パーセント安くても賃金が15パーセント低ければ、手元に残る額は減る。移住の損得は、物価と賃金と通勤や車の費用を同じ表に並べて初めて計算できる。
持家の帰属家賃は含まれているのか。含まれていない。総合と住居のいずれも、持ち家に住む人がもし借りたらいくら払うかという推計値は外して計算されている。実際に支払いが発生する価格だけで組まれた指数なので、賃貸で暮らす人の負担に近い。持ち家の資産価値や固定資産税の地域差は、この数字とは別に調べる必要がある。
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