「この家、百万円で出ている」という一行から古民家探しが始まることは多い。ところが契約から引き渡しまでの間に、価格とは別の口座から出ていくお金がいくつも立ち上がる。しかも古民家の場合、物件価格が小さいほど、価格に比例しない費目の比重が重くなる。ここでは官公庁の資料で確かめられる範囲に絞って、購入のときに実際に動くお金を順番に並べる。
物件価格は支払総額の一部でしかない
国土交通省の令和6年度住宅市場動向調査では、既存(中古)戸建住宅を取得した世帯の平均購入資金は2,917万円、中央値は2,400万円だった。購入資金に占める自己資金の比率は36.6パーセントである。ただしこの調査は、注文住宅だけが全国を対象で、既存住宅や分譲住宅などは三大都市圏を対象としている。地方部の古民家がこの数字の中に含まれているわけではない。
それでも、この調査から読み取れることがひとつある。購入資金という言葉が指しているのは住宅と土地の総額であり、そこに諸費用は含まれていないという点だ。つまり公表されている「購入資金」の水準を自分の予算に置き換えるとき、そこから先の出費は別立てで用意しなければならない。
価格の小さい物件では、この別立て分の存在感が変わる。登記の実費、司法書士への報酬、境界の確認、残置物の処分といった費目は、物件価格が三千万円でも三百万円でも大きく変わらない。三千万円の家なら総額の数パーセントで済む出費が、三百万円の家では価格に匹敵する規模になりうる。「安い家を買った」という感覚と、実際に振り込んだ金額の合計が食い違うのは、ここが原因である。
地方部での住まい探し全般の費用感については、地方移住とは?20代向けメリット・費用・失敗しない方法を解説にまとめがある。
空き家の仲介手数料には2024年に別枠ができた
宅地建物取引業者が受け取れる報酬の額は、宅地建物取引業法第46条にもとづく大臣告示で上限が決まっている。国土交通省の資料によれば、売買の媒介で依頼者の一方から受け取れる額は、物件価格に応じた料率を段階ごとに乗じて合計した金額以内である。料率は200万円以下の部分に5.5パーセント、200万円を超え400万円以下の部分に4.4パーセント、400万円を超える部分に3.3パーセントとされている。
この原則を300万円の物件にそのまま当てはめると、200万円までに5.5パーセント、残る100万円に4.4パーセントを乗じて、上限は15万4千円になる。動く金額の小ささが、そのまま業者側の採算を圧迫する構造だと国土交通省は整理している。空き家の流通が進まない理由のひとつとして、報酬規制そのものが見直しの対象になった。
令和6年6月に公布され、同年7月1日に施行された改正では、低廉な空家等、つまり物件価格が800万円以下の宅地建物について、媒介に要する費用を勘案して原則の上限を超えて報酬を受け取れることになった。その上限は30万円の1.1倍、すなわち33万円である。さきの300万円の例なら、15万4千円から33万円へと枠が広がる。買主として見れば、想定していた手数料の倍額が請求されうるという話になる。
ただし業者が一方的に決められるわけではない。国土交通省は、媒介契約の締結に際してあらかじめ、上限の範囲内で報酬額について依頼者に説明し合意する必要があることを、解釈・運用の考え方に明記したとしている。金額が示されるのは契約のとき、と覚えておきたい。なお賃貸については、長期の空家等について貸主から受け取れる額の上限が1か月分の借賃の2.2倍まで拡大している。
登記と契約書で消える現金
売買代金を払えば自分のものになる、というわけではなく、所有権の移転を登記しなければ第三者に対抗できない。その登記に登録免許税がかかる。国税庁の税額表によれば、土地の売買による所有権の移転登記は本則で1,000分の20、令和11年3月31日までに登記を受ける場合は1,000分の15に軽減される。建物の売買による所有権の移転登記は1,000分の20である。
建物側には住宅用家屋の軽減税率があり、租税特別措置法第73条の適用を受ければ1,000分の3まで下がる。ただし床面積が50平方メートル以上であること、取得後1年以内の登記であることなど一定の要件を満たす必要があり、しかも登記の申請にあたって市町村等の証明書を添付しなければならない。登記した後で証明書を出しても適用されない点に国税庁は注意を促している。住宅ローンを組むなら抵当権の設定登記も発生し、こちらは同法第75条の軽減で1,000分の1となる。
課税標準となる不動産の価額は、市町村が管理する固定資産課税台帳に登録された価格が原則である。登録された価格がない場合は登記官が認定した価額になる。売買代金ではないため、築古の古民家では代金より評価額のほうが低く、税額も想像より小さく収まることがある。
契約書には印紙税が要る。平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成される不動産の譲渡に関する契約書は軽減措置の対象で、契約金額が100万円を超え500万円以下なら1千円、500万円を超え1,000万円以下なら5千円、1,000万円を超え5,000万円以下なら1万円である。契約金額が1万円未満のものは非課税とされている。
| 費目 | 計算の基準 | 根拠 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 価格に応じた料率(5.5%/4.4%/3.3%)。800万円以下の空家等は33万円まで | 宅地建物取引業法第46条にもとづく大臣告示 |
| 登録免許税(土地) | 不動産の価額の1,000分の15(令和11年3月31日まで、本則は1,000分の20) | 租税特別措置法第72条 |
