候補地を10か所ほど書き出したところで手が止まった。どれも悪くないのに、選ぶ理由が見つからない。旅先で働く場所が決まらないのは、情報が足りないからではなく、絞り込む順番が決まっていないからである。良さそうな条件を足していくと候補は増える一方だが、外す条件から決めると数はすぐに落ちる。
足す条件ではなく、外す条件から決める
温泉があって、海が近くて、コワーキングスペースもあって、東京から2時間以内。こうして望みを並べると、該当する場所は消えるか、逆に候補が漠然と増えるかのどちらかになる。理由は単純で、どれも「あったら嬉しい」条件であり、なくても仕事は回るからだ。
先に決めるべきは、これが欠けたら滞在そのものが成立しないという線である。オンライン会議が日に3本入るなら、静かに話せる個室がない場所は最初に落ちる。紙の資料に印を入れながら進める作業が残っているなら、机が小さい客室は使えない。こうした線は人によって違うので、他人のおすすめ記事では代替できない。
順番としては、外せない条件で候補を切り、残ったなかから移動時間で絞り、最後に景色や食事といった好みで決める。好みを最後に回すのは冷たいようだが、逆にすると仕事が回らない場所を好みで選んでしまう。滞在の満足度は、景色よりも「仕事が普通に終わったかどうか」に強く引きずられる。
なお、どの型の滞在として行くのかが曖昧なままだと、この線引きも定まらない。休暇に仕事を少し混ぜるのか、業務として滞在するのかで、必要な設備の水準が変わる。型の整理はワーケーションの定義と種類をまとめた記事で確認しておくと迷いが減る。
移動にかける時間は、滞在日数から逆算する
片道4時間の場所に2泊で行くと、移動が滞在の3割近くを食う。同じ4時間でも5泊なら比率は半分以下に落ちる。距離そのものが問題なのではなく、日数との釣り合いが取れているかが問題になる。
目安として、片道2時間以内なら2泊から、片道4時間を超えるなら4泊以上を確保したい。飛行機や新幹線を使う場合は、乗り物に乗っている時間だけでなく、空港や駅までの接続と待ち時間を足した実移動時間で見る。この足し算を省くと、到着日の午後に予定を入れて間に合わなくなる。
頻度の面から見ても、長距離を何度も繰り返すのは現実的ではない。国土交通省の令和6年度テレワーク人口実態調査では、雇用型テレワーカーの割合は24.6%で、テレワークの実施は週あたり平均2.1日という結果が示されている。週に2日前後という頻度なら、移動に半日を投じる旅先勤務は毎週の習慣にはなりにくい。年に数回まとめて長く滞在する形のほうが、時間の使い方としては噛み合う。
同調査では地域による差も出ており、首都圏の実施率が最も高く、地方都市圏が最も低い。勤め先が首都圏にあるなら、周囲に前例がある可能性は比較的高い。逆にそうでない地域では、制度そのものの確認から始める必要がある。詳細は国土交通省の報道発表資料で公開されている。
通信は「つながるか」より「どう守るか」で見る
宿の紹介文に無線インターネット完備と書いてあっても、それが社内システムに入れることの保証にはならない。ここで効いてくるのは回線速度ではなく、勤め先がどの方式でテレワークを許可しているかである。
総務省のテレワークセキュリティガイドライン第5版(令和3年5月)は、テレワークの実現方式をVPN方式、リモートデスクトップ方式、仮想デスクトップ方式、セキュアコンテナ方式、セキュアブラウザ方式、クラウドサービス方式、スタンドアロン方式の7つに整理している。自社がどれに当たるかで、旅先で必要になるものが変わる。
クラウドサービス方式が中心なら、必要なのは安定した回線だけで済む場合がある。一方でVPN方式やリモートデスクトップ方式が前提の会社では、上り下りの速度と接続の安定が作業効率を直接左右する。画面を丸ごと転送する仕組みは、通信が細るとカーソルの動きまで遅れるため、宿の共用回線では苦しいことがある。方式の詳細は総務省が公開しているガイドライン本文で確認できる。