| 登録免許税(建物) | 不動産の価額の1,000分の20。要件を満たせば1,000分の3 | 登録免許税法、租税特別措置法第73条 |
| 登録免許税(抵当権) | 債権金額の1,000分の1(令和9年3月31日まで) | 租税特別措置法第75条 |
| 印紙税 | 契約金額500万円超1,000万円以下で5千円 | 印紙税法(軽減措置は令和9年3月31日まで) |
| 不動産取得税 | 固定資産税評価額に3%(令和9年3月31日まで、本則は4%) | 地方税法 |
引き渡しの数か月後に届く通知
忘れられやすいのが不動産取得税である。都道府県が課す税で、納税義務者は不動産の取得者、徴収は普通徴収による。つまり自分で申告するのではなく、あとから納税通知書が送られてくる。引き渡しから通知まで間が空くため、予算を使い切ったあとに請求が来たという話が起きる。
総務省の整理では、課税標準は固定資産課税台帳に登録された評価額で、標準税率は本則4パーセント、住宅および土地は3パーセントとされている。この3パーセントの特例は令和9年3月31日までの措置である。宅地や商業地等については、課税標準となる価格を評価額の2分の1に圧縮する特例が平成6年に設けられている。
住宅そのものにも課税標準の特例がある。新築住宅は1,200万円の控除、中古住宅は住宅の新築時期により最高1,200万円を控除する仕組みだ。ここで古民家に固有の事情が出てくる。控除額が新築時期に連動しているため、建った年が古いほど控除は小さくなる方向に働く。住宅用地については、150万円または床面積の2倍の面積(200平方メートルを限度とする)に相当する土地の価格のいずれか大きい額に税率を乗じた額を減額する措置がある。
もっとも、免税点という救いもある。土地は16万円、家屋のうち建築によるものは66万円、その他の家屋は34万円で、課税標準がこれに届かなければ課税されない。評価額が低く出る古民家では、建物分の不動産取得税がそもそも発生しない例もある。通知が来るまで分からないというのが実務の姿である。
見積書のどこにも書かれていない出費
ここまでは根拠のある数字で並べられる費目だった。厄介なのは、物件ごとに金額がまったく違い、相場という言葉が意味を持たない出費である。金額を示せない代わりに、項目として挙げておく。
まず残置物である。前の所有者の家財や農具が残ったままの引き渡しは珍しくなく、処分の負担をどちらが持つかは契約条項で決まる。次に敷地の境界で、山際や畑に接した土地では境界標が失われていることがあり、測量が必要になれば数十万円の単位で動く。上下水道が来ておらず井戸と浄化槽に頼る物件なら、水質検査や浄化槽の維持管理が継続的な費用として乗る。
接道が私道であれば、通行や掘削の承諾を得る手間が生じる。火災保険は建物の構造や築年数で引き受け条件が変わり、木造の築古では見積もり自体に時間がかかる。固定資産税は引き渡し日を境に日割りで精算するのが通例で、これは購入時の清算金として姿を現す。農地が付いてくる物件なら、農地法の手続きが別の時間軸で走る。
こうした一件ごとの差を埋める情報は、物件情報の紙面には載らない。自治体が運営する空き家バンクは、登録の段階で建物の状況や付帯設備を書かせる仕組みになっていることが多く、比較の手がかりになる。仕組みは空き家バンクとは?仕組み・利用法・メリット5つ・デメリット4つで整理している。移住とあわせて使える支援があれば負担は変わるので、地方移住の補助金はいくら?国・自治体の支援制度を完全まとめも突き合わせておきたい。地域で実際に暮らしている人の話を聞ける機会は、FLASPOのような地域体験の入口からも得られる。
よくある質問
諸費用は物件価格の何割を見ておけばよいですか
官公庁の資料に「何割」という基準はない。仲介手数料と登録免許税、印紙税、不動産取得税はいずれも計算式が公表されているので、狙っている物件の価格と固定資産税評価額が分かった時点で、概算ではなく実額に近い数字を自分で出せる。評価額は売主や仲介業者を通じて固定資産税の課税明細で確認できる。
800万円以下なら必ず33万円請求されるのですか
上限が33万円になったという意味であり、常にその額になるわけではない。国土交通省は、媒介に要する費用を勘案して原則の上限を超えて受領できる仕組みだと説明しており、媒介契約の締結に際して依頼者への説明と合意が必要とされている。金額に納得できなければ、契約前が交渉の場である。
不動産取得税はいつ払うのですか
普通徴収なので、都道府県から納税通知書が届いてから納める。引き渡しの時点で現金を使い切らず、建物と土地それぞれの評価額から概算を出して取り置いておくのが安全である。免税点を下回れば課税されないため、評価額の確認が先になる。
登録免許税の軽減はどの物件でも受けられますか
土地の売買による移転登記の軽減は期限内の登記であれば適用される。一方、建物側の住宅用家屋の軽減税率は床面積50平方メートル以上などの要件があり、市町村等の証明書を登記申請に添付する必要がある。登記の後では適用を受けられないので、司法書士に依頼する段階で確認しておく。
出典
国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査報告書」/国土交通省「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」/国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」/国税庁「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」/総務省「地方税制度 不動産取得税」
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