実務的な備えとしては、宿の回線を主とせず、携帯回線のテザリングを予備に置く二段構えが堅い。加えて、誰でも入れる無線環境で社内の資料を開かないという線は守る。予備を用意しておくと、速度が出ない宿に当たったときに滞在計画を組み直す手間が消える。
作業場所は三つの型に分かれ、向く作業も違う
同じ地域に行っても、どこで画面を開くかで一日の質は変わる。選べるのは大きく三つで、それぞれ得意な作業が異なる。
| 作業場所 | 向く作業 | 通信と設備 | 注意したい点 |
|---|---|---|---|
| 宿の客室 | オンライン会議、集中して書く作業 | 宿の共用回線。机と椅子の質は差が大きい | 机の広さと椅子の高さが事前にわからない |
| コワーキングスペース | 長時間の実務、複数人での打ち合わせ | 業務前提の回線。電源と大型の机がある | 会話が必要な作業は個室や通話席の有無を確認 |
| サテライトオフィスや専用施設 | 合宿型の議論、機密性の高い作業 | 法人利用を想定した設備が整う | 法人契約や事前申請が必要な場合がある |
客室の欄に机と椅子の話を入れたのは、ここが最も見落とされるからだ。回線は調べるのに、天板の奥行きや椅子の背もたれは調べないまま予約してしまう。宿泊予約サイトの写真では判断しきれないので、作業用の机があると明記している施設を選ぶか、問い合わせて確かめるほうが確実である。
三つを組み合わせる手もある。会議が集中する日は客室にこもり、腰を据えて進める日はコワーキングスペースへ移る。宿の側から選ぶ視点はワーケーション向きのホテルの選び方をまとめた記事が参考になる。
予約を確定する前に確かめておく5項目
現地に着いてから気づいても手遅れになるものが、いくつかある。押さえておきたいのは次の5点だ。
第一に、作業できる机があるか。第二に、回線が使えなかったときの代わりの手段があるか。第三に、オンライン会議で声を出せる場所があるか。第四に、滞在中の食事をどこで取るか。第五に、会社の制度上その滞在が認められているか。
四番目の食事は些末に見えて、実は滞在の疲れ方に直結する。周囲に店が少ない立地だと、毎食の調達に時間を取られて作業時間が削られていく。買い置きができる設備があるか、宿で食べられるかを先に見ておくと落ち着く。
五番目は最も後回しにされやすく、最も面倒を生む。制度が整っていない会社では、勤務場所の届け出や労災の扱いから確認しなければならない。観光庁も企業向けにワーケーションとブレジャーに関する情報をまとめており、社内で相談する材料として使える。近場で短く試してみたいなら、東京近郊のスポットを紹介した記事から当たってみるのが早い。地域とのつながりを軸にした滞在の考え方はFLASPOでも扱っている。
よくある質問
初めて行くなら何泊がよいか。2泊3日を勧める。中日を丸一日の稼働に充てられるので、旅先で働くという感覚をつかみやすい。1泊では移動と片付けで終わってしまい、判断材料が残らない。
観光地と地方都市では、どちらが働きやすいか。作業を優先するなら地方都市に軍配が上がる。飲食店や交通の便が確保されていて、業務用の設備を備えた施設も見つかりやすい。景色を重視して観光地を選ぶ場合は、その分だけ設備の下調べを厚くする必要がある。
同じ場所に通うのと、毎回変えるのはどちらがよいか。回数を重ねるつもりなら、同じ場所に通うほうが効率は上がる。回線の癖も店の位置も把握済みなので、下調べの手間がほぼゼロになる。土地の人と顔なじみになれば、滞在の中身も変わってくる。
費用はどこで抑えられるか。効くのは宿泊と移動で、平日と閑散期に寄せるだけで単価は下がる。作業場所の利用料は総額に対する比率が小さいので、ここを削って設備の悪い場所を選ぶのは損になりやすい。
家族を連れて行く場合の注意点は何か。仕事をする時間帯をあらかじめ共有しておくことだ。曖昧にしたまま出発すると、作業のたびに気を遣う滞在になる。客室のほかに作業場所を確保しておけば、切り替えがはっきりする。
